7 下働き見習いの卒業
一年が過ぎた。
リーナは下働き見習いを卒業した。
経験はまだまだ浅いものの、これからは下働きになる。
下働きとしては新人だが、見習いではなくなったために給与が上がった。
「月給が十五万ギニー? 凄いです!」
リーナは給与明細を見て喜んだ。
指導役のマーサの教えに従い、どんな仕事でも嫌がることなく頑張ったことが認められたと思った。
しかし、封筒の中には一ギニーも入っていない。
相変わらず給与明細だけ。
それは給与よりも支払う額の方が多く、マイナス分が増えていたからだった。
生活も仕事もできているが、書類上はかなりの借金になっていた。
「給与はどうだった?」
隣のベッドに寝ころんでいたカリンが尋ねた。
給与について口にしない方がいいと助言したのはカリンだったが、何かと相談に乗ってくれるカリンにリーナは心を許していた。
「カリンさんが予想した通りの額でした」
「十五万ギニーね」
「はい」
「普通に真面目に頑張っていればそうなるわね。でも、借金も結構増えたでしょう?」
「そうですね……」
給与も高いが借金も多い。
リーナは着替えや身の回りの物がほとんどないため、全て購買部で買い揃えなくてはならなかった。
後宮の購買部で売っているのは高い品ばかり。安い品はない。
最低限の必要品しか買っていなくても、積もり積もればそれなりの出費になってしまっていた。
「平民街の安いお店に行くことができれば、もっと支出を抑えることができるのですが」
「後宮の敷地から出られるのは退職するか解雇された時よ」
「そうですね」
「現金もないでしょう?」
「そうでした」
後宮の購買部ではツケ買いができる。普通の店ではそれができない。
「リーナには家族もいないしね」
家族から日用品やちょっとしたものを送ってもらっている人もいる。
しかし、リーナは孤児。無理だった。
「制服代もしっかり取られていました」
「ああ。そうね」
カリンは苦笑した。
「さすがに仕方がないわよ」
「そうですね」
採用されたばかりのリーナには下働きの見習いがつける帽子とエプロンが渡された。
帽子とエプロン代が請求されなかったのは、試用期間のためだった。
試用期間が過ぎると固定給になり、帽子とエプロン代が請求されていた。
これは買い取るということではなく、あくまでも借りるための代金。
リーナは帽子やエプロン代を借りるのにお金がかかるとわかって驚いたが、後宮ではそうなっていると言われれば、そうなのかと思うしかなかった。
「下働きの制服は高いのですね」
下働きの制服はシンプルな灰色のワンピース。
半袖と長袖が五着ずつ。合わせて十着だった。
帽子とエプロンは季節を問わないため、各七枚ずつ。
全て有料。しっかり請求されていた。
「後宮の下働き専用の特注服だもの。仕方ないわよ」
「そうですよね」
高い制服だと思うが、その制服があるからこそこれまで以上に多くの場所に出入りすることができる。
「私、そろそろ寝ます」
リーナは給与明細を木箱にしまった。
「体調不良なら医務室に行ってね。病気をうつされたら困るわ」
「違います。明日はかなり早い時間に起きないといけないのです。新しい仕事をするのでその説明があると聞いています」
「新しい仕事ですって?」
カリンは眉をひそめた。
見習いを卒業しても、一年程度は同じような仕事になるのが普通。
リーナは下働きになってから初めての給与が出たばかり。
掃除部長直々に指導されているため、普通よりも早く別の仕事になるのはおかしくないが、出世コースに乗ったのかもしれなかった。
「どんなお仕事になるかはわかりません。でも、変更ではなく追加のようです」
「残業かしら。あとでどんな仕事か教えてね」
「お話できるようなことであれば」
仕事内容に関しては軽々しく口外してはいけないという規則がある。
しかし、リーナにとってカリンはよき相談相手。
掃除部の先輩でもあるため、掃除部が担当することであれば教えても問題にはならない。
「どんな仕事か楽しみだわ」
自分がするわけではないというのに、カリンは楽しそうな表情をした。
「おやすみなさい」
「おやすみ」
リーナはベッドに横たわり、薄い毛布をかぶって目を閉じた。





