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後宮は有料です! 【書籍化】  作者: 美雪
第七章 婚約者編

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671 リエラ宮の昼食会


 昼食は豪華だったが冷めていた。毒見のためではない。リエラ宮の厨房で作ったものではなく、王宮から持ち込んだものだったからだ。


「まだ厨房が完成していないのだ。そのため、調理ができない」


 国王が理由を説明した。


「どこまで完成していますの? 噂ではほぼ完成していると聞きましたわ」


 第一側妃がいかにも普通を装って探りを入れた。


「外観は完成している。中もほとんど終わっているのだが、一部がまだだ。召使の部屋を後回しにしていた。そのせいで厨房がまだ完成していない」

「召使の部屋が後回しになるのは当然ですわね」


 第一側妃は納得した。最初に召使の部屋を作るわけがない。だが、召使の部屋が完成しなければ住めない。国王が一人で離宮に住むわけがない。


「外装が終わっているということは、小規模な工事ということでしょうか?」


 第二側妃も探りを入れた。


「そうだ。見ての通り大規模な宮殿ではない。しかし、大勢の者達で一気に作るのではなく、少数の者達で作っている。守秘義務の関係だ。そのせいで少しずつしか作れず、時間がかかっている」

「一気に多くの者達を集めて作り、しっかり守秘義務を守らせればいいのでは?」


 第三側妃の意見を、国王は否定した。


「予算にも限りがある。いきなり大きな額を計上することはできない。また、一流の者だけに作らせるということになっている。多くの者達を集めるほど、二流も含まれてしまう。それはできない。こだわっている」

「この部屋もかなりのこだわりようですわね」


 第一側妃の言葉に、他の女性達は頷いた。


 黄金の玄関ホールの隣は、白銀の部屋だった。部屋が銀ピカである。


 金の次は銀。わかりやすいが、趣味がいいとはいえない。


 ダイニングセットは白一色。装飾部分も全て白で、金や銀ではない。


 部屋の全てが銀と灰色と白なので寒々しくもあるが、テーブルの上に赤いバラが飾られているのが印象的でもあった。


「バラの色は白にされなかったのですね?」

「色の指定はしていない。だが、庭園で咲いているバラから選ぶことになっていたはずだ。リエラ宮に飾る花は全てリエラ宮の庭園から見繕うことになっている」

「バラの季節ですので、美しいバラを飾ることができますわね」

「花器も銀ですわね」


 第三側妃は部屋に合わせた色という意味でいったが、国王は否定した。


「これは銀ではない。プラチナだ。銀は磨くのが大変だからな。ここは少数の召使で維持するため、銀は使用していない。食器や小物だけだ」


 花器も小物だと思われたが、大きな花器であるため、小物ではないということなのだろうと側妃達は思った。


 そして、これがプラチナだとなると、相当な金額のものであろうと予想した。


「プラチナの花器というのは珍しいですわね」


 第二側妃が言うと、国王が笑みを浮かべて頷いた。


「うむ。これはリエラの希望で作らせたものだ。銀製品は磨くのが大変だ。大きい花瓶は尚更だろう。そこで、召使の仕事を楽にするために、プラチナの花瓶がいいと言われたのだ。これを見たリエラはとても喜んでいた。優しい女性だ」


 リエラ妃は優しく謙虚な女性だと知られている。贅沢ではなく質素だったとも。


 しかし、召使が銀製品を磨くことに配慮したとはいえ、プラチナの花瓶を欲しがる女性を質素というのはどうかと側妃達は思った。


「そのような品をここに置かれていいのですか?」


 第一側妃は意外だと思った。思い出の品であれば、もっと奥の部屋、自分の部屋などに飾るのではないかと。


「構わない。これはシンプルだからな。もっと装飾的なものがいいというので、他にもプラチナの花瓶を作って贈ったのだ。これはいらなくなったので、適当な部屋で使うことになった」


 つまり、プラチナの花器ではあるものの、シンプルという理由で不用品になったのだ。


 そこで、適当な部屋で使われることになった。つまり、この部屋も適当な部屋ということだ。


 玄関ホールの隣の部屋ということを考えれば、確かに適当な部屋である。おかしくない。


「ちなみに、これは花瓶というよりも花瓶のカバーでな。本当はガラスの花瓶が中にある。それを隠すためのものなのだ。つまり、見た目は大きいが、プラチナだけで花瓶全てができているわけではない」

「プラチナだけの花瓶よりもずっと金額的には抑えられていると?」

「そうなのだ」

「でしたら、ホワイトゴールドでもよかったのでは?」


 第二側妃が意見を述べた。


「その方がより安いと思われます」

「銀でいいのでは? 磨くのはどうせ召使です。仕事があるのはいいことですわ。花瓶を磨くだけでお給料が貰えます」


 国王はリーナを見た。


「リーナはどう思う?」

「花瓶のカバーがあるとは思いませんでした。でも、見たところ形としては花瓶です。薄く作られているということでしょうか?」

「そうだ。とても薄い。上部のふちなどの見えるところは厚く見えるようにしているが」

「でしたら、木製の塗り物にすればいいと思います。金属は重いので持つのが大変です。磨くのが大変というのはわかるのですが、実は持つのが大変だと思うのです。貴重な品だと、余計に扱いには気を遣います。でも、木製の塗り物なら安くて軽いです。手入れも簡単だと思います。勿論、安く作れます」


 その通りである。侍女だったリーナらしい意見ではあった。


 しかし。


「国王の使用する部屋に塗り物というのはどうかしら。あまり感心しないわ」


 第一側妃が怪訝な表情になった。


「そうですわね。高価な素材だからこそ、国王の使用する部屋に相応しいものになります」

「安上りだろうけど、木製の塗り物だとわかったら、軽視されてしまわない?」


 側妃達はそれぞれに意見を述べた。国王も側妃達と同じ意見だ。


「そうだな。安ければいいというものではない。国王に相応しい品でなくてはいけない」

「でも、額縁は木製の塗り物です。王宮のも後宮のも。なので、花瓶カバーも同じでいいと思ってしまいました。申し訳ありません」


 リーナの一言で、国王と側妃達は固まった。


 実は非常に身近なところ、毎日目にするようなところに木製の塗り物があった。


 絵の額縁である。


 それこそ、非常に装飾的で立派なものだ。しかし、素材は金でも銀でもプラチナでもない。木製の塗り物である。


「……全部ではないのではなくて? 金のものもあるかもしれないわ」

「そうかもしれません。でも、かなり小さなものだけだと思います。大きなものは無理です。金属製は元々重いので、立派な装飾があるほど重くなってしまいます。あまり重すぎると壁にかけられません。なので、ほとんどが軽い木製の塗り物です」

「どうしてそんなことを知っているの?」

「侍女だったからです。掃除を担当していました」


 掃除担当の者であれば、掃除するものについて知っていてもおかしくない。


「レフィーナも侍女だったわよね? 知っていたの?」

「確かに額縁は木製の塗り物です。でも、どの程度の額縁が木製の塗り物なのかは知りません。私は専門違いです」


 レフィーナは王宮の侍女をしていた。しかし、担当は掃除ではなかった。


 リーナは興味を持った。


「第二側妃様はどのような担当だったのでしょうか? よろしければお聞かせ願いたいのですが」

「ペット担当よ。そうよね?」


 第一側妃の問いに、第二側妃は頷いた。


「そうです。私は王宮の動物付き侍女でした」

「動物付き?」


 初めて聞いたというような顔をリーナはした。


「知りませんか?」

「はい」

「王宮では様々な動物が飼育されています。わかりやすいもので言うと、馬。移動する際に利用します。それから犬。狩猟や警備用です。他にも色々います。毒見用とか」

「毒見……」


 リーナは驚いた。


「特別な動物もいます。他国から献上された珍しい動物や希少な動物です。このような動物は王宮の専用施設で飼育されています。動物付きの侍女というのは、王宮や後宮内で動物を扱います。勿論、侍従もいます」

「そうなのですか……」

「ですが、人数はあまりいません。昔は毒が混入されることを防ぐために毒見用の動物が多くいたのですが、近年は平和なので、なかなか毒見用の動物が死なないのです。いいことではあるのですが、基本的な飼育は召使がするので、侍女や侍従は獣医のようなものになります」

「獣医?」

「動物の医者です」

「では、第二側妃様はお医者様だったのですか?!」


 リーナは侍女と聞いて同じような仕事をしていたのだと思っていた。しかし、医者となれば話は別である。かなり上だ。


「そうです。女性の医者はかなり少ないのですが、獣医はもっといません。私は父親が獣医だったので、父親の元で獣医になる勉強をしました。そして、王宮の獣医ではなく、動物付きの侍女になりました。当時、陛下の周囲は物騒でしたので、犬や猫などを多く飼っていたのです。その縁で陛下と知り合い、お手付きになりました」


 国王が咳き込んだ。


「レフィーナ、食事中よ? しかも、昼から話すようなことではないわ」


 第一側妃が注意をしたが、第二側妃は平然としていた。


「ですが、レーベルオード伯爵令嬢は王太子殿下の側妃になります。王族付きの侍女になって目に留まり、お手付きになったと思いますので同じようなものではないかと」


 今度はリーナが青ざめた。


「違います! 私、お手付きじゃありません!」


 全員の視線がリーナに注目した。


「あら、違うの?」

「違うのですか?」

「まだ、してないの?」


 何のことかは誰もが理解している。


「私はその……男性とお付き合いをしたことがないので、王太子殿下は……その、結婚するまでは……」


 説明しようとしたものの、説明しにくくなってしまい、リーナは下を向いた。


「……そうか。さすがクルヴェリオンだ。我慢強い。清い交際であるのはいいことだ」


 国王はなんとかその場を収めようとしたが、側妃達は話題を簡単には離さなかった。


「我慢強い? やせ我慢では?」

「もうてっきり色々していると思っていました」

「お子が生まれる前に婚姻しなければと思っていたわけではないのですね。あまりに急ぐので気になっておりました」


 国王は側妃達を同行者にしたことを後悔した。


「この件については話すな。今日はお前達の質問に答えさせるためにリーナを呼んだわけではない。わかっているのだろうな?」

「わかっておりますわ。私、リーナとは仲良くしたいと思っていますの」


 第一側妃が微笑んだ。


「リーナは母親がいないでしょう? レーベルオードにもいないのと同じですし、王妃も冷たいとなれば、私が母親代わりになるしかありませんわ。エゼルバードもリーナのことを妹のように可愛がっていますのよ。ならば余計に私も娘として可愛がらないと」

「レーベルオード伯爵令嬢は動物がお好きでしょうか? もしよければ木星宮に来て動物たちを触れ合いませんか? 絶対に癒されます。そればかりか、モフモフ天国ですわ!」

「私、社交は苦手ですのでなかなかお会いする機会がないかと思います。土星宮も遠いことですし、何かあれば手紙でお知らせいただきたくお願い致します」


 話題は急展開。今度は交友方法等のアピールに変わった。


 国王は一気に疲れたような気になったが、先程の話題よりはましだと感じた。


「リーナは婚姻後も王宮に住む。お前達と関わっている時間はない。ただでさえ勉強に忙しいのだ!」


 国王はそういって側妃達を諫めようとしたが、リーナが思わぬ発言をした。


「王宮に? 後宮に住んで、時々王宮に来ればいいと王太子殿下は仰って下さっているのですが……」


 国王がしまったと思ったが、すでに側妃達が飛びついていた。


「まあ、後宮に住むのね!」

「王宮だと思っていました」

「私も」


 側妃達も勢いは止まらなかった。


「でも、その方がいいわ。王宮は疲れるから。あんなところに住んでいたら不幸になるわ」

「同感です」

「王宮よりは後宮の方が暮らしやすいですわ」

「だってまず、王宮には王妃がいるでしょう? 何かと厳しいから、ほんの些細な失敗でもうるさく言ってくるわ」

「王宮の王族付き侍女はとても頭が固いのです。旧時代の者達のように」

「礼儀作法を守るのは大切だけど、自室の中までうるさいのはどうかと思うわ。自室の意味がないじゃない」

「王宮は最悪よ。情報も漏れるし」

「後宮に住んだ方がいいと思います。正妃の場合は王宮に住まなければなりませんが、側妃は堂々と後宮に住めます」

「はっきりいって、側妃の方が幸せになれるわよ。正妃は苦労するだけ」


 後宮の方がいいというアピールが始まった。


 それは側妃達の本音である。そして、自分が後宮に住み続けたいからでもあった。


 国王が後宮を縮小化する決定を行っている。側妃達はその影響で自分達の平穏な日々が崩れ去ってしまわないかを警戒していた。


 しかし、王太子が側妃を後宮に住まわせれば、後宮の閉鎖はできない。縮小化するにしても第四王子がいなくなる水星宮や使っていない金星宮を閉鎖状態の月光宮に加えるだけで、太陽宮や側妃達が住む宮殿には手をつけないだろうと思われた。


「でも、問題はあると思うのです。私が後宮に住むとお金がかかってしまいます。王宮にも部屋があるからです。単純に考えて二倍です」

「その通りだ」


 今度は国王が飛びついた。


「それを考えると、リーナは王宮に住んだ方がいい。そうすれば、使っていない部分は閉鎖できる。経費削減ができるだろう。勿論、その分はリーナや側妃達の予算にも影響が出る」

「私達の予算にも?」

「増えるのですか?」

「詳しく教えてくださいませ」


 側妃達も国王の言葉に興味を示した。


「まだはっきりとは決めていないが、後宮予算を大幅に縮小できれば、王家の予算にも余裕が出るかもしれない。予算の見直しがあるだろう。その際、必要であれば個人予算を増額するかもしれない。というのも、いずれは私も退位する時が来る。この宮殿に移るつもりだ。となれば、引退後の予算がいる。またお前達が後宮に住み続けるのは難しいだろう。クルヴェリオンは後宮の完全閉鎖を目指すに決まっている。そのようなことに備えて蓄えるための予算が必要だと思っているのだ。屋敷の購入費や年金用の予算だ」

「私、屋敷はすでにありますわ。その分年金を多くしていただきたいですわね」


 早速第一側妃が希望を告げた。


「私は動物達と離れたくありません。シロやクロロも一緒に住めるようなお屋敷が欲しいですわ」


 第二側妃はペット達を引き取り、一緒に生活する気まんまんだった。


「私の存在はご迷惑なだけでしょう。ですので、陛下が引退後に離縁していただいても結構です。その代わり、一生生活に不自由しないだけの個人財産をいただきたく思います」


 生きて行くにはお金がいる。息子も夫もあてにできない。第三側妃は個人財産をしっかりと貰って離縁することを考えていた。


 側妃達は後宮を出て行くことに強くは反対しないと感じ、国王は頷いた。


「できるだけお前達の意見を尊重したい。だが、そのためには後宮予算をなんとかしなければならない。後宮の縮小化や一部閉鎖は私やお前達のためなのだ。わかるな?」

「まあ、わからないわけではありませんけれど」

「いつ引退されるのですか? いきなりでは、準備に困ります」

「事前に個人財産を配分して下さい。新王がどの程度配慮してくれるかわかりません」

「そうね。事前に少しはいただいておかないと」

「確かに」


 お金の話になった。自分の将来の生活がかかっているだけに真剣である。


「まあ、待て。まずは王太子の婚姻に金がかかる。そして、リーナが王宮に住み、必要ない後宮の一部は閉鎖し、それでどの程度の予算が浮くかによる。順番だ」

「しっかりと考えて下さいませ」

「年金もですが、可愛い動物達のことも妥協しませんので」

「お金はください。絶対に」


 国王は頷きながらリーナを見た。


「リーナもわかったな? 王宮に住むのだ。その方が、正妃同然として尊重される」


 誰もが了承すると思っていた。しかし。


「王太子殿下に相談します」


 国王による第一回目の説得は失敗に終わった。



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