637 ついに来た
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キフェラ王女が帰国したことにより、授業中の雰囲気が一変した。
キフェラ王女は講師を無視し、何かにつけてリーナに話しかける。
リーナは困惑し、講師が注意する、強引に授業を進めるなどの対応をしていたが、ついに我慢の緒が切れたようにラブが叫んだ。
「ちょっと! 授業の邪魔よ! リーナだって迷惑しているわ! せっかくここで色々なことを勉強しようと思っているのに!」
すると、キフェラ王女はそれが何かというような言動をした。
「何を言っているの? リーナはすでに王太子の寵愛を得ているのよ? 勉強してもしなくても寵愛は揺るがないわ。それに、リーナは淑女よ。真面目に授業を受けなければならないほど、何も知らないわけではないの。まさか、リーナが後宮の授業を受ける必要があるほど賢くないっていいたいの?」
キフェラ王女が本当にリーナのことを授業が受ける必要のないほど賢いと思っているわけではい。そんなことはわからない。どうでもいい。
自分に対して攻撃的な者に反撃するため、リーナのことを活用し、自分の行為は問題ではないと主張しただけだった。
「はあ? 何言っているの?! リーナは」
学校に行っていないのよ。
賢いわけがないわ。
そう続くと予想した者達の期待は裏切られた。
「真面目なの! 授業をちゃんと受ける気がないなら、わざわざ学習室に来るわけないでしょ! いくら欠席しても退学にはならないし、それこそ王太子の寵愛は揺るがないわ!」
ラブは更に他の側妃候補への牽制も忘れなかった。
「むしろ、体調不良を心配してかけつけるわよ! 実際、リーナの体調が悪いと判明した際、会議を中断してリーナの元にかけつけたこともあったって聞いたわ!」
その通りよ。いいアピールだわ。
ラブもなかなかやるわね!
未成年でも馬鹿にはできないわね。
意外とお利口さんだわ。
油断がならない子ね。
面白い対決だわ。
どっちも消えればいいのに。
しかし、この一対一の対決はすぐに終わった。他の者達が参戦したのだ。
「お二人共、今は授業中です。これ以上続けるなら別室でお願いします」
冷静な口調でそう言ったのはカミーラだった。
「その方がリーナ様も喜ばれるでしょう。仲良くされたいのであれば、押すだけでなく、退くことも必要かと」
カミーラの言葉はキフェラ王女をけん制するためのものだが、あわよくば部屋から追い出してリーナから遠ざけようと画策するものだった。
ラブはキフェラ王女を道連れにして部屋を出ることを歓迎した。
正直に言えば、ラブ自身が真面目に授業を受ける気はない。補習扱いになるため、我慢しているだけだった。
「ちょっと! 顔貸しなさいよ!」
「第二学習室でどうぞ」
ベルもラブがキフェラ王女を連れ出すことを勧めるように発言した。
だが、キフェラ王女は拒否した。
「いやよ。なぜ、私が出て行く必要があるの? 第二学習室に行きたければ一人で勝手に行けば?」
「だったら静かにしなさいよ!」
援軍が加わった。
「そこまで! 今は授業中です! 静かにしないのであれば、講師権限で強制退去を命じます! それが嫌なら静かにするように!」
その場はなんとか収まる。
だが、そのことがきっかけでキフェラ王女とラブが完全に対立する形になってしまった。
そこにカミーラとベルが口をはさみ、少しずつ他の側妃候補達も加わっていく。
結果、キフェラ王女とリーナ以外の側妃候補全員が対立するような図式が出来上がった。
木曜日。
リーナは覚悟をするかのように一息ついた後、学習室の中へ入った。
「おはようございます」
「おはよう!」
挨拶が返されるが、一番大きく元気な声はキフェラ王女だった。
「今日もリーナに会えて嬉しいわ!」
「勉強するために来ているわけではないのね」
「やる気のなさをわざわざアピールするなんて」
「不真面目な方がいるのはリーナ様のためになりませんわね」
「様付けするのがルールだというのに、未だにわかっていないなんて」
「何年もいらっしゃるのに、その程度のことさえご理解できていないとは」
「残念ですわ」
「本当に」
次々とキフェラ王女への攻撃が始まった。
「今日も元気過ぎる声が聞こえるわ。その勢いであれば、墓穴も掘ってくれそうね」
キフェラ王女が微笑みながら応戦する。
敵地に一人であってもひるまない。強靭な精神力であることは誰もが理解していた。
「キフェラ様の行動こそ、墓穴を掘っているのでは?」
「そうですわ!」
「リーナ様の勉強の邪魔をしていることは、王太子殿下に報告されているでしょうね」
「そのうち、処罰というお話が出るかもしれません」
「私はミレニアスの王女。エルグラードの法で裁くことはできませんのよ? それに、どのような形であっても王太子殿下に私のことを考えていただけるのは嬉しいわ。どうせなら注意に来て下さればいいのに。リーナと仲良くしようとしている私に非がないことは一目瞭然だわ」
「はあ?! 何言っているの?!」
今日も朝からラブはブチ切れた。
「誰に非があるかなんて、どう考えても一目瞭然でしょ! どっかの王女でしょ!」
「隣国の名称も知らないわけね」
「知っているわよ!」
時計が鳴った。九時である。
朝礼に備え、一時休戦に入る。
全員が着席し、部屋が静かになった。
そして、ドアが開く。
ペネロペが姿をあらわすはずが、そうではない者があらわれた。
一瞬で部屋の空気が変化する。
ついに来た!
多くの者達がそう思った。
姿をあらわしたのは、無表情の王太子。その側近と護衛達だった。
教壇の所まで来ると、クオンは言葉を発した。挨拶ではない。
「先ほどの会話は全て聞いた。騒がしい。どう考えてもこれから勉強をするのにふさわしいものではない」
クオンは少し前にリーナの元を訪れ、共に学習室に移動した。
そしてリーナだけを先に入らせ、隣の控室から学習室の様子を密かに伺うことにした。
わざとドアを完全に閉めなかったため、会話が丸聞こえだった。
「授業の円滑な進行ができないと講師が判断し、教育管理部と教育担当官から私に話が来た」
クオンはリーナやカミーラ達が直接クオンに言ったわけではないということを最初に明示した。
「授業の妨害行為は見逃せない。キフェラは二週間自室で謹慎しろ。エルグラードにいる以上、私の判断には従って貰う。拒否するのであれば、即刻帰国しろ。また、謹慎に相応しくない言動をすることは私に逆らったものとみなす。わかったら自室に戻れ」
さすがに王太子の言葉に反論することはできず、キフェラ王女は黙ったまま深々と一礼した後、学習室を出て行った。
ようやく邪魔者が消えたわ。
一時的であっても、嬉し過ぎるわね。
さすが王太子殿下。
直々に来られるなんて……眼福だわ。
素敵……。
様々な心の声が上がる一方、断固たる口調で王太子が発言した。
「先ほど騒々しいと感じたのは一人ではない。授業中に他の者達の発言も多いということは聞いている。だが、リーナのために行動した者達もいるであろうことを考慮し、処罰はしない。ヘンデル、続きを話せ」
「ってことで、俺から説明するね」
クオンの側に控えていたヘンデルがにこやかな笑顔を浮かべながらそう言った。
「わかっていると思うけど、レーベルオード伯爵令嬢以外の女性は王族の寵愛を受けて入宮したわけじゃない。寵愛を得るのも難しいというか、王太子に関しては不可能だってことが確定している。そこで、小論文の提出を求めた。これを見て側妃にするかどうかを決めるわけじゃない。後宮に残すかどうかを決めるわけでもない。退宮後の扱いをどうするか、参考にする資料だ」
側妃候補は馬鹿ではない。むしろ、賢い。
ヘンデルの説明は想定内のものだった。
「面談方式による質疑応答を週末にするつもりだったけど、王太子殿下も俺達も忙しくて時間が取れなかった。んで、ようやく今日することになった。通常の授業は全部休講ね」
更にヘンデルは面談についての説明をした。
面談場所は第三学習室。
順番に面談をするため、側妃候補は呼ばれるまで第一学習室で待機する。
面談時間は一人につき十分から十五分程度。小論文提出者は全員面談の対象者。どの王子の側妃候補かは関係ない。
面談相手はヘンデルになる。王太子も同席するが、直接的なやり取りはできない。但し、王太子から質問された場合は答えなければならない。
「王太子殿下のいる部屋で自分の意見を言える人生最後の機会になるかもしれない。なんで、まあ遠慮なく本心ぶっちゃけて、後悔しないようにしてくれた方がいいかもね?」
ヘンデルはリーナに視線を移した。
「レーベルオード伯爵令嬢は最後だからかなり待つことになる。予定が遅れると午前中は無理かもしれない。なんで、自分の部屋に戻っていいよ。王太子が部屋に行くから、第三学習室に行く必要もない。くつろいでいてくれていいけど、外出はしないように」
「はい」
「んじゃ、一番はゼファード侯爵令嬢ね。王太子殿下が移動した後、護衛騎士が呼びに来る。そしたら、第三学習室に移動して」
小論文に対する面談が始まった。





