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後宮は有料です! 【書籍化】  作者: 美雪
第七章 婚約者編

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669 プラン変更

 王宮。エルグラードで最高位の男性とその盟友である男性は陰気な雰囲気を醸し出していた。


「困った……どうする?」

「予定通りにいかないのはよくある。むしろ、常だ」


 エルグラードにおける歴代最高の宰相と言われるラグエルドことラーグはエルグラード国王ことハーヴェリオンの問いに答えた。


「それはそうだが、ここまで来て……大修正ではないか?」

「別にいい。なんとかする」


 ラーグは冷静な口調でそう言ったが、国王は冷静になれず、深いため息をついた。


「リーナのおかげで後宮を綺麗にできると思ったのだが……」

「それを言い出したのは私だが?」

「そういえばそうだった」


 執務ばかりで女性に見向きもしない王太子クルヴェリオンがようやく興味を持つ女性を見つけた。


 平民の孤児。


 ところが、その女性の本当の出自はミレニアス王族の娘かもしれないともわかった。


 もしそうであれば、身分的には釣り合わなくもない。


 それでも元平民の孤児という出自はよくない。エルグラードの経歴を上手く抹消し、ミレニアスの王族、別人のように仕立てて婚姻した方がいい。


結婚後は王宮の部屋にできるだけ籠って貰う。夫である王太子は元々社交をしない。ミレニアス王族であるため、エルグラードの作法等を学んでいるなど様々に理由をつけ、会える者も制限する。とにかくなんとかなる、なんとかできる範囲である。


 それができない場合は体裁だけ整えて側妃。王太子は正妃一人しかいらないといっているが、その辺も対応次第だ。側妃にする代わりにミレニアスの王女を正妃にする。あるいは別の者でもいい。目立つところだけ取り繕えばいい。側妃の子でも王位につける。


 王太子は反対するに決まっているが、国王の勅命という最終手段もある。密約で条件を飲ませる手もある。飾りの妻は数年で死去するようにする。事故死か病死に見せかける。


後妻にする者は条件が緩くでき、跡継ぎの生母は尊重されるという常識と慣例を利用して側妃から正妃にすると約束する。


 勿論、これはただの一案で、他にも多くの案があった。状況次第で適宜に変更可能だ。


 結局、リーナ=セオドアルイーズはリーナ=レーベルオード伯爵令嬢として生きることになった。ミレニアスの王族にはなれなかった。


 ミレニアス王族になった場合がプランAなら、プランBである。


 色々あったが、なんだかんだと上手く対応し、処理し、側妃にこぎつけた。


 いくら体裁を整えているとはいえ、平民の孤児を王太子の妻にするのは前代未聞である。


 王太子がここまで自らの信念を固持したことに呆れ、負けたと思う一方で王者らしいと感心し、褒めたい気持ちもあった。


 単純にリーナという女性の性格などを考慮すれば、とても都合のいい女性だ。優しくて穏やかで控え目。謙虚。誠実。献身的。従順。努力家。いいところはきりがない。


 王太子の妻として理想的ではないかと思えた。平民の孤児という部分以外は。


 せめて末端貴族の令嬢であればと思ったのはいうまでもない。腐っても貴族というだけで全然違う。


 リーナを利用するというプランは細かく変更されながら王太子の知らないところで進行していた。


 能力のある平民を活用する新時代。ついにそれが王太子の妻にまで来た。


 そう国民に思わせ、王太子がいかに身分や出自だけで判断しないか、能力やその者の人柄などを冷静に重視することを知らしめるのに役立てるつもりだった。


 これがうまくいけば、王太子の知名度と人気は一気に上がると思われた。


 昔なら大醜聞で王位継承権を失うところだが、今はそのような時代ではない。乗り越えられる時代にしていかなければならない。


 もうここまで来たら、流れに従って後宮を無くす、というのも内々の決定事項だった。


 王太子は唯一の寵愛する妻を王宮に住まわせる。側妃だろうが関係ない。


 元々、側妃は後宮に住まなければならないという規則があるわけではない。王妃と権力及び縄張り争いをしないようにするための処置でしかない。問題なければ側妃も王宮に部屋を持てる。


 ただ、今の側妃達は王宮の不自由さ、窮屈さなどを様々に嫌って後宮に住んでいるだけだった。


 リーナは大人しい。従順だ。王太子の望むように生きる。真面目で努力家。王宮に住むことに同意し、住み慣れるように自らを向上させ、努力する。問題ない。


 元々、国王が後宮を縮小するという決定はすでに公表している。旧時代のように、多くの側妃や愛人がいるわけではないからだ。


 王太子の側妃が後宮に住まないこと、内々には済ませるものの偽名問題等の大不祥事があったことを理由に側妃が住まない部分を閉鎖。人員を大量解雇。


 少しだけ時間はかかるが、いずれは国王の側妃達もいなくなる。


 新王になれば、前王の側妃達は後宮に残る場合もあるが、追い出されることもある。それが普通であり、これまでの歴史だった。


 第一側妃は自分の屋敷を持っている。そこに住めばいい。第二王子が息子として援助をするだろうが、そうしなくても十分に財産はある。


 第二側妃は養女に入った実家に戻れない。多くのペットを飼いたがるため、追い出される。そこで、第三王子が小さな屋敷を買い与える。元平民だけに不満は言わない。むしろ、自分だけのモフモフ天国だと喜ぶ。


 第三側妃は息子がいるものの、あてにはならない。面倒を見るわけもない。そのため、前王あるいは新王が小さな屋敷と小額の年金を用意する。生活が保障されるのであれば了承する。反抗するような女性でもない。


 こうして後宮に住む側妃は完全にいなくなる。


 王弟とその息子は完全無視。監視のために王宮敷地内に住まわせているものの、反逆の可能性も低いため、僻地に飛ばしてもいい。


 こうして王家も後宮も綺麗になる。そうハーヴェリオンとラーグは思っていた。


 だというのに、王太子が考えを変えた。


 リーナを後宮に住まわせる。王宮にも部屋を与えるが、時々利用すればいいだけにする。


 そう言いに来たのだ。


 勿論、その理由は確認している。


 リーナが不自由で窮屈な生活をしないようにするためだ。


 それはわかる。だが、リーナが不満を言ったわけでもないだろうとハーヴェリオンとラーグは思ったが、完全に予想が当たったわけではなかった。


 リーナは頑張っている。真面目に努力している。しかし、だからといって何も感じていないわけではない。やはり、窮屈さは感じていた。後宮の方がくつろげると思っていた。


 国王の側妃達も同じだけに普通のことだった。むしろ、側妃のため、王宮に住まなくてもいいことを利用し、後宮でくつろぎ、自由に暮らすというのはおかしくない。


 ハーヴェリオンの寵愛する側妃リエラはまさにそうだった。低い出自のせいもあって、王宮には絶対に住みたがらなかった。


 そうなると、後宮に住む側妃が増える。しかも、若い。子供も生まれるであろうことを考えると、その者達も後宮に住むかもしれない。


 後宮を無くせない。第四王子が成人することにより、奥の方にある一部の場所は閉鎖可能かもしれないが、それだけともいえる。


 一気に後宮の大部分を閉鎖し、人員を強制解雇、それで不正をしている者も、利権を貪っている者も、借金をしている者も全部清算するはずだった。


 それを見越して、様々な問題が起きつつも内々に済ませ、処罰を軽くし、来るべき時までに貴族達の不満が溜まり過ぎないようにうまくあやしていたつもりだった。


 大勢の失業者が出ることを懸念する者達がいるが、王家の予算は王家のために使うべきである。王族がいらない後宮に莫大な金をつぎ込み、それで贅沢をしているなどと思われたくない。


 贅沢をしているのは、むしろ借金までして給料以上の生活をしている後宮の者達だ。王家の金で王族ではなく、多くの貴族や平民が不自由のない生活をしている。有料化にしたところで、結局は借金し放題のため意味がない。全ての金を出すのは国王だ。


 後宮の者達が強制解雇でも仕方がない。それが世の中の厳しさだ。後宮に限ったことではない。雇い主の都合次第で解雇は普通にありえる。


 投獄されても悪いことをしているのであれば当然だ。牢獄に入れば住む場所と食べ物は確保される。もしかすると失業者よりもましな状況になるかもしれない。


 だというのに、そのプランは変更しなくてはいけない。


 プランC。いや。DかEか。とにかく、まったくもって想定外だった。


「リーナを説得するのが一番簡単ではないか?」


 ハーヴェリオンは提案した。


「リエラのように絶対に嫌だといっているわけではない。王宮でも住み心地がよくなるようにしてやればいいのではないか?」

「それも一つの手ではある。しかし、王宮だけに難しくもある」

「まあそうだが、王太子が寵愛しているのであれば、甘やかしてもおかしくないのではないか? ようやく見つけた女性だ」

「王宮には王妃がいる。甘やかしすぎるとうるさい」


 急激にハーヴェリオンは頭が痛くなってきた。


「忘れていた」


 リーナが王宮に住んでも、真面目に努力している姿を見れば、いつかは王妃もしぶしぶかもしれないが認めるだろうと予想していた。


 リーナが多くの子供を産み、大勢の者達に慕われ、国民に愛される王太子の妻になれば、認めざるを得ないとも。


 だが、甘やかして便宜を図りまくりでは、王妃がうるさいに決まっていた。


 それこそ、王妃という立場を使ってリーナと敵対するか、自らが完璧な女性になれるように導くしかないと腹をくくり、スパルタ教育をするかもしれない。


 どう考えても、王太子と王妃の対立は深まり、リーナの肩身が狭くなる。よくない。


「……まあ、クルヴェリオンが新王になれれば、王妃はどうでもいい。幽閉するなり王家の直轄領のどこかに住まわせておけばいいではないか。王都にいる必要さえない」


 弟ばかりを溺愛する実の母親を幽閉したハーヴェリオンは、まったくためらうことなくそういった。


 国王か処刑かという命運を賭けて王権の奪取に挑んだだけに、冷酷な判断には慣れていた。そうでなければ王座から追われ、処刑の運命だったのは間違いない。


 エルグラードが平和で繁栄しているのは、自らの権力と欲望のままに国を牛耳って来た者達を容赦なく処刑したハーヴェリオンの功績であるのは間違いなかった。


「よし! 説得してみよう。食事かお茶をしながら王宮に住むことを勧める。簡単だ。すぐに頷く。努力する、頑張るというだろう。リーナはそのような女性だ。国王が言えば、拒否するわけがない」

「後で王太子が抗議に来る」

「だとしても、それでプランを変更しないで済むならいい。私が耐えればいいだけではないか」


 ラーグはそれ以上言わなかった。ハーヴェリオンの言う通り、リーナを説得すれば簡単に済む話だった。そして、説得は容易だ。


「任せておけ。すぐにいい知らせを届けてやろう」


 ハーヴェリオンは自信満々の笑顔になった。



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