691 判定後
「ありゃりゃ、超ウケる!」
ヘンデルは大笑いだ。勿論、他の者達も思わぬ結果に驚いていた。
「パスカル、味で選んだのか?」
セイフリードはまるでパスカルを疑うかのように尋ねた。
しかし、これは最も話しかけやすいからで、他の者達に対し、暗に不正をしていないだろうなという確認のメッセージだった。
「勿論です。王太子殿下の前で不正はできません」
「カミーラ、本当に私のブドウがいいと思ったのか?」
レイフィールもカミーラに確認した。一人だけレイフィールに投票しているため、疑問に思うのは仕方がない。
「私は甘いのよりもスッキリしている方が好きなのです。嗜好に合わせたまでのこと。嘘はついていません」
「ラブ、私と同じところにわざといれていないか? ウェストランドとして合わせる必要はない」
セブンもラブに確認する。
「ちゃんと味わって決めたわよ!」
「ヘンデルが最も怪しい。女性にしか入れるつもりがなかったかもしれない」
クオンがそう言うと、ヘンデルは大笑いした。
「あはは! まあ、女性が選ぶとそれだけで美味しく感じるよね! でも、俺は最初の方にいれてたし? むしろ、第四王子殿下が最後に結果を考えた気がする」
「王族を疑うのは無礼だ! 兄上の友人という立場に甘えて僕を侮辱することは許さない!」
「申し訳ありません! そのようなつもりは毛頭ございません! だた、驚くほど頭のいい方なのでつい!」
「面白い結果だったのでいいではありませんか」
エゼルバードは意地の悪い笑みを浮かべながらヘンデルを擁護した。
「私見ではあるが、この中で最高なのはどう考えてもパスカルの選んだブドウだ。絶対間違いない!」
ロジャーはかなりの自信を持っていたため、例え同数だったとしても、パスカルのブドウが最高だったと主張した。
「ヘンデル、果樹園の者達がつけた評価を見せろ。それを見ればわかる」
ロジャーがそう言うとヘンデルは動揺した。
「えっ、それはちょっと……」
「そうですね、気になります」
「専門家はどれがいいと思っているんだ?」
エゼルバードとレイフィールが興味を示す。
「困ったなあ」
だが、王族に逆らうこともできず、果樹園の者達がつけた評価が公開された。
専門家の評価は一人一票というものではなく、大きさ、形、艶、触感、味、色合いなど様々に細かい項目があり、それぞれに五段階評価がつけられていた。
確かに専門家らしい評価の仕方だと思える。
「美味なブドウを選ぶゲームであれば、大きさや形などは関係ないな」
レイフィールが率直な意見を述べる。
「五段階評価ですが、人数制限がありません。全員五になってしまうと差がつきません」
エゼルバードの言う通りだった。
最高評価である五をつけるのは何人でもいい。そのため、全員五であれば関係ない。
「セイフリードのブドウも味は五だ。単に支持が得られなかっただけか」
レイフィールがそう言うと、セイフリードが言った。
「僕は自分の選んだものに自信があった。だが、自分のブドウには投票できない。だから、別のブドウにしただけだ」
確かにそういうルールになっている。もし、そのルールでなければセイフリードは自分のブドウに投票していたということだ。
「ロジャーのブドウは味が五にも関わらず、一票も入っていない。むしろ、味が三のレイフィールに負けている」
セイフリードの容赦ない指摘に、ロジャーは心の中で盛大な舌打ちをした。
「味が三でレイフィールのブドウが残っているのは、他の点が良かったということか? まさか、別テーブルの者で味が四以上はいないだろうな?」
クオンの指摘にヘンデルが答えた。
「それは大丈夫。別テーブルは全部三以下だよ。ただ、六皿残すってことで、三の中で触感の評価が高い第三王子殿下のブドウが残った。四は一人もいなかったんだよね」
「ならいい」
「一はいたのですか?」
エゼルバードの質問に、リーナは瞬時に緊張した。もしあったのであれば、自分の選んだブドウだと思ったのは言うまでもない。
「あー、やばいことに気付かれちゃった!」
ヘンデルが苦笑する。つまり、いたのだ。一が。
「見せろ!」
「誰ですか?」
「気になるな」
「ヘンデルとか」
結局、別テーブルの者のブドウがどう評価されたのかも見ることになった。
その結果、一の評価だったのはベルのブドウだということがわかった。
「私なの?! でも、美味しいと思ったのよ!」
「一人だけですね。一は」
「ある意味優勝だ」
「一番不味いブドウを選ぶなら優勝だ」
「嬉しくない……」
がっくりと落ち込むベルだったが、周囲は笑顔で溢れている。
すぐにリーナがベルの手を取って励ました。
「気にされないで下さい。私は二ですけど、きっと物凄く一に近い二だと思います。イレビオール伯爵令嬢のブドウはギリギリ一だったんです。本当にわずかな差だったのだと思います」
「リーナ様って本当に優しいわ! 涙でそう……」
ベルはうるうるしながらリーナの手を握っていた。
「ですが、イレビオール伯爵令嬢というと、なんだか私のような気がしてしまいます。ベルなのはわかっているのですが」
同じくイレビオール伯爵令嬢のカミーラが呟いた。カミーラの評価は二だ。差がどの程度あったのかわからないが、二と一の差は確かにある。一の評価が一人であるなら尚更その差は大きい。
「そうですね。何か他の言葉をつけたりして区別したりはしないのでしょうか?」
「他の言葉?」
「例えば……上級令嬢、とか?」
リーナの言葉にレイフィールが大笑いした。
「それはいいな! わかりやすい! 上級が姉で下級が妹か!」
「違います。姉が上級で、妹は何もつかない令嬢です」
「そのような言葉はない」
はっきりとロジャーが断言した。博識だけに、間違いない。
「悪役令嬢という言葉ならある」
「それは私でもカミーラでもないわよ。評判の悪さからいってラブよ!」
「うるさいわね! 小悪魔令嬢っていうのはあるけれど、悪役令嬢なんて言われたことはないわよ!」
「今後、どちらのことを言っているのかわかりやすくするためにも、リーナ様には名前で呼んでいただきたいのですが」
カミーラの言葉にベルも賛同した。
「そうね。ぜひ、名前でお願い致します。ラブのことも名前で呼ぶと言っていたし、呼び捨てにして下さい」
「えっ?! で、でも、ラブは年下なので……」
「関係ありません!」
「関係ないわ!」
カミーラとベルは強気だった。そうやってラブが名前呼びを獲得したのを知っていたからでもある。
リーナは強く言われると弱い。
「……わかりました。では、名前で。様付けでいいですか?」
「駄目に決まっています」
「では、さんで」
「側妃になるのにおかしいですわ。マナーは守らないと」
「名前だけに決まっているでしょう? 礼儀作法に乗っ取ることが重要だわ」
「……わかりました」
リーナが認めたため、カミーラとベルはにやりとした。作戦成功だと言わんばかりである。
「はいはい。んじゃ、取りあえずは全員優勝ってことで、褒賞とかはどうする?」
ヘンデルが確認をした。
ルールでは優勝したチームに褒章が出ることになっていた。
王族チームが優勝した場合は、側近と女性チームに何らかの要求ができる。
「相殺するって手もあるけど? それとも、最終決戦でもする? じゃんけんとか」
「それはしない。最初に決定した通りにする。一人一つだ。側近と女性達は褒賞の希望を考えておけ。王族の者は側近か女性に何らかの要求ができることにする。できるだけ早く紙に書いて提出しろ。それを見て問題ないかを検討する。与えるのが難しい褒賞や相手の負担になるような要求は王太子の権限で無効にする。以上だ」
王太子の判断が最終決定である。
「ということらしいのでよろしく!」
ヘンデルはどんな褒賞を希望するかよりも、他の者達が何を希望するのかが楽しみで仕方がなかった。





