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後宮は有料です! 【書籍化】  作者: 美雪
第七章 婚約者編

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695 ラブのプレゼン(二)

「リーナ様はすぐにどこかのグループに入るのではなく、最初は一定の距離を置き、お忍びで見学や視察をするのがいいと思います」

「招待じゃなくて?」

「それだといい部分しか見せません。必死に悪い部分を隠します。入会してから思っていたのと違うとわかり、後悔するというのはよくあります。お薦めしません」

「お忍びはちょっとなあ……」


 ヘンデルはクオンを見た。しかし、クオンは何も言わない。


「私は年齢以上に社交やグループには詳しいと自負しております。中には健全と思わせ、実際は不健全な活動や催しをするグループも多数あります。リーナ様が騙されて参加すると、大醜聞になりかねません」

「まあ、ラブちゃんは遊び姫って言われているぐらいだから、社交グループについては詳しいと思うけどさあ」

「確かに私は遊んでいますが、実態とは違うような内容になっていることはしっかりと説明させていただきます!」


 ラブが自分の意思で朝帰りするようになったのは二年ほど前からだ。


 それは自分の悪い噂や呼称についてはどうにもできないと感じ、諦めたからだ。


 女性の友人のところに宿泊するものの、学校があるために朝早く帰っている。友人のところから直接学校に行かないせいで、朝帰りをしているだけに過ぎない。


「ウェストランドの遊び姫という呼称や、私が大人に混じって様々な夜の社交に顔を出し、夜中まで遊んでいる、ふしだらな行為をしているという噂はご存知かと思います。正直に申し上げますと、確かに夜中まで社交の場にいました。あまり好ましくないようなパーティーにも行ったことがあります」


 正直だなあ。


 ヘンデルは心の中で思った。


「ですが、理由があります。ウェストランドのせいです。私が好き好んでしていたことではありません!」


 ラブは自分を信用して貰うためには、ウェストランドのことについても話さなければならないと思っていた。


「ウェストランドは古来より継承者問題が当然のように起こりました。そのため、当主となる者の多くは非常に若くして両親の決めた相手と婚姻するというしきたりがありました」


 女性は十六歳から結婚できる。未成年のため、両親の許可が必要だ。


 しかし、それを逆手に取り、両親に逆らえないうちに結婚させてしまうこともある。


 ラブの母親もそうだった。十六歳で両親の決めた相手と婚姻させられた。


 当然、その子供であるセブンとラブも十八歳や十六歳に婚姻させようとウェストラド公爵は考えていたが、無理やり結婚させられたゼファード侯爵夫人は猛反対した。


 しきたりは今の時代に合わないと言って一蹴し、次期当主及び母親の権限で縁談話を全て拒否し、本人達の望む相手との婚姻を推奨するしきたりに変えると言い出した。


 普通であれば、ゼファード侯爵夫人の意見は無視される。


 しかし、ゼファード侯爵夫人はウェストランド公爵の一人娘。次期当主の座は確実だ。


 貴族の婚姻には国王、当主の許可も必要だが、両親の許可も必要になる。未成年だけに、子供たちの保護者は両親。祖父母でも当主でもない。


 ラブの父親はゼファード侯爵ではない。余計に母親の許可が必要だ。


 結局、ゼファード侯爵夫人が了承しないと子供達は婚姻することができない。


 無理やり強行しようとしても、国王の許可が出ない。


 結果、ウェストランド公爵は一般的な婚姻適齢期の間にできるだけ早くウェストランドに相応しい相手を探して婚姻するという内容で妥協した。


「妥協っていうか、完敗じゃない?」


 ラブはヘンデルの言葉を無視した。


「ですが、早く結婚するための教育はそのままでした。私は十六歳に結婚して成人し、社交デビューするという仮定で教育を受けたのです」


 実年齢での成人は十八歳。婚約期間を一年と想定することで、ラブは同年齢の女性よりも三年ほど先行して勉強することになった。


 学力に関しては家庭教師に習えばいい。しかし、社交など勉強に行くには実際に社交に参加する必要がある。


 中等部に入ってしばらくすると、日中は学校と家庭教師について勉強、夜や週末は社交の実地勉強をすることになった。


 勿論、未成年のため、成人している保護者が同行する。とはいえ、保護者も自分の社交がある。


「祖父母も両親も自分の社交優先、会場についた途端放置です。仕方がないので適当に過ごしました」


 会場でうろつくと、子供がいる、こんな時間なのに非常識と言われる。


 目立たないように控室に行くと、向こうに行けと追い払われる。


 自由に使える個室に行くと、異性と過ごしていた、子供のくせにかなりの遊び人だと言われる。


 庭園や廊下の隅にはふしだらなことをしている大人達が溢れている。


 ラブの居場所はどこにもなかった。当然だ。夜の社交に子供は出席しない。出席しているラブの方がおかしいのだ。


 ついに、ラブは酒に酔った男性に襲われかけた。子供の頃から暴漢対策も学んでいるため、相手の急所を蹴り上げて逃げた。


 その時の同行者は祖父だった。事情を話して早く帰りたい、もう二度と来たくないというと、さすがにその時だけは馬車で先に帰らされた。


 ラブを襲った者は、ウェストランドの者、しかも未成年相手ということで重罪者として投獄され、すぐに自殺した。新聞にこのことは出なかったが、噂で広がったのは言うまでもない。


 ラブはこれでもう夜の社交に行かなくてよくなると思ったが、逆だった。これでラブにおかしなことをした者は重罪者として投獄され、死ぬしかないということを多くの者達が思い知ったため、安心して社交に行けるだろうと言われたのだ。


 結局、また同じように居場所のない居心地の悪い夜が続く。


 勉強だからこそ、拒否するのは我儘だと判断され、ラブの意見は無視された。


「祖父が特に問題で、私の評判が悪くなれば恋愛結婚はできなくなり、大人しく自分の薦めた縁談を受け入れるしかなくなり、丁度いいと思っています。非常にムカつくのですが、当主なので逆らえません」


 評判が悪いのはラブだけではない。セブンもだ。


 ラブの個人的な憶測ではあるが、これもセブンが自分で相手を見つけて結婚するのを邪魔するためではないかと疑っていた。


「私が男性との婚前交渉をしていないことは、夫になる方が証明してくれると思います。証明する必要があるというのであれば、レーベルオード子爵と結婚させて下さい」

「えっ?! ラブちゃんはパスカル狙いだったの?!」


 ヘンデルは驚愕した。


 ラブのブラコンは有名だ。そのため、結婚相手もセブンに似ている者を選ぶのではないかと思っていた。


「王太子殿下が信用している側近の中では一番若くて年齢差が少ないですし、かなりのシスコンであるのは間違いありません。私はかなりのブラコンですので、互いに理解できる部分があるかもしれません」


 ラブは冷静な口調で話していたが、冷静であれば口にはしないような内容を堂々と話していた。


 ヘンデルとクオンはラブの未熟さと正直さに呆れた。


「それに、婚姻するだけでリーナ様の身内ポジションが手に入ります。勿論、これが狙いです!」

「超打算的じゃんっ!」

「ですが、レーベルオード子爵狙いの女性はついでにリーナ様の身内ポジションも手に入れることができて美味しいと思っているはず。それに比べ、私の狙いはリーナ様の身内ポジションのみ。むしろ、謙虚では?」

「だってさ……あ、パスカルいなかった!」


 ヘンデルがそう思った瞬間、ドアがノックされると同時に開いた。


「と思ったら来た。どうだった?」

「侍女達の方で問題があると判断した本は保留という形で箱に詰めておくよう指示しました」

「そっかあ。ちなみにラブちゃんはパスカルと結婚したいらしい」


 パスカルは眉をひそめた。


「なぜ、そのような話になったのか理解できません」

「話せば長くなるけど、パスカルと結婚してリーナちゃんの身内ポジションが欲しいみたいだよ」


 シスコンとブラコンの件は省略された。


「今日は真面目な話をするということだったはずですが、これは真面目な話ということでしょうか?」

「ラブちゃん、真面目な話?」


 ヘンデルはラブに尋ねた。


「個人的には真面目な話です。婚姻が絡む話を軽々しくするわけにはいきません。ですが、私は本気でリーナ様と一生親しくしたいのです。レーベルオード子爵と結婚すれば、リーナ様との面会もしやすいというだけのこと。レーベルオード子爵にもレーベルオードにも興味はありません。私を妻として大切にしてくれるのであれば、愛人に子供を産ませて跡継ぎにしても文句は言いません!」

「そういうことであれば、婚姻する意味はないでしょう。例え私の妻になっても、自由に妹と面会することはできません。妹はレーベルオードの者ではなく、王家の者になるからです。逆に無礼なことがないように、夫として私が面会を許さなければ、完全に近づけなくなります」

「では、この話はなかったことにして下さい。自力のみでリーナ様と親しくできる立場を手に入れる方向で努力します」

「速攻話が消えた!」

「では、続きを。私がいなかった時の話はヘンデルから聞きます。再度説明する必要はありません」


 何事もなかったかのようにラブのプレゼンが再開された。


「私は十六歳ですが、成人のグループも未成年のグループも情報を集めていますし、情報通であると自負しております」


 ラブはシャルゴット姉妹よりも若い女性のグループの見学や招待状などを手配することができることや特定のグループに入ることも勧めないと宣言した。


「ラブちゃんは自分でグループを主催しているよね? それにも誘わないってこと?」

「はい。お誘いしません」


 ラブは自分の嗜好に合うグループを探すためにあちこちのグループに入会し、自分でもグループを作ってより居心地のいい場所を確保することにした。


 しかし、ラブとリーナの嗜好や感覚は違うに決まっている。楽しいとは思わないかもしれない。


 また、カミーラは社交、ベルはダンスを主目的としたグループに入っている。


 どちらもリーナにとって勉強になるかもしれないが、リーナの好きなことではない。むしろ苦手なものだ。くつろげるか、楽しめるかは別になる。


 だからこそ、リーナが好きなもの、くつろぐためのグループ活動という観点から、若い女性のグループを見学、お試しで参加したほうがいいのではないかとラブは薦めた。


「女性は十六歳、あるいは成人する十八歳になるとあちこちのグループから勧誘されます。あまりにも沢山来るので、すぐには決められない、見学だけ、お試し参加だけして検討したいというのが普通です」


 女性の場合は母親や姉妹、おばなどの親族女性のグループに誘われ、そのまま入会する者も多い。それ以外にも学校の友人、友人の姉妹などを通じて選択肢を広げていく。


 しかし、リーナは母親がいない。姉妹もいない。学校にも行っていない。友人もいない。これでは信頼できる者からの縁で選択肢を広げにくい。


 結局、リーナに関わる男性の姉妹や知り合いなどの縁になる。しかし、男性から見える部分は綺麗なところばかりだ。女性グループの内情をしっかり把握しているとは言えない。


 リーナは優しく思いやりがある。紹介であるからこそ、はっきりと嫌だとは言えない。遠慮して言い出せない。


 曖昧な返事をしていると、だったら平気だろうと都合よく解釈され、乗り気でないグループ活動をする羽目になり、何事も勉強だと思って我慢して受け入れるというパターンになりそうだった。


「リーナ様が社交の勉強をすることはいいことです。でも、勉強ばかりでは疲れてしまいます。すぐにお子ができればグループ活動にも参加しにくくなります。ですので、一番いいのは勉強中や検討中といってどこにも入会せず、時々見学やお試し参加をしながら一、二年は様子を見るのがいいと思います。それは多くの女性がしていることなので、おかしくありません。極めて普通です。それと同時に、リーナ様がくつろぐために、自分のグループを作ります」


 ようやくここまで来たとラブは思った。しかし、ここからもまた正念場だ。


「説明事項その三。リーナ様のグループについて。リーナ様はこれから少しずつ勉強をするわけですので、いきなり本格的なグループを作ることは難しいと思います。そこで、グループを作るためのお試しグループを作ります。メンバーは私とシャルゴット姉妹。三人共に元側妃候補ですので、守秘義務について懸念する必要はありません。また、リーナ様に無理強いすることもありません」


 お試しグループは幼馴染や学校の友人などと作るのが一般的だ。非常に親しい者だけで作り、遠慮なく意見を言えるようにするだけでなく、くつろぎつつ楽しく、それでいていつでも解散しやすくする。


 本格的にグループを立ち上げる際は、役員になるような者達の集まりになる。いわゆる前身グループだ。


 人数は二、三人が多い。せいぜい五、六人。あまり多いと、意見や嗜好が合わないせいで問題が起きやすくなる。


 元々全員が同じ嗜好であるなら問題ない。


「例えば、全員がヴィルスラウン伯爵の熱烈なファンばかりとか」

「わかりやすい例えだね」


 ヘンデルは苦笑した。どう考えてもラブの例えは機嫌取りだった。


「グループの活動内容は社交グループの研究及び勉強ですが、リーナ様が楽しくくつろげるというのが最優先です」


 ラブが楽しくくつろぎたいだけではないのか、とヘンデルは突っ込みたいのを我慢した。


「王宮にはお堅い侍女が沢山いて、リーナ様はくつろげません。そこで、グループ活動をするという理由で侍女を下げるか、外出してくつろぎます」

「グループ活動のためでも、簡単に外出許可が出るわけじゃないよ?」

「そこは考えました。活動範囲は主に王宮敷地内にします。また、拠点となる本部は後宮に設置します」

「後宮に? 王宮じゃないの?」


 ラブは頷いた。そこがラブの考えたプランのポイントだった。


「王宮はくつろぎにくく、情報が漏れやすくもあります。安心してくつろいで勉強できません。だからこそ、後宮にします。幸い、私やシャルゴット姉妹は入宮経験があるので、側妃候補が部屋を与えられていた部分は知っています。なので、その辺りの一室を本部にすればいいと思います。グループ活動の時は後宮に集まって楽しく勉強。リーナ様も堅苦しい王宮ではないので、くつろぎながら安心して楽しく勉強できます。王宮にいたくない時は、グループ活動や勉強を理由にして後宮に行けます」

「リーナちゃんが後宮に行って息抜きができるようにするわけか」

「そうです。基本的に関係者以外は立入禁止です。侍女は部屋で待機できません。くつろげます」

「うーん、でも、安全面がなあ」

「私やシャルゴット姉妹が上級侍女を兼任するようなものです。隣の部屋であれば、侍女や護衛騎士がいるのは問題ありません。交代で持ち回りをすることも可能ですし、週に一回この時間などと決め、定期的に集まることも可能です」

「まあね」


 ラブは更に細かい部分まで考えていた。


「実を申しますと、私は後宮に興味を持っていました。これだけ巨大な施設ですと、莫大な維持費がかかるはずです。国王の側妃達が居住するのは奥の宮殿。手前にある宮殿は側妃候補がいなければ貴人がいません。ですが、最初にできた建物であることから、厨房、洗濯場、入浴場などの重要な施設が揃っているはず。ここがなければ後宮全体を維持するのは難しく、閉鎖できないせいで余計に費用がかかってしまうのではないかと思っていました」


 大正解である。


「内密に王太子殿下が後宮の新しい活用方法を模索する指示を出したと伺いました。第二王子から兄へ、兄から私へ伝わりました。できれば女性視点、リーナ様に関係することがいいからです。私の提案が素晴らしければ、リーナ様の友人として認められるかもしれないと言われました。なので、懸命に考えました。でも、きっと手柄は第二王子に持っていかれます。なので、ここで披露します。そうすれば私の手柄になるはずです!」


 第二王子に手柄を持っていかれるという予想は正しい。


 クオンとヘンデルはそう思った。


「説明事項その四。リーナ様のグループ活動や執務等に関連した後宮の新しい活用方法として、ホワイトパール賞の設立を提案します!」


 ラブは声高々に宣言した。



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