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後宮は有料です! 【書籍化】  作者: 美雪
第六章 候補編

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586 ペア決め

 金曜日の五時限目、リーナはカドリーユの最終確認をすることになっていた。


 今週は授業が始まったこと、大きな舞踏会という催しのための準備もあって、忙しくも充実した毎日を過ごしてきた。


 まとめると、次のようになる。




 火曜日に舞踏会における大役抜擢、カドリーユを踊ることを知った。猛練習をしてなんとか第一パートを頭に叩き込んだ。しかし、そのせいで居眠りをし、周囲を慌てさせてしまった。



 水曜日は午前中にヘンデルとパスカルから第二パート、午後の自習で第三パートを教わる。


 第一パートはかなり苦戦したが、第二、第三パートはすぐに覚えることができた。


 一パートは約一分しかない。覚えてしまえばあっという間だった。


 但し、この時点では移動や動作を覚えることが優先で、ステップや全体的な美しさは全く重視していない。ドレスの裾を上げなければステップはわかりにくいことから、合格の基準が低く設定された。



 木曜日。一時限目の礼儀作法は欠席し、ヘンデルとパスカルから第四パートを教わる。


 王太子の側近二人がわざわざ時間を作って練習に付き合ってくれることが、リーナや他の者達のやる気をより鼓舞した。


 午後は自習。マリウスの指導の元、第五パートを教わる。ワルツに近い動きが多く、最も簡単で面白いとリーナは感じた。


 しっかりとお茶休憩を取った後、第一から第五までの通し練習。


 夕食後、パスカルとヘンデルの前で第一から第五までを踊り、合格点を貰った。


 この時点でリーナはカドリーユを習得したと言ってもよかったが、金曜日の夕方に全体練習をすることになった。



 金曜日の午前中の授業は普通に出席した。


 リーナが作法の時間を欠席していたのは、午前と午後に分けてカドリーユを練習するためだということはカミーラから他の側妃候補達に伝えられていた。


 そのリーナが作法の時間に出るということは、カドリーユの練習がないということになる。


 一時限目と二時限目の間にある三十分休憩の際、リーナはカドリーユを踊れるようになったことを話し、側妃候補達を驚かせた。


 一般的にカドリーユは相手を頻繁に交換すること、細かい動作が多々入ること、一緒に踊る他の組と合わせること、一組だけで練習しにくいことから、習得が難しいダンスだと言われていた。


 火曜日の時点で全くできず、お茶の時間を返上してまで練習したものの、第一パートをなんとか覚えたかもしれないという状態だった。


 このままいけば、土曜までの習得は困難だ、誰かと交代させた方がいいと思うに決まっている。


 しかし、リーナは金曜日の朝の時点で習得したと言った。つまり、水曜日と木曜日で残りを全て仕上げた。


 あまりの速さにしっかりと覚えたのか、本当は最初から踊れたのではないかと怪しまれた。


 夕方に行われるカミーラ達との全体練習を見学したいという声が他の側妃候補達から上がったが、カミーラがにこやかに拒否した。




「おまたせ~」


 軽い口調でヘンデルは挨拶をしたが、音楽室にいたリーナとそれ以外の者達は全員驚くしかなかった。


 予定ではリーナ、カミーラ、ベル、ラブ、騎士達で踊り、全体練習をすることになっていた。


 時間的に間に合えばパスカルとヘンデル、無理ならマリウスが出来栄えを確認し、細かい修正等を行うなどして、パスカルに報告することになっていた。


 結局、パスカルとヘンデルは来た。しかも、時間通りに。


 だが、それだけではなかった。王太子と側近三名もまた連れて来た。


 この状況に驚かないわけにはいかない。


「いやあ。王太子殿下が練習の成果を見たいと言ってさあ」


 リーナもカミーラ達も緊張せずにはいられない。


「ちなみに、カドリーユを上手く踊れるのは俺とパスカルだけだから。こっちの三人は無理」


 ヘンデルは王太子を対象外にした。勿論、友人としてのささやかな配慮である。


「ヘンデル」


 すかさず不満げな声を上げたのはアンディだった。


「図に乗るなよ?」

「紹介するね。俺の先輩達。キルヒウスは知っているよね? こっちがアンディ、そっちがシーアス。全員王太子付き側近で、王太子殿下が成人した時から補佐官をしている。いずれは宰相や大臣になるかもしれないほど、凄く優秀な者達ばかりだよ。リーナちゃんも顔と名前は知っておいて欲しい。あと、ちょこっとだけでいいから挨拶もよろしく」


 ヘンデルに挨拶を促されたリーナが最初に挨拶したのは側近ではなく、王太子であるクオンに対してだった。


「王太子殿下、ご来訪していただけましたこと、心より嬉しく思います。また、側近の皆様、リーナ=レーベルオードと申します。どうぞよろしくお願い致します」


 リーナは無難ではあるものの、深々と頭を下げて挨拶した。


 しかし、それを良く思わなかった者がいた。


「私の恋人である以上、側近達に頭を下げる必要はない。むしろ下げるな」


 自分の恋人が部下に頭を下げることをクオンはそのままにしなかった。


 なぜなら、リーナはいずれクオンの妻になる。今は貴族の令嬢かもしれないが、王太子の恋人というだけで十分特別扱いを受け、配慮される立場だった。


「わかりました。次回からはそうさせていただきます」

「じゃ、そろそろ」


 ヘンデルは挨拶に時間をかけるつもりはなかった。まずは、明日の舞踏会にカドリーユの習得が間に合ったかどうかを確認する必要がある。


「せっかくだから俺も踊るよ」

「では、私も」


 冷静に成果を見るのであれば、参加するのではなく見学だけにした方がいい。


 しかし、ヘンデルとパスカルはカドリーユをリーナに教える講師を務めていた。


 勿論、そのことは王太子もキルヒウス達も知っており、リーナができるだけ早くカドリーユを覚えるために協力をしていた。だからこそ、ヘンデルとパスカルは練習に参加できた。


 それだけに、ヘンデルとパスカルは相応の結果を証明しなければならない。


 できるだけいい評価を得るには、相手役もできるだけカドリーユを得意にしている者がいい。だからこその参加だった。


「キルヒウス達も参加する? 後二名分の枠があるけど」


 参加するわけがないと思いつつも、ヘンデルは声をかけた。


「冷静に監査する」


 キルヒウスが即答すると、アンディとシーアスも答えた。


「ヘンデルの踊りを監査する。ミスをしたら仕事を増やす」

「ヘンデルはミスをしたら減給です」

「パスカルをスルーして俺だけいじめるのはやめて……王太子殿下は?」

「練習の成果を見届ける」


 つまり、見学だ。


「んじゃ、クロイゼルとアンフェルならいい?」


 突然名前を呼ばれた王太子の筆頭護衛騎士とその相棒は唖然とした。


「自分で判断しろ」


 クオンはクロイゼルとアンフェル自身に決めさせることにした。


「お許しがいただければ、参加致します」


 クロイゼルは余裕たっぷりに答えた。


 そして、アンフェルも答える。


「殿下のお側を離れるわけにはいきません。クロイゼルがいないのであれば尚更。私は不参加でお願い致します」

「では、クロイゼルだけ許可を与える。踊って来い」

「はっ! リーナ様の相手役を務めさせていただきます!」

「えー?!」


 ヘンデルが明らかに反論する声を上げた。


「駄目! 教えた以上、俺が責任をもって相手役を務める! パスカルは交代する方でいいよね?」

「では、それで」


 本心を言えば、パスカルは不本意だった。


 しかし、多くの者達の前で無駄に揉めるべきではない。しかも、時間が限られている。リーナの相手を交代で務めるのであればいいと妥協した。


 側近二人が手を組んだため、クロイゼルは潔く退いた。


「私の相手はどなただろうか?」

「俺とリーナちゃん、ラブとパスカルね。んで、クロイゼルはカミーラかベルのどっちか。好きな方でいいよ」


 選択権はクロイゼルに与えられた。


 カミーラとベルの視線が同時にクロイゼルに注がれる。


 シャルゴット姉妹の相手か。


 クロイゼルは笑顔を作った。


「第四パートが楽しみだ! 両手にシャルゴットの美しい花々とは贅沢過ぎる。いやはや、私はなんと幸運な男だろうか!」


 まずは、カミーラとベルの機嫌を取るための言葉だ。


「とはいえ、これではメインパートナーを選ぶのが難しい。そういう時は、私が心から信頼する者の助言を聞くのが一番だ。アンフェル、決めてくれ」


 クロイゼルはシャルゴッド姉妹いずれかの機嫌を損ねるのを避けるため、アンフェルに踊る相手を決めて貰うことにした。


 人に押し付けるな!


 アンフェルは心の中でクロイゼルを罵った。だが、表面上は冷静に答えた。


「……身長を考慮すると、ベルーガ殿がいいと思う」


 アンフェルはできるだけシャルゴット姉妹に恨まれないような理由をつけて判断した。


「では、それで。カミーラ殿とベルーガ殿もよろしいでしょうか?」

「構いませんわ。むしろ、クロイゼル様と踊れるなんて光栄です。ねえ、ベル?」

「ええ、そうね。常に王太子殿下のお側にいるのがお仕事の方ですもの。お相手していただけるなんて、とても貴重な機会だわ!」

「そういっていただけて何よりです」

「はいはい。じゃ、早速始めるよ。最初はどのペア?」

「私とカミーラが先行よ」


 ベルが答える。


 つまり、最初に踊る二組はカミーラとベルーガのペア。次に踊る二組目がリーナとラブのペアということだった。



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