655 入会条件
「青玉会にはどの位の方々が所属されているのでしょうか?」
リーナは青玉会に興味を持った。イレビオール伯爵夫人はそれを察知し、内心にやりとした。
「青玉会は社交グループとしての格式が高く、正会員は百人までと決まっております」
「えっ?!」
リーナは驚いた。どう考えてもこの場には百人以上いる。
「ここには百人以上の方がいるように見えますが、私のように入会していない者も多く参加しているということでしょうか?」
「今日の昼食会に参加しているのはリーナ様を含め、二百四十八人です。ですが、正会員は八十三名になります。他の者達は正会員ではありません。準会員です」
古い時代、貴族の数は今ほど多くなかった。そのせいで、王女が決めた百人を超すということはなかった。
また、会員の家族や親族等は会員でなくても会員のように扱われていた。つまり、会員一人につき、複数名の者達が付属しているような状態だった。
設立したのは王女で、王女には常に何人かの同行人がつくというのが常識だったからこそのルールでもあった。
時代が変わると貴族の数が増え、大幅に上限を増やすことにしたものの、王女が決めたルールを変更するわけにはいかないと考え、会員の種類を増やすことによって対応することになった。
その際、会員に対して付属していた者達の扱いも改められた。
現在、正会員は百名までとなっているが、準会員は無制限になる。
準会員は正会員ではないため、青玉会の正式な行事には基本的に招待されない。但し、行事の上限が多い場合や正会員が多く出席しない時は、補助要員として出席が可能になる。
準会員になるためには正会員の紹介がないと入会審査が受けられないため、ほとんどが正会員の娘や親戚筋の女性、友人等になる。かつての付属する者達が準会員になったようなものだ。
青玉会に入るには、まずは青玉会の正会員の紹介を受けて準会員としての入会審査を受ける。いきなり正会員になるための入会審査は受けられない。
そして準会員になった後、より条件の厳しい正会員になることを目指す。
「では、コネがないと入会できないというか、準会員になるための入会審査も受けられないわけですね?」
「そうですの。青玉会の正会員になるのは簡単ではございません。通常は準会員として何年も所属し、正会員に認められるような活動を行うことになります。カミーラやベルも準会員ですのよ」
「えっ、そうなのですか?」
イレビオール伯爵夫人は青玉会の役員である。その娘であれば正会員になれそうに思えるが、カミーラもベルもいまだに準会員であり、正会員ではなかった。
しかし、準会員であるからこそ、青玉会の催しに参加できる資格がある。
リーナのように特別な理由によって招待されたような者でない限り、会員ではない者は催しに参加できない。
これは青玉会に限ったことではなく、他の社交グループでもほぼ同じだった。
「中にはわざと準会員のままという者もいますの。というのは、正会員になると様々な条件を満たさなければなりません。会費も高くなりますし、年六回以上は催しに参加しなければなりません。それができない者は正会員の資格を失うため、準会員に降格になるか、退会することになってしまいます」
社交グループは多くある。中には複数の社交グループを掛け持ちしている者もいるため、会員でいるための条件を満たしにくい場合もある。
そこでより条件がゆるい準会員などの立場をあえて選び、正会員にならない者もいる。
「年六回というのは多い方なのでしょうか? それとも少ない方なのでしょうか?」
リーナは社交デビューしたばかりであるため、六回以上参加するという条件が厳しいのかどうかが判別できなかった。
「平均的だとは思いますわ。社交の基本として、大抵はどこのグループも季節に応じた催しがあります。春夏秋冬の四回ですわね。青玉会はそれ以外にも二回。勿論、これはそれしか催しがないわけではありません。もっと多くの催しがあります。ですが、王宮での催しもありますし、他の社交グループの活動を優先すると全て参加するのが難しくなるかもしれません。それで六回なのです。また、会費もそれなりにかかります」
青玉会の会費は社交グループの中でも高額な方になる。それもある意味王女とその取り巻き達が作ったグループだからこそでもある。
夫から貰える小遣いだけで支払う者がいないわけではないものの、会員の多くは自らが領主あるいは事業を行い、独自の収入を確保している状態だ。
なぜなら会員の条件として、会費を払い続けることができる者でなければならないことを示すという意味で、個人資産や年収等の条件がある。
但し、これはあくまでも正会員の話であり、準会員は夫や両親からの小遣いで賄っている者達が圧倒的に多い。
青玉会は女性の社会進出を応援するグループでもあるため、準会員が正会員になるための条件として必要な個人資産や年収を形成できるように起業や投資等の勉強会もあり、実際に起業等する際はメンバーの者達がコネを使って支援もしている。
おかげで青玉会の女性達の多くは着々と個人資産を増やしているが、単に自らが裕福になることを目的に入会したがる者の入会は認めていない。
「私は息子の代わりに領主代理をしております。その収入と婚姻する際の持参金を利用して始めた事業による収入があります。青玉会は女性が社会的に活躍し、自立することを応援しておりますので、そういった活動に賛同して頂ける方というのも、会員になる条件になります」
リーナは青玉会に入るのは無理そうだと感じ始めた。
というのも、お金がない。高額な会費を払えるわけがなかった。
しかし、カミーラからどの社交グループも金額は異なるものの会員になるには会費を払う必要があると聞き、どの社交グループに入るのも無理かもしれないと思った。
「レーベルオード伯爵令嬢には特別に教えますが、正会員の入会金は百万ギール。年会費は十万ギールになりますの。つまり、個人資産はその数倍以上必要です。また、準会員の入会金は十万ギール。年会費は三万ギール。個人資産はさほどなくても、夫や両親が裕福であれば問題ありません。王太子殿下の妻であれば全く心配されるような額ではないと思いますが、正会員の場合はあくまでも個人資産ということになりますので、王太子殿下とご相談下さいませ」
リーナはなんとか微笑んで見せたものの、表情が引きつっていた。
入会金が一億ギニーだなんて! しかも、年会費も一千万ギニー……これって毎年よね? ありえない!
準会員であっても入会金は一千万ギニー、年会費は三百万ギニー。正会員よりは相当安い。しかし、それでもリーナの感覚ではあまりにも高額だった。
すでに心が折れたリーナだったが、カミーラが追い打ちをかけた。
「ちなみに私が所属している別の社交グループもそれなりに会費等がかかります。入会金は十万ギール、年会費は二万ギールです。青玉会の準会員と同程度といったところですが、行事への参加は年二回以上なので満たしやすくなっています」
「どの社交グループもその位入会金や年会費がかかるということでしょうか?」
「いいえ。裕福な者達が所属するようなグループはこの程度が目安ですが、もっと金額的な敷居の低いグループもあります。ベルはダンスを愛好する社交グループに所属していますが、入会金は千ギール。年会費は五百ギールです」
入会金は十万ギニー、年会費は五万ギニーということになる。
リーナが召使として働いていた頃の月給でも払えなくはない金額ではある。全額つぎ込めばではあるが、やや気持ちが上向いた。
「……どうしてそんなに金額の差があるのでしょうか?」
「運営の仕方が違うからです。まず、入会金が高いところは大抵それを銀行に預け、高額な利子を受け取り、それを運営資金に充てています。沢山預けるほど利子も高く多くなるので、裕福な会員からできるだけ多くのお金を入会金として集めるわけです」
「では、入会金を少しずつ使うわけではないのですか?」
「そうです。入会金は全て銀行に預け、利子だけを使います。そうすれば、元々の入会金額は減りません。おかげで利子はどんどん増えます。ちなみに、青玉会では独自のルールがありまして、母親の代わりに娘が正会員になる際は入会金が必要ありません。ですので、正会員のほとんどは自分の母親あるいは夫の母親から正会員の座を受け継いでいる者が多いのです」
単純に入会金がいくらかといえば、非常に高額になるのだが、実際は表にされない独自のルールがある。
正会員の母親が高齢や病気、死亡等によって準会員に降格あるいは退会する際、娘が準会員で正会員になるだけの条件を満たしていれば、正会員の座を受け継ぐことができる。
その場合は正会員と準会員の名前が入れ替わるだけで実質的な変更はほぼないものとみなされ、正会員になっても入会金は必要ない。年会費だけでいいということになる。
カミーラの場合、イレビオール伯爵夫人が正会員の座を譲るといえば、入会金は必要ない。母親の秘書のような役回りをしていれば、どのような業務をすればいいのかも理解しているため、正会員になる審査もすぐに通る。
但し、受け継げるのは一人だけになる。カミーラだけでなくベルも正会員になりたい場合は、入会金が必要になる。
また、入会金や年会費が安い社交グループの場合、運営費用は役員負担やボランティア、催しにかかる費用は参加する者達で割り勘、または参加チケットを売るようなことをして収益を確保している。つまり、一部の者達が負担しているか、後からお金がかかる。
対して高額な入会費や年会費の場合は運営費用や催事費用を全て先払いしているため、後から徴収されることはない。結局はいくらかかるのかという細かい計算や突然の費用捻出を心配しなくてもいい。
「青玉会で最もいいと思われているのは寄付がないことです」
カミーラは高位の貴族の女性達にとっては必須ともいえる慈善活動について説明した。
「貴族の女性は慈善活動をするのが一般的です。そのため、慈善活動の資金を集める催しをします。その際、参加費用がかかるのですが、寄付もしなくてはなりません。実は、この寄付こそが高額であり、負担になりやすいのです」
貴族としての体面を保つためには最低一万ギール以上の小切手が必要になる。
高位の貴族や名門貴族であれば、それに相応しい寄付をしなければ悪く思われてしまうため、嫌でも高額な寄付をしなければならない。つまり、お金がかかる。
「ですが、青玉会では全ての費用が先払いです。そのため、寄付金も必要ありません。すべて、年会費や青玉会の運営資金等で賄われます。毎年数万ギールの寄付金を払い続ければ、結局は百万ギールになってしまうどころか、越えてしまうこともあるでしょう。それらが一切ないということは、非常に長い期間における費用の総額でいえば、お金がかからなくて済む、非常に得なのです」
リーナはまたもや驚くしかない。
最初は入会金や年会費が高いということだった。贅沢で大掛かりな催しものをするためなのだろうと感じていたが、実際は様々なことにうまく賢く活用されている。
運営資金は入会金等そのものではなく、利子で賄っている。そのため、元金が減らない。運営資金が減って困るということがないため、活動に支障が出ない。
また、入会金に関しても必ずかかるわけではなく、母娘で受け継げば必要ない。お得だ。
更に、貴族の女性に求められる慈善活動をするには、参加費用や寄付金が必要になることが多い。高位貴族や名門貴族ほど多くの寄付をしなければならないが、青玉会ではその必要がない。長期に渡って考えるほど、得になる。
「何をするにも大抵はお金が必要です。ですが、青玉会は女性当主や事業を自らしている者達が多いので、賢く適切にお金を活用し、会員達が不必要な負担をしないで済むように考えています。年会費も高いのですが、青玉会で起業や資産活用をサポートし、年会費の捻出が負担にならないようにしています。ある意味、金銭的に信頼のおける社交グループです。他のグループでは高額な入会金や年会費をそのまま役員の利己的な目的に使用し、全会員に対して不公平さが顕著なグループもあります。社交グループに入るのであれば、費用がかかるかどうかも大切ではありますが、様々な部分において検討し、最終的には信頼のおけるグループに入るというのが重要でしょう」
「そうですね。とても勉強になりました」
リーナは自分の知らない貴族の世界について、そして、貴族の女性達がどのような活動をしているのかについて、とても有意義な勉強ができたように感じた。





