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後宮は有料です! 【書籍化】  作者: 美雪
第一章 召使編
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6 初めての給料日

 リーナは初めての給料日を迎えた。


 リーナの給与は固定給ではなく働きに応じた能力給になる。


 個人差があるため、いくらになるかは評価次第。


 ようやくいくら貰えるのかわかる……!


 リーナは緊張しながら給与封筒を受け取った。


「いくらだった?」


 部屋に戻ると同僚のカリンに尋ねられるが、リーナはすぐには答えなかった。


 封筒に入っていた給与明細をじっと見つめていた。


 給与はリーナの予想よりもずっと多かった。


 しかし、給与以外の金額も多かった。


 給与から天引きされる生活費や購買部での買い物代だ。


 給与から支払い分を引くとマイナスになっていた。


「……借金でした」


 予想はしていたが、リーナは落ち込まずにはいられなかった。


 人生で初めての借金だと思った。


「試用期間だから、一日いくらってなってない?」

「日給で三千ギニーです。先月は十日間働いたので、三万ギニーでした」

「良かったわね。良い評価よ」


 カリンはにっこりとほほ笑んだ。


「最初は何も知らないから教えられてばっかりでしょう? 相場は一日につき二千から三千程度ね。何も知らない未経験者で三千というのはよく頑張ったってことよ」

「思っていたよりも給与の金額が高くて驚きました。でも、生活費も結構かかるのですね」


 リーナは購買部で着替えや日常的に必要になるものを購入した。


 だが、何も購入していなかったとしても、生活費のせいで給与はマイナスになる。


「試用期間だもの。しょうがないわ」

「カリンさんはいくらなのですか?」

「給与がいくらかというのはとても大事な情報なの。簡単には教えないわ」


 簡単に教えてしまったリーナは黙り込んだ。


「リーナは採用されたばかりの新人だし、少ないに決まっているでしょう? 私に話しても平気よ。ただ、同じような時期に採用になった者には言わない方がいいわ。リーナの方が多いと嫉妬されるわよ」


 なるほどとリーナは思った。


「今はともかく、もっと給与が上がったらより差が大きくなるはずよ。聞かれても簡単に教えない方がいいわ。あくまでも個人的な意見だけどね」

「注意します」

「長く勤めていても給与が低い者もいるし、短い期間しか務めていなくても給与が高い者もいるの。給料が高いか低いかで自分が評価されているかどうかもわかるし、この先出世できそうかどうかもなんとなくわかるのよ」


 だからこそ、誰がいくら貰っているかを知りたがる。


 自分の給与が上なら、その者よりも評価されているということになる。


 早く出世できそうだと思える。


 逆に下であれば、負けている。


 出世しにくいとわかる。


「単に給与額の差の話ではないわけですね」

「そういうこと」


 カリンは頷いた。


「中には意地悪な者もいるわ。自分より給料が高くて評価されているとわかると、冷たくしてきたりこっそり悪い噂を流したりするの」


 そして、そういった噂はすぐに広まる。


「問題を起こしたくなければ、大人しくしているのが得策よ。なんでも素直にペラペラと話すのは利口じゃないわ。口が軽くて信用ならないって思われるわよ。困るでしょう?」

「困ります」

「採用されたばかりだと、日給で計算されるの。その後は月給になるわ」


 月給は固定給になるため、昇給や減給がない限りずっと同じ金額が貰える。


「日給の三十日分が目安だから、このままの評価が続けば九万ギニーね」

「九万ギニー!」


 リーナの感覚ではかなりの高額だ。


「喜ぶのは早いわよ。そこから生活費が引かれるわ。生活費も三十日分だから増えるの。借金だって返さないとでしょう?」

「そうでした」


 リーナは肩を落とした。


 給与が高くても天引き分の方が多ければ、結局はマイナスになって借金だ。


「まあ、一年間はひたすら我慢するしかないわね。試用期間が終わってもマイナスになるのが普通よ。何かと購買部で買わないといけないから」


 カリンによれば、勤務評価は悪くない。


 これからも地道に努力すれば、一カ月につき九万ギニー貰える。


 孤児院に比べて生活環境ははるかに向上していることを考えれば、生活費がかかるのは仕方がないとリーナは思った。


「カリンさん、聞きたいことがあるのですがいいでしょうか?」

「何かしら?」

「よくわからないものがあるのです。共益費というのは何ですか?」

「ああ、それね。気にしなくていいわよ。それは絶対に引かれるから。全員ね」

「そうなのですか」

「皆で使う所があるでしょう? 食堂とか浴場とかトイレとか。だから、共益費として全員から集めるの」

「施設費というのは何ですか?」

「それもまあ、共用施設を使うためのものね」

「共益費とは違うのですか?」


 なぜ同じようなことに別の費用が必要なのか、リーナにはわからなかった。


「違うわよ。共益費は共用の場所を維持する費用」


 共用の場所が壊れないように整備したり、備品が不足しないように補充したりするための費用だ。


「トイレットペーパーとか石鹸とかの費用だと思えばわかりやすいかしら? 施設費は利用する人が払う費用よ」


 後宮では浴室の蛇口をひねればお湯が出る。トイレも水洗だ。


 そういった立派な施設を利用できるかわりに利用料がかかる。


「お風呂屋さんに行くとお金を払うでしょう? それと一緒よ」

「それならわかります!」

「部屋代はこの部屋のこと。他の部分を使う利用料が施設費って感じね」

「よくわかりました。それなら確かに全員が引かれますね」


 リーナは納得した。


「ここは四人部屋だから部屋代は高い方かもね。でも、空いている部屋にしか入れないし、どの部屋になるかは上の者達が決めるからどうしようもないわ」

「はい」

「ちなみに一番部屋代が安いのは、十二人で使う大部屋ね」

「新人が一番安い部屋ではないのですね」

「昔はそうだったけど、新人だらけの部屋は、問題を起こしやすいから駄目になったのよ」


 後宮の規則や仕事についてよく知らない者ばかりになると、勝手に都合よく解釈したり騒いだりする。


 盗難も起こりやすかった。


 そこで新人は必ず勤続年数が数年以上の者と同室になった。


「同室者が新人の面倒を見れば早くここの生活になれるし、規則を守りやすくなるわ」

「そうですね」

「部屋代が高いと新人にはきついわよね。でも、どの部屋に空きが出るかは運なの。仕方がないわ」


 リーナはため息をついた。


 運次第といわれるとどうしようもない。


「昔は新人が一度に沢山入ってきて、凄く大変だったらしいわ。でも、今はあまり補充されないの」


 全体でみればそれなりの人数が補充される時もある。


 だが、わざと勤務開始日をずらしたり配属先や部屋を分けたりしている。


 新人だらけで仕事が進まないことや問題が起きることを予防し、指導役や同室者が面倒を見る負担を軽減させている。


「私はマーサ様から指導を受けていますが、一緒に指導を受ける者がいません。おかげで細かいところまでしっかり教わることができていると思います」

「リーナは運が良かったのよ。マーサ様は上の方だからほとんど指導役をなさらないの」

「役職付きということでしょうか?」

「掃除部長よ」

「掃除部長というのは偉いのですか?」

「掃除部で一番偉いの」

「えっ!」


 マーサの姿を見た者は礼儀正しく挨拶をする。


 リーナはなんとなく上位の者なのだろうと思ってはいたが、まさか自分の所属する掃除部で一番偉い役職者だとは思ってもみなかった。


「最近辞めた者の中に、マーサ様の補佐役がいたのよね。そのせいかもしれないわ」


 新しい補佐をつけるのであれば、若い者を鍛えた方がいいとマーサは言っていた。


 そこで若くて真面目そうなリーナに目をつけたのではないかとカリンは推測した。


「リーナがマーサ様に認められるようになれば、掃除部長の補佐役に任命されるかもしれないわね。そうなったら大出世よ」

「私に務まるのでしょうか?」

「わからないけど、給与を見る限りじゃまあまあじゃない? どちらにせよ、いきなり抜擢されることはないわ。厳しい指導を受けて何年も経験を積んでからでしょうね」

「そうなれるように頑張ります!」


 リーナは給与明細書を封筒にしまった。


 借金がある不安よりも、未来への希望を強く感じていた。


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