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後宮は有料です! 【書籍化】  作者: 美雪
第七章 婚約者編

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694 ラブのプレゼン(一)

 別室に移動したラブは一気に緊張した。


 その理由はただ一つ。エルグラードの王太子がいたからである。


「おはようございます。まさか、このような時間から王太子殿下に謁見できるとは思いませんでした。大変光栄でございます」


 ラブは必死で動揺を抑えながらなんとか無難に挨拶をした。


 いくら頭がよく礼儀作法を理解しているとはいえ、臨機応変に振る舞うのは難しい。しかも、あまりにも予想外過ぎる相手が目の前にいる。


 ラブは強く大きくなる胸の鼓動をなんとかしようと、ぎゅっと手を握り締めた。


「さっさと始めさせろ」


 クオンはラブに話しかけるのではなく、ヘンデルに向けて言葉を発した。


 クオンはラブを評価していない。その言動は立派な淑女とはいえず、四大公爵位家の令嬢としての立場を利用して自由にし過ぎていた。


 それでもラブが側妃候補に選ばれたのは、第二王子やその周辺、ヘンデル達側近、アリシアやカミーラなどが活用できる存在だと薦めたからである。


 クオン自身がいいと思っているわけではないため、態度が厳しいのは当然のことだった。


 ラブ自身もそのことはわかっているため、正直に言えば、王太子がいるのは困ると思った。何をしても自分の全体評価が下がると感じるしかない。


 試練だわ……絶対に越えられない壁が出て来た感じ……。


 しかし、ラブは弱くない。どちらかといえば強い方だ。


 越える必要なんてない! 抜け道を探すわ! それでも駄目なら、壁の下にある土を掘ればいいだけよ!


 そして、利口でもあった。


「突然、同席するって言い出してねえ。なんで、まあこっちに対してプレゼンしてくれればいいよ。その方がやりやすいと思うし」

「では、ヴィルスラウン伯爵にお話するということでよろしいでしょうか?」

「小論文の時の面談と同じような感じ。王太子殿下やパスカルから質問されたら答えて」

「わかりました。ですが、資料を二つしか用意していなくて……」

「どうする?」


 ヘンデルはクオンに視線を向けた。


「ヘンデルとパスカルに配れ」

「だって」

「では、お渡しします」


 ラブは用意してきた資料をヘンデルとパスカルに渡した。


 ラブの用意した資料を早速ヘンデルとパスカルは目を通すが、表紙の後は本のリストだった。


「これだけ?」

「はい。申し訳ないのですが、検閲等による情報漏洩を防ぐため、重要な部分については資料を作成していません。口頭でお伝えします」


 資料を作成すると余計な者にそれを見られてしまい、情報漏洩する可能性がある。


 ラブは資料についても検閲されると困るため、あえて本のリストだけを資料にした。


「ちゃんと考えているんだね。偉い偉い。じゃあ、できるだけ簡潔にね。始めて」

「はい。ではご説明します」


 ラブは緊張しながら、自分のために作ったメモを開いた。


 勿論、そこにも重要なことは書いていない。見られても平気なメモしかない。


「説明事項その一、本の献上について。大きく分けると三種類あります。私が学校で使用した教科書、ウェストランド公爵領で正式に採用されている教科書、個人的にお薦めの本です」


 ラブはメモを確認した。


「リーナ様は学校に行ってないので、学校について知りません。そのため、学校で使う教科書を読むことでどのようなことを学校で学ぶのか、ある程度は知ることができます。勿論、実際には教科書に載っていないことも多く学びますが、参考になるはずです」


 ヘンデルの表情は変わらない。


「次に、ウェストランド公爵領で正式に採用されている教科書。これは西を重視した内容になります。リーナ様が西地域について知る上で役立つだけでなく、王都と地方では教育に差がある、教科書が違うことを実感していただけると思います」


 ラブの緊張は続いたままだったが、説明は順調に進んだ。


「三つ目は個人的なお薦めです。社交関連の本がかなりあります。そして、リーナ様が認定試験を受けるための勉強もしていると伺いましたので、認定試験対策用の本もあります」

「認定試験対策用はもうあると思うよ」

「リーナ様にどのような試験勉強をしているのか確認しました。一般的に売られているテキストを使用したものとか。ですが、そのテキストを使った勉強だけでは合格できません。家庭教師がイレビオール伯爵令嬢なら尚更です」

「カミーラ達は頭がいいよ? 認定試験レベルの勉強ならみれると思うけど」


 ラブは説明した。


 エルグラードの義務教育は小学校(初等部)まで。しかし、今はかなりの者達がその次に行く中学校(中等部)や職業学校に進んでいる。


 認定試験を受けるのは主に飛び級狙いの者、また、中学校を途中で退学した者や職業学校に行った者も受けることができる。


 テキストは応用問題が中心だ。基本は知っていて当たり前、教科書を読めばいいという前提になっている。


 しかし、リーナは全く学校に行っていないため、基本を学んでいない。だからこそ、中学校の教科書が必要になる。そして、テキストにない応用は別の本から学ぶ必要がある。


 また、認定試験を受けるのは男性が多いため、全般的に男性向けの出題になる。


 認定試験は総合点数で判断されるのではなく、全ての科目で合格点を取らなければならない。


 男性向けの出題が多い科目があると、女性はうまく点数が取れない。一科目でも点数が極端に悪いと、そのせいで認定試験に合格できなくなってしまうのだ。


「男性向けの出題って何?」

「政治や法律、経済、商業関連の問題です。論述に関わる部分だと、大きな減点につながります。また、保健体育の授業は男女でかなり違うので、男性向けの出題だと全く答えられない場合もあります。選択問題なら運よく当たるかもしれませんが、記入問題は厳しいでしょう」

「なるほどね……俺も中認と高認を受けたけど、あんまり意識してなかったなあ」

「私は高校卒業程度認定試験を受けるつもりで勉強しています。男性向けの出題であっても対応できるように、家庭教師は女性だけでなく男性もつけています」


 ヘンデルは少しだけ驚いたような表情になった。


「ラブちゃん、高認を受けるの?」

「合格すれば、年明けに大学受験ができます。それにも合格すれば、春から大学に行けます」

「飛び級を狙うのか」

「そうです。ですので、不要な本があるのではないかと疑われるかもしれませんが、正当な理由があることをご説明します。家庭教師にも相談して選んだ本ですので、役に立つと思いますが、許可が出なかった本は持ち帰ります。処分はしないでいただきたく思います」

「ちょっと、パスカル行ってきて。速攻処分されると困る」

「わかりました」


 パスカルが部屋を退出した。


「続けても大丈夫でしょうか?」

「うん。いいよ。頑張れ」


 ヘンデルの応援を受け、ここまでは悪くなさそうだとラブは感じた。


「説明事項その二、社交及びグループです。現在、シャルゴット姉妹からもかなりのことを学んでいるとは思いますが、やはりどうしても自分が所属するグループを例にしやすく、思考が偏ります」


 ラブはちらりとクオンを見た後、言葉を続けた。


「王太子殿下の前だからこそお伝えしますが、リーナ様は悩んでいます。多くのグループについて情報を集め、吟味したいと思っています。ですが、シャルゴット姉妹は何かにつけて青玉会を薦めるとか」


 自分の所属するグループを薦めないわけがない。むしろ、自信を持って薦めるはずだ。それだけ青玉会は多くの者達に一目置かれている立派なグループだ。


 クオンとヘンデルはそう思った。


「リーナ様は青玉会に入ることに対し、気乗りしないご様子でした」

「へえ。ラブちゃんには特別に話した?」


 ヘンデルはラブの言葉を素直に信じる気はなかった。何かの作戦だろうと感じ、警戒心を高める。


「はい。果物狩りの際、ここだけの話と言われましたが、やはりお伝えしておくべきだと思います」


 ラブはリーナの意思を尊重した選択が用意されるべきだと思った。青玉会一択ではよくないとも。


「もしかすると耳を澄まして聞いていた護衛騎士から報告されているかもしれませんが、リーナ様は青玉会に年配の女性達が多く、同年代の若い女性達と交流できないことを懸念されていました」


 ラブは自分の言葉が嘘ではないという意味を込めて、護衛騎士が報告している可能性があることも付け加えた。


「青玉会は有名です。側妃が入るグループとしては相応しい格式の高いグループと思われます。ですが、正会員の年齢はリーナ様から見ると母親の年代ばかりです。準会員には若い女性もいますが、リーナ様はすぐに正会員か役員待遇になるはず。青玉会の催しは基本的に正会員以上。しかも、過ごす部屋が立場によって違います。つまり、リーナ様は青玉会に入っても、周囲は年配の女性ばかりになってしまうのです」


 多くの者達は同年代でグループ活動をする。同年代との交流をするためにグループに入るのが普通なのだ。


 自分一人で母親と同年代の女性ばかりがいるグループに好んで入る女性はほぼいない。


 ラブがそのことを説明するとクオンは考え込んだ。


 ヘンデルがすかさず質問する。


「カミーラ達も同行できるし、イレビオール伯爵夫人がしっかり面倒をみると思うけど」

「特別待遇を受けるのはシャルゴット姉妹のみでしょう。他の若い女性は無理です」


 シャルゴット姉妹とは王宮で交流できる。わざわざ青玉会で交流する必要はない。


 リーナはともかく、シャルゴット姉妹が特別な扱いを受ければ、他の会員に妬まれる原因になる。


 イレビオール伯爵夫人も同じだ。役員であるからこそ、手本となり、公平さを重んじなくてはいけない。


 リーナを入会させて娘達をそれに付随させて特別扱いすれば、イレビオール伯爵夫人も職権乱用、どさくさに紛れて身内贔屓をしていると悪く思われる。


「私は女性だからこそ、男性には見えにくい女性の側面や裏側を知っています。女性のグループでは一度妬まれると、非常に恐ろしい事態にもなりかねません。また、会員の待遇が部屋別になるほどしっかり分かれていることを考えれば、それを無視した特別扱いは必ず反感を買います。グループのルールを側妃や役員などの特権で無視しているわけですから当然です。ルールを守れない者は入会できないはずなのにおかしいと思われます」


 ヘンデルは反論しなかった。ラブの意見は間違っていない。


 そして、自分が女性であることを理由に、男性であるヘンデルとクオンにはわかりにくいだろうと牽制しているところも、利口だと感じていた。


「あのグループは若い女性が一人正会員として入るグループとしては向いていません。リーナ様の年齢が上がり、正会員の者達と同年代になってから入会するという選択があってもいいように思います。シャルゴットの方々が悪く言われないためにも、青玉会への入会は慎重に検討されるべきではないかと思います」


 ラブはグループとしての格付けや活動内容が側妃に相応しいか以外のことも重視されるべきだと思った。


 無理して入っても、待遇等について悪く言われる可能性が高い。リーナやシャルゴットのためを思うからこそ、今すぐ入会するのは止めた方がいい。


 それが伝わったのかはわからない。単に、シャルゴットの邪魔をしていると感じたかもしれない。それはもう相手側に任せるしかない。


 ラブは次の提案に移ることにした。



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