表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
後宮は有料です! 【書籍化】  作者: 美雪
第七章 婚約者編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

749/1360

749 喜びの再会(二)

「……本当に優しい子ね。できれば私もそうしたいと思っているのだけれど、難しいかもしれないわ。フェリックスはエルグラードに留学する気なのよ」


 そういえばそうだったとリーナは思い出した。


「でも今はエルグラードとミレニアスの関係が良好とは言えません。それでも留学する予定に変更はないのでしょうか?」

「ありません」


 フェリックスが断言した。


「ミレニアス国内は不安定な状況です。だからこそ、跡継ぎである僕はむしろ国外に避難しておくべきなのです。留学はいい口実になりますし、僕がエルグラードにいれば、父上も親エルグラードの立場を取りやすくなります。母上も一緒にエルグラードに避難してはどうかと思っているほどです」


 インヴァネス大公がミレニアスとエルグラードの関係を改善しようと積極的に行動していることはエルグラードでも知られている。


 表向きはミレニアス王族として自国の将来を案じていること、自分の領地がエルグラードに近いこと、妻がエルグラード出身であること、息子にとって父親違いの兄がいることなどが理由になっている。


 妻子がエルグラードに滞在することになれば、その身を案じて両国の関係が悪化しないように努めるのは当然だ。親エルグラード派として行動する強い理由になる。


「それほどミレニアス国内は不安定なのですか?」

「あくまでも万が一に備えての話に過ぎない。フェリックスの留学は以前から考えていた。だが、実年齢を考えると、肉親が側にいた方がいいと考えているだけに過ぎない。極めて常識的なものだ」


 答えたのはインヴァネス大公だった。


「家族全員でエルグラードに避難してはどうでしょうか?」

「それはできない。一家揃ってエルグラードに移り住めば、密通や亡命を疑われてしまう」


 インヴァネス大公は兄であるミレニアス王に冷遇されている。その影響で思い切った決断を迫られる可能性もゼロではないが、長兄であるアルヴァレスト大公と連携して動けばいいと考えていた。


 しかし、家族がミレニアス王や反対派等に狙われ、危害を加えられるようなことになっては困る。だからこそ留学という名目にかこつけて妻子を国外に避難させる選択についても考えていた。


「二人の安全を確保しつつ不自由なく過ごせるようにするにはレーベルオード伯爵家の助力を受けるのが最もいい。だが、難色を示されている」


 レーベルオード伯爵家を頼りたいのはわかる。パスカルとフェリックスは血族であり、インヴァネス大公妃の実家であるヴァーンズワース伯爵家を実質的に管理しているのはレーベルオード伯爵家だからだ。


 しかし、レーベルオード伯爵家としては他国との密通等を疑われたくない。二国間の関係がうまくいっていない状態だと余計に問題視される可能性が強くなる。


 王家の外戚になるからこそ、慎重な判断が必要だと思うのは当然のことだった。


「お前がミレニアス王族としてクルヴェリオン王太子と婚姻するのであれば、直接庇護と助力を頼むのだが……」


 リーナは胸が苦しくなった。


 実の両親と弟が困っている。


 だとしても、自分はレーベルオード伯爵家やクオンに迷惑をかけることはできない。義父と兄に任せ、でしゃばるようなことはしないというのが適切なことのように思えた。


 でも……。


 リーナはその答えに納得できなかった。


 常識的な判断は必ずしも自分の気持ちに沿ったものとは限らない。


 大抵の場合は常識を重視し、自らの気持ちを抑える。個人的な感情に流され、冷静で適切な判断ができなければ、問題になってしまうばかりか大勢の者達に迷惑がかかる。


 わかっていても、自分の気持ちを抑えられないこともある。


 それほどに大切なことだと思うからこそ。


 リーナは常識の重要性を理解しつつも、家族の力になりたいという気持ちを抑えたくなかった。


 例え強い力がないとしても、自分だからこそできる何かがある。その可能性を簡単に捨て、諦めてしまいたくないと思った。


「……とても難しい問題だと思うので、クオン様に相談してみます」


 リーナはそれが最善の方法だと思った。


 全てを自分一人の力で解決する必要はない。


 レーベルオード伯爵家が難色を示しているというが、実際は王家や国が難色を示している可能性がある。


そう思うと、クオンに直接相談した方がいいと感じた。


「ただ、クオン様はとても忙しいので面会するのは難しいと思います。結婚式の時には必ず会えるので、その時になってしまっても大丈夫でしょうか?」


 リーナの申し出はとても嬉しくありがたいものだったが、さすがに結婚式当日に話す内容ではないとインヴァネス大公は思った。


 そして、大きな幸せを掴もうとしている娘の足を引っ張りたくもない。


 真実はともあれ、リーナの現時点における正式な出自はミレニアス人でもインヴァネス大公夫妻の娘でもない以上、ミレニアスやインヴァネス大公家を助力するのはおかしい。下手をすれば、多くの者達から反感を買ってしまう。


 思わず気が緩み、本音を口にしてしまったことを後悔した。


「気持ちは嬉しい。だが、お前に何かを頼みたいと思って話したわけではない。私のミスだ。クルヴェリオン王太子にはこの話をしてはいけない。女性が政治的ともいえる話に口出しをすべきではないのだ。そして、お前の結婚にはミレニアスもエルグラードも関係ない。ただ一人の女性として、愛する男性の妻になることを喜べばいいだけだ。私達のことは気にするな。お前の結婚式に出席できるだけでも非常に嬉しい。一生の思い出になると思っている」

「そうよ。私達のことはいいの。まずは貴方が幸せになることだけを考えて」

「僕が留学を希望しているのは春です。冬の間に父上が懸命に動き、なんとかしてくれるはずです」


 リーナは両親と弟が自分の幸せを心から願い、壊したくないと思っていることを感じ取った。


 このことは家族から頼まれたからでなく、自分が家族のために何かしたいと思ったがゆえの行動として、できることを探すことにした。


「……お気持ちはわかりました。結婚式はとても重要ですので、一つずつすべきことをこなしていこうと思います。まずはこの屋敷でお父様達をもてなすことからです!」


 リーナはにっこりと微笑んだ。


「私が模様替えをしたのは玄関ホールだけではありません。他にも様々な場所を変えました。フェリックスから話を聞いているかもしれませんが、百聞は一見にしかずです。お母様は昔のウォータール・ハウスをご存知だけに、印象がとても変わったと感じると思います。よろしければ一緒に見て回りませんか? 私が案内します!」

「とても嬉しいわ」


 インヴァネス大公妃もにっこりとした笑みを浮かべた。


「どんな風になったのか楽しみだわ。ねえ、貴方?」

「そうだな。一緒に見て回ろう」

「僕も一緒します」

「みんなでお散歩ですね!」

「そうね。家族でゆっくりと過ごせるわ」

「待ち望んでいたことがついに叶う」

「きっと素晴らしい時間になります」


 ようやく揃った家族は幸せそうに微笑みあった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
★書籍版、発売中!★
★QRコードの特典あり★

後宮は有料です!公式ページ
▲書籍版の公式ページはこちら▲

ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ