70 第三王子レイフィール
「大盛況です」
ローレンから渡された報告書には撞球の間と喫煙の間における現行犯逮捕者の情報が書かれていた。
「多すぎる」
王族用の部屋を無断で使用するのは違反であり、悪質であれば重罪にできる。
だが、調べれば調べるほど、ほとんどの侍従が何も知らずに使用していたという証言が集まってしまった。
どう見ても王族用としか思えない豪華な部屋。後宮にビリヤード台があるのも、喫煙のための部屋も一部屋ずつしかない。
常識的に考えれば王族用に決まっていた。
「知らぬ存ぜぬで通す気だ」
「口裏を合わせているのは明らかですが、それを証明するのは難しいかもしれません。組織的な問題ということであれば、個人への処罰が恩情処置になりそうです」
「上位の責任は問えるが、下の者は軽い処罰になるということか」
「貴族出自ばかりですので、擁護する声も上がりやすいでしょう。処罰によって親族等に及ぶ影響も考慮しなければなりません。連座にすれば大ごとです」
「最悪だ」
貴族出自の捕縛者が多すぎるがゆえに、処罰の余波を気にしなくてはならなくなった。
「王子だというのに、不敬を働いた者を罰することさえできないというのか?」
「処罰を決めるのは国王です」
レイフィールは悔しくなった。
このような時に限って胸に広がるのは劣等感。
レイフィールが第三王子で軍を統括していても、誰もがレイフィールを認めているわけではない。
母親は元平民というだけでなく、エルグラード人と異国人のハーフ。
エルグラードは愛国心が極めて強いからこそ、エルグラード人らしさが少ないほど軽視されやすかった。
黒い髪と緑の瞳、異国の血が混じっているレイフィールは強くなる必要があった。
でなければ、自分のことも母親のことも守れないと思っていた。
そんなレイフィールを安心させてくれたのは、母親違いの兄クルヴェリオンだった。
「兄上に相談する」
レイフィールは王太子の執務室へ向かった。





