表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
後宮は有料です! 【書籍化】  作者: 美雪
第六章 候補編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

638/1361

638 面談と小論文

 メリークリスマス!


 番外編と違って本編は通常通りですが、このお話をクリスマスに投稿できてよかったと思っています。

 読者様に楽しんでいただけますように。  美雪より


 もうすぐ昼という頃、リーナの部屋にクオンが来た。


 すぐにソファの隣に座ると、クオンはリーナを抱きしめた。


「終わった」


 何がというのは聞くまでもない。他の側妃候補達に対する面談である。


「昼食を一緒に取ろう。準備が整うまでこのままでいたい。構わないか?」


 部屋には二人だけではない。侍女も護衛もいる。


 だが、リーナは恥ずかしいとは思わなかった。ただ、クオンの望むままにしたい。


「はい。大丈夫です」


 クオンはより強くリーナを抱きしめ、大きく息をついた。


 それから約一分後、配膳長が報告に来た。


「昼食の準備が整いました」


 全然足りない。


 クオンは大きなため息をつくと、惜しむように体を離した。




 二人だけの昼食ではあったが、その雰囲気は甘いとは言えなかった。


 ほとんど会話もなく食事を済ませる。


 食後のお茶はすぐに切り上げられ、真珠の間に移ることになった。


 食事中は給仕の者達などもいるためにさっさと終わらせ、食後にゆっくりと二人で過ごすという思惑があるわけではない。リーナの面談をするためである。


「早速だが、面談をする」


 真珠の間に移動すると、クオンは侍女や護衛を下げた。


 二人はテーブルを挟んで対面するような形で着席した。


「全員の小論文を読んだ。テーマは退宮したらどうしたいか。審査書類にすることを踏まえ、全員に通達し、期日までの提出を求めることにした」


 クオンは面談という形で時間を設けたものの、リーナの小論文に関する面談をするというよりは、自分の気持ちをリーナに説明する気だった。


「私は入宮している側妃候補の者達全員を嫌悪しているわけではない。学生時代から知っている者達もいる。中には友人だった者もいる」


 友人だった?


 過去形であることに、リーナは少しだけ違和感を覚えた。


「だが、向こうは違った。友人、同級生、知人以上のもの、はっきりいってしまえば妻、側妃、王太子妃になりたいと言い出した。無理だと伝えた。自分の気持ちを示せば理解して貰えるだろうと思ったが、そうではなかった」


 クオンは深い息をついた。


「私は慎重に判断する性格だ。すでに言葉にして伝える前に熟考している。時間が経っても判断が変わる可能性はゼロに近い。入宮すれば余計に周囲が騒ぎ、本命ではないかとそそのかす。だからこそ、私の気持ちに反して入宮するのであれば、友人のような付き合いも一切できなくなると説明した。それでも入宮する者達がいた」


 入宮は本人の意思だけで決まるわけではない。両親や家、権力や派閥等様々な要素が絡み合って決まる。


 本人がどれだけ嫌だといっても、決められてしまうと抗いようもない状況もあった。


「私は入宮する前に警告した。本来はそれだけでも十分なはずだが、複雑な事情もあることを考慮し、入宮して一年後にもやはり退宮をうながした」


 それでも退宮希望者はいなかった。一人も。


 クオンは執務の量が増えるだけでなく、より重要な判断をするようになったため、どんどん多忙になっていた。はっきりいえば、側妃候補に構っている暇などなかった。


 側妃候補達を無視することで全く興味がない、このまま残り続けても無理だということを本人や関係者だけでなく、多くの者達にはっきりと示すことにした。


 元々、妻は一人と言っている。となれば、正妃だ。側妃を娶る気はない。正妃候補ではなく側妃候補である時点で問題外だった。


 それでも退宮する者はいなかった。


 王太子がどれほど拒否しても、国王の勅命があればいい。婚姻できる。正妃や側妃になれる。側妃から正妃に格上げになる可能性もある。


 国王や王妃、弟王子達に近づき、外堀から埋めようと画策した者達もいた。


 たった一つと思われる王太子の妻の座を巡り、多くの者達による争いと我慢比べが始まった。王子の妻の座についても同じく。


 クオンは候補者側からの辞退を諦め、正式な命令書による退宮を考えた。


 後宮は国王のものだ。王太子のものではない。側妃候補を退宮させるには国王の許可が必要だった。


 国王は貴族達の反発、妻の座を巡る争いが激化するのを抑制するため、あくまでも側妃候補側からの辞退による退宮が望ましいと考えた。そのせいで、国王の命令による強制退宮には同意しなかった。


 ようやく国王の許可が出たのは、後宮華の会の時だった。


 後宮華の会は選考会を兼ねて開催するということだったため、選考会としての結果を示す必要があった。勿論、後宮の予算や裏取引等様々な理由が絡み合った結果でもある。


「私はついに妻にしたいと思う女性を見つけた。お前だ。入宮もさせた。父上にも無意味なことは終わりにすべきだと説得した」


 父親は息子が愛する女性を妻にするためには他の者達が邪魔であるということに理解を示した。


「明日、国王の命令書が発行される。小論文による審査により、六名が落選。三日以内の退宮を命じられる」


 クオンはリーナだけを残すつもりだった。しかし、国王はミレニアスとの密約を考慮し、キフェラ王女を残すことを条件にしなければ、他の者達の退宮を認めないと言った。


 この選考は王太子府が王子府と共同で行っているものになる。結果が出たところで、国王の許可が出なければ、退宮させることができない。


 リーナとキフェラ王女だけが残ると、ミレニアスとの戦争を回避したい者達がキフェラ王女に肩入れする可能性がある。危険だ。


 そこで、クオンはリーナを守る駒を残すことにした。


「勿論、お前は退宮しない。どんなことを書いても良かった。提出はさせたものの、読む必要はなかった」


 クオンは自らの気持ちを落ち着けるように一息ついた。


「だが、読むことにした。正直に言えば、どのようなことを書いているのか気になった。怖くもあった。私から離れても平気だと書いているかもしれない。そう思うと、胸が苦しくてたまらなかった」

「クオン様……」


 ごめんなさい、そう謝ろうとしたリーナの言葉をクオンは遮るように言った。


「素晴らしい小論文だった。最高の評価を与えるにふさわしい」


 クオンは席を立つと、すぐにリーナの隣へと移動した。


「愛している。どんなことがあっても離さない。神に誓う」


 溢れ出す感情のまま、クオンはリーナに口づけた。


 リーナはそれを受け止めた。喜びが溢れ出す。


 唇が離れた。しかし、またすぐに触れ合い、より深く重なった。


 何度もそれが繰り返される。


 二人の心の中を愛が埋め尽くしていった。




 退宮後どうしたいか。


 退宮するということが、どのような状況におけるものなのかはわかりません。ですが、私がしたいことは一生同じです。


 でも、それを一言で説明するのは難しい気がします。


 強い想いがとめどなく溢れてきます。


 なので、少しずつ書いていきたいと思います。


 私はレーベルオード伯爵令嬢と呼ばれていますが、それは養女になったからです。本当の出自は違います。


 お父様とお母様は私を心から愛してくれましたが、離ればなれになってしまいました。一人になってしまった後の人生は決して楽なものではありませんでした。


 辛い毎日。もしかしたら、一生このままなのかもしれない。明るい未来どころか、明日さえどうなるかわからない。夜が怖い。朝も怖い。そんな日々が続きました。


 でも、私は生きる場所を失いませんでした。


 エルグラードが与えてくれたからです。


 十六歳になって働き始めると、生活は変化しました。


 驚くほどによくなりました。


 食べ物も、衣服も、部屋もあります。


 でも、偽りの豊かさです。


 懸命に働いても、給料袋にお金は入っていません。不足分は借金でした。


 工夫してなんとかしようとしました。倹約すればいいと思いました。努力するしかないと。でも、なかなかうまくいきません。


 不安で、怖くて、何をすればいいのかわからなくて。


 くじけそうな時が何度もありました。でも、そんな時、私の弱い心を支え、励まし、導いてくれる方達と巡り合えました。


 ゆっくりでもいい。少しずつ、一歩ずつ。自分を信じて、努力を続ければいい。


 口で言うだけなら簡単ですが、実際にそうできるかは別です。行動で示したつもりでも、当たり前だと思われるかもしれません。


 努力。頑張りたい気持ち。はっきりとした形があるわけでもないものを、誰かに認めて貰うのはとても難しいことです。


 今もまだ、自分の未熟さ、不足さを常に感じています。


 私はずっと人生という道をただまっすぐにひたすら歩いて来ただけでした。どんな道であっても、目の前にある道をただ進むしかないのだと思っていました。


 誰だって同じ。普通のこと。当たり前のこと。努力でも何でもない。ただ、流されるままに生きて来ただけだと。


 でも、私は多くの方々のおかげで気づくことができました。


 そうではなかったのです。


 私は振り返りました。


 私の後ろにも道がありました。これまで歩いてきた道のりです。


 それは、とても長い道のりでした。


 苦しみも、悲しみもありました。辛いことも沢山。嬉しいことよりも、はるかに多くありました。


 それでも。


 私は一歩、また一歩。そうやって何度も足を前に踏み出し、長い道のりを歩いてきたのです。いえ、歩いて来ることができたのです。決して楽だったとはいえない人生の道のりを。


 だから今、私はここにいます。これこそ、私がしてきた努力、生きて来た証です。


 人は未来がどうなるかを知りません。


 自分の前にある道がどれほど続いていくのか、上り道なのか、下り道なのか、真っすぐだと思っていたはずが、実は曲がりくねった道なのかもわかりません。途切れていることさえ、わからないかもしれません。


 それでも、大丈夫。必ず道がある。


 そう信じることができます。なぜなら、私には心から大切に想う方、信じている方がいるからです。


 私は一人じゃありません。だから、自分一人だけで生きる必要はありません。愛する人、信じる人達と共に生きて行けばいい。


 どんなことがあっても、私はくじけません。諦めません。くじけそうになっても、諦めそうになっても、そこで終わりません。時間がかかっても、必ず一歩、前に進みます。それを続けていけば、これからもずっと歩いていけるはずです。これまでそうしてきたように。


 私はまだまだ勉強不足です。なので、立派な小論文は書けません。


 でも、今の私の本当の気持ちを書くことはできます。決意も。


 私が初めて心から愛したクオン様に一生を捧げます。側にいたい、幸せになりたいと願うだけでなく、叶えるために懸命に努力します。


 待っているだけでは幸せは来ないかもしれません。だから、自分で幸せになれるように、一歩だけでも進んだ方がいいのです。


 才能がなくても、失敗ばかりでも、幸せを探す努力をします。


 努力は誰にだってしようと思えばできることです。全ての者に神様が与えてくれた特別な力です。


 だから、私にもあります。努力するという特別な力が。


 最後に。


 やっぱり、私がしたいことはいつだって同じだということがわかりました。


 だから、退宮したとしても、同じです。


 私はクオン様を心から愛して、信じて、一生懸命努力しながら生きていきます。


 この答えは、絶対に変わりません。私にとって唯一の答えです。


 リーナ=レーベルオード



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
★書籍版、発売中!★
★QRコードの特典あり★

後宮は有料です!公式ページ
▲書籍版の公式ページはこちら▲

ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ