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後宮は有料です! 【書籍化】  作者: 美雪
第七章 婚約者編

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725 第二会場

 王太子と婚約者、王族やその側近等を乗せた馬車は特別なルートを通ったため、予定よりも少し早く王立歌劇場に到着しそうだった。


 しかし、それでは困ったことになる。王族を出迎える貴族達が揃っていない。


 そこで、馬車は王立歌劇場に到着するよりも早い位置で一旦止まり、時間調整をすることになった。


 クロイゼルからそのことを伝えられたクオンはもう少しリーナと二人だけの時間を堪能できると喜んだが、会話の話題をどうするかという点では困っていた。


 赤い馬車のことは話した。軽食も食べた。どうするか……。


 馬車の中では食事が取りにくいため、食べ終わらないうちに王立歌劇場についてしまうかもしれないということは事前に考えられていた。


 しかし、逆に時間が余ってしまった。


 時計の秒針の音さえ聞こえてしまうのではないというほどの静寂が訪れた。


 次第に何とも言えない雰囲気が漂い始める。


 リーナもこの長くも短くもなさそうな中途半端な時間をどうすればいいのだろうかと悩んでいた。


 外の景色は……駄目だし。


 カーテンがある。夜である。月明りはあるものの、ルート沿いに警備が設置しているランプでは、馬車の周辺しか見ることはできない。遠くは見えない。見えても開けた場所ではないため、道沿いにある木々しかない。


 あっ、そうだわ! あの話題が!


 話題を用意していたのはクオンだけではなかった。


「クオン様、今回の秋の大夜会はクオン様が独身最後の公式行事ということもあって、二つの会場を使い、いつもは仮装舞踏会か仮面舞踏会のどちらかになるところ、両方を同時に催すことになりました」


 リーナは侍女による説明を思い出す。


「もしかして、他にも何か特別なこと、出し物などがあるのしょうか?」

「今回はエゼルバードが指示を出している。結婚式に備え、様々なことについての調査や実験を兼ねているとは聞いた。出し物があるとは聞いていない」

「そうですか」


 話が終わり、馬車の中がまたしても静かになる。


 ここでクオンが特別なこと、出し物があるといったことを知っていれば、それについての説明に移行していた。


 だが、今回はエゼルバードが仕切っている。


 調査や実験というのも、多くの招待客をどのように分けたり移動させたりするか、また、検問や警備関係のことになるため、話題として膨らませるのは難しい。


 どうするか。


 何か話題は……。


 今度はクオンが言葉を発した。


「先ほどのプリンだが、美味だったな?」

「そうですね」

「もう一度味わえるかもしれない方法を考え付いた」

「えっ、本当ですか?」


 一気にリーナの気分は上向いた。


「どんな方法ですか?」

「あのプリンはデザートだけに、最後に食べたな?」

「そうですね」

「口づけをすれば、プリンの味がするかもしれない」


 リーナは予想外の言葉に驚き、思わず息を止めた。


「試してもいいか?」


 リーナはまたもや恥ずかしさでいっぱいになった。しかし、クオンの要望に応えたい気持ちが勝った。


「……はい」


 返事にクオンが喜んだまさにその時だった。


 ドアがノックされると、外から鍵を開ける音がした。


 心の中でクオンは舌打ちするしかない。


 邪魔をするな!


 しかし、その気持ちは届かない。扉が少しだけ開き、クロイゼルの声がした。


「ご報告申し上げます。そろそろ馬車を動かしますが、よろしいでしょうか?」


「わざわざ確認する必要などない! さっさと動かせばいいだろう!」


 クオンは苛立った口調で答えた。


 不味いな。珍しく、お楽しみ中だったのかもしれない。


 クロイゼルは失敗したと思ったが、すでにどうしようもない。


「一応お伝えしてからと。申し訳ございません。では、出発致します。五分ほどで到着しますので」


 扉が閉まった。


「クオン様」


 どうしましょうかと尋ねる声は出なかった。


 リーナの唇は待ちきれなかったクオンの唇によって塞がれていた。




 約五分後。馬車は王立歌劇場に到着した。


 たった五分、されど五分。


 クロイゼルは王太子の機嫌が悪いままだと思っていたが、その予想は外れた。


 王太子は婚約者であるリーナを甘く優しい視線で見つめ、リーナが馬車から降りる時も手を差し出し、降りるのを補助する甲斐甲斐しさを見せた。


 リーナは恥ずかしがりつつも嬉しそうにしている。


 王太子は二人きりの時間を楽しんだことが明らかだった


 ヘンデルに怒られないで済みそうだ。


 クロイゼルが安堵する様子を相棒のアンフェルは見逃さず、逆に鋭い視線で周囲をひるませ、護衛騎士の威厳を保った。




 王太子一行は今回の公式行事を正式に取り仕切っている王宮省と王立歌劇場の関係者に出迎えられた後、王族席の間に向かった。


 後続の馬車に乗っていた者達も次々と到着し、王族席の間に姿を現した。


 開会宣言をする王太子及び三人の弟王子が到着したため、本来であれば開会式を行うことになる。


 しかし、あまりに多くの者達が招待されている影響で会場内の整理が追い付かないため、開始時間を遅らせたいという報告が上がった。


「どのあたりで問題が?」


 エゼルバードはより詳しい説明を求めた。レイフィールとセイフリードもそばに寄っている。


「馬車の移動が予想よりもスムーズではなかったようです」


 エゼルバードの側近の一人であるセイルが答えた。


「それだけではわかりません」


 すぐにロジャーが追加で質問した。


「到着時の乗り降りか? それとも検問や門の通過に関することか? 馬車置き場への移動か?」


 ロジャーの質問により、説明を押し付けられた王立歌劇場の責任者は説明する言葉が不足していたことを理解した。


「全てです」


 王立歌劇場に招待されている者達は、最も近い門あるいは別の王宮の門から敷地内に入り、王立歌劇場に向かうことになっていた。


 これは一番近い門が混むことがわかっているからの処置で、王立歌劇場で催しがある日はいつも同じようになる。


 但し、今回はそれぞれの門で検問をするのではなく、一旦は門を通過し、その先にある臨時の検問所で検問を受けることになっていた。


 そうすることで門の数は増やせないものの、時間がかかる検問の負担を軽減する狙いがあった。


「ですが、検問を受けた後の道は一本しかありません。複数の検問を通過した馬車が本道へ移動する際、複数の馬車が強引に進もうとして衝突しそうになり、また、譲り過ぎて進めないなどの問題が発生しました」

「合流地点でもたついたか」

「警備からそのような報告が上がっておりまして、改善策を施しているとのことです」

「馬車からの乗り降りにつきましても、王宮の馬車が次々と到着するため、個人の馬車が移動しにくくなっております」


 また、馬車置き場は二カ所あるが、それぞれの置き場へ続く道は一つしかない。そこでも複数台の馬車がかち合ってしまうことや順番待ちをして混雑していた。


「馬車置き場への道幅を広げたはずだろう。効果がなかったのか?」


 レイフィールが尋ねると、セイルが答えた。


「接触事故はほとんどなくなりましたが、馬車置き場内の道幅は狭いままです」

「馬車置き場内の道幅は変えていないのか」

「それをすると駐車できる馬車の数が極端に減るという試算が出たのです」

「まあ、そうなるだろうな」

「兄上が婚姻する際、王立歌劇場は二次会場になる。今のうちに改善策を施すべきだ」


 セイフリードが意見に答えたのはエゼルバードだった。


「わかっていますが、馬車置き場の増設は難しいのです。景観が悪くなってしまうのでね」


 馬車置き場を拡張するには、王立歌劇場の周囲にある小さな庭園と木々をなくすのが最も簡単だ。


 しかし、そうすると王立歌劇場周辺の景観が変わり、馬車がずらりと並んでしまう状態になる。


 その景観が美しくないことから、エゼルバードは馬車置き場の拡張に否定的だった。


「王立歌劇場に来る者は催事や観劇に来る者達ばかりだ。庭園を使う者はいない。なくてもいいと思うが」

「雰囲気が大事なのです。王立歌劇場の側に美しい庭園が見えるのと、馬車が並んでいるだけの風景では違いすぎます」

「豪華な馬車を目立つようにすればいいのではないか?」

「下級貴族でも金持ちは置き場所を優先されるということですか?」


 エゼルバードからはありえない、という意思表示がありありと伝わってくる。


「毎回道路周辺が混雑している。接触事故も起きやすく、警備の負担が大きい」

「だからこそ少しでも改善すべく、道幅を広げているではありませんか」

「接触事故の件数は少なくなるかもしれないが、混雑する状況を改善するほどの効果はない」

「王宮省が予算を出しません。道幅を広げる費用も、全て私の方で負担しているのですよ?」

「警備の負担に関しても、国軍のものはこちらで全て負担している」

「軍の予算ではありませんか。第三王子の予算ではありません」

「王立歌劇場が欲しいと言ったのはエゼルバードだ。収益も全て自分の予算に組み込んでいるではないか」

「これだけ古い建物を維持するのにどれほど莫大な費用がかかるかわかっていません。しかも、酷使しています。王宮での催しは少なくなり、その分催事も増えています。余計に何かと費用がかかるではありませんか」

「儲かっているくせに」

「経費を賄っているだけです。有り余るほどの収益で私が個人的な贅沢をしているわけでないのですよ?」


 エゼルバードとレイフィールの会話が不穏な空気を纏い始めた。


 側近達は期待を込めた視線をクオンに向けた。


 仕方がないと思いつつ、クオンは名前を呼んだ。


「セイフリード」


 その一言で、エゼルバードとレイフィールも口を一瞬閉じた。


「何か良い方法はないか?」


 王太子が第四王子に意見を求めた。しかも、改善策を。


 これはセイフリードが成人することに向け、王太子が少しずつ経験を積ませようと考えていることを、周囲の者達に認識させた。



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