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後宮は有料です! 【書籍化】  作者: 美雪
第七章 婚約者編

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713 ゴロゴロ

 リーナがフロスト・フラワージェの発表会に行ったことは、現状を改善するきっかけになり、変化をもたらした。


 王太子はリーナに対する侍女達の対応に関しては配慮等が足りていないことやより詳しい情報を持つ者達の助言を無視したことを厳しく叱責し、反省と改善を命令した。


 また、同じような問題が二度と起きてはならないことを深く示すために、大幅な減給を言い渡した。


 通常の処罰による減給は一か月分あるいは年棒の何割かを減らすものになるが、今回の減給は基本給与の大幅な減額になる。


 減給処置としてはかなり重い内容だったが、役職付きが解任あるいは解雇されなかったのは、リーナ自身が侍女達の不手際に対して寛大な態度を取っていることを考慮したからだった。


 リーナの手紙や発表会を楽しんだこと、多くの者達に祝福を受けて喜んだこと、リーナの存在をより多くの者達に好意的に知らしめることができたことを評価した影響もある。


 王太子及びリーナによる恩情処置に対し、王太子付き侍女達は深い感謝の意を表明すると共に、王宮における新緑の私室がリーナの心と体を休める場所となるべく鋭意努めることになった。


 問題を発見した場合であっても、できるだけ報告を上げる形にし、口頭での即時注意という権限外の行為は禁止になった。


 そして、このような事態が引き起こされないように、リーナの周囲に側近を配置することも決定した。


 差し当たっては人員不足であることを理由にヘンデルとパスカルが引き続き担当をするものの、その補佐役としてシャルゴット姉妹が任命された。


 また、未成年であることから補佐役の任命を見送ったラブについては、リーナの非公式な相談役の一人として、特別な権限を与えられることになった。


 ラブはリーナをフロスト・フラワージェの発表会に誘ったため、一つ間違えばロジャーと共に責任を問われかねない状況だったが、発表会での騒ぎはリーナ自身がつい名乗ってしまったことに起因するため、リーナ自身の責任と判断された。


 同行者等への責任が問われることはなく、むしろうまく状況に対応したことを評価された。




「ちょっとは居心地が良くなった?」


 ラブは笑顔を浮かべながらリーナに尋ねた。


 その状態は長椅子の上にうつ伏せで寝そべり、上半身を起こしている。靴も脱いでいる。


 まさに自室であるかのようなくつろぎ方であり、非常に遠慮がなさすぎるものだったが、部屋に控えている侍女達は何も言わなかった。


「自室でゴロゴロするのは当然の権利だとクオン様がおっしゃって下さいましたので」


 リーナも同じように長椅子の上に寝そべり、靴を脱いでいた。


「どう? この体勢、楽じゃない? 私はこうやって雑誌を見たりするわよ」

「このままパタッとしたら、お昼寝できそうです。でも、今は眠くないので……長時間だと肘が痛くなりそうです」


 リーナはカミーラの方を向いた。


「カミーラはどうですか?」

「遠慮しないでいいというのはありますが、自室ではないということはしっかりと把握しておくべきだと思います」


 カミーラもまた靴を脱ぎ、長椅子の上でクッションに寝そべっていたが、その姿はなぜかだらしなくはない。


 まるで絵画に描くためのポーズを取っているように美しい。


 美人は得だと、改めてリーナは思った。


「くつろがれていますか?」

「普段、このようなことはしないのでなんとも」

「カミーラは足を組むのよ」


 ベルもまた長椅子の上に寝そべっていたが、むくりと起き上がると座り直し、足を組んだ。


「こんな感じよ」


 勿論、ドレスの下で見えにくいとはいえ、足を組むというのは行儀がいいことではない。


 しっかりと揃えるのが淑女である。


「足がむくむので少し体勢を変えたくなるのです」


 カミーラは澄ました表情でそういったが、ただの言い訳である。


「それはベルもよくしますね」

「交互にする方がいいわよ。足の運動だと思えばいいわ!」


 現在、四人は新しく設置された四つの長椅子にそれぞれが陣取り、長椅子で様々な姿勢などを試し、どれが一番リーナにとってくつろげる姿勢かというのを試しているところだった。


 なぜそうなったのかといえば、リーナが部屋でくつろぎやすくするため、王太子がソファセットの椅子を全て長椅子に替え、好きな場所で寝そべってゴロゴロすればいいとしたことに起因する。


 基本的にはリーナだけ寝ころべば良かったのだが、この部屋に集まるカミーラ、ベル、ラブの三人がそれぞれどこに座るかという話になり、それぞれが最もくつろげる姿勢を披露し、全員がそれを実践して意見を言うことになった。


「では、次はそれを」


 寝ころぶのはラブのおすすめだったため、今度は普通に座りつつ足を組むのを試すことになった。


「右でも左でもいいのですか?」

「勿論、好きな方でいいわよ」

「人により、どちらがいいかは好みがあります」


 リーナは右足を上にして足を組んでみた後、今度は逆に左足を上にして組んでみた。


「……よくわかりません。足を組むということ自体をしないので、変な感じです」

「こういうのもあるわよ」


 ベルは長椅子の上に膝を立てて踵を揃えた。


「体操座り。本を読んだり、落ち込んだりする時にもするけど」

「なんとなくわかりますけれど……普通に座って読めばいい気がします」

「肩が凝ったら軽く運動をするといいわ。こんな感じ」


 ベルの指導に合わせ、全員が同じように両手を真っすぐ横に伸ばし、それを上に移動する。


「万歳よね?」

「もっと顔に近づけ、手を揃えて伸ばすのです」

「後ろで手を合わせるのもいいわよ。このポーズは背中が気持ちいいの」


 ベルが実践するのを見て、リーナは驚いた。


「凄いです! 掌がぴったりとくっついています!」

「東の国の方ではこうやって手を合わせることを合掌っていうらしいわ。挨拶する時にするらしいのだけど、それを背中の方でするのよ」

「後ろの人に挨拶する方法?」


 ラブが尋ねると、ベルは勢いよく笑った。


「違うわよ! 普通は胸のあたりでするの。これはただの運動よ! 美容ポーズの一つらしいわ」

「美容ポーズなのね。ちょっと痛いけど……」

「それがいいのよ。筋肉が固まっている証拠ね。それを柔らかくするの」

「どれぐらいするの? 痛くなくなってくるまで?」

「深く息を吸って吐くのを何回か繰り返すの。ゆっくりね。後、できるだけ手は上の方にするのよ」

「余計に痛くなるじゃない……」

「それがいいのよ!」


 ベルは靴を履くとラブの後ろに移動した。


「全然駄目よ。もっと上。こう!」

「ぎゃっ!」


 手を上に引き上げられ、ラブは悲鳴を上げた。


「痛い!」

「はい、頑張って!」


 ベルはリーナの所に行くと、同じように手を上の方に引き上げた。


「リーナ様ももっと上。腰のところでするわけじゃなくて、背中でするのよ。できるだけ首に近づくように、合唱した手を上にするの。姿勢も真っすぐよ!」

「……き、きついです。でも、女性達は日々このようにして美容のために努力をしているのですね!」

「血行を良くすれば、体全体を綺麗にするのよ。ダンスをするだけじゃなくて、準備体操とか、ストレッチをして筋肉をほぐしてやわらかくするのも大切なの」


 ベルはダンスだけでなく、美容体操や運動についての知識も豊富だった。


「リーナ様もラブも若いのに体が硬そうね。運動不足じゃない?」

「今はお仕事をしていないのでかなりそうだと思います」

「運動は大嫌い」

「カミーラも運動はそんなに好きじゃないけれど、美容と健康維持のために運動をしているわよ。もしよかったら、二人もバレエ体操をしてみたら?」

「カミーラはバレエをしているの?」


 ラブは驚いた。


 ベルはダンスが好きなだけにバレエを習ったりしていてもおかしくはない気がしたが、カミーラもバレエをしているとは思ってもみなかった。


「バレエではなく、バレエの要素を取り入れた美容体操です」

「美容体操なのね」

「バレエは手や足の先まで集中しなければなりませんし、優雅に美しく踊らなくてはいけません。淑女の所作は優雅に美しくあるべきというのは同じですので、様々に活用できる部分がありますし、意識することが大切です」

「体がカチコチ過ぎて、無駄な気がするけど。筋を痛めたら嫌だし」

「そんなことはないわ。毎日頑張ればだんだんと柔らかくなるわよ!」

「毎日とか……踊り子でもないのにしないわよ!」

「私は必ず毎日ストレッチをしているわよ。勿論、寝室で自分だけの時だけにしているわ。侍女達の前ではできないわね」

「講師の前ではできますが、それ以外の者の前でするのはどうかと思うポーズもありますので」

「カミーラもしているの?」

「毎日というわけではありませんが、適宜に。でないと運動不足になりますので。好きなことをしていると、肩が凝りやすいのもあります」

「肩が痛くなったら万歳すればいいじゃない」

「駄目とはいわないけれど、できればこんな風に手を伸ばしながら後ろにゆっくりと移動すると良いわよ」


 ラブはベルの真似をすると、腕の関節が鳴った。


「ぎゃっ! ゴリッって言ったわ!」

「関節のところを回したからよ」

「骨がずれちゃったんじゃない?」

「平気よ。ラブって意外と臆病なのね」


 臆病という言葉にラブの感情は一気に高ぶった。


「なんですって! 私は臆病じゃないわ! ちょっと聞いただけじゃないの!」

「ラブ、落ち着いて下さい。私も今したら、音がしました。パキパキって音でしたが、こういうものだということですよね?」


 リーナはベルに確認した。


「そう。腕をしっかりと関節から動かすと、そういう音が出るのよ。ただ、音が出たらいいとか駄目とかってことじゃないのよ。無理なく、腕を伸ばしてストレッチすればいいだけなの」

「さっき、合掌ポーズを無理やり上に引き上げたくせに!」

「あれ位は普通よ。ラブの体が硬すぎるのよ」

「私、美容体操をベルに習いに来ているわけじゃないし」

「お茶とお菓子とおしゃべりを楽しみに来ているのよね」


 ラブは学校の日だったが、午後になってからリーナの所に顔を出した。


「お昼にロジャーに呼び出されたのよ。フロスト・フラワージェの発表会の件とか、まあ色々あって……」


 ラブはそういった後、侍女達の方を見た。


「悪いけど、大事な話をしないといけないから席を外して」


 ラブには特別な権限が認められているため、侍女達は大人しく一礼すると席を外した。


「大人しくなったわね! 前だったら睨みながらできません!とか言ってたはずよ!」

「大事な話とは何ですか?」

「えっと、これは王太子殿下の許可をちゃんと取ったものなんだけど、非公式にリーナ様のグループを作ることになったのよ!」


 ラブはいかにも凄いことだと言わんばかりに顔を輝かせたものの、カミーラとベルは無感動だった。



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