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後宮は有料です! 【書籍化】  作者: 美雪
第七章 婚約者編

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732 中学校卒業程度認定試験

 秋の大夜会が終わると十一月。


 クオンは独身最後の執務三昧、リーナは試験勉強三昧の日々を送っていた。


 そして、ついに試験日が来た。


「ドキドキします……」


 リーナは王太子の婚約者ではあるものの、公正さを重んじて特別扱いされないこともある。


 中学校卒業程度認定試験を受けるにあたっては、居住地の近くにある指定学校=王立学校へ行かなければならなかった。


「あまり心配されないように。この試験の結果がどうなろうと、正直困ることはありません。学力を確認するためのものですから」


 案内兼護衛役のマリウスが微笑んだ。


 王立学校の警備はかなり厳しい。


 安全上の信頼度は高いものの、関係者以外の立ち入りを禁じていることから、受験者の付き添い役は一名に制限されていた。


 そこで護衛能力があり、王立学校の卒業生として現地の情報にも詳しく、中認の資格保持者でもあるマリウスが付き添い役に選ばれた。


「この教室です」


 先導していたマリウスが立ち止まった。


「教室へは受験者しか入れません」


 教室に入れるのは受験票を持つ受験者のみで、付き添い役は廊下で待つことになっていた。


「私は廊下でお待ちしております。緊急事態が起きた際はすぐにかけつけます。では、健闘をお祈り申し上げます」

「頑張ります!」


 リーナは気合を入れるように答えた後、教室の中に入った。




 受験票と机にある番号を見比べながら、リーナは自分の席を探した。


 ここみたい。


 試験開始時間までは少しあるため、リーナはなんとなく周囲を見回した。


 ……若い子ばかりだわ。


 教室にいるのはリーナ以外、中学生と思われるような若い者ばかりだった。


 飛び級狙いかしら?


 エルグラードの学校では飛び級が認められている。


 学校が出した条件を満たすと、通常よりも早く上の学年や学校に移ることができる。


 王立学校では中学校卒業程度認定試験に合格することで飛び級や早期卒業を認めている。そのため、多くの在学生がリーナと同じように受験をする。


 緊張する……。


 リーナの中の不安が少しずつ大きくなっていく。それを鎮めるように、リーナは何度も深呼吸をした。




 やがて試験監督官を務める王立学校の教師達が姿をあらわす。その中には王立学校の非常勤講師であるヴィクトリアの姿もあった。


 リーナの素性が他の者達にわからないようにするため、リーナが受験する教室の試験監督官を勤めることになっている。


「これから試験用紙を配ります。受験票と学生証を机の右上部分に置いてください」

「身分証や国民登録証などでも構いません。その場合、学生証ではないことがわかりやすいように裏返しの状態で置いて下さい」


 ヴィクトリアが説明を付け加えた。勿論、学生証がないリーナのため、また、身分証の名前を隠すための処置である。


 いよいよだわ!


 試験用紙が配り終わると、机の上に参考書や辞書などの余計なものがないかの確認が行われた。


 筆記用具は試験用紙と共に配られたものを使用し、持参したものは使わない。途中退席すると、休憩時間にならなければ戻れない。化粧室に行きたい場合は全ての解答を書き終えた後にするなどといったことが説明された。


「試験時間は四十分です。終わったら、速やかに筆記具を置いて下さい。答案用紙を回収する際にも記入していた場合は、故意に時間を延長したとみなされ、処分対象になります」


 秒針が動いていく。


「では、開始して下さい!」


 声と同時に受験者達は一斉に試験用紙を手に取り、表紙をめくった。


「まずは答案用紙に受験者番号と氏名を記入して下さい。氏名欄は学生証の番号でも構いません。空欄のままだと試験は無効になります」

「身分証などの番号でも構いません。担当の監督官が確認します」


 ヴィクトリアがまた説明を付け加えた。


 すでに一問目を黙読していたリーナはハッとし、慌てて受験者番号を書き込んだ。


 名前のところは身分証の番号……。


 不名誉な事態を避けるため、貴族の中には素性を隠して試験を受けたい者もいる。


 その場合は氏名欄に学生証や身分証などの番号を記入し、監督官が受験票に記載されている内容と同じかどうかを確認することになっていた。


 問題を解くことを考えて、大事なことを忘れていたわ!


 やがて、リーナの元にヴィクトリアが来る。受験票と身分証を確認し、問題がないことを示すマークを記入した。


「身分証はしまっていただいて結構です。受験票はこのままで構いません」

「はい」


 リーナはヴィクトリアが置いた身分証をポケットに入れ、再び試験に取り組んだ。




 午前中は国語、数学、歴史の三科目の試験が行われた。


 昼食休憩が一時間。午後も試験が続く。


 リーナはマリウスと共に王立学校内にある食堂で昼食を取ることにした。


「いかがでしたか?」


 午前中に受けた三科目は最も重要な科目になる。


 リーナもかなりの勉強をしていたが、答えに自信がない問題が多くあった。


「難しかったです」

「どの教科が難しかったでしょうか?」

「全部です」


 マリウスは柔らかく微笑んだ。


「満点でなければ不合格ということではありません。科目によりますが、六割から七割ほどあれば合格です。出題内容が難しい場合は五割以上が目安になります」

「合格点を取れているか不安です」

「試験の時は誰もが不安になります。ですが、勉強の成果があらわれると信じて下さい。午後の試験も頑張りましょう」

「はい!」


 リーナは気合を入れ直した。




 午後は四科目の試験が実施される。


 二科目の試験が終わると、少しだけ長い休憩時間になった。


 リーナは何もすることがない。化粧室に行く気もない。


 マリウスに会いに行くべきかどうかを考えていると、前の座席に座った少年が振り向いた。


「試験、どうでしたか?」


 その少年も特にすることがないため、話しかけて来たのだろうとリーナは推測した。


「思っている以上に難しかったです。貴方はどうでしたか?」

「簡単でした」


 リーナは自らの勉強不足を感じて落ち込んだ。


「……そうですか。良かったですね。それならきっと合格できます」

「そのつもりです。ところで、貴方は他国の方でしょうか?」

「えっ?!」


 リーナは思わぬ質問に驚き、聞き返した。


「なぜそのような質問を? 私はエルグラード人に見えないのでしょうか?」

「エルグラードの方ですか?」

「そうです」

「それは失礼しました。僕より年上の方がこの試験を受けるのは珍しいと思いましたので」

「他国の方もこの試験を受けるのですか?」

「エルグラードに留学するための資格や条件として、受験する方もいます」

「そうなのですね」

「ディラン、話すつもりか?」


 リーナの後ろの席にいる少年が声をかけた。


「少しだけ」


 後ろの席の少年は立ち上がり、ディランの側へと移動した。二人の側へ移動した少年はじろじろと遠慮ない視線でリーナを見つめた。


「このお姉さんには事情があるに決まっている。気を付けた方がいいぜ」


 その通りです! なので、あまり困るようなことは聞かないで下さい!


 リーナは心の中で叫んだ。


「同じ試験を受ける者としての世間話をするだけですし、名前や身分はあえてお聞きするつもりはありません。わかってしまうと面倒なことになりかねないので」

「その方が無難だな」

「僕の名前を呼びましたね?」


 ディランはにこやかな表情を崩さなかったが、その言葉は少年の行動を咎めているのは間違いなかった。


「わざと名前を呼んだのですか、アーヴィン?」

「わざと俺の名前を付け加えたな?」

「同等の報復です」

「俺達のことはすぐに忘れてくれていいぜ。休憩時間の暇つぶしをしているに過ぎない」

「私もそのつもりです」


 リーナがそう言うと、ディランはにっこりと微笑んだ。


「貴方はとても賢明な方のようです。では、世間話の続きとしてお尋ねしたいのですが、貴方はなぜ、ここで試験を受けられるのですか?」


 王立学校で中学校卒業程度認定試験を受けるのは、基本的に王立学校に在籍している生徒になる。


 外部の者が王立学校で試験を受けるのは、かなり珍しいことだった。


 しかし、リーナはなぜ試験を受けるのかを尋ねられたと思った。


「義務教育しか受けていないからです」


 ディランは自分の質問した意図が伝わっていないと思いつつも、更に質問を重ねた。


「他国で過ごされていたのですか?」

「他国?」


 リーナはなぜそう尋ねられたのかわからなかった。


「義務教育を終えた後、他国で過ごしていたのかってことだよ」


 アーヴィンが付け加えるように言うものの、やはりリーナには理解できなかった。


「他国で過ごしていた場合、この試験を受けるものなのでしょうか?」

「他国の学校を卒業しても、エルグラードの同等学校を卒業したことにはならないからな。それでこの試験を受けるのかってことだよ」


 リーナは考えた。


 自分は七歳までは他国であるミレニアスに住んでいた。学校に通っていたわけではなく、家庭教師がついていた。


 エルグラードの義務教育は孤児院で受け、終えたことになっている。


 他国の学校を卒業してエルグラードの学校を卒業していないという理由から、今試験を受けているわけではない。


「いいえ。違います」

「じゃあ、ずっと家庭教師に習っていたのか?」


 リーナはまた考えた。


 幼少時の教育は家庭教師から習っている。後宮の講師、カミーラやベルは家庭教師のようなものになる。そうだと答えてもおかしくないと判断した。


「そうです」

「では、学力を証明するための受験でしょうか?」

「そうです」

「証明できるといいですね」

「そうですね。ただ、科目が多いので大変です」


 中学校卒業程度認定試験は中学校で行われる全ての授業の理解力を試験で確認するようなものになる。


 学校に通い授業に参加や実技の披露をするだけで単位が取れるような科目についても、筆記試験を受けて合格点を取る必要がある。


 しかも、全ての科目に合格しなければならない。

 

「不合格でもまた試験を受ければいいだけですので、気楽に考えればいいかと」

「でも、一つだけでも不合格の科目があると駄目になってしまいます。また十科目を勉強するのは大変です……」


 ディランは眉を上げた。


「こちらの試験は一度に全ての科目に合格する必要はありません。合格した科目は、次回の試験では免除になります。一年に一科目だけ合格し、十年かけて十科目合格をすることでも資格を取得できます」

「えっ、そうなのですか?!」


 リーナは一度の試験で十科目すべてに合格しなければ、駄目なのだと思っていた。


「飛び級をしたいのであれば、一発合格がいいけどな。まあ、関係なさそうだ」


 何度も試験を受け、一科目ずつだけでも合格して行けば、やがて資格が得られる。そうわかったことで、リーナの表情は明るくなった。


「教えて貰って良かったです。先ほどの二科目は難しかったので、もう駄目かもしれないと思っていました。でも、駄目だったらまた受け直せばいいわけですよね?」

「そうです。資格を得るには十科目すべてに合格しなければなりませんが、一気に合格しなくても大丈夫です。今回五科目だけ合格しておき、次回は不合格だった残り五科目だけを受験して合格すれば資格を得ることができます」

「わかりました! 次の試験も頑張ります!」


 満面の笑みを浮かべたリーナにディランとアーヴィンは苦笑を返した。



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