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後宮は有料です! 【書籍化】  作者: 美雪
第六章 候補編

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581 礼儀作法

 月曜から金曜の一時限目は全て礼儀作法になる。


 昨日は関係者の紹介や顔合わせで午前中の授業はなかったが、火曜からは時間割通りの予定だった。


「皆様、おはようございます。私が火曜の礼儀作法を担当するアディラです。礼儀作法は月曜から金曜までありますが、毎回私が担当するわけではありません。複数の者達が交代で担当します」


 まずは今回の担当講師であるアディラからの挨拶から始まった。


「皆様は高貴な身分の女性ですので、すでに様々な礼儀作法を学ばれていると思います。しかし、礼儀作法は一つではありません。複数あります。また、何に関する礼儀作法なのかというのも多種多様です。現在の形式もあれば、過去の形式、他国の形式といった違いもあります。そういった様々な礼儀作法を学ぶための時間ですので、十分礼儀作法は習っているという方であっても、慢心されませんように」


 アディラはしっかりと前置きした後、続いて舞踏会の話題に移行した。


「土曜日に舞踏会があります。デーウェンとの友好を目的とした特別な舞踏会です」


 リーナは緊張した。


「皆様は舞踏会でデーウェンの方々とダンスを踊り、歓談の相手を務めます。つまり、政治的、外交的な要素の強い重要な催しで、相手国の関係者をもてなす重要な役割を務めます。両国の関係にひびが入るようなことは絶対にできません」


 アディラは確固たる口調で断言すると、舞踏会やデーウェンについて書かれた紙を配った。


「今回はここに書かれた内容について勉強します」


 リーナは早速紙を見た。


「では、一。デーウェンの作法について」



 アディラの説明が始まる。


 デーウェン大公国は本土と島嶼部があるため、多様な文化を持つ。そのため、礼儀作法も本土と島嶼部で違い、地方によって細かく違う。


 エルグラードの作法と共通している部分もある。


 しかし、全く違う部分もある。


 まずは挨拶。


 デーウェンにおいて、挨拶は非常に重要なものだ。


 多くの国でもそうかもしれない。身分制の国によっては、身分が下の者は自分よりも上になる者に声をかけてはいけないという場合もある。


 エルグラードもそれが基本になるが、挨拶するためであれば問題ない。報告等、必要不可欠な場合も、無礼にならない。


 しかし、デーウェンにおいては違う。挨拶するということ自体が非常に重要だと考え、挨拶は必ずする。そして、挨拶されたら必ず返す。これが基本だ。


 エルグラードにおいては、身分の下の者が上の者に対して挨拶した際、上の者はそれにいちいち応える必要はない。無視しても無作法にならない。


 しかし、デーウェンでは必ず返すのが基本になるため、返さない、無視するのは高位の者であっても無作法になる。


 極端な例だが、平民が大公家の者に挨拶をした場合、大公家の者はよほどの理由がない限り無視することはない。声をかけるか、手を挙げる、手を振る、頷くなどといった目に見える行動で応える。


 言葉ではなく、行動で返すということでも構わないわけだが、何かしらの返事となるような対応をするということだ。


 複数の者達が一度に挨拶してきた場合、全員に返すのは難しいかもしれない。だが、許す限りの範囲内で個別に返すというのもまた礼儀でもある。


 そのため、皆様、ここにいる一同、などと複数の者達を一気にまとめるような言葉や言い回しは極力控えるようにするのもデーウェン流だ。


「皆様は舞踏会でデーウェンの方から声をかけられるでしょう。その中には平民の外交官がいるかもしれません。ですが、そこで身分差があるからといって無視をしてはいけません。相手は平民かもしれませんが、それ以前にデーウェンの外交官です。国外に来る者は選ばれた重職者とみなし、必ず挨拶をして下さい。その場合、できる限り言葉で。微笑むだけといった行動はわかりにくく、無視したと思われる可能性がありますので避けます」


 アディラは挨拶の仕方が様々にあることを話した後、中でも特に注意すべき社交的な礼儀作法について説明した。


「デーウェンの男性は気軽に女性へ声をかけます」


 デーウェンは海を介して多くの国々とつながっているという開放的な国土が文化に影響し、美しい女性には声をかけるのが礼儀とされている。


 そのため、老若男女問わず、美しい女性には声をかける。身分の上下も関係ない。美辞麗句を並べて褒め称えるだけでなく、お茶や食事、一緒に過ごしたいなどと誘ってくる男性も非常に多い。人によってはベッドへの誘いも遠慮なく口にする。


 そのような態度はデーウェンの男性が全員軽薄だからではない。全て礼儀作法、社交辞令の一種、相手への敬意や長所を口にすることで親しみや好意を伝える挨拶なのだ。


 世界で一番美しい、人生で出会った女性の中で最高だなどと大げさに褒められても、いちいち本気にしてはいけない。とにかく褒める、それがデーウェン流と思えばいい。


 また、美しい女性が対象とはいっても、個人的嗜好は千差万別である。そのため、ほぼ女性全般に声をかけると思っていい。自分以外の女性にも同じように声をかけたとしても、気にしてはいけない。社交辞令だからだ。


 エルグラードは非常に厳格な国というわけではないものの、あまりの遠慮なさに気分を害してしまう男女も多い。


 しかし、舞踏会ではできるだけ穏便に対応する。寛容さと慈悲深さをもって接するのが淑女だ。


 デーウェンの者達もここは自国ではないこと、エルグラードにはエルグラードの作法があることを理解している。理解していない者が派遣されるわけがない。友好を壊しかねない問題行為は自粛すると思われるが、気を付けるにこしたことはない。


「この程度は常識ですね?」


 アディラの当然とばかりの問いかけに、リーナは思わずうつむいた。


 常識なの?


 自分以外の者達は、ここまでの説明はすでに知っている、当然のことだと思って聞いている。だからこその問いかけだとリーナは思った。しかし、リーナにとっては違う。


 リーナは焦った。やっぱり、勉強不足だと。


「では、二。デーウェンの作法の特徴とは」


 授業は続く。


 リーナは舞踏会に備えての猛勉強をすべく、アディラを凝視した。




 一時限目と二時限目の間は休憩時間が三十分ある。


 その時間はカミーラ達とデーウェンついて話すことになった。


「デーウェンには午後休憩という慣習がありますの。ご存知でしょうか?」

「エルグラードにもありますよね?」

「午後のお茶とは違うのです」

「えっ?」


 デーウェンの午後休憩は十三時から十六時が基本になる。


 デーウェンの日中は暑く、効率的に働ける状況ではない。外出すると熱射病などになる恐れがあるため、涼しい場所で昼寝をしたり、冷たい飲み物を飲んだりして過ごす慣習があった。


 エルグラードにも午後に休憩する慣習があるが、一般的には十五時から十六時頃。お茶、あるいはおやつの時間などと言われ、軽食やお菓子、お茶などの飲み物を取りながら会話を楽しむような時間になる。


 午後に取る休憩時間といっても、エルグラードとデーウェンでは時間や内容について、大きな差があるのだ。


「デーウェンの男性から休憩に誘われたら要注意ですわ」


 エルグラードの女性であればお茶をする、会話をするようなことをイメージする。


 しかし、デーウェンではベッドへの誘いを指していることがある。


 二人だけで、静かなところで休憩、という言葉は特にその可能性が高い。


 絶対に受けてはいけないと教えられたリーナは震えあがった。




 二時限目は国語。ここでもデーウェンのことが取り上げられる。舞踏会での歓談に備え、デーウェンの有名な文学作品についての勉強をすることになった。


 三時限目は数学。やはりデーウェンについて。数字というよりも、貨幣についての勉強だった。


 昼食を挟んだ四時限目は体育。舞踏会に備えてのダンスの練習時間になる。


 まずはワルツを踊れるかどうかの確認をするため、ピアノの演奏に合わせ、相手役を務める男性と組んで踊ることになった。


「やや気になる方もいましたが、一応は全員合格です。では、次にカドリーユの確認をします」


 土曜日に踊るのはワルツだけではない。カドリーユも踊る予定になっていた。


 リーナはカドリーユを踊れないどころか、まったくわからない。


 そこで、まずは他の者達がしっかりとカドリーユを踊れるか確認するのを見て、どのような踊りなのかを知ることになった。


 カドリーユは男女のペア一組で踊るわけではなく、四組で踊る。つまり合計八人で踊るダンスだ。


 自分だけが上手く踊ればいいわけではなく、他の相手の動きを見ながらぶつからないように移動しつつ、踊る相手を交換する。全体が美しく見えるような距離感に注意する必要もあった。


 リーナは他の候補者達が問題なくカドリーユを踊るのを見ながら、自分にも踊れるか不安になった。


 しかし、やるしかない。


 まずは非常にゆっくりと女性の動きだけを教わる。


 しかし、移動しなければならないこともあって、細かい動作が全く頭に入らない。ただ、キョロキョロしながら迷子のように移動するだけで、全く踊れていなかった。


 あっという間に四時限目が終わってしまう。


「では、ここまで。お茶の時間にして下さい。五時限目は選択科目ですが、まだ決定していませんので自習です。リーナ様は引き続きダンスの練習をしますので、お茶の時間の後、ここに戻って下さい」

「先生! 待ってください!」


 リーナが叫んだため、講師は嫌な予感がした。


 理由をつけて補習をサボる気かしら?


 講師はそう思ったが、その予想は外れるどころか真逆だった。


「とても難しいので、このまま練習を続けたいです。今のうちにしっかり覚えておかないと……お茶を飲んでいたら忘れてしまいそうです。だから、お願いします!」


 リーナは休憩を返上して練習したいと申し出た。


 完全に予想外の申し出だった講師は驚いた。


 貴族の女性の多くはダンスを習う。はっきりいえば、必須の項目だ。


 しかし、カドリーユは習得が難しい。複雑な動きを多く覚えてなければならず、男女のペアだけの踊りでもない。基本は四組、最低でも二組いなければ練習しにくい。


 また、自分が非常に上手く踊れても、組む者達が下手だと全体的な動きが美しく見えず、自分まで下手に見えてしまうかもしれない。


 そういった様々な理由から練習を嫌がる者、覚えたがらない者が続出する踊りだった。


「……わかりました。では、休憩時間も練習し、女性の動きをできるだけ覚えておきましょう。そして、五時限目からは音楽に合わせ、男性と組みながら練習することにします」

「ありがとうございます! 頑張ります!」


 リーナは喜んだ。


 ただ練習できるだけで習得できたわけでもない。あまりに喜び過ぎだと思う者達が続出する中、同じぐらい喜ぶ者がいた。


「さすがリーナ、様ね! 努力家だわ! 私も五時限目の自習はダンスにします。カドリーユはなかなか踊る機会がないので、しっかりと復習しておきたいわ!」


 ベルはダンスが得意ではあるが、それ以上に大好きだ。部屋で自習するということであれば、リーナに付き合ってダンスの練習をする方がいいと判断した。


「カミーラはどう?」


 姉を入れれば三組。講師も踊れば四組。丁度いいとベルは思ったが、カミーラはダンスが得意でも好きでもない。椅子に座ったまま、頭を動かすのを得意としていた。


 しかし、学友であるならば、勉強に付き合うのは当然でもある。


「勿論、御一緒するわ」


 カミーラは即答した。但し、道連れも一緒だ。


「ラブ様も一緒に練習したほうがいいでしょう。先ほどのカドリーユですけれど、お世辞にも上手とは言えない出来栄えでしたわ。ウェストランドの名に恥じない踊りを披露しないといけないのでは?」


 すかさずカミーラの案に乗ったのは講師だった。


「カミーラ様の言う通りです。ラブ様も五時限目はここに戻って下さい。補習です」

「私達はリーナ様の学友だもの。付き合うわよね?」


 笑顔でベルにも催促され、ラブは憤怒の表情を浮かべながら叫んだ。


「急にそんなことをいうなんて狡いわ!」

「あら、では私がリーナ様の練習に付き合いましょうか?」


 愛想のよい笑顔を浮かべながらアルディーシアが申し出た。


 勿論、リーナの学友三人組にとって、歓迎できることではない。


「アルディーシア様は練習する必要がないほどお上手です。練習する必要がある者にお譲り下さいますわよね?」

「あら、ベル様もお上手でしたけれど?」

「代わるなら別の者にしてよね!」

「では、やはり乗り気ではなさそうなラブ様の代わりに」

「駄目に決まっているわ」


 ラブは即座にアルディーシアの参加は不都合だと判断した。そして、アルディーシアの参加を阻むためには、自分が参加する必要があるとも。


 アルディーシアは公爵家の令嬢だが、養女だ。だからこそ、シャルゴット姉妹に対しても交代を無理強いすることはない。


 社交界に長く出入している二人のコネは強く、一部の女性からは非常に強く支持されている。社交クラブとの関係を見ても、二人をできるだけ敵に回したくないと思うのが普通だ。


 残り一枠があるとしても、ウェストランド公爵家のラブを差し置いて参加することはできない。ラブの許可がなければ。


「私が参加するのよ。補習なら仕方ないし。でも、休憩した後よ。それまでにしっかりと覚えておきなさい! ちょっと踊っただけで失敗して何度もやり直しなんて、絶対嫌だから!」

「ラブ様が間違えて動きを止めないようにもしないと」

「そうそう。カミーラはダンスが上手ではないかもしれないけれど、動きを間違えることは絶対にないから」

「ベル、貴方ほどではないかもしれないけれど、ダンスの評価はそれほど悪くはないと思うけれど?」

「確かに標準以上ではあるわね。何事も」


 なにはともあれ、ラブの補習参加も決まる。


 五時限目の補習参加者はリーナ、ラブ。任意の参加としてベルとカミーラ。


 女性は四人。ダンスの相手役を務める男性も四人。丁度いい。


 自分が踊る必要のなくなった講師は満足そうに頷いた。


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