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後宮は有料です! 【書籍化】  作者: 美雪
第七章 婚約者編

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674 急報

 突然、予定外の出来事が起きた。


 ユクロウの森の火災である。


 前回は想定外の地域におけるもので、森林火災の規模も被害も小さく、ミレニアス側だけだった。


 しかし、今回は違う。想定内の地域において大規模な森林火災が発生した。


 その原因はミレニアス側の森林内に存在する不法農園における出火だった。


 ミレニアスはエルグラードとの信頼関係を取り戻すべく、国境付近にある違法農園の摘発に動き出した。


 前回の火災はその際、犯罪者が証拠隠滅のために火を放ったものだった。


 今回も同じく証拠隠滅のために火を放ったところ、予想外に火の勢いが強く、次々と飛び火してしまったことが、火災の範囲を広げてしまった。


 つまりはミレニアス側における人為的災害ということになる。


 エルグラード側はこういった可能性を危惧して防火帯を作ってはいたものの、完成しているわけではない。ある程度の被害は抑えることはできるが、大規模な火災への対応は難しい。


 また、火の勢いや風向き等の条件も悪く、自然鎮火を待つしかないという状況で、国境付近に駐屯するエルグラード軍は更なる被害を防ぐためにも、ユクロウの森への立ち入りを禁止した。


 前回はエルグラードの協力を断ってしまったがゆえに二国間の関係が余計に酷くなってしまったことから、ミレニアス側から改めて前回における謝罪と共に、協力を求める正式な伝令が届いた。


 都合が良すぎるとしか思えないものの、火災が発生しているのはミレニアス側だけでなくエルグラード側も同じであるため、両国間で情報伝達等の協力に務めつつ、森林火災に対処することになった。


 クオンはこの一報を国王との会議中に知った。


 次々と一報を知った重臣達が集まり、臨時の緊急会議になる。


 その後自分の執務室に戻り、この森林火災が極秘作戦によるものではないことをもう一度しっかりと確認した。


「これは違うね」


 ヘンデルは極秘作戦によるものではないと断言した。


「極秘作戦の場合は、王太子に伝令だけでなく手紙も届くことになっている。でも、手紙はないということだった。つまり、前回と同じく突発的なものだね。どさくさに紛れて監視役が火をつけたわけでもないってこと」

「そうだな」

「第三王子には婚姻が決まったことに関する伝令を出している。極秘作戦を決行するにしても、婚姻前後の時期を外すべきというのはわかっている」

「そうだな」

「おにーちゃんの結婚式を邪魔するような弟じゃないよ。むしろ、めちゃくちゃ焦って、なんとかしようと頑張っていそう」

「そうだな」

「絶対に第三王子のせいじゃない。ミレニアスの犯罪者が悪い」

「そうだな」

「ねえ、元気だしてよ?」

「そうだな」


 ヘンデルは盛大なため息をついた。


 クオンの返事は全て棒読みだった。


「駄目だった?」


 元々の会議は国王と王太子だけのものだった。補佐官は控室に待機。


 途中で宰相や第二王子、更には軍務大臣と内務大臣、財務大臣と外務大臣までかけつけて入室、国王補佐官も呼ばれたが、ヘンデルは最後まで呼ばれることなく控室で待機のままだった。


 緊急時、国王は側近と緊急会議を開く。


 その際、王太子は同席できるが、王太子の側近はできない。王太子の側近は国王に直接仕えているわけではなく、王太子に仕えている者だからだ。


 そこに国王と王太子の側近の差が出るともいえる。


「駄目だった」


 何がとは言わない。決まっている。リーナとの結婚式だ。


 国境沿いで大規模な火災が発生している。しかも、人為的な鎮火は難しく、被害が拡大しないように周囲を軍で包囲し、森林への立ち入りを禁止することしかできない。


 そのような緊急事態が発生しているさなか、王太子が結婚式を挙げるわけにはいかない。


 つまり、延期である。


「内輪の式だけはして、披露宴だけ伸ばすとかは?」


 クオンは首を横に振った。


「誕生日まで待てと言われた。それまでにミレニアスと後宮の問題を片づけるそうだ」

「期限を設定したのか。宰相が頑張っているから、後宮の方は続々らしいね」


 何がとはいわない。違反者の逮捕である。しかし、この件は内々に処罰することになっているため、表向きにはなっていない。


 完全に違う偽名は厳重処罰の対象だが、国民登録や領民登録を確認し、本名から類推可能な通常呼称に関しては処分を緩和し、本名の併記漏れ等のミス、それによる二次的なミスとして扱うなどの対応が考えられていた。


 ちなみに、ララーザは完全に偽名だったが、イーストランド公爵家が総力を上げて弁護してきた。


 出生時はララーザ=マリア=フェデリカ=クリスティーナ=デ=イーストランド=ストラーバスだったが、途中で領民登録の名称が変わったと説明したのだ。


 領民登録上はフェデリカからカルメンになったものの、また元のフェデリカに戻した。変更したのはサードネームだったため、国民登録上はララーザ=マリア=イーストランドのままだったと主張し、領民登録変更に関わる書類等を提出した。


 勿論、嘘に決まっている。慌ててなんとかしようと考え、領主の権限でなんとでもなる領民登録の方でつじつまを合わせたのだ。


 これでカルメンという名称はおかしくない。元々本名、サードネームだったというわけだ。


 ニースというのもやや類推しにくいが、イーストランドの親族がイースという家名を使用しているため、同じものを避けたという理由も合わせて説明している。


 苦しい言い訳だが、イーストランド公爵家の取り巻きの貴族達が証人として名乗り出ているため、完全な違反者の対象から外れることにはなった。


「ミレニアスと戦争はしないのは確定でいいってこと?」


 さすがに二カ月間だけの予定で戦争を開始し、終結させるというのは無理があった。


「今回の森林火災を利用して賠償金をせしめ、国境付近の開拓及び整備、犯罪者撲滅のための厳しい警備体制を要求するらしい」

「賠償金出せないんじゃないの? 貨幣価値は暴落しているし」

「どの程度になるかは森林火災の被害にもよる。現時点ではミレニアス側の被害が深刻で、エルグラード側の焼失部分は少ない。防火帯のおかげで被害が拡大しにくいのだろう」

「不幸中の幸いだね」

「賠償金が払えないということであれば、その分、国境線の位置をずらすことも提案するらしい」

「あー、現物支払いね」

「だとしても、完全に賠償金がゼロにはならないだろう。貨幣価値が暴落していることから、ミレニアスは相当な借金を背負うことになるかもしれない」

「アルヴァレスト大公が支援するかも?」

「だとすれば、それをきっかけに中央に返り咲くかもしれない。金だけ渡して口を出さないわけがない」


 ヘンデルは苦笑した。


「そりゃね」

「とにかく……延期だ」


 あーあ。せっかく結婚式間近だったのに……。


 深い同情を感じつつ、ヘンデルは頷いた。


「わかった。まあ、これだけ忙しいと、二カ月なんてすぐに経っちゃうと思うよお? ちょっと俺、みんなに言ってくるから」


 バタンとドアの音が鳴った。


 部屋に一人。


 結婚式の日が来るのを心の底から楽しみにしていたクオンは、執務机の上に突っ伏した。




「延期ですか?!」


 ヘンデルはリーナの元へも自ら赴き、結婚式が延期になったことを知らせた。


 単に延期するだけでなく、その理由を聞いたリーナは心配そうな表情になった。


「森林火災だなんて……レイフィール様は大丈夫でしょうか? 兵士や住民の方々も大変です!」


 さすがリーナちゃん!


 ヘンデルは心の底から拍手したい気持ちになった。


 普通であれば、まずは大森林の被害やミレニアスとの関係を心配する。


 しかし、リーナはレイフィール、兵士、住民を気にした。賢くないからではない。政治に興味がないからでもない。優しいからとしかいいようがなかった。


「むしろ、第三王子がいれば、迅速で適切な指示が出せる。兵士の安全も確保されるだろうし、住民達のこともしっかり守ってくれるよ」

「そうですね……でも、突然このようになるなんて。やはり、いつ何が起きるかわからないものですね」

「そうだね」


 ヘンデルは落ち着いたところで更に説明を続けた。


「んで、結婚式だけど、十一月になると思う。クオンの誕生日に合わせるか、もしかすると少し早くなるかもしれないけれど」


 王太子の誕生日は十一月後半。


 正直に言えば嬉しくないというのがヘンデルの本音だ。


 というのも、冬になると物価が上がり、生花が手に入りにくくなる。聖夜までは日数があるものの、何かと物資が手配しにくくなる季節である。費用もかかる。


 そういったことを考えるとできるだけ前倒しにしたいが、秋の大夜会が十月末にある。潰したくても潰しにくい。災害対策を考えると、十月は難しい。


 国王や宰相が後宮やミレニアスの件を片づけると言ったからには、終わってからでなければ駄目だと反対する。


 後宮の件は宰相が陣頭指揮を執っている。後宮は国王のものだけに、国王が最も信頼する者が指揮を執るのは問題ない。


 しかし、おかげで情報が入りにくい。


 途中経過の報告等は王太子の元に来るが、詳細な情報がなく、最終的にどの程度になるという目安がなく、推測するしかない。


 内々に処理することは決定しているものの、多くのことをうやむやにされてしまうのは困る。王太子から国王や宰相に対して注文はつけているが、どの程度考慮されるかも不明である。


 状況を考えると、王太子側の希望通り動かすのはほぼ無理だった。


「そうですか。でも、できれば後半にしていただきたいです」

「えっ?」


 ヘンデルの思考は一瞬、停止した。


 まさか、リーナの口から時期についての希望が出るとは思わなかった。


「なんで?」

「試験なんです」


 忙しいヘンデルの頭はうまく回らなかった。すぐに答えが出てこない。


「中学校卒業程度認定試験です」

「中学校卒業程度認定試験よ」


 話を黙って聞いていた妹達が口を開いた。


「あ、ああ~!」


 ヘンデルはようやく思い出したといった言わんばかりの声を出した。


「それっていつだっけ?」

「中旬です」

「中旬です」

「中旬」


 答えが三つ。中旬で間違いない。


「そ、そっか。じゃあ、後半かなあ。誕生日頃だね、きっと」


 王太子の誕生日は土曜日。翌日が日曜日のため、ゆっくりできる。


 決定だなあ。


 ヘンデルは心の中で思いつつ、それを聞いた新郎の落胆する姿を思い浮かべ、ため息をついた。




 王太子の婚姻が十一月下旬に延期。


 その知らせを受けた国民は大いに落胆したが、先だって発表されていたユクロウの森における大規模な森林火災の発生を考えれば、適切かつ仕方がない判断だろうと思われた。


 また続報により、今回の災害は自然災害ではなく、ミレニアスの犯罪組織による人為的なものだという情報も公表された。


 ミレニアスが非難されたものの、犯罪組織が原因であるため、ミレニアスという国自体への非難は軽減された。


 この件によって国境付近への治安維持に関する興味も高まり、両国が協力して犯罪組織の徹底的な摘発と排除をすべきだという世論が強まり、戦争の気配が遠のく結果にもなった。



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