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後宮は有料です! 【書籍化】  作者: 美雪
第六章 候補編

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615 妄想話(二)



「屋敷に潜んでいた配下は、インヴァネス大公の計画を知らなかった。ゆえに、独自の行動を取った。あるいはわざと誘拐させることを知り、インヴァネス大公の行動を不安視した。娘を犠牲にするつもりかもしれないと。そこで、誘拐事件のどさくさに紛れて独自の行動を取った。これでどうだ?」

「証拠があるのか?」

「ない。だが、推測するのは自由だ。断片的なものはいくつかある」

「手がかりということか?」

「まず、インヴァネス大公に隠し子がいることを知る者は、当時ほとんどいなかった」


 ミレニアス王家が必死で隠していた事実だけに、ミレニアス国内はもとよりエルグラードで知っている者も限られていた。


 詳しい情報を得ている者となれば、より限られる。


「パトリックは知っていた。女子であることも、年齢も。他にも色々と知っていただろう」

「父上は知っていたのか?」

「話があった。ヴァーンズワース伯爵家の跡継ぎになりかねない存在が生まれたと。だが、エルグラードに出生届を出して国民登録をしなければ、血族であっても資格はない。勅書もある。問題も変更もないという確認だけだったが、私よりも先に情報を得ていたのは確かだ」

「その程度か?」

「娘はパンプールの孤児院にいたことがある。だが、インヴァネスのウェイゼリック、パンプール、王都は直線的に結べない」

「それがどうした?」


 特別な事情があった。誘拐された。そのせいだと思うのはおかしくない。


「娘を欲する者がいるのは王都だろう。連れて行くなら最短距離を取るべきではないのか? なぜ、わざわざパンプールに寄る必要がある? 無駄ではないか?」

「わからない。だが、孤児院を転院したという話だった」

「本当に転院したのか? 娘を連れ去った者が移動しただけかもしれない。だが、パンプールは治安が悪い。リーナがパンプールの孤児院に入った日、孤児院の近くで殺人事件が起きていた」


 男性が集団に囲まれて襲われ、金品だけでなく命も奪われた。


 身分等を証明するものは一切なし。素性をつきとめるのはほぼ不可能。


 パンプールではよくあることだけに、警備隊は深追いしなかった。


 しかし、実際はよくあることとは言えなかった。


 強盗をするのであれば、裕福そうな者を狙った方がいい。だが、襲われた男性は裕福そうな装いをしていなかった。


 また、男性は孤児院から出て来たという目撃証言があった。


 そこで警備隊は孤児院に確認したが、男性は道を尋ねに来ただけだと話した。


「孤児院が嘘をついていたらどうだ? その男性は少女を連れており、孤児院に金を払って一時的に預けた。何かあっても知らないふりをして欲しいと言っていたかもしれない。少女は孤児院を転院したと思っている。男性が自分を孤児院に置いていっても不思議に思わない」


 孤児院は一時的な託児所のような役割も果たしている。


 子どもの中に子どもを隠せば見つかりにくい。


 そう思って孤児院を利用した可能性があった。


「まるで本当のことのように聞こえる」


 父親の話は小さな事実をつなぎつつも、かなりの推測から成り立っている。


 非常に偏った都合の良い見方だというのに、クオンは妙に納得できるような気がした。


「孤児院は少女を預けた男性が死亡したことを知り、少女を孤児として扱うことにした。そして、王都に転院させた。厄介払いだったのかもしれない。表にできない事情を抱えた者を移動させ、面倒に巻き込まれないようにした」


 クオンは胸が苦しくなった。


 だが、クオンの苦しみとは比べ物にならないほどの苦しみをリーナは経験してきた。


 そして、それはほんの一部でしかない。


 エルグラードがあまりにも巨大な国だからこそ、リーナのように苦しむ者が数えきれないほどにいる。


 クオンの心の中で、どうしようもない葛藤と無力感が荒れ狂った。


「もしかすると、男性の狙いはそれだったのかもしれない。少女をずっと連れて移動するのは難しいため、孤児院が少女を王都に送るのを利用した。そうすれば、負担が軽くなる。誘拐した証拠もないため、検問などがあっても怪しまれることなく王都に送ることができる。王都についたら転院予定になっている孤児院へ行き、少女を引き取ればいいだけだろう?」

「少女を苦労して連れ出したというのに、信用度が低い他者を利用するというのか?」

「パトリックは内務省調査室に所属していた」


 内務省直属の情報機関。


 国内のあらゆる情報の収集及び国家に反逆するような人物、組織等への監視及び対策等も担当している。予算も莫大。


 パトリックは内務大臣の側近。若い頃から懐刀としての役割に徹しており、かなりの権限が許されていた。


「レーベルオードだけでなく、内務調査室まで結び付けるつもりか?」

「国王府調査室を欺く力があるのは事実だ」

「年月が経ちすぎている。調べられない」


 レーベルオード伯爵がリリーナ誘拐事件に何らかの関与をしており、内務省調査室が関わっていたとしてもわからない。


 全ては闇の中。


「完全な妄想でしかない。だが、気になってしまうのも仕方がない。人は理由を知りたがる。なぜ、そうなったのだろうかと。無駄に詮索しない方がいいこともある。それもわかっている」


 ハーヴェリオンは大きな息をついた。


「インヴァネス大公の娘が死んだという知らせが届くと、パトリックは仕事を休んだ。喪服に着替えて息子と共に聖堂に行き、祈りを捧げたらしい。愛する息子のための配慮として何もおかしくない。だが、それだけか? 自らの行いを悔やんだのではないのか? 何かあった際はエルグラードに連れて来いという指示を与えていなければ、配下が死亡し、娘を奪われ、行先を見失うこともなかったと」

「それこそ妄想だ」

「その通りだ。食事を終わらせよう。話し合いが待っている」


 クオンはグラスを掴むと、ワインを一気に飲み干した。


 妄想に付き合う暇はない。だが、気になってしまうのが本心だった。


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