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後宮は有料です! 【書籍化】  作者: 美雪
第七章 婚約者編

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667 率直な意見

「実は今回お前との時間を持つことにしたのは、気になることがあったからだ。それについても率直に話をしたい」

「どのようなことでしょうか?」

「青玉会のことだ」


 そのことかとリーナは思った。


「昼食会に行き、役員会の様子も見学したと思うが、どうだった?」

「とてもいい経験ができたと思います。貴族の女性はあのような社交グループに所属して交流し、様々な活動をしていることがわかりました。青玉会は王女が設立したので、王族の方もグループを作って親しい者達と一緒に過ごすのだとわかりました」


 今度はリーナが質問した。


「クオン様もグループを主催されているのでしょうか?」

「ないわけではないが、私が作ったというよりは慣例である」

「慣例ですか?」

「作りたいと思わなくても、第一王子の会と王太子の会というのが自動的に作られる。未成年の時は王太子の会で、催しを主催する勉強をしていた」

「勉強用のグループということでしょうか?」

「わかりにくいかもしれないが、公式は王太子主催、非公式は王太子の会主催と思えばいい。今は基本的に王太子主催のものばかりだ。王太子の会主催ではない。会というのは会員相手、つまり、一部の者達だけが集まることになる。学生の時は友人や同じ学校の者が招待の対象になった」

「なるほど」

「私は執務に忙しいため、社交的な活動自体が少ない。自分で主催するグループについての相談であれば、エゼルバードやレイフィールにするといい。二人は自分のグループを今も活用している」

「第二王子の会と第三王子の会ですか?」

「白薔薇会と黒竜会だ。名称は自分で好きなものに変えてもいい。何も言わないと第二、第三などとなるだろう」


 好みだけでなく、社交やグループ活動のやる気があるかどうかの問題でもありそうだとリーナは思った。


「すでにある既存のグループに入会してもいいが、側妃に相応しいグループでないと無理だ。会員としての待遇も最上位でなければならない」

「会長でないと駄目ということでしょうか?」

「名誉会長や役員、幹部、監査などでもいい。実務を他の者に任せるためという理由で、自分が会長にならなくてもいい。所詮、グループだ。むしろ、会長ではない方がいいかもしれない。途中で嫌になったら退会しやすいだろう」


 リーナは自分の聞いた情報を元に意見を述べた。


「でも、青玉会はまず準会員になって、それから正会員になると聞きました」

「私も聞いた。ヘンデルの話では、正会員枠に空きがあるため、準会員からすぐに正会員になることは可能だということだった。側妃であれば名目上だったとしても役員だろうとも。詳しくは青玉会に確認しないとわからないが、元は王女が設立したグループだ。女性を支援する活動をしているため、社会的な貢献度も高い。基本的には問題ないため、入会したいのであれば、具体的な話し合いの場を設けるつもりだ」

「月明会は駄目ですか?」

「正直に言ってしまうと、お前が側妃になったら自動的にできる会に所属する者達を吟味するためのものだ。お前が所属するものではない」

「そうでしたか」

「青玉会に入りたいか?」

「気になりますが、一回だけしか行ってないのでまだよくわからない感じはします。後、物凄くお金がかかるのも気になります。正会員の入会金は百万ギールらしいです。しかも、年会費は十万ギールとか。びっくりするほど高額です!」

「普通ではないか?」


 クオンは至って平静だった。


「社交活動には金がかかるに決まっている。無料で場所を確保し、飲食できるわけがない。王宮で何かをするにしても、全て金がかかっている。恐らくだが、自分で主催するとそれ以上に金がかかる。一回主催するだけで百万ギール以上かかる」

「……そんなにかかるのですか?」


 リーナはまさかそれほどの大金が必要になるとは思ってもみなかった。


「王族にふさわしい催しをするには金がかかる。むしろ、青玉会に入会した方が安いだろう。多くの者達が平等に金を出し合い、協力し合うからだ。自分が全て、あるいは一番多く出さなくてもいい」


 なるほどとリーナは納得した。


「実は、私やレーベルオード伯爵家、お前宛てに様々な招待状や案内状が届いている。社交グループからの誘いもある。参加できるかどうかは私の許可がいるが、招待状や案内状を見るだけなら見てもいい。どういったグループがあるのか、活動内容なども少しはわかる。参考になるかもしれない」

「見てみたいです」

「わかった。急ぐ必要はない。じっくり検討するといい」

「はい」


 話はまだあった。


「実はまだあるのだが……」

「何でしょうか?」

「結婚後のことなのだが……王宮に住むのは嫌か?」


 リーナは首を傾げた。


「側妃は後宮に住むのでは? 王宮にも部屋はあるようですけれど」

「慣例としてはそうだが、それは多くの妻がいたからこそだ。私の妻はお前だけだ。側妃であっても王宮に住める。部屋があるのはそれをあらわすためだ。王宮に自分の部屋を持たない側妃は後宮に住むということでもある」

「そうでしたか」

「お前は王宮の部屋よりも後宮の部屋の方が好きなようだ」


 リーナは気まずくなった。


「イレビオール伯爵令嬢から聞いたのですか?」

「ヘンデルから聞いた。ヘンデルは妹達から聞いたようだ」


 兄と妹が話をするならおかしくない。そもそも、イレビオール伯爵夫人の紹介で青玉会の昼食会に招待されている。その様子がどうだったのかをヘンデルが知りたがるのは当然のことであり、カミーラやベルが話すのも当然のことだった。


「それだけなら、内装の好みの問題かもしれない。だが、王宮での生活は窮屈なようだ。侍女達がいると気になってしまうのだろう?」


 王族にとって側付きが常にいるのは普通のことだ。部屋の中にいても気にせずくつろげばいいのだが、リーナにはそれが難しいようだという報告が届いていた。


「大丈夫です。まだ移動したばかりで慣れてないだけです」

「それもあるだろう。だが、正式な側妃になれば儀礼的なことが増える。余計に窮屈さを感じるはずだ。それが嫌で国王の側妃達は全員後宮に住んでいる。後宮の方が自由に過ごせ、くつろげるからだ」


 リーナは否定できなかった。王宮に来て生活するようになったからこそ、制限されているはずの後宮の生活の方が自由でくつろげるものであったことに気付いた。


「私は結婚したらお前を王宮に住まわせようと思っていた。その方が寵愛を示すことができ、他の者を妻にはしないこともわかる。私の部屋にも近い。会いやすくなるだろうと思った。だが、婚約してわかったことがある。都合よく解釈していたが、実際はいいことばかりでもない」


 クオンは忙しかった。結局、部屋が隣でも会えない。執務室の隣で仮眠している。


 しかも、王宮内のことだからか、あちこちに情報が筒抜けだった。


 婚約者を自分の部屋の隣に住まわせているものの、仕事に忙しくて全然会えない。デートをしていないことも知られていた。


 王族エリアにおけることなのだが、どこからか情報が洩れているのだ。勿論、非常に重要な機密が漏れているともいえず、ただの噂だと思ってもいいのだが、王族のプライベートに関わる内容であり、事実でもある。


 リーナが部屋に籠って勉強三昧のことも知られている。


 一部では元平民だけに宮廷儀礼を集中して教えている、婚姻の衣装の準備に余念がない、王太子の寵愛が深すぎて外出させてもらえないなど、あまりよくなさそうな噂もある。


 部屋から出ないだけでも様々に言われる。部屋から出ればもっと多くのことが言われるのもわかっていた。


 そして、一番クオンが心配しているのは、リーナが自分に何も言わないことだ。


 侍女達がいる時は緊張し、礼儀正しくしようと努めている。だが、大変なのであれば、自分に打ち明けて欲しい。本当は嫌だと。辛い、苦しいと。


 リーナは我慢強い。努力して自分が向上していけばいいと考える。


 クオンはそのことを評価していた。だが、ここにきて、逆に心配になり始めた。


 自分に会いたいとも言わない。我儘だ、甘えてはいけない、足を引っ張ってはいけないと思っている。


 そこまで我慢しなくてもいい。忙しくても会いたいと言えばいい。甘えてもいい。足を引っ張ってもいい。妻なのだ。夫に会いたいのも、甘えるのも、頼るのも当然だ。


 自分にだけは本心を言って欲しい。我儘放題でもいいのだと思った。だが、そうではない性格であるのもわかっている。実際に我儘放題でも困る。難しい。


 だからこそ、リーナのためであれば変えてもいい。


 後宮をなくすという決意を。


 リーナが王宮よりも後宮の方が住みやすいと感じくつろげる、自由になれる、笑顔でいられるなら、王宮に無理に住まわせなくてもいいとクオンは考えるようになった。


 自分が常に側にいて、笑顔になるようにしてあげることができない。仕事が忙しくて構うことができないのであれば、その分、リーナの生活ができるだけ自由でくつろげるものになるように可能な限り配慮したい。毎日を笑顔で過ごせるように。


 クオンはリーナを守りたいのだ。心の底から。幸せにもしたい。


 リーナは正妃ではない。だからこそ、後宮に住んでもおかしくない。それはある意味、窮屈で辛いことが多いであろう王宮から正当に逃れることができるということでもある。


 国王の側妃達も後宮に一生住みたがっている。王宮には王妃がいる、部屋が狭くなるといった理由ではない。王宮という場所自体が儀礼的過ぎて重圧過ぎて窮屈で嫌なのだ。


 クオンがリーナを王宮に住まわせることは、リーナを王宮に縛り付け、それが不幸の元や苦しみの元になるのではないかという考えが否定できない。


「後宮に住みたいのであればそれでもいい。公式行事の時など、時々だけ王宮の部屋を使ったり宿泊したりすればいい」

「クオン様は後宮のことをよく思われていないはずです。なのに、私が後宮にいてもいいのですか?」

「お前にとって過ごしやすい日常、辛くない日々を送れるようにすることも大切だ。王宮はどうしても人の目がある。堅苦しくなるだろう」

「……気になったのですが、私が王宮に住み続けている間も後宮の部屋はそのまま維持されていると聞きました。後宮に住む予算だけでなく王宮に住むための予算が追加されているとも。なので、後宮の侍女達のことは気にしなくていい、会えなくても解雇されているわけではない、大丈夫というような話だったのですけれど、つまり……私のために沢山のお金がかかっているのですよね? 後宮と王宮の両方に住めば、単純に考えて費用が二倍かかります。実際はそれ以上かもしれません」

「否定はしない。だが、普通のことだ。気にしなくていい」


 クオンはそう言ったが、それは他の者達が言った言葉でもあった。


 しかし、リーナは気になっていた。


 今の生活が贅沢であるという自覚があった。それが後宮だけでなく、王宮でもということになれば、贅沢な生活が二つあるようなものになる。お金がとてもかかる。自分が支払っていないためによくわからないが、恐ろしいほどの費用がかかるに違いないと思った。


 ドレスや宝飾品などの値段も恐ろしいかもしれないが、人件費も多くかかる。


 リーナは王族付き侍女として働いていただけに、その時の給料はわかる。その人数分というだけでもかなりの大金だ。それが毎月、毎年……計算できるからこそ気にしてしまう。


「後宮には数人の王家の方々が住んでいますが、それだけで相当なお金がかかるわけですよね? 使わない部屋も沢山あるのに、維持しないといけなくなりますよね?」

「そうだ。後宮を閉鎖できないと莫大な費用が掛かり続ける。無駄もあるだろう」

「クオン様は後宮を閉鎖したいのでしょうか?」

「そうだ。できれば失くしたい。老朽化で修理ばかりしていると聞いた。修理するにも金がかかる。ならば、いっそのこと全て壊して新しく立て直したほうが良いような気もしたが、父上が離宮を建設した。また別の離宮を建設するのは無駄だ。それにあれほど大きな施設を壊すにも莫大な金がかかる。閉鎖するのが一番簡単で金もかからない。予算の無駄をなくせるだろう」

「後宮を他のことに使うことはできないのですか? 王宮の一部としてです」

「できなくはない。だが、元後宮だ。王族関係者の住居だっただけに、普通の使い方は難しい。特別な者達のみ出入できる場所だったからこそ、特別な者達のみが使用するようなものでないと許可が出ないということだ」

「官僚とかが使うのは駄目なのでしょうか?」


 クオンは頷いた。


「以前話した際にはよくないということになった。官僚の中には平民も多い。これまで王族関係者などの特別な住居だった場所に、平民の者達を自由に出入りさせるのはよくない、王家の威信に傷がつくという意見が多かった」

「でも、後宮には平民もいます」

「召使は仕方がないという考えだ」

「召使はよくて官僚は駄目なのですか? 官僚の方が上のような気がしますけど」

「感覚的なものかもしれないが、貴族達は反発するだろう。後宮は国王の持ち物ではあるが、特権階級の場所というイメージがある。官僚が出入するようになれば、身分差によって絶対に出入できなかったような場所に、ただの平民でも出入できるようになったと思う。時代は確実に平民の力を強めている。王族と貴族達はその力を活用し、国民として結束するように導く。そして、エルグラードの国力を強めるのが望ましい。だが、単に平民の力が強くなるというだけでは駄目だ。王族や貴族の力が弱まることになってしまう。エルグラードが結束するどころか、バラバラになりかねない。国力も強くなるどころか、弱くなるだろう。大国だけに、小さな国が乱立してしまう可能性もある。ミレニアスもその危険性をはらんでいる。いつ、アルヴァレスト大公が独立して国を興してもおかしくない状態だ。エルグラードも四大公爵家などが自分達の国をもう一度再建しようとする可能性がある」


 難しそうだとリーナは思った。


 政治のことはわからない。貴族や平民といった身分、国のことも。リーナにとってはとても大きすぎることだった。


 リーナよりずっと優秀でそのための仕事をしてきたクオンでさえも難しいと言っている。簡単なことではないのだということだけは、はっきりとわかった。



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[一言] ]_・)後宮っていうものを作ったからこそ、離宮のような、誰々の家的なものがないんだね~
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