744 一週間前
お読みいただきありがとうございます!
色々と仕込みすぎで婚姻前の話が予定より大幅に膨れ上がりそうです。
申し訳ありませんが、よろしくお願い致します。
王太子の婚姻まで一週間。
ついに結婚日の予定情報が解禁になり、公式に発表された。
「クオン様は結婚式の前にも謁見があるのですね」
新聞を読んでいたリーナは結婚式当日の予定発表の記事を見ていた。
「国王陛下からヴェリオール大公位を与えられると書いてありました。知っていましたか?」
「はい」
答えたのは王太子付き侍女長補佐のディナだった。
「王子が婚姻する際には必ず爵位が一つ以上与えられます。婚姻祝いのようなものです」
なるほどとリーナは頷いた。しかし、疑問が残る。
「私はクオン様の第一側妃になるはずです。でも、新聞にはヴェリオール大公妃の称号を名乗ることを許されるとあります。これって……どういうことなのでしょうか?」
「リーナ様は王太子殿下と結婚されます。ですが側妃ですので、王太子妃を名乗れません。これはおわかりでしょうか?」
「わかります!」
リーナはしっかりと頷いた。
「そこで王太子妃の代わりにヴェリオール大公妃の称号を名乗らせることを国王陛下が決定された、ということでございます」
リーナは首を傾げた。
「側妃を名乗ってはいけないということでしょうか?」
「側妃よりもヴェリオール大公妃の方が上です」
「上?」
ヴェリオール大公位の名称は王都ヴェリオールから取られている。それだけにエルグラード国王あるいは次期国王であるエルグラード王太子だけが保持することができる特別な位だ。
そのため、ヴェリオール大公妃の称号は国王や王太子にとって特別な女性を他の女性と差別化するための称号として活用されるようになった。
具体的に言えば、正妃ではなくても正妃のように扱うべき女性=王位を継ぐ王子の生母である側妃に与えられる。
つまり、リーナは側妃だとしてもゆくゆくは王太子の妻として王位を継ぐ王子を産む女性になることを告知しているようなものだった。
「王太子殿下の側妃でもヴェリオール大公妃でも、結局は妻であるため大差ないと思うかもしれません。ですが、おおありです」
リーナが王太子の側妃の場合、側妃としてより上位になる国王の側妃達がいるため、王家の女性としての序列は王妃、国王の第一側妃、第二側妃、第三側妃、リーナの順番になる。つまり五番目=最下位だ。
ヴェリオール大公妃の場合はただの側妃ではないため、王妃に次いで二番目の序列になる。
「私の方が国王陛下の側妃の方々よりも偉くなるのですか?」
まさかそのような違いが出てくるとは思わなかったため、リーナは驚いた。
「はい。ですので、礼儀作法についても軽度で済ますことが可能になります。王妃様には頭を軽く下げる程度、側妃様には首を傾ける程度になり、腰を折る必要がなくなります。腰を折るのは国王陛下と王太子殿下のみということになります」
また礼儀作法が変わるようだとリーナは思った。
「他にもあります。国王陛下と王妃様、王太子殿下とリーナ様だけが出席しても、国王の側妃様方を軽視したことにはなりません。王太子殿下の側妃ですと、催しによっては国王の側妃様方が出席されない場合、出席を辞退しなければならないようなこともあるのですが、そのような配慮は必要ないということになります」
勉強しても次々と新しいことがわかる。
それだけ勉強不足だという証拠だと反省しつつも、新しいことを知ることができたという喜びと共に、もっと多くのことを知りたいとリーナは感じていた。
「新聞の記事には午後の予定が抜けていますよね?」
「新聞に載っているのは公式発表に基づく内容です。非常に細かい内容や私的なものについては公表されません」
「結婚式も私的なものですよね?」
「はい。ですが、ほぼ内容的には公式行事と同等かと」
リーナは新聞を読み続けた。
すでに知っている内容もあるが、知らなかった内容もある。
リーナに教えられるのはリーナが関係することのみで、それ以外についての説明はなかった。
「成婚パレードはないと聞いていましたけれど、パレードがあるように書いてあります」
「王宮から王聖堂までは馬車で往復します。そのことです。通常は王宮地区の外周や王都内の様々な場所を通るのが成婚パレードになります。それはありません」
「そういうことでしたか……」
リーナは更に新聞をめくって読み進めた。
一週間前ということで様々な情報が解禁になるだけでなく、連日多くのイベントが催されることも記事になっていた。
王立美術館の特別企画展の記事を見たリーナは思わず息が一瞬止まった。
「どうされましたか?」
「あ、えっと……ちょっと驚いて……」
ディナは真剣な表情でリーナを真っすぐに見つめた。
「問題がありましたら教えていただかなければ困ります。お気に召さない内容がありましたら、すぐに報告しなければなりません。場合によっては新聞社へ抗議をするか訂正を指示し、最悪の場合は発行済みの新聞を全て回収、廃棄させなくてはなりません!」
リーナは首を横に振った。
「そういうことではなくて……王立美術館の特別企画展について紹介している記事があるのですが、まさかこのようなものが催されるとは思わなかっただけです」
王立美術館では王太子の婚姻を祝うための特別企画展『王家の婚姻』が開始される。
展示内容は王家の婚姻がどのようなものか、歴史的な内容も含めて解説しているようなものだが、現王太子の婚姻についての展示もあると記事にはあった。
「ご興味が?」
「そうですね……」
「国立美術館の特別企画展も本日から始まります」
ディナはすでに新聞を読んでいたため、どのような記事があるのか知っていた。
「国立美術館?」
リーナは新聞に視線を戻した。
王立美術館の記事の次がまさに国立美術館の記事だった。
やはり王太子の婚姻を記念した特別企画展が始まる。
その名称は『運命の愛 平民の孤児から王太子の妻に』である。
企画展の内容は王太子とその婚約者の女性の出自や経歴を紹介しつつ、エルグラードの頂点と最下層にいる者が運命的に出会い、愛し合うようになった経緯がわかるようになっているということだった。
「これは……」
部屋に控えていたディナや侍女達はリーナが真っ赤になって恥ずかしがると予想したが、実際は真っ青になって震えていた。
「情報漏洩です!」
リーナは叫んだ。
「すぐにこのことをクオン様にお伝えしないと!」
リーナは慌てたが、侍女達の反応は違った。
「王太子殿下はすでにご存知かと思います。わざわざお知らせするようなことではないと思われますが」
「本当ですか? 絶対に間違いありませんか?」
あまりにもリーナが真っ青になっているため、侍女達は心配になった。
冷静に考えれば、王太子に確認したという話は聞いていない。通達がない。
また、リーナが非常に動揺している。
だんだんと侍女達も不安になり、実は誰も気づかなかっただけで大問題なのではないかと感じ出した。
「……では、侍女長に伝えます」
「私、どうすればいいのか……お兄様を呼んで下さい! クオン様はきっと忙しいと思うので!」
「わかりました」
疑心暗鬼になった侍女達の行動は素早かった。
すぐに侍女長に新聞の記事についての報告をする。
侍女長は婚姻関係の各種のイベントがあること、王立美術館や国立美術館では特別な企画展があることを知っていたが、そのことを王太子が知っているのか、あるいは王家が許可を与えているのかということについては知らなかった。
そこですぐにそのことを確認すべく、担当者であるヘンデルとパスカルの元に侍女長自らが赴くことになった。
こんな時こそラブやカミーラ達がいてくれたらいいのに……。
毎日のように会っている三人はプライベートな用件があり、顔を出さないことをリーナは知っていた。
お兄様が来てくれるわ……だから、大丈夫!
リーナはそわそわしながらパスカルが来るのを待っていた。
そして、ようやく待ち望んだ者が姿をあらわした。





