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後宮は有料です! 【書籍化】  作者: 美雪
第七章 婚約者編

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「いくつかある。でも、エゼルバードが反対するに決まっている」

「話だけ聞く」

「渋滞をなくすためには来場者を減らすのが最も簡単だ。参加者が少なければ、問題は全て解決する」


 その推測は正しい。しかし、参加者を少なくするのもまた難しい。貴族達の不満が高まる。


「減らせません」


 早速エゼルバードが否定した。


「私が反対する以前の問題です。わかりきったことではありませんか!」

「今回は来場者数が多いが、実際は二つの会場になっている。開会にも一時間半の差をつけている。それでも混雑しているのは、王宮と王立歌劇場を結ぶ馬車が王立歌劇場に来場する者達を邪魔しているからだ。一番いいのは、どちらかの会場にしか参加できなくする方がいい」

「その点は問題ありません。今回は臨時に馬車を用意しましたが、兄上が婚姻する際にはどちらかの招待になります。王宮は基本的に国賓と重臣だけになり、それ以外の者達は全て王立歌劇場になるでしょう」

「一カ月もない状態では、大掛かりな工事をするのは難しい。検問は門の中ではなく、前にした方がいい」

「門前広場を使うということか?」


 レイフィールが尋ねた。


「当日は交通規制で王宮へ向かう方面は来場者のみ通行可能にする。間違えてしまったものは通行止めになった片側を利用して戻ることになる」

「いつもそうしているはずだが」

「馬車は王都警備隊によって止められ、王宮へ向かう馬車かどうか確認される。ならば、敷地内へ入るための検問もそこで済ませてしまえばいい。何度も馬車を止めなくて済む」

「検問は王都警備隊がするのか?」

「警備と交通整理は王都警備隊、検問自体は王宮警備隊が担当する」


 王宮敷地前の広場は王宮地区ではない。警備の管轄は王都警備隊になる。


 そこで、検問所付近の警備と交通整理は王都警備隊に任せ、王宮警備隊は検問に特化することで負担を減らし、検問の数を増やしてより早く円滑に馬車をさばくというものだった。


「広場を利用するのはいいとして、そこから門に入る際に混雑しないか?」

「する。だが、広場は使い慣れている場所だ。事故が起きないように注意しやすく、互いにタイミングを取りやすいだろう。王都警備隊も常に広場が混雑する時間帯は交通整理をしている。任せればいい」

「検問はそれでいいとして、馬車置き場の方はどうするのですか?」


 今度はエゼルバードが尋ねた。


「既存の置き場に入りきらない場合は、王立歌劇場に続く道沿いに停める。その部分だけは拡張が必要だ」

「道幅を広げ、四車線にするということですか?」

「路肩の拡張程度でいい」

「現状の対応とあまり変わらない気がします」


 現在も馬車置き場に入りきらない際は、道路沿いに駐車するよう指示している。


「今は路肩を嫌がり、道路上に駐車している。道は一車線になってしまい、逆方向の馬車が通る間、馬車は止められてしまう。それが渋滞の原因になる」


 路肩を拡張してそこに馬車を停めることができるようにすれば、四車線になる。


 両端に馬車を停めても二車線あるため、馬車の行き来がしやすくなる。渋滞の原因が一つなくなる。


「馬車の乗り降りをスムーズにするためにも、王立歌劇場前の広場を拡張した方がいい」

「それはできません。景観が変わってしまい、美しくなくなります」


 エゼルバードはすぐに反対した。


「美しいままになるように考えればいい」

「肝心なところが丸投げです」


 エゼルバードは不機嫌だった。


「急いで工事をしたとしても、この季節です。美しい木々、芝生、花々で飾り付けることはできません。むき出しの土か砂利ではありませんか。美しくありません」

「舗装すればいい。モザイクにしたらどうだ?」

「お金がかかります」

「ミレニアス外貨で儲けたくせに」

「あれは私財です。王立歌劇場の費用は執務予算としているもので賄っています」

「そこまでは面倒を見れない。大体、金がなければ何もできないも同然だ」

「兄上も王宮省に言ってください。これも催しに関する必要経費です」


 クオンは知っている。


 王宮省がしぶるのは、婚姻や披露宴に金がかかるからだ。王聖堂の整備にもかなりの費用が必要になった。


 催しは一回だけ。我慢すればいい。


 道路対策をして一番得なのは王立歌劇場を管轄する第二王子だ。どうしてもというのであれば、第二王子予算で負担して欲しいと言われるに決まっていた。


「無理だ。私の婚姻費用はかなりの試算が出ている。そのせいで税金を上げると思われても仕方がないほどの額だ」

「クオン様、でしたら結婚式はできるだけ控えめなものにして下さい。税金を上げてまで、豪華な結婚式を挙げたいとは思いません。クオン様と結婚できるだけで幸せです」


 リーナの謙虚さは苛立っていた王子達の気持ちを静めた。


 しかし、リーナの提案を採用するわけにはいかない。絶対に。


 その想いがリーナ以外の全員の心を一つにまとめた。


「増税は結婚式とは関係ない。輸出入の経路になる街道を補強整備する費用が必要なのだ。婚姻費用が足りないわけではない。それなら最初から控えめにしている。財政的な問題は別の部分にある」

「披露宴の一次会には周辺諸国の者達を招待します。エルグラードの王太子が婚姻したことを内外にアピールしなければなりません」

「その通りだ。王太子の婚姻はエルグラードの威信にかけて豪華でなければならない」

「側妃だという言い訳は通用しない。お前以外の妻を娶ることはないというアピールでもある。盛大に豪華にするほど、寵愛を示せる。また将来的にも、様々にかかる予算を理由にして正妃を立てるのに反対することができて都合がいい」


 クオンは増税の理由を別件にした。エゼルバードは国際的な宣伝を。レイフィールは国の威信を。セイフリードは王太子の個人的な思惑と邪魔をしかねない者達への牽制を。


 次々とリーナの提案を却下する発言が続く。


 しかし、リーナの謙虚な発言は役に立っていないわけではない。


 それぞれの思惑を優先したがる者達をまとめ、何か別の対応で問題を解決していかなければならないという強い意志と団結力を生み出していた。


 エゼルバードは閃いた。


「これは外交です。外務省から搾り取りましょう」

「それならいい」


 王太子は即了承した。


「縮小される王家予算からの出費は抑えなければならない。できるだけ宰相と大臣達と掛け合い、関係費用を統治予算から捻出させろ」

「軍の費用は元々自前だ。関係ないな」

「むしろ、奪われるかもしれない。統治予算だ。不足分はほとんど減っていない第三王子予算でいいと思われるかもしれない」


 セイフリードの指摘にレイフィールはぎくりとした。


「第三王子予算は私のものではないか! ミレニアスの件との緊張関係はまだ続いている! 森林火災の賠償請求をできるだけ多く見積もるためにも人員が必要だ!」

「それはインヴァネス大公と話し合え」


 今度はリーナが反応した。


「インヴァネス大公が……話し合いに来るのですか?」


 クオンは話すのに丁度いいタイミングかもしれないと思った。


「九月の段階ではミレニアスとの関係が悪かったため、結婚式にミレニアスの者達の参列は認めないことにした。駐在大使も招待していなかった」


 エルグラードはミレニアスと緊張関係にあり、近年稀にみるほどに悪化していた。


 結婚式に招待することをきっかけに緊張関係を緩和するという意見もあった。だが、ミレニアスの王女を国外追放にしたこともあり、強硬な姿勢を貫くことになった。


「だが、ユクロウの森の連続火災等をきっかけに話し合いをすべきという風潮が高まったことから、十一月の結婚式にミレニアス王太子及びインヴァネス大公一家を招待することになった」


 最初は王太子だけを招待する方向だったが、火災における賠償問題等はユクロウの森の一部を含んだ領地を持つインヴァネス大公が交渉することになった。


 婚姻後に時期をずらして別々に来るよりも、王太子と一緒に来た方が警備等の都合もいいということになり、招待客に加えられた。


 リーナの本当の家族を結婚式に招待してやりたいという配慮が含まれていたが、それだけでもない。


 インヴァネス大公を招待すれば、インヴァネス大公軍の指揮官が不在になる。留守番役を務める指揮官はインヴァネス大公の安否を考え、下手な行動をとらないようにミレニアス国軍と国境警備隊を抑えてくれるだろうという目論見もあった。


「では、お父様達に会えるのですね?!」


 リーナは嬉しさのあまり、インヴァネス大公ではなくお父様と言ってしまった。


 すぐにクルヴェリオン達は部屋の中に誰がいるのかを把握するために視線を動かした。


 基本的に王族席の間に入れることができるのは王族、その側近、護衛騎士になる。


 エゼルバード達は知っているが、側近や護衛騎士全員がリーナの真の素性について知っているわけではない。


「違う。会えるのはインヴァネス大公一家だ」

「あ……」


 リーナは失言に気付いた。


「申し訳ございません。インヴァネス大公子はお兄様の弟なので、私にも弟のように思って欲しいと言われています。弟のお父様という意味で……」

「わかっている。だが、不注意な言葉は慎め」

「はい。本当に申し訳ございません」

「念のためだ。ここにいる者達全員に告げる。この件は外部に漏らすな」

「当然です。皆もわかっていますね? 緘口令です」


 エゼルバードがすぐに念を押した。


「御意」


 ヘンデル以下、側近や護衛騎士達は頭を下げて同意を示す。


「ミレニアスの者達を呼ぶ件はまだ内密だ。政治的な情勢が悪くならなければの話になる。わかるな?」

「はい」

「個人的にではあるが、私もインヴァネス大公一家に会うのを楽しみにしている。お前の笑顔がより一層輝かしくなることだろう」


 クオンは優しく微笑みながらそっとリーナを抱き寄せ、その額に口づけた。


 リーナは幸せな気分で満ち溢れた。


 お父様、お母様、フェリックスに会える。結婚式に来てくれるなんて……クオン様のおかげだわ。私はなんて幸せ者なの!


 リーナは実の両親と弟に会える結婚式の日が一気に待ち遠しくなった。



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