729 専用化粧室
こんばんは! 令和になってようやく更新できました。
しばらくの間はノロノロ更新が続くと思いますが、コツコツ頑張って書いて更新していきたいと思いますのでよろしくお願い致します!
王族席の間にはヘンデルがいた。
「これから特別な化粧室の説明をする。でも、化粧室は護衛騎士が一緒に入れないから、他の女性達が同行することになる」
リーナが側妃になっても、側近は当分ヘンデルとパスカルが兼任として担当するため、男性になってしまう。
そこで、ヘンデルの補佐役であるカミーラやベル、ラブなど月明会のメンバーが数名必ず同行することになった。
「失礼します」
次々と王族の間に月明会のメンバーが集まった。
最後に来たのはシャルゴット姉妹。二人が遅かったのは、イレビオール伯爵家のボックス席の位置が王族席の間から最も遠い位置にあるからだった。
「パスカル、メモった?」
女性達は全員が自分の家のボックス席を使用し、サードワルツが終わったらすぐに王族の間に来るよう指示が出されていた。
それは自分の家のボックス席から王族席の間に移動した場合、どの程度の時間がかかるのかを計るためだった。
「メモしました」
ヘンデルはもう一度部屋の中を見回した。
「揃ったから説明を始める」
最初は王立歌劇場の女性責任者が紹介だった。
「まず、アイリーン」
ヘンデルに紹介された女性が深々と頭を下げた。
「アイリーンは王立歌劇場内における女性に関することを扱う責任者だ。第二王子の友人で非公式な側近の一人でもある。何かあれば遠慮なくアイリーンに伝えて欲しい」
「アイリーン=カッツェンと申します。祖父はカッツェン公爵、父は伯爵です。どうぞよろしくお願い致します」
ヘンデルは視線を移した。
「それからマルケーザ。第二王子の友人で側近の妹だ。元王宮の第二王子付女官だったけれど、こっちに転職した」
「マルケーザ=デヒュローと申します。父はデヒュロー公爵です。よろしくお願い申し上げます」
マルケーザは若く、いかにも良家の令嬢といった上品な雰囲気を持つ美女だった。
「王立歌劇場のことに関してはこの二人が何かと面倒を見てくれる。じゃ、後はよろしく」
「では、私の方から説明させていただきます」
説明はアイリーンではなくマルケーザが担当だった。
「王立歌劇場には複数の化粧室がございます」
特別な化粧室は王族席の方や国賓が利用する。しかし、特別な化粧室は一つではなく、複数ある。
今回、リーナが案内されるのは特別な化粧室の中で最も利用者が限定される化粧室、エルグラードの王家の女性専用の化粧室だった。
この化粧室は王家の女性専用のため、王妃、王太子妃、王子妃などの妻や王女といったエルグラード王家に属する女性でなければ利用できない。
リーナは婚約者であるため、本来であればまだ利用できない。だが、婚姻することが決定し、結婚式もまもなくという時期に入ったため、事前説明を兼ねて案内することになった。
「ご案内致しますのは四番の化粧室になります。こちらの化粧室はリーナ様専用となります。他の番号の化粧室はご利用できませんので、覚えておいていただきたく思います」
細かい部分は化粧室の中で説明することになり、リーナ達は四番の化粧室に移動することになった。
王族席の間の者達が利用する化粧室はすぐ近くにある。
男性用と女性用に分かれており、この化粧室はすでに利用したことがあった。
これは王族席に席がある者や関係者、国賓等が利用する化粧室で、王族が利用するものではない。
王族専用の化粧室は、使用する資格のない者が間違えて使用しないようにするため、少し離れたところにあった。
「こちらになります。廊下から入る時、まずは男性用か女性用かをご確認下さい」
マルケーザがドアを開けて抑えている間にリーナと同行者の女性達、アイリーンが中に入った。
護衛騎士などは男性であるため、廊下で待機になる。
「ここは待合室です」
待合室にはソファセットや椅子がいくつも設置されていた。
「こちらの待合室は同行者の方でもご利用できます。側近、侍女、ご友人などの方であっても入室することができ、ソファや椅子に座ることもできます。その方々が利用する化粧室はあちらのドアになります」
側近、侍女、友人等が利用できる化粧室のドアにはゼロ番のプレートがつけられていた。
「そして、もう一つドアがございます。この先には王家の方専用の待合室があります」
この化粧室は待合室の数が二つになっていた。
「王家の方専用の待合室で着席できるのは王家の方だけです。側近、侍女、友人等の方々は空席であっても着席できません。また、王家の方も、同行された方に着席するような命令は絶対にしないで下さい」
王家の者以外が着席してしまうと、王立歌劇場のルールに違反してしまう。
王族の命令に従ったという理由で、着席してしまった場合の処罰がなくなることはない。
むしろ、ルール違反を命じた王族も処罰対象になる。
どれほど寵愛されていても、特別扱いで免除になることはない。
「王家の方専用の待合室には化粧直しや身支度を整えるための鏡台や姿見もございます。こちらも王家の方のみが利用できます」
ソファなどの椅子席や鏡台等の使用は、利用前であれば序列、利用中であれば使用者が優先される。
自分よりも序列の高い者が利用したいと言っても、すでに着席しているのであれば譲る必要はない。
但し、身支度が終わっているのであれば、速やかに次の利用者に譲る。
あくまでも空席の場合のみ、序列優先で座る権利がある。座った者の身支度が終わるまでは優先されるというルールになっていた。
「備品として化粧品もあります。ですが、通常は侍女や同行者の方が化粧直しのセットを持ち込まれますので、こちらで用意したものを使用する機会はないかもしれません。では、実際にご案内する前に、もう一度注意させていただきます。王家専用の待合室で着席できるのはリーナ様だけになります。他の方々は絶対に着席されないように」
ようやくドアが開かれる。
リーナ達は今と同じ程度でより豪華な家具などが置かれているような部屋だろうと推測したが、実際はそれ以上だった。
とにかく広い。
側近達なども利用できる待合室も普通に広い部屋なのだが、その三倍はある。天井も高い。普通にパーティーができそうな面積だ。
また、黄金の鏡台は目を見張るほどに派手な装飾のついたものが四台。実用品というよりは芸術品だ。
壁沿いにある棚に並べられている化粧品はどれも美しい容器に入っており、説明用のプレートもある。
これも実用品というよりはコレクションや展示品のようだった。
「棚の化粧品は全て自由にご利用いただけます。勿論、王家の方のみです。それ以外の方々は手伝うという意味で触れたり運んだりすることはできますが、自分の身支度のために使用することはできません。持ち帰りもできません」
容器は化粧品メーカーのものではなく、王立歌劇場で用意しているものになる。
どれも最高級の化粧容器で、国宝級の品もあった。
「個室もご確認下さい。リーナ様は四番です」
ソファセットがいくつか置かれている方にはドアがあり、番号のプレートがつけられていた。
王家の女性が個室の数と同数以下の場合は専用が割り当てられ、それ以上の人数がいる時は、専用ではなくなるというルールになっている。
「ゼロ番は故障中などによって自分の個室が使えない場合に利用します。それ以外は利用しません」
四番のドアを開けると、そこにもやはり豪華な洗面台と棚、奥に衝立があった。
「トイレは衝立の奥側です。個室を使用する際には、番号プレートのあるドアについている内鍵をご利用下さい。ここまではよろしいでしょうか?」
「はい」
リーナは答え、他の女性達も頷いた。
「何か質問はありますでしょうか?」
リーナは早速質問した。
「あちらの棚ですが、掃除用具や備品入れでしょうか?」
リーナは身分の高い者が使用するトイレを掃除した経験がある。ここの棚も同じではないかと推測した。
「そうです。高さはありますが細いので、人が隠れるようなスペースはありません。入れるとすれば子供だけでしょう。また、衝立の向こう側に誰かがいる場合、靴やドレスが見えると思います。何も見えなければ、誰もいないということになります」
基本的に個室は個人専用になるため、必ず空いている。
しかし、使用者や掃除時間にならなければドアを開ける者がいないため、ある意味ずっと隠れ続けることができる場所でもある。
万が一中に誰がいた場合、他の王家の女性が間違えて使用してしまった可能性もなくはないが、必ずそのままにはしない。
一旦は利用をしないで個室を離れ、同行者や護衛騎士、王立歌劇場の者に安全かどうかの確認をさせてから使用する。
「昔は何かと女性達が争っていたこともございました。私がお聞きした話ですと、寵愛を妬み、害のある石鹸に取り換えようとしていた者がいたこともあったとか。あくまでも昔の話ではありますが、安全確認は絶対に怠ることがないようにお願い申し上げます」
「わかりました」
「では、ご検分をお願い致します。内鍵のかけ方、水の流し方、レバー操作なども実際に行い、確認をお願い致します。操作方法などわからないことがございましたら声をおかけ下さい。私達は向こうの方でお待ちしています」
マルケーザは一通り説明すると、リーナを残して外に出た。
リーナは早速内鍵を閉めた。特に問題はない。普通の鍵だ。
その後、衝立の奥にある便座も確認する。
「普通に豪華過ぎるわ……」
リーナは散々トイレ掃除をしてきた。
だからこそ、最高級のトイレについてもよくわかっている。
確認したのは機能的なことではなく、いかに豪華な装飾が施されているかだった。
「こんな凄い化粧室が私専用だなんて……昔は掃除する方だったのに」
自分の身分と立場が変わったことを実感しながら、リーナはため息交じりに呟いた。





