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後宮は有料です! 【書籍化】  作者: 美雪
第一章 召使編
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67 第二王子の側近

 リーナは白の控えの間に付属するトイレに来た。


 そこには人がいた。第二王子の部下だ。


「申し訳ありません!」


 リーナはすぐに立ち去ろうとした。


 使用者がいるのに掃除をするわけにはいかない。


 召使いは高貴な者の視界に入るだけでも無礼となりかねない存在だ。


「待て!」


 リーナはピタリと止まった。


「問題ない。お前宛の手紙を置きに来ただけだ。直接会えたのであれば、手紙は必要ない」


 第二王子の部下は掃除道具入れを開けると、置いたばかりと思われる手紙を回収した。


「お前と少しだけ話がしたい。夕食後、金の控えの間に来い」

「……はい」

「何時頃になる?」

「残業はないので、十九時から夕食です。二十時頃であれば行けると思います」

「では、二十時に来い」

「はい」


 第二王子の部下は行ってしまった。


 よくわからないが、何かまた質問されるのではないかとリーナは思った。


 第二王子や第三王子の部下に何か言われた時はパスカルに教えることになっている。


 第二王子の部下は……どうするの?


 真面目なリーナだからこそ、言葉通りに考えてしまう。


 だが、今は何を言われるかもわからない状態だ。


 考えても仕方がないとリーナは思った。


 まずは第二王子の部下から話を聞く。それから考え、パスカルに伝えればいい。


 もしかすると、重要なことではないかもしれない。


 どうでもいいようなことを伝えるのはよくない気がした。


 パスカルがどんな些細なことでも教えて欲しいと思っていることを、リーナはわかっていなかった。





 勤務時間が終わるとリーナは素早く入浴して食事を済ませた。


 約束している二十時に金の控えの間に行く。


 そこにはすでに第二王子の部下がいた。


「そこにかけろ」

「はい」


 リーナがソファに座ると第二王子の部下は席を立ち、すでに用意されているワゴンに向かった。


 お茶を入れ菓子が盛られた皿を持ち、リーナの方にやって来る。


「これはお前のだ」


 テーブルの上にティーカップと菓子の皿が置かれる。


 リーナは第二王子の部下がわざわざ自分のためにお茶と菓子を用意してくれたことに驚いた。


 しかも、第二王子の部下の分はない。リーナだけの分が用意された。


「……ご厚意は嬉しいのですが、私だけがいただくわけにはいきません。それとも毒味ということでしょうか?」

「毒見ではない」


 眉をひそめた第二王子の部下はそう答えた。


「わざと一人分しか用意させなかった。二つ用意させれば、私が誰かに会うためにここにいるのがわかってしまう。私の分として用意させたが、本当はお前のために用意したものだ。遠慮しなくていい」


 第二王子の部下はリーナの隣に座った。


「個人的な用件だ。第二王子のではない。まずは自己紹介をする。私はロジャー・ノースランド。ノースランド公爵の孫であり、ノースランド伯爵の長男だ。ノースランド子爵を名乗っている。第二王子の側近だ。正式な地位名は第二王子執務補佐官。第二王子とは幼馴染で友人でもある。趣味は読書、美術鑑賞、乗馬、狩猟、剣術。独身だ」


 リーナは驚いた。


 なぜそんなに詳しく自己紹介をするのかと不思議に思うしかない。


「先に話しておかなければならないが、私には四人の婚約者候補がいる」


 四人も?


 かなりモテるようだとリーナは思った。


「私の祖父母や両親が一人ずつ勝手に決めた。だが、妻になる女性は自分で決める」


 男性は婚姻する際、必ず成人としての権利を行使できる。


 側近である以上、婚姻には第二王子の許可が必要でもある。


 祖父母や両親が勝手に妻や婚約者を決めることはできない。


「私が妻に望むのは大人しく従順で無欲な女性だ」


 ノースランド公爵家の財産や権力を欲しがるような女性はどれほどの高条件でも必要ない。


「状況によっては平民の女性であっても婚姻できる」


 そのままだと貴賤結婚になってしまうが、適当な貴族の家に養女に入れて体裁を整えれば可能だ。


「お前は真面目で誠実で従順だ。第二王子殿下もお前の功績を知っている。そこでお前を私の妻の候補の一人として検討してみることにした」

「えっ?」


 リーナは困惑した。


 なぜそんなことになるのかさっぱりわからない。


「重要なことを質問する。お前には恋人がいないな?」

「……いないです」


 パスカルに好きだと言われたが、別にパスカルと付き合っているわけでも、恋人同士なわけでもない。


 パスカルはリーナが幸せになれるように力を貸し、助けてくれるような存在だ。


 保護者のようなものかもしれない。


 身分差があるため、そもそも結婚などありえない。


 リーナは身分の高い者との結婚を夢に見ることができるような身分でも立場でもないことをよくわかっていた。


 ところが、ロジャーは貴族、公爵家の者であるにもかかわらず、リーナを妻の候補として検討するという。


 おかしいわよね?


 リーナはシンプルにそう思った。


「婚約者もいないな?」

「いませんけど」

「独身だな?」

「そうです」

「未婚だな? 離婚経験はないな?」

「ないです」

「ずっと一人ということだな?」

「そうです」


 孤児だし。


「処女か?」


 そんなことも聞くの?


 リーナは眉をひそめた。


「違うのか? すでに多くの男性と付き合った経験があるのか?」

「違わなくありません、処女です! 男性とお付き合いしたことはありません!」


 リーナは答えた。勘違いをされたくなかった。


「なぜそのような質問をするのかと思ったかもしれないが、とても重要なことだ。私が身分の低い女性を選べば、周囲が勝手に騒ぐ。貞操観念について確認しておきたかった。清く正しい関係だと主張できる」


 まあ、わからなくはないですけれど……。


 リーナは心の中で呟いたが、不満気な表情は変わらなかった。


「お前もいずれは結婚相手が欲しいだろう?」

「まあ、できそうであれば……」

「私はどうだ? 一生、不自由はさせない。最初は子爵夫人だが、ゆくゆくは公爵夫人だ。多忙なため、屋敷に戻ることは少ない。自由に過ごしていればいい。身分が低いと思われても、跡継ぎを産んでしまえば安泰だ。悪くない話ではないか?」


 リーナは眉間の皺を深くした。


 いきなりそんな話を言われても困るとしか言いようがない。


「私の話を聞いてどう思った? 本心を話せ。何を言っても怒りはしない。正直であることの方が優先だ」


 リーナは答えた。


「……突然そのようなお話をされても困ります。正直にいえば、よく知らない相手と婚姻するのは不安です。身分も全然違います。私よりも相応しい女性がいると思います」

「私の妻になるのは嫌だということか?」


 リーナはうつむいた。


 言いにくい。凄い話ではある。玉の輿だ。


 しかし、全然乗り気になれない。


 ロジャーはリーナを妻にすることを検討すると言ったが、そんな雰囲気ではない気がした。


 淡々と話している。事務的に。


「お前が私のことを何とも思っていないのは知っている。私もお前のことを何とも思っていない。だが、政略結婚とはそういうものだ。今後の生活が保障されるというだけでも、十分魅力的ではないのか?」


 ロジャーの言葉にリーナは唖然とした。


 政略結婚! そのせいだわ!


 リーナが考えるのは恋愛結婚のみ。


「何とも思っていないなら、結婚を考えるのはおかしいです。それに政略結婚と言われましたが、私は全然役に立ちません」

「益はある」


 ロジャーは反論した。


「お前にはうるさい身内がいない。私の好きにできる。ノースランド公爵家はすでに身分も財産も権力もある。妻の実家に頼るほど落ちぶれてはいない。縁を広げる必要もない。どうしてもというのであれば、私以外の者が縁を広げればいい。私は当主になる者だからこそ、妻を自由に選べる。そうでなくてはならない」


 ようするに、ロジャーは自分にとって都合がいい女性を妻にしたい。それだけだ。


「今は互いに何も感じないかもしれないが、夫婦として共に過ごしていくうちに変わっていくかもしれない。子供が生まれれば強い絆もできる。最初から愛情がなければならないとは限らない。後からであっても愛が生まれればいい。先か後かの問題で、結果は変わらない」


 リーナは違和感を覚えた。


 何も感じない相手に愛情が生まれるのだろうかと。


 子供が生まれれば変わるという説明はわからなくもないが、納得できなかった。


「私にはよくわかりません。ただ、結婚するというのは、相手のことを想うからこそでありたいです。政略結婚をする方もいるとは思いますけど、私は平民です。普通に暮らしていければいいので、政略結婚をする意味はないと思います」

「贅沢な暮らしは望まないということか?」

「憧れますが、無理です。自分に相応しい暮らしができれば十分です」

「そうか。今の答えが嘘だったとしても、お前に対する評価は上がった」


 リーナにとっては上がっても困る評価のように思えた。


「もう少し質問をする。お前の出自に関するものだ。妻にするかどうか検討する相手であれば、詳しく調べるのは当然だろう。正直に話せ」

「出自は平民です。孤児なので、孤児院で育ちました」


 それはすでにわかっていることだった。


「両親が死んでからだろう? お前が覚えている幼少時の生活環境がどのようなものだったか、孤児院での生活環境も合わせて知りたい。身上調査だ。詳しく話せ。話さないようであれば命令する」


 命令されれば従うしかない。


 リーナは自身の過去について説明することになった。



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