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後宮は有料です! 【書籍化】  作者: 美雪
第七章 婚約者編

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664 第十支店

 三つ目に視察する購買部まで行くのは移動距離があった。それは様々な品揃えの購買部を見てみたいとリーナが希望したせいだった。


 王宮の購買部は大きく分けると五種類ある。


 一つ目は文具と本用。最初に視察した第二十七支店のようなもので、官僚などが仕事に使うものなどを購入するか取りに行くための購買部になる。


 二つ目は一般用。二番目に視察した第六支店のように、文具等だけでなく、日用品や菓子などの食料品もある。


 三つ目は女性用。王宮に住み込む侍女や女性の召使の部屋の近くにあり、女性が欲しがるような品揃えが優先されている。これから視察にいくのはこのタイプになる。


 今回は視察しないのは男性用と、王宮省にある購買部の本店だ。


 男性用は侍従や男性召使の部屋の近くにあり、男性が欲しがるような品揃えになっている。


王宮省にある本店は購買部で扱う全ての商品があるものの、カウンターで欲しいものを伝えて買う形になる。商品は陳列されていないため、商品一覧を見て選ぶことになる。




「こちらが王宮購買部第十支店になります。本日の視察はここで最後になります」


 アリシアは更に付け加えた。


「こちらは女性用の購買部ですので、女性のための品揃えになっております。男性でも利用できますが、奥へ行くのはご遠慮ください。男性には見ていただきたくないものが陳列されております」


 説明はわかる。しかし、そう言われれば、尚更どのようなものがあるのか気になるのが人というものだ。


「見るのはよくないが、どのようなものかを知ることは問題ないのか?」


 クオンは率直に尋ねた。


「今回、男性用の購買部の視察には行きません。ですが、女性は奥に行くのを遠慮していただくことになり、女性は見るべきではないものが陳列されているという説明になるでしょう」


 牽制だとクオンは思った。


「わかった」


 クオンは引き下がることにしたものの、すぐにパスカルを呼んで小声で尋ねた。


「お前は知っているのか?」

「一応は」

「何だ?」

「生理用品です。月のものが来た際に使用するものです」


 男性に見られたくないという意味をクオンは理解した。


「よく知っているな?」

「侍女に聞きました」

「男性用の購買部の奥には何がある?」


 王太子が知るわけもない。だが、側近は知っていた。


「成人男性用の刺激的な本です」

「侍従に聞いたのか?」

「買ってくるよう命令をされたことがあります」


 クオンは険しい表情になった。


「ヘンデルに言われたのか?」

「違います。外務省に入省した時です。新人への恒例行事でした」


 管轄外だった。だが、やはりどこの省庁でも新人に対して何らかの特別な仕事や命令がされるのだということを実感し、クオンは不快に感じた。


「よくない。優秀な者にさせるような仕事ではない。転属届を出すかもしれない」


 パスカルは冷静な口調で答えた。


「その程度のことで転属届を出す者はほとんどいません。官僚として仕事に励むことの方が重要だからです。不満があるのであれば、仕事で結果を出して命令した者を見返すべきでしょう。ただ、あまりにも陰湿で酷いような状況であれば、転属届もやむを得ないと存じます」


 クオンはなるほどとは思いつつも、心から納得することはできなかった。


「あまりいい方法ではない。やる気をくじかれるではないか」

「窮地に立たされなければ、その者の能力がわかりにくい場合もございます。ですが、高貴な血筋と身分ゆえに、屈辱と感じる者がいないわけではありません。個人的あるいは体裁的な事情も多分にあることでしょう。余計なことを申し上げてしまいました。誠に申し訳ありません。どうかお気になさらず。それよりも滅多にない機会になりますため、手前の方をご覧になられてはいかがでしょうか? もしよろしければ、女性が好む本などを手に取ってごらんいただくのもいいかと」

「面白いのか?」


 パスカルが別の話題に変えようとしたことに、クオンは不機嫌そうな表情を隠さなかった。


「女性がどのようなことに興味を持っているのかという参考にはなります」

「否定はしないが見る気はない」

「社交雑誌や恋愛小説なども売っています」

「興味がわかない」

「菓子売り場はいかがでしょうか? 先ほどとは違うものがあるかもしれません」

「もういい」

「では、小物をご覧になられてはいかがですか? 安価ではございますが、購買部に一緒に来た思い出として何か贈られてもよろしいかと。妹は殿下の優しさを感じ、必ず喜びます」

「ペンを買った」

「あれは全員に買いました。妹だけに買うというのが重要なポイントです。女性は自分だけが特別だというような気遣いをされると喜びます。優しい恋人であれば尚のこと、全員に優しいのはいいことですが、自分には特別な優しさが欲しいと感じてしまうものなのです。とても小さな贈り物であっても、妹は殿下の深い愛を感じ、笑顔になるでしょう」


 小声で話すパスカル達の会話をしっかりと聞いていたアリシアは感心した。


 さすがレーベルオード子爵! やり手の販売員も真っ青な営業トークだわ! あれじゃ、時間の問題ね。王太子の負けだわ。


「妹は店内を見るのに夢中です。今のうちに何か検討されてはいかがでしょうか? 何を買ったのかということが話題、後々の思い出にもなります」


 アリシアの予想通り、パスカルの営業トークにクオンは理解を示した。


「……そうかもしれない」


 だが、リーナは小遣いを用意している。自分で買うことを楽しみたいのではないかとクオンは思った。


 そのため、クオンが様々なものを買うつもりはなかった。例え、小遣いがクオンの金だったとしても、金を出す財布がリーナのものであることが重要だとも。


 だからこそ、クオンが食べる菓子を買う際もクオンが支払うことはなかった。他の商品と一緒にリーナがまとめて支払った。


「だが、今回の財布持ちはリーナだ。リーナに買う楽しみを味わせたい」

「無理にとは申しませんが視察ですので、少しだけでも中をご覧になられた方がよろしいかと」


 視察という言葉に、真面目な王太子はついに陥落した。


「仕方がない。何か見るか」

「最高級品と安価な品の違いを確認するにもいいかもしれません。両方を知らないと比較しにくいはずです。安価な品を見るのも知識や経験になります。平民の価値観が見えるかもしれません」


 視察トークに切り替えたわね!


 アリシアはパスカルの優秀さを更に実感した。


「そうだな。少しだけ興味が出た」

「あちらです」


 一方、リーナはじろじろと遠慮のない視線で店内を見回っていた。


 カミーラとベルも買う気満々で同じく店内をうろつくばかりか、すでに買い物用のカゴを持ち、商品を入れていた。


「何を買うのですか?」


 リーナはカミーラのカゴに入れられたものを確認した。


 雑誌と本がかなり入っている。


「重くないですか? 持ちましょうか?」

「大丈夫です。先に書籍をまとめて買います」


 カミーラは雑誌と本ばかりが入ったカゴをカウンターの所に持って行き、自分の部屋に送り届けて欲しいと伝えた。


「こちらですと箱代と送料がかかりますがよろしいでしょうか?」

「構いません」

「では、こちらに記入を」


 カミーラは受け取った紙に素早く書き込み、代金を支払った。


「見せていただいてもいいですか?」

「送付状の控えでしょうか? それとも領収書でしょうか?」

「送付状の控えです」


 カミーラから送付状の控えを受け取ったリーナは内容を確認した。


 送付状は荷物を送る際に書き込む用紙で、誰がどこに何を送るのかを記入するようになっている。通常の郵便を出す際に近いが、購買部ならではの項目もある。


「女性による配達を指定することができるのですね!」

「そうです。私は日時指定しましたが、指定しないと夜間に届くかもしれません。女性の部屋に男性が配達しに行くのは好まれないので、女性の部屋には女性が届けるように希望することができます。男性の部屋には男性が届けるという指定も可能です」

「便利ですね……」

「リーナ様のように部屋付きの者が対応する場合は関係ないかもしれませんが、そうではない者達にとっては、配達人が男性か女性かは重要です」

「購買部の凄さを実感しました。部屋に届けてくれるだけでなく、このような配慮まであるなんて!」

「有料なのが残念です」

「まあ、そうですね」

「リーナ様も買い物をどうぞ。私はこの機会に買っておきたいものがあるので」

「次は何を買うのですか?」

「化粧品です。どのような品揃えがあるのか、その効能についての調査です。これもまとめて買って送付します。重くなるので」


 リーナはカミーラの元を離れ、ベルの元へ向かった。


 ベルもカゴに様々な商品を入れているため、山盛りである。


「凄いですね……なんだか色々あります」


 カミーラは本や雑誌は先に買い、次に化粧品などと物品違いに分けて購入し、配送するようにしているようだったが、ベルはとにかくカゴに入れていく方式のようだった。


「ここまで来るのは遠いでしょう? どうせ安いし、気になるものは取りあえず買っておこうかなって」

「気持ちはわかりますが、衝動買いすると後悔することになってしまいませんか?」

「大丈夫よ。お小遣いは結構貰っているし、ここの商品は後宮の購買部と違って安いから。それに、いらないものは侍女にあげればいいのよ。無料だったら喜んで貰ってくれるわ。むしろ、私には部屋付きがいないから、呼んだ際に来てくれた侍女とは仲良くしておきたいの。賄賂になると困るから高価なものはあげられないけれど、購買部の品で不用品だといえば全然問題ないわ。侍女達も遠慮なく使えるものでいいんじゃない? 周囲も誰かに貰ったのではなく、購買部で買ったのだろうと思うわ」


 リーナは頭がいい方法だと思った。


 ベルは王宮内を移動できるかもしれないが、女性用の購買部は遠い。そこで、来た時に気になるものはどんどん買っておく。箱代と送料はかかるが、大量に買っても部屋まで届けてくれるため、遠慮なく買い物ができる。


 王宮の購買部に売っている品は安価なものが多い。買い物に失敗しても、ベルにとっては大損というほどのものではない。


 不用品は侍女に無料で譲る。部屋付きの侍女がいないため、ベルは何かあって呼んだ際に来てくれる侍女とは仲良くしておき、評判を上げておきたい。そうすれば、次の時に相手も協力的で、手伝いも頼みやすい。


 かといって、賄賂になるようなものを渡すわけにはいかないため、購買部で買ったものの必要ないと思うものを処分がてらに渡す。侍女は遠慮なく使える品なので喜ぶ。侍女ともうまく付き合えるだけでなく、不用品も処分できて一挙両得だ。


「リーナ様もこの機会に気になるものはどんどん買っておいた方がいいのでは? 一番近い購買部ならまだしも、ここは遠いので散歩のついででも簡単には来れません。女性用の品物が多いのでチャンスでは? 後でいらないと思ったのは侍女にあげればいいだけです」

「そうですね! 私もこの機会に買っておかないと!」


 リーナもカゴを持ってきて買い物をすることにした。


 すぐにアリシアがカゴを用意してくれる。


「ウェズロー子爵夫人は買い物をしないのですか?」

「勤務中です。買い物は休憩時間か自由時間にします」


 それもそうかと思いつつ、リーナは気合を入れて店内を見て回った。



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