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後宮は有料です! 【書籍化】  作者: 美雪
第七章 婚約者編

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712 免罪符

 発表会から戻ったリーナは同行者達とお茶をする予定になっていた。


 しかし、別行動になったラブやロジャーが戻っていないこともあり、リーナはパスカルの薦めもあって購入したお土産を仕分け、自分付きの侍女達を呼んで渡すことにした。


「一人ずつ、好きなメモ用紙を一つ選んで下さい」


 侍女達は身支度の件で不手際があったことから、叱責されるために全員が呼び出されたのだと思っていた。


 しかし、実際はリーナが出かけたフロスト・フラワージェの発表会で購入したお土産の配布だったと知り、困惑の表情を浮かべた。


「……こちらをいただけるのでしょうか?」

「そうです。デザインは五種類あって、各四色あります。全部で二百あるのですが、人数分あるでしょうか?」

「確認させていただきますが、リーナ様付き侍女にということでしょうか?」

「王太子付き侍女です。今、私の世話をしてくれているのは、王太子付き侍女ですよね?」

「はい。ですが、後宮にも侍女がいます。リーナ様付きということですと、その者達も含まれます」

「後宮の侍女達のためにも百個買いました。もっと少なくていいとは思ったのですけれど、余ったら私も使いますし、メモ用紙が欲しい者にあげてもいいですし、いくらでも消費できると思うので」

「この度、リーナ様のご衣裳に関して不手際がございました。だというのに、このようなものをいただくわけにはまいりません」

「心配しなくても大丈夫です。誰にでも失敗する時はあります。失敗や経験を重ね、同じ過ちを繰り返さないように気を付けながら、より向上していけばいいだけです。これはフロスト・フラワージェの商品なので、このようなイメージのブランドだということがわかると思います。また発表会に行くかどうかはわかりませんが、知識の一つになると思います。メモ用紙と共に役立てて下さい」

「侍女長」


 パスカルが言った。


「今回の件は侍女側の不手際です。深く反省するとともに、同じ過ちを繰り返さないように改善して下さい」

「勿論、深く反省しております」

「もう一度言いますが、改善が必要です。妹が土産を渡すのは、王太子付き侍女達のことを信頼し、気遣っている証拠です。全員、必ず受け取っておくように。王太子殿下がどのような処遇をされるかに影響を与えるかもしれません」


 侍女長はハッとした。


 問題が起きたとわかり、王太子は側近に任せず自ら状況を確認しに来た。それだけリーナのことを大事に思っている証拠だ。


 侍女側の不手際だとわかれば、相応の処罰を検討するに決まっている。厳重注意かもしれないが、それ以上になる可能性もある。


 だが、リーナは侍女達に土産を買ってきた。それは、ミスをした侍女達を責めてはいないことをあらわしている。


 リーナが王太子に頼み、ミスをした侍女達を罰して欲しいと言ったわけではない。むしろ、王太子付き侍女達の失敗は誰にでもあることだと捉え、気にしていないことを示す証拠になる。


 メモ用紙はリーナからの免罪符。


 パスカルはそう言いたいのだと察した。


「まだあります。妹は王太子殿下の婚約者ですが、すでに婚姻の日程も決まっています。正式に妻になるのは時間の問題です。絶対に軽視しないように。また、妹は第四王子付侍女でした。役職こそつきませんでしたが、殿下のお側に常に待機している仕事を担当していたため、筆頭も同然でした。ミレニアスに王族付き侍女として同行した際は、一時的に王太子付き侍女官として側近待遇を得ていました」


 侍女長は目を見張った。


 王太子付き侍女官の側近待遇となれば、その役職は侍女長より上になる。


 また、筆頭は王族と直接やり取りをする。そのことから、王族の言葉や意向を伝える者として、その意見が尊重される。


 リーナは自分よりも上位の王族付きの侍女だった。それほど王族に寵愛され、信頼されている女性だということを侍女長はしっかりと認識した。


「妹は高位の役職付き侍女としての経験があります。侍女達のことを何も知らない貴族の女性ではありません。後宮で働いていたせいで、王宮の侍女達はその事実を強く認識していないのかもしれませんが、忘れないようにして下さい。後宮の事情は、王宮の侍女達よりも深く知っているのです」

「……わかりました。この度のことは心から謝罪申し上げます。二度と繰り返すことがないように改善に努めたいと思います」

「新緑の私室は妹が心と体を休める場所です。それを守るのが侍女達の役目です。何かあれば本人に言うのではなく、報告をあげるように。侍女は妹に注意してはいけません。注意ができるのは妹よりも上位の者だけです。王太子殿下や、その代わりを務める担当者など、限られた一部の者だけということです。そのことを全員が知っておくように。無礼は許されません」

「はい。本当に申し訳ございませんでした」

「じゃあ、これぐらいにしておこうか。土産を渡せないからね」

「侍女長はどれにしますか?」

「……ではこちらを」


 侍女長が選んだのはピンクのメモ用紙だった。


 リーナは意外だと感じた。


「侍女長はピンクが好きなのですか?」

「はい。女性は皆好む色でございます」

「そうですね。次は侍女次長です」


 リーナは侍女の序列順にメモ用紙を選ばせることにした。


 侍女次長のルチェーナは侍女長とは違う柄のピンクを選んだ。


「次は侍女長補佐です」


 ディアナとピアナもピンクのメモ用紙を選んだ。


 そして、侍女長補佐の二名、新緑の私室付き室長、室長補佐がメモ用紙を選ぶ。


 ここまでの全員が絵柄の違いはあるものの、ピンクを選んでいた。


「全員ピンクですね……意外です。冬をイメージした絵柄なのに白や水色は全然人気がないですね!」

「偶然では? 私は水色のペンにしました。ベルも黄色のペンを選んでいます」

「好みの色というだけの話じゃない?」


 様子を見守っていたカミーラとベルが意見を言った。


「それよりも、全員一人ずつ渡すの? かなりいるわよ?」

「王太子付き侍女は百名ほどだと聞いたことがありますが……」

「現在は六十二名でございます」


 侍女長が答えた。


「第四王子付に変更になった者達が多数いるので減りました。一時期は半数ほどになりましたが、後宮の侍女が何名か所属を変更したので少し増えました」

「後宮で私付きは六十名だったと思うのですが、変更していますか?」

「はい。後宮におけるリーナ様付きは四十七名です」

「全部で百九名ですね。そうなると、かなり余ってしまう気がします」


 メモ用紙は全部で三百個ある。


「女官にもあげればいい。喜ぶよ」

「王太子付き女官ということですか?」

「そうだよ」

「後宮にも私付きの女官がいるのでしょうか?」

「リーナ付きの者はいない」

「女官もかなりの人数がいると思うのですが、足りるでしょうか?」

「ウェズロー子爵夫人に女官への土産だと言ってまとめて渡せばいい。配っておいてくれる。侍女長、後宮とウェズロー子爵夫人の部屋にメモ用紙を届けて、妹からの土産だと伝えて欲しい。嗜好があるだろうから、それぞれの柄や色が選べるように分けて欲しい」

「かしこまりました」

「そろそろ仕事に戻るよ。お茶を楽しんで」

「お兄様、お手数をおかけして申し訳ありませんでした。私が余計なことを言ってしまったせいです。責任は私が取ります。ロジャー様やラブのせいにしないで下さい」


 パスカルは微笑んだ。


「大丈夫だよ。それよりも、王太子殿下への手紙を書いておいて。それがあるとないとでは王太子殿下の気分がかなり違うからね。発表会を楽しんだと書けば、リーナが責任を取る必要はないよ」

「それはなんだか……申し訳ないです。あれだけ騒ぎになってしまったのに……」

「気にしなくていい。フロスト・フラワージェの売り上げには貢献したし、きっとこのことが話題になって盛り上がっているよ。発表会に来て良かったと思う者達が大勢いるだろうから」

「そうでしょうか?」

「そうだよ。それとも、リーナは楽しくなかった? あまり勉強にはならなかったのかな?」


 リーナは首を横に振った。


「いいえ。とても楽しかったです。勉強にもなりました。それに嬉しかったです。私……その、出自のこととかがあるので、クオン様との結婚にあまりいい顔をされない方が沢山いると思っていました。でも、発表会の会場で多くの女性達から祝福の言葉をいただけたのです。それがとても嬉しくて……思わず涙がこぼれてしまうほど、感動してしまいました」

「それは良かった。だったら、そのことも手紙に書いておいて。王太子殿下も喜ぶよ」

「そうですね。この感動を忘れないうちに手紙を書きます」

「それがいい。じゃあね」


 パスカルはリーナの頭を優しく撫でて口づけた後、部屋を退出した。


 リーナは早速フロスト・フラワージェの便箋で手紙を書くことにした。


「手紙を書くのでペンを用意して下さい」


 以前の侍女長であれば、お茶の時間中に手紙を書くのは好ましくないと注意をしていた。


 しかし、今は違う。


 リーナは急いで手紙を書く必要があると判断した。だからこそ、お茶の時間であるにもかかわらず、すぐに手紙を書くことにし、ペンの用意をいいつけた。


 手紙を書いて王太子に報告すれば、今日の出来事についての検討材料になる。


 王太子が判断する前に手紙を届けることが重要になる。また、手紙を送ることで王太子の気分を和らげることも可能だ。


 そういったことを冷静に考えれば、お茶を飲むことよりも手紙を書くことを優先するのは当然かつ適切な判断だと思われた。


「かしこまりました。すぐに用意致します」


 侍女長はこれまで以上に頭を深く下げ、恭しく一礼した。



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