715 みんなで会議(二)
「明日ですか?」
「学校は?」
「はあ? リーナ様が優先に決まっているでしょ! こういうのはできるだけ早く決めないと、準備ができないじゃない!」
「チケットの手配とかは大したことないと思うけど」
ラブはわざとらしく大きな息をついた。
「わかってないわね。外出予定を入れれば、警備の仕事と負担が増えるでしょ? 突然明日出かけるなんて言ったら、護衛騎士とか警備関係者が嫌がるに決まっているじゃない! 私達の企画だとわかったら、当然文句タラタラ、なぜもっと早く言わないのかって説教されるわよ。カミーラ達には何も言わないかもしれないけれど、心の中では不満に思っているわ。そうならないように、できるだけ早めに決めないと駄目なの!」
ラブの説明にカミーラとベルは純粋に驚いた。
二人は警備のことを考えていなかった。
「リーナ様付きの護衛騎士にはどこって決めてなくても外出予定を考えることになった位は伝えておかないと駄目よ。まあ、側近がすでに伝えていそうだけど。場合によっては、警備しやすいお勧めの場所をいくつか候補に挙げて貰うのもいいわ。それを採用すれば、護衛騎士や警備の者達に対する評判もよくなるし、私達の信用度も上がるわ!」
カミーラとベルは納得の表情になった。
「とても鋭い意見です。今後の活動を考えれば、警備関係者の信頼を得ておくのは重要です」
「そうね。私達はリーナ様の側近補佐ってことになっているけれど、お兄様のコネ採用なのは明らかだし、本当に能力があるのかを疑われて軽視されやすいわ。あくまでも企画とか補助的な業務で強い権限があるわけでもないし、関係者の信用を築いておくのはとっても大事だわ!」
「ラブは凄いですね! 優秀です!」
三人が褒めると、ラブは得意気な表情で胸を張った。
「まあね! 第二王子が突然外出するって言い出すと、側近は慣れたものだけど、護衛騎士や警備関係者が凄く困って嫌がるのよ。それを知っているからこそよ!」
ラブが第二王子側の者だからこそ、自分達とは違う考えや情報を持ち、役立つこともある。
カミーラとベルはそのことを実感した。
「私達だけで決めるわけではありません。外出先には王太子殿下の許可が必要です。警備関係者の話を聞くということであれば、十一月の初め頃でもいいかもしれません。試験勉強の方が優先ですので」
「秋の大夜会もあるから、その前はやめたほうがいいわね。側近達も警備関係者も忙しいから」
ラブの意見にカミーラとベルは頷いた。
「その通りです」
「でも、あまり遅くなってもつまらないから、来週に入れましょ」
「来週ですか?」
「準備できる?」
ラブはにやりとした。
「大丈夫。来週は王宮敷地内。庭園か購買部辺りを散歩しましょ。これなら王太子の許可も出るし、特に準備も必要なし。警備も嫌がらないわ。王宮にいる者達への宣伝活動をしましょ!」
貴族や平民達への宣伝活動も大事だが、王宮に出入りしている者達への宣伝活動も重要である。
シャルゴット姉妹はラブの意見に賛成した。
「また外出できそうですね。嬉しいです!」
リーナは喜んだ。
「どこか行きたいところ、ある? 王宮敷地内で」
ラブはリーナに質問した。しかし。
「希望を言いたいのはやまやまですが、王宮敷地内に何があるのかよくわかりません。王立歌劇場、庭園や果樹園があるのはわかっていますけれど……森もありますよね?後は……王宮と後宮。まだありますか?」
王宮敷地内についても説明しなければならないということを、三人は強く実感した。
「敷地内には美術館があるけど、王宮美術館ね。王立美術館とか国立美術館は敷地外よ」
「名称が違うのですね」
「植物園もあるけれど、敷地内にあるのは王宮植物園。王都植物園とは違うわ」
王宮敷地内には様々なものがあるが、基本的には王宮という名称がつくものが多い。
但し、王立歌劇場は敷地内にある。旧名称は王宮歌劇場だったが、現在は王立歌劇場という名称になっている。
王都内には国立歌劇場、王都劇場などもある。名称が似ているが、これは王宮敷地外にある。
「少しだけ名称が違うものがあるのですね。間違えないようにしないと……」
「王都は大きくて様々な施設があって便利だけど、名称を間違えないようにしないといけないわ。芸術の宝庫という雑誌を見ると、様々な催しが載っているの。でも、場所を間違えると大変よ」
「そうですね」
リーナは頷いた。
「王宮敷地内には菜園もあります。様々な野菜が育てられています。果樹園の側にあったはずです」
前回はクオン達と共に果樹園に出かけた。果樹園の正式名称は王宮果樹園になる。
その際は果樹園で過ごした後、結婚式を挙げる王聖堂の見学に行ったため、菜園の見学はしなかった。
果樹園や菜園はかなりの広さがある。リーナが実際に行って見たのはその一部、ブドウの季節だったためにブドウが栽培されているあたりだけだった。
また、王宮がある広大な敷地は一般的に王宮地区と言われている。
王族が居住する宮殿があるため、警備上の都合等から中にどのようなものがあるのかは一般的な情報として公開されてはいない。
王宮地区に出入りできる貴族や官僚、雇用されている者、御用達商人などの一部のみが知っていることになり、詳しい情報を口外することは守秘義務違反になる。
勿論、リーナに教えるのは問題ないが、その情報をリーナが別の誰か、外出した先で知り合った者、平民などに教えることはできない。
「後、庭園といってもいくつもあるのよ。それぞれに趣向が異なる庭園なの。王族しか出入りできない庭園もあるし、私も全部は知らないわ。貴族が出入りできるのは一部だけなのよね」
「基本的には王宮周辺にある庭園になります。芝生だけしかなくても庭園となっている場所と広場扱いの場所があります」
リーナは首を傾げた。
「芝生だけしかないなら、庭園も広場も一緒ですよね?」
「違います」
カミーラの解説によると、基本的に広場というのは王宮地区に入れる者であれば出入りできるような場所になり、庭園になると出入りできる身分や階級等に制限がかかる場合がある。
見た目は全く同じ芝生しかない広い空間でも、出入りできる者が違ってくる。
「それは……難しいですね。見ただけですぐに判断できないかもしれません」
「その通りです。ですので、ここは広場、ここは庭園と覚えておかなくてはいけません」
「王宮に出入りする者は大変ですね……」
「後宮も同じでしょう? 身分や階級とかによって出入りできる場所とか庭園が違うわよね?」
後宮に勤務している者は大勢いる。階級も様々にあるが、どのような仕事をしているかで行動範囲が違ってくる。
リーナは高貴な身分の者が出入りするような場所も仕事場所になっていたために出入りできたが、違う場所の担当は出入りできない。
同じ階級や仕事であっても、細かい担当違いによって出入りできる許可のあるなしが違ってくるため、廊下や階段は勿論のこと庭園に関しても、仕事で行き来するような範囲内を使用することになっていた。
後宮の敷地も広い。リーナが知るのはあくまでもその一部でしかなく、後宮中の場所や庭園に行ったことがあるわけでも、詳しく知っているわけでもなかった。
「王都敷地内にあるものを順番に見て回るだけでも、かなりの時間がかかりそう……」
ベルがぼやいた。
「そうですね。リーナ様に同行する形であれば、私達も知らない場所に行けるかもしれませんが、そうなると案内はできません。私達が案内できるのは、貴族に開放されているような場所になります」
「普段は立ち入り禁止だけど、特別な催しの時だけ出入りできる庭園もあるわね」
「王宮敷地内の散策は許可が出やすいので、特に気になるものがなければ庭園の散歩でもいいかもしれません」
「そうね」
カミーラとベルはそう言ったが、ラブは納得しなかった。
「ちょっと待ってよ。今は宣伝活動もしないとでしょ? 基本的に庭園は人が少ないわ。季節も十月だし、寒くなってきたら余計に誰にも会わないわ! 十一月に外出するのはできるだけ屋内にしないと。リーナ様が風邪を引いて婚姻が延期になったらどうするのよ!」
「それもそうですね」
「あまり人が多い場所に行くと、風邪をうつされるかも……」
「その懸念は確かにあります」
「婚姻するまでは部屋で大人しくしているのが一番安全ではあるのよね」
「否定はしません」
リーナは何も言わなかったものの、その表情は暗くなった。
「ちょっと! せっかく外出予定を考えることになったのに、そんなことを言ったら気分が下がるじゃないの! もっとリーナ様が喜ぶような話をしてよね!」
すっかり心を入れ替えたというよりは、リーナ様の親衛隊のようです。
リーナ様のファンクラブ会長って感じ。
カミーラとベルは心の中で呟いた。





