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後宮は有料です! 【書籍化】  作者: 美雪
第七章 婚約者編

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708 引き離し作戦

 カミーラとベルは化粧室を利用した後、リーナの姿がないことに気付いた。


「リーナ様は?」

「いないわ。ちょっと見てくるわね」


 ラブは個室の方へ向かった。


「カミーラ、ベル、こっちにもフロスト・フラワージェのものがあるわよ」


 ヴィクトリアが二人を呼び、化粧直しのコーナーに置かれている備品の容器などがフロスト・フラワージェのものであることを教えた。


「素敵!」


 ベルはズラリと並ぶ化粧用品に感嘆した。


「これはスノーホワイトシリーズね。知っている?」

「勿論! 私、この柄が好きなのよ。文具はこのシリーズを使っているのよ! 化粧用ボトルもこうしてセットで揃えると素敵ね!」

「店舗の数は少ないから品切れが多いわね。セットで揃えたいなら、ファンクラブに入るといいわ」

「優先販売があるの?」

「ええ。それと聖夜にはフロスト・フラワージェからカードと贈り物が届くのよ」


 ヴィクトリアの話に興味を示したのはベルだけではない。カミーラもだった。


「贈り物というのは何ですか?」

「小物よ。去年はスノーホワイトシリーズのカードとミニ鉛筆だったわ。聖夜仕様の特別品で非売品よ。勿論、メモコンパクトにセットできるわ」

「いいわね!」

「今年は新作の柄の何かでしょうね。それから、ハンドクリームがお薦めよ。冬は手が荒れやすいけれど、これは保湿効果が凄く高いの。つけた時はべとつくけれど、少しするとなじんでしまうから気にならないわ。その後の保湿効果も長いの。私も愛用しているのよ」


 ヴィクトリアはフロスト・フラワージェの容器に入ったハンドクリームを紹介した。


 フロスト・フラワージェといえば冬。冬は手が荒れやすい。


 カミーラとベルの興味はすぐにハンドクリームへ移った。


「ハンドクリームも扱っているのね。知らなかったわ」

「中身はどこの製品ですか?」


 フロスト・フラワージェはパッケージブランドで、何らかの容器を販売している。そのため、容器の中身は他のブランドの品になる。


「ブルーマリーというメーカーよ。ハンドクリームは店舗で買えないの。顧客専用の商品なのよ」

「ブルーマリーは知っています。ノースランド公爵領に本店があるはず」


 カミーラは様々な化粧品の比較研究をしているため、地方に本店がある有名メーカーについても知っていた。


「そうなのよ。領地ではとても有名なのだけど、王都で売るだけの生産ができないの。だから私のように領地から取り寄せるか、フロスト・フラワージェとのコラボ製品でしか手に入れることができないわ。私はブルーマリーの一番大きな容器のものを沢山取り寄せて、フロスト・フラワージェの小さな容器に詰め替えているのよ」


 二人はブルーマリーのハンドクリームを少しだけ取って使い心地を試した。


「凄くいい香りね! ジャスミンだわ!」

「ここだけの話だけど、リーナ様やレーベルオード子爵もこのハンドクリームを愛用されているのよ。ジャスミンの香りがお好みのようね。ローズとシトラスもあるのだけど」


 カミーラは眉を上げた。


「レーベルオード子爵もですか?」

「そうよ」

「情報をありがとうございます」

「あまり広めないでね。二人が愛用しているとわかってしまうと、取り寄せ組が増えてしまうわ。手に入りにくくなるのは困るの。皆、そう思っているから、ブルーマリーのことは口にしないのよ」

「わかりました」


 カミーラは返事をすると、戻ってきたラブの方を見た。


「リーナ様は? ずいぶん長いですね」

「ノックしたらノックを返されただけだからなんとも」


 やがて、クローディアがあらわれた。


 個室にいたのはリーナではなくクローディアだということだ。


 クローディアは時間稼ぎのため、個室に五分以上籠るようにと言われていた。


「トイレットペーパーがフロスト・フラワージェの柄だったので気になってしまいました。芯の部分は普通に白でした」


 暇つぶしにクローディアはトイレットペーパーをほどき、芯も柄付きかどうかを調べていた。


「芯までコラボしているわけないでしょ!」

「リーナ様は廊下? 化粧室を使わなかったのかしら?」

「そうかも」

「お待たせしてしまうのはよくありません」


 女性達は化粧室から出るが、そこにいたのはフロスト・フラワージェの係員だけだった。


 リーナの姿はない。ロジャーもいない。


「ロジャーは?」

「ノースランド子爵は先に行かれました。同行されている女性も一緒です」

「あっそ。じゃ、行きましょう」


 ラブは歩き出す。悲劇の間へ。


 その足取りはまったく急いでいない。


「ラブ、急がないと」

「大丈夫よ。ロジャーがついているんだし。どうせ悲劇の間は混雑しているわ。時間差があったって、人数的に混まないわけがないんだから。転んで怪我をする方が嫌」


 少しでも急ぐべきだというカミーラにやんわりとヴィクトリアが言った。


「カミーラ、大丈夫よ。お母様も向こうにいるだろうし、何かあればリーナ様のために動くわ」


 ヴィクトリアの言葉にラブはにやりとした。


 確かにね。


 ノースランド伯爵夫人はカミーラとベルを悲劇の間にくぎ付けにするための援護をしてくれる予定だった。


「焦ることなんかないのに」


 ここにいるのがカミーラ、ベル、ラブの三人だけなら、カミーラとベルは間違いなく急いで移動していた。


 しかし、ヴィクトリアとクローディアが一緒にいるため、それができない。


 全員で普通に移動する。


 うまくいったわ!


 ラブはリーナとシャルゴット姉妹を引き離すことに成功した。


 勿論、ロジャー、ヴィクトリア、クローディア、フロスト・フラワージェの係員や警備等全員がグルである。


 リーナに三十分間の自由行動を与え、勉強したり楽しんだりして貰うための配慮だった。


 悲劇の間に行くと、早速カミーラ達はリーナを探すが、その姿はない。


 当然である。リーナは悲劇の間ではなく土間にいる。


「リーナ様がいません」

「ノースランド伯爵夫人に聞けばいいわ」


 悲劇の間は混雑していたが、ノースランド伯爵夫人はさほどすることなく見つかった。


「ロジャーは?」

「見ていないわ。ワインの間に行ったのかもね。軽食と飲み物が取れるから」

「一階ですか……」

「ロジャーがいるから大丈夫よ。軽く新製品をチェックして、ワインの間に行って合流すればいいわ」


 カミーラはラブをじっと見つめた。


「自分で案内したがっていたのはラブです。だというのに、いいのですか?」

「ロジャーが細かく説明しているわよ。これ、ロジャーが出資しているブランドだから」

「えっ、そうなの?!」


 ベルは驚いた。


「ノースランドの事業なの?」

「違うわ。ロジャーの友人の事業なのよ。ロジャーは投資会社を通じて出資しているの。そのせいで何かと融通が利くのよ」

「そうなのね」


 結局、カミーラ達はラブの言う通り展示してある新製品を軽く見てから一階に降りてワインの間に移動することにした。


 合流してしまうとリーナの行動に何もかも合わせなくてはいけない。新製品を検分する時間がないかもしれないため、先に軽く見ておく方がいいと判断した。


 とはいえ、混雑していることや新製品の解説等もあって時間は刻々と過ぎる。


 ようやく検分が終わってワインの間に移動したものの、そこにもリーナ達の姿はなかった。


「いないわね。どこに行っちゃったのかしら?」


 わざとらしい。


 ヴィクトリアとクローディアは心の中でため息をつきつつも、ラブを援護した。


「混雑しているので、別の所に行ったのかもしれません」

「化粧室かもしれないわね。さっき使っていなかったようだし」

「まあ、ロジャーが一緒だろうから大丈夫よ」


 ロジャーが一緒であることを強調することでシャルゴット姉妹を油断させ、納得させる作戦だった。信用がないラブと違い、ロジャーには第二王子の首席補佐官という信用がある。


「もしかすると、悲劇の間ではなく喜劇の間に行ったのかもしれません。パンの間と共に私が見てきます」

「大理石の間で合流しましょ!」

「わかりました」


 クローディアは悲劇の間とは逆側にある喜劇の間の様子を見に行くことにした。


「ラブ、このまま大理石の間に行くつもりですか?」


 ヴィクトリアが尋ねた。


「悲劇の間は予約と検分のための場所だもの。終わったら移動するでしょ?」

「私は悲劇の間に戻ります。ロジャーがいたら、大理石の間で集合になったと伝えておきます」

「わかったわ。じゃあ、大理石の間に行きましょ。時間が来ると悲劇の間や喜劇の間は閉鎖されて、上階の招待客は全員大理石の間に移動になるのよ。即売会場になっていて、店舗で品切れの商品もあるからチャンスよ。但し、買い占めは禁止なの。同じ品は十点まで。リーナ様と合流する前に買い物を済ませてしまいましょ! 即売会でしか売っていない商品もあるから要チェックよ!」

「さっきのハンドクリームはあるのですか?」

「たぶんあるわよ。三種類の香りがあるわ。大きさも大中小があるの。大は部屋用、中はバッグに入れる用で、小はポケットに入れる用ね。リップクリームもあるわ」


 ラブはカミーラとベルに様々な商品について説明しながら大理石の間へ向かった。


 この時点で、リーナとシャルゴット姉妹を引き離してから三十分以上が経過している。


 三人を見送ったヴィクトリアは心の中でつぶやいた。


 本当に悪い子ね……その能力を正しく使えばいいのに。


 誰について言っているのかは明らかだった。



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