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後宮は有料です! 【書籍化】  作者: 美雪
第七章 婚約者編

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690 ブドウ判定

 ゲーム開始から五十五分が経過した。


 制限時間は一時間以内。残り五分。すでにリーナとラブ以外は全員が戻っていた。


 クオンはかなり早く戻っていたため、リーナがなかなか戻らないことを心配していた。


「探しに行くべきではないか? まだ姿が見えない」

「間に合わなかったら失格だねえ。でも、護衛がいっぱいついているわけだし、探しに行く必要はないよ」

「何かあったのかもしれない」

「おしゃべりに夢中とか」


 ヘンデルはそう言ったが、クオンは納得しなかった。


「ラブと一緒で会話に夢中になるというのか? リーナに無礼なことをしていないかの方が気になる」

「ごもっとも。でもまあ……あっ!」


 リーナ達は西の方に行ったと聞き、全員は西の方角を見ていた。


 かなり遠いが、走って来る者達の姿が見えた。主に護衛達の。女性達の姿は見えない。


「護衛達ばかりではないか?」

「前方を固めているだけじゃ……ん?」


 護衛騎士達が猛然と走って来る。そして、ただ走っているわけではなく、何かを持っていた。


「あれって……担架?」

「そのようです」


 ヘンデルの問いに答えたのはローレンだった。


 今回、騎士達は様々な武器や道具を持っていた。その中に特殊な長槍もあった。


 その長槍を二本並べ、間にマントや上着などを袖部分や紐などをうまく利用して縛り付けると、即席の担架ができる。急な怪我人や病人を運ぶことができるのだ。


「足でもくじいたのか?! それとも具合が悪くなったのか?!」


 クオンの顔色が変わった。


「たった三粒で腹を壊す確率は相当低い。だが、何もないところでつまずきそうではある」


 セイフリードが冷静な口調で意見を述べた。勿論、つまずきそうなのはラブではない。リーナのことである。


 クオンはすぐに命令を出した。


「パスカル、確認しろ!」

「御意」


 パスカルが走り出す。


「大丈夫だ。ローレンがいる。軍医は怪我でも病気でもほとんどのことに対処できる」


 レイフィールは医者であるローレンがいることをアピールした。


 専門は外科だが、戦場では何でも対応するのが基本だ。そのための様々な勉強をしており、だからこそ軍医の資格がある。


 レイフィールは携帯用の診療カバンと薬箱を用意するように伝えた。


「怪我や体調等に問題が発生したのであれば、先に伝令が来て知らせるはず。運ぶよりも医者を呼ぶ方がいい場合もあります。何もないのはおかしいですね」


 エゼルバードが冷静な口調でそう言った。


 確かに先に伝令が来ないのは不自然だと誰もが思った。


「ラブのせいかもしれない。疲れたので担架で運べと言った可能性がある」

「時間切れになりそうなため、騎士達に担架で運ばせることにしたのではないか?」


 セブンとロジャーがそれぞれの推測を述べた。どちらもありえそうなことである。


 その間にパスカルが騎士達の所について合流するものの、そのまま併走する形に切り替えた。


「大丈夫みたい」


 緊急を知らせるような行動を取らないため、ヘンデルはそう言った。


 結局、リーナとラブは担架に乗せられて戻って来たものの、怪我をしたわけでも疲れたわけでもないことが判明した。


 時間切れになりそうなことから全力で走って戻ることにしたものの、女性の足では速度が遅い。また、そのせいで怪我をしてしまうと困る。


 そこでリーナとラブが走っている間に数人の護衛騎士達が手早く担架を作り、途中からはリーナ達を担架に乗せて運ぶことにした。つまり、急いで戻ると同時に、リーナ達が怪我をしないための予防策だった。


 おかげでリーナとラブは怪我をすることなく無事時間内に戻ることができた。護衛騎士達は王太子から褒められ、配慮と努力が報われた。


「何事もなくてよかった! じゃ、それぞれが選んだブドウを皿に乗せてね」


 カゴに複数のブドウがあっても、ゲーム用に選ぶのは一つである。


 皿には番号札が添えられているため、最初のクジで引いた番号の皿に各自はブドウを置いた。


 まずは、果樹園の者達三人がブドウを見ただけで採点し、一番下の部分を食べて味を確かめる。


 これはブドウが美味しいかどうかよりも食べても平気かという安全性を確かめる目的、いわゆる毒見でもあった。


 この時点で問題のあるものは排除され、評価が低いものは別のテーブルに移されることになっていた。


 誰もが自分の選んだ皿が残るかどうかを気にしていたが、果樹園の者達は互いの採点結果などを相談し合い、半分の皿を別のテーブルに移した。


 そして、ヘンデルだけに話し合った結果を伝え、それをヘンデルが発表した。


「えーっと、問題のあるものや不良はなかったみたい。でも、この時点で半分まで減らすということは決まっていたから、専門家として王宮に発送するものとして相応しいかという部分で判断して、評価の低い半分は別のテーブルに移した。残った皿のブドウは最高級品、別テーブルの皿のブドウは高級品って感じらしい」

「半分まで減らすと決まっていたのですか?」


 リーナは知らなかったために確認した。ちなみに、リーナの選んだ皿は別のテーブルに移されてしまった。


「あー、うん。全員がそれぞれ一個ずつ試食すると十二粒じゃん? 後で食べた方はお腹がいっぱいになって適当な判断になりそうだからさ。先に戻っている者達で話し合って、参加者の過半数以上が賛成したからそうなった」


 リーナは納得したものの、懸命に選んだブドウが早くも駄目だとなってしまったことに落胆した。


「所詮ゲームだ」


 そう言ったのはやはり同じく別のテーブルにブドウを移されたクオンだった。


 はっきりいえば、クオンは早めに戻るため、あまり時間をかけて選ばなかった。


 いつも慎重で時間をかけて判断するクオンらしくなかったが、さっさとゲームは終わりにしてリーナと過ごしたいというのが本音だった。


 また、王太子である自分が褒賞を与えるべきで、臣下や女性達に何かを要求するつもりはなかったのもある。


 とはいえ、チーム戦である。兄が駄目でも、弟達の選んだブドウはしっかりと残っていた。優勝の可能性がある。


「じゃ、試食しよっか。できるだけ上の方ね。後、自分のブドウが残っている人は、自分以外のブドウに必ず投票すること。一番美味しいと思ったブドウのところに小皿を置いてね」


 試食による審査が始まった。


「甘いです! 物凄く!」


 リーナは思わず震えた。自分が選んだブドウはかなり甘いと思っていただけに、正直に言えばどうして駄目なのかわからなかった。


 しかし、残っているブドウを食べた瞬間わかった。全然違う。甘いのだ。美味しい。


 自分が選んだのが高級品なら、まさに残ったのは最高級品だとリーナは思った。


「何これ?! 美味しい!」

「全然違います」


 ベルとカミーラも信じられないというような表情をしている。ちなみに、二人の選んだブドウもすでに別テーブルに移されている。


 最高級品として残されたのはエゼルバード、レイフィール、セイフリード、パスカル、ロジャー、ラブの選んだブドウだった。


 リーナ、クオン、ヘンデル、セブン、カミーラ、ベルのブドウは高級品判定ということになる。


「いつも時間なくて適当に食べてるからなあ」


 ヘンデルは言い訳がましくそう言いつつ、次々と試食した。


「全部美味いなあ」

「微妙な差があるが、食べている場所が違うだけに判断が難しい」


 ブドウは上の方が甘い。しかし、一番上に十二粒ついているわけではない。どうしても下の方の粒を食べると、それより上の粒よりも評価が落ちる可能性がある。


 偶然味がよくない一粒、あるいは非常に味のいい粒を食べた可能性もある。しかし、それは誰のブドウも同じであるという意味で平等だ。


 小皿はどこかに置かなければならない。しかも、一枚。どれか一つを選ぶ必要があった。


「不正はいけません。誰のブドウかではなく、純粋に美味だと思うブドウに投票すべきでしょう」


 エゼルバードはどのチームが優勝するかを意図的に操作すべきではないということを暗に示しつつ小皿を置いた。パスカルの選んだブドウである。


「わかっている」


 そう言ってロジャーも置く。パスカルの選んだブドウに投票した。


「俺はこっちの方が好きだなあ」


 ヘンデルはラブの選んだブドウに投票した。


 女性に配慮したいとクオンは思ったが、不正は駄目だとエゼルバードが言ったため、パスカルのブドウに投票した。


 セブンは何も言わずにエゼルバードのブドウに一票を入れた。ラブも同じくエゼルバードに投票し、カミーラはレイフィールのブドウに投票した。


 レイフィールはラブのブドウ、パスカルとベルはセイフリードのブドウを選んだ。


 嗜好のせいもあるのか、投票が分かれていた。


 現在、パスカルのブドウが三票でトップ。


 エゼルバードのブドウが二票、セイフリードのブドウが二票、ラブのブドウが二票。レイフィールのブドウが一票。かなりの接戦である。


 残る投票者はリーナとセイフリードだけになった。


「僕は誰に投票するか決めている。先に投票しろ」


 セイフリードは自分よりも先にリーナの投票をうながした。


「もう決められているのに、なぜ投票されないのですか?」

「僕が誰かに投票すれば、最後はお前の投票だけになる。そのせいで迷うかもしれない。だからだ」


 リーナは目を見張った。


「やっぱりセイフリード王子殿下は優しいです!」

「そうじゃない。優しいのはお前だ。だからこそ、相手のことを気遣って迷う。僕は優しくない。最後でも迷わず投票できる。それだけの話だ」


 でも、セイフリード王子殿下が本当に優しくなかったら、先に投票するように言わない。セイフリード王子殿下が優しいから、配慮して下さったんだわ。


 リーナはセイフリードの優しさを大切にしたいと思ったからこそ、先に投票しなくてはいけないと思った。


「どれも美味しくて難しいです。でも……ごめんなさい。お兄様」


 リーナはそう言って、エゼルバードのブドウに投票した。


 リーナがパスカルに投票すれば四票になる。セイフリードが誰に投票しても追いつけないため、優勝が確定することをわかった上で、別の者に投票したということだった。


 リーナが投票すると、すでに誰に投票するか決めていると言ったセイフリードはすぐにラブのブドウに投票した。


「えーっと、そうなると三票が三人か。第二王子殿下と、パスカルとラブちゃん。あれ? 優勝は全チーム?!」


 これはチーム戦である。


 優勝したブドウを選んだ者ではなく、その者が所属するチームが優勝ということになっていた。


 三票を獲得したのはエゼルバード、パスカル、ラブ。


 三人の所属するチームは王族チーム、側近チーム、女性チーム。


 つまり、全員が優勝という結果になってしまった。


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