686 どこへ行くか
こんばんは。いつも読んで下さり、ありがとうございます!
お知らせです。ベルが主人公のお話「秋に芽が出て育つ恋」を別枠連載として投稿しました。
十月のお話なので、本編よりも少し未来になってしまうのですが、先行しないと逆に本編に追い抜かされて差がつき過ぎると思うので、見切り発車しました。
二蝶会の事件後、ベルがどうなったのかが気になる方は、ぜひご覧下さい!
これからもどうぞよろしくお願い致します!
スタートと同時に猛然と走り出したのはリーナだった。
元々はリーナが果樹園に行きたいと言い出しただけに、ゲームについてもやる気まんまんである。
リーナが駆け出せば、同じチームで同行する他の女性達も駆け出すしかない。護衛達も同じく、遅れるわけにはいかないとばかりに走り出した。
リーナはキョロキョロとした後、左に向かった。
「リーナ様! そっちでいいの?」
ベルが声をかけたため、リーナは立ち止まった。
「私はこっちに行きます!」
「どうして?」
「今は午前中だからです!」
ベルはわからないというような表情をしたため、カミーラが解説した。
「午前中に日の当たる場所は東です。つまり、午後になれば日が陰りやすくなります。リーナ様は午後に日が当たる西の方に行きたいのでしょう」
ブドウの育つ季節は春から秋。つまり、日照時間が長い季節でもある。
そうなると、日照時間が長いのは南や西ということになる。
「ですが、ブドウ畑は東向きがいいと言われているようです」
「えっ?!」
リーナは驚いた。
「じゃあ、東の方がいいのでしょうか?」
「私が読んだ文献にはそう言ったことが書いてありました。また、傾斜がある場合、高い場所ほど風が通るため、良質のブドウができるそうです」
女性達はブドウ畑を見た。
傾斜がないわけではない。だが、南が低く、北側の方がやや高めかもしれないといった程度で、大きな傾斜ではない。
恐らく、全く傾斜がないと北側への日照時間が減ってしまうため、ゆるやかな傾斜をつけることで南の日差しが北側のブドウにも当たるように配置されているのだと思われた。
「どうする?」
ベルがリーナに尋ねた。
リーナは答えた。
「それぞれ、自分の一番いいと思ったブドウを採ればいいだけです。イレビオール伯爵令嬢の意見を聞くと、東側が良さそうな気もします。でも、ロジャー様もそういった知識をお持ちだと思うので、東側に行きそうです。全員が同じ場所から採るのもどうかと思いますので、私は西側のブドウを採ってきます」
「私も賛成だわ。全員が全く同じ場所に集まってブドウを採り合うなんてまっぴらよ! 全然つまらないわ!」
ラブはリーナに賛同した。
「別に全員が一緒に行動しなくてもいいわけだし、ここは東と西に分かれない? カミーラとベルは東でよさそうなものを、私とリーナは西でよさそうなものを見つけることにするわ!」
「リーナ様」
「リーナ様!」
またか、と全員が思ったのは言うまでもない。
「……そんなんじゃ、いつまでたっても仲良くなれないじゃない! 学友なんだし、こういう時位、名前でいいじゃないの!」
「駄目です。もう学友ではありません」
「そうよ! ラブは自分の通っている学校の同級生とかが学友でしょう?」
「時間がありません。ゼファード侯爵令嬢と一緒に西に行きます」
「ラブでいいわよ。私の方が年下なんだし」
「でも」
「それに今はゼファード侯爵令嬢だけど、いずれはウェストランド公爵令嬢になるでしょ? いちいち変更するのは面倒だから名前で呼べばいいのよ。そうすれば結婚して家名が変わっても関係ないし」
「じゃあ、ラブ様で」
「様はいらないっていってるでしょ?」
「だったら、ラブさんで」
「ラブって呼ばないと返事しないから!」
ラブの強引さにリーナは負けた。
「わかりました。名前だけで呼びます」
「じゃあ、時間がないし、西へ行くわよ!」
「はい!」
どっちが上か下かわからないとカミーラとベルは呆れた。
だが、ラブがリーナの手を取ってつなぎ、二人で走り出したのを見れば、なんだかんだ言いつつも大丈夫だろうという結論に達した。
「すみませんが、妹と話があるので少し離れていただけませんか?」
カミーラは護衛騎士達を遠ざけた。
「何かあるの?」
ベルは護衛騎士達が距離を置くように離れると、小声でカミーラに話しかけた。
「私達も手分けしてブドウを選びませんか?」
ベルは驚いた。
「一緒に選ぼうと思っていたんだけど、何かあるの?」
「今日は絶好の機会です。参加者の誰かと話すには」
ベルははっとするような表情になった。
「勇気を出して、話しかけてはどうですか?」
誰に、とは言わない。だが、ベルにはわかった。第三王子のことだと。
「無理にとは言いません。ですが、状況によっては二人だけで話せるように取り計らってくれる者がいるかもしれません」
「お兄様?」
「上司もです」
その言葉で、ベルは王太子も知っていることを理解した。
「でも、それは話すだけよね?」
「そうです。話すだけです。結果は見えています。望みはありません」
ベルはため息をついた。
つまり、第三王子に話しかけ、告白したとしても失恋は決定しているということだった。
「もしかして……向こうは知っているの?」
「ベルの気持ちは知りません。ですが、わかってはいると思います。実を言うと、過去において王家とイレビオール伯爵家との縁談が持ち上がったことがあったのです」
「えっ?!」
ベルは初耳だった。
「どうして教えてくれなかったの?!」
「二蝶会の件でお兄様に相談をした際、特別に教えて貰ったのです。話すべきかどうか悩んでいました。余計に傷つけるだけではないかと」
王家との縁談が持ち上がったことがあったとしても、現状を考えればまとまらなかったということになる。
二度と縁談が持ち上がることはない。そう思うのが普通だ。
王子達の態度を見れば、個人的な感情による交際や結婚の可能性もない。
「……教えて欲しかったわ。諦めがつくじゃない」
「お兄様は両親に来た話であるため、自分から話すべきではないと思っていたそうです。ですが、このままでは私もベルも婚期を大幅に逃してしまうのではないかと懸念し、特別に打ち明けてくれました。ベルに対しては、仲の良い私が様子を見て話すかどうかを判断して欲しいと言われました」
「そうなのね」
「それを踏まえてもう一度尋ねます。話をしに行きますか?」
ベルは首を横に振った。
「いいえ。無理だわ」
「そうですか。では、私が話をして来ます」
カミーラの発言にベルは驚いた。
「話しに行くの?!」
「お兄様は詳しい内容については教えてくれませんでした。自分も詳しくは知らないというのですが、嘘に決まっています。そのため、一番聞きやすそうな方の所に行きます。また、第三王子殿下とうまく話せた場合、ベルのことをどう思っているかどうかを聞くこともできるかもしれません。どうしますか? 聞かない方がいいですか?」
「一応聞いておいて」
「わかりました。ですが、何も教えてはくれないかもしれません。世間話や他のことについての情報収集をしつつ、この件についても質問できそうな雰囲気であれば尋ねてみるというだけのことです。過度な期待はしないで下さい」
「わかったわ」
「では、もう少し先へ行ったら別行動にしましょう」
「わかったわ」
ベルはカミーラに任せることにした。
自分が第三王子の元へ行って聞いてくるとは、絶対に言えなかった。





