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後宮は有料です! 【書籍化】  作者: 美雪
第七章 婚約者編

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661 購買部デート

 翌日。


 リーナはカミーラとベルと共に昼食を食べた後、すぐに散歩に行こうとした。


 午後は散歩のついでとして王宮の購買部に何カ所か立ち寄ることになっており、その許可も出ていた。そのため、なぜ侍女達が待つように言うのか不思議に思った。


「どうして待たないといけないのですか?」

「現金のご用意がありますので」

「わかりました」


 リーナは購買部で買い物をするかもしれないため、現金を用意して欲しいと伝えていた。


 それを用意するのにもう少し時間がかかるのだろうと思っていたが、なかなか用意ができたという知らせが届かなかった。


「リーナ様、お小遣いを持って行くの?」

「そうです。欲しい物があるかもしれないので一応持って行こうかと」

「私やカミーラが出すのに」

「大丈夫です。お手元金から出してくれるようです」

「そうなのね。まあ、王宮の購買部はしょぼいから、大して使うことはないとは思うけれど、ちゃんとお小遣いをくれるなんて、王太子殿下はさすがよね」


 勿論、カミーラとベルは王太子がリーナのために自由に使える小遣いを用意していることを知っていた。


 ちなみに、お手元金の金額も知っている。兄であるヘンデルからこっそり聞いたのだ。


 但し、リーナはお手元金の額を知らないため、教えないことになっている。


 ようやくドアがノックされて侍女が顔を出した。


 現金の用意ができたようだと三人は思ったが、少し違った。


「王太子殿下がお見えです」


 突然のことに三人は驚き、一気に緊張しつつも立ち上がった。


 まずはパスカルが部屋に入り、その後にクオン、ヘンデル、シーアス、アリシアが姿をあらわした。


 王太子と共に側近やアリシア来るのはともかく、王太子付き財務官であるシーアスが来たことに対し、カミーラとベルはお手元金に関して何か問題があったのではないかと感じた。


 クオンは何も言わずにリーナを抱きしめ、額に軽く口づけた後にようやく言葉を発した。


「別に起立しなくてもいいと言ったはずだが」

「……一人だけ座っているのも変だと思いまして」

「変ではない。気にするな」


 クオンは早速自分が来た理由を説明した。


「一緒に行く」


 どこへというのはわかりきったことだった。散歩だ。そして、王宮の購買部である。


「クオン様もですか?」

「婚約した後、ほとんど会っていない。午後は休みにした」

「いいのですか?」

「このままでは婚約者として一度もデートをしないまま婚姻することになりそうだ。それもどうかと思った」


 確かに王宮に移ってからクオンと会える日はほぼなかった。


 後宮から移動した日の食事会、今後の予定に関する打ち合わせの時だけである。デートは一回もない。


 しかし、婚姻することが発表されたのは八月末の夏の大夜会、婚姻は一カ月後の九月末。婚約期間が短すぎるともいえる。


 元々九月は秋の人事異動があり、忙しくなるのが普通だ。そこに結婚式の予定や重要な案件をいくつも抱えている状態では、会えないのは当然のことともいえた。


「散歩がデートというのもどうかと思うが、時間や警備の都合もあって外出が難しい」

「クオン様、今日は散歩というよりは王宮の購買部に行くようなものですが、ご存知でしょうか?」

「知っている。買い物もデートになる。私も王宮の購買部を一緒に視察するのにいい機会だと思った。購買部があるのは知っているが基本的に行かない。必要なものは買いに行かせる」


 それはそうだろうと全員が思った。


「欲しいものがあれば遠慮なく買うといい。だが、大したものはないようだ。あまり多くの現金を持って行く必要はない」

「そのようです。なので、少しだけ用意して欲しいと言いました」


 クオンはじっとリーナを見つめた。


「少しでいいのか?」

「はい」

「十万ギニーか?」

「はい。その位で足りるのではないかと思ったのですけれど……もしかして、多すぎるでしょうか?」


 クオンはパスカルを見た。


「お前の言った通りのようだ」

「申し訳ございません」


 パスカルが深々と頭を下げた。謝罪はリーナの不注意と金銭感覚に対する不安が生じたことに対するものだった。


 クオンはもう一度リーナを見た。


「リーナ、重要なことを伝えておく」

「何でしょうか?」

「金が要る時は、必ず単位を明確にするように。ギールかギニーかをしっかり伝えるということだ。何も言わないとギールだと思う。十万といえば、十万ギニーではなく十万ギール用意されるということだ」


 リーナは目を見開いた。


「もしかして……十万ギール用意されてしまったのでしょうか?!」

「侍女長がシーアスの所に来た。手元金から十万ギール欲しいと。用意する理由を考えると多すぎるため、パスカルに金銭感覚についての確認があった。私も同席していたが、恐らくはギニーであることを言い忘れたのだろうということになり、当日確認することになった。大金が必要であれば、私が払う。小切手もある。お前のためには千用意した。ギールだ」


 千ギール、つまり、十万ギニーである。リーナが希望していた額だった。


「アリシア」

「はい」


 アリシアはうやうやしく緑色の財布を差し出した。


「リーナ様、どうぞこちらを。千ギール入っています」

「……ありがとうございます」

「ご説明します。エルグラードの通貨はギールです。ギニーは小額取引をするための補助通貨になりますので、国際取引には使用できません。リーナ様は自らお金を使用する機会があまりなかったと推測し、簡単にご説明します」


 一般的にギール札のことを高額紙幣、ギニー札のことを小額紙幣という。


「注意していただきたいのは、ギールとギニーが交じり合ってしまうことによる勘違いです。必ずお釣りを確認して下さい」


 現在、新しい紙幣で発行されるのは全てギールのみ、ギニーは全て硬貨のみになっている。


 しかし、旧時代はギールの硬貨やギニーの紙幣があった。


 ギールの硬貨については、金貨や記念硬貨などの特殊なもの以外は使用禁止になっている。ギニーの紙幣は今も使用可能だが、いずれギニーは全て硬貨になる予定でいる。


 ギニー紙幣の発行枚数は膨大なため、突然使用禁止にすると紙幣交換のために銀行に人々が殺到し、ギール札不足になるかもしれない。そのため、使用禁止にするのはまだ先のことで、銀行で集めて少しずつ回収することになっている。


「買い物をしてお釣りが五千ギニーの場合、高額紙幣である五十ギール札一枚でよくなります。ですが、小額紙幣である千ギニー札五枚か、五千ギニー札一枚でも構いません。それ以外にも、千ギニー札三枚と十ギール札二枚でもいいのです。このように様々な紙幣でお釣りがくることになるので、注意が必要です」


 そこで、まずはギール札なのかギニー札なのかをしっかりと把握する必要がある。


 また、任意ではあるが手に入れたギニー札はできるだけ使用せず、銀行に持って行ってギール札に交換することが推奨されている。


「王宮敷地内ではほぼギニー札は使用されません。ギール札になると思います。わからない場合は周囲の者達に確認をお願い致します」

「はい」


 お金に関する説明が終わると、リーナは財布の中身を確認した。


「なんだか緊張します。お釣りを間違えないか心配です」

「大丈夫です。購買部の者が計算を間違えるわけがありません」


 元平民であれば小切手を多用する貴族よりも現金の扱いに慣れていそうに思えるが、リーナは貧しかったがゆえに、お金を自分のために使うという経験が圧倒的に少ない。


 手にしたことがあるのも硬貨や小額紙幣のギニーだけになるだろうと思われた。


 ある意味、いつも同行者が全て支払うために現金の使用経験が少ない貴族の令嬢並だとクオン達は思っていた。


 リーナは財布をじっと見つめた後に尋ねた。


「アリシアさん」

「ウェズローです」

「……ウェズロー子爵夫人、このお財布ですけれど、もしかして凄く高価なものなのでしょうか?」


 アリシアはにっこりと微笑むと答えた。


「普通の財布です」

「そうですか。だったら良かったです」


 リーナは安堵するような表情になった。


 しかし、王太子の婚約者のために用意される財布が普通であるはずがない。


 値段を聞けば、間違いなくリーナが驚くに違いない最高級品だった。


 とはいえ、アリシアは嘘をついたわけではない。


 王族や裕福な貴族にとっては普通の財布だった。王太子の婚約者にとっても勿論、普通の財布に決まっていた。


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