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後宮は有料です! 【書籍化】  作者: 美雪
第六章 候補編

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577 側妃候補の夕食会(一)

 王宮で晩餐会が開かれている頃、後宮でも夕食会が行われていた。


 参加者は側妃候補者達。リーナとキフェラ王女はいない。


 最上位の席は夕食会を主催したカミーラ、次席には妹のベルが座り、その後は四大公爵家の令嬢であるラブから始まる身分と序列の順番になっていた。


 貴族はことあるごとに爵位や序列を守るのが基本事項になる。そのため、席の場所について文句をつける者はいなかった。


「今夜は私と妹のベルーガが入宮しましたことについて改めて報告するとともに、お見知りおきいただくための夕食会を開きました。これほど多くの方々が出席してくださったことに、心から感謝致します。では、皆様のご多幸とご健康を祈って。乾杯」


 カミーラが主催者として挨拶と乾杯の言葉を告げると、それに唱和する声と共にグラスが掲げられた。




 カミーラが夕食会を開くことにしたのは、先に入宮している者達から話がしたいという申し出があったからだ。


 カミーラがなぜ入宮したのか。


 その理由は王太子や兄ヘンデルの命令であろうことは予想しやすい。しかし、本当にそれだけか。他に狙いがあるのか。レーベルオード伯爵令嬢との関係は。自分と敵対する気なのか。様々に質問し、確認するためにも話し合いたい。


 カミーラは側妃候補達と話をするつもりではあったものの、その体は一つしかない。一夜につき一人の対応にしてしまうと、全員と話し合うためには日数がかかり過ぎる。


 そこでまずは夕食会に誘うことにした。


 誘いが来た側妃候補は自分だけが招かれている、せいぜい同席者は妹だけだろうと予想していたが、実際に足を運ぶと他の候補者達がそろい踏みの状態に驚く。


 冷静に考えれば、自室での夕食会に招待するというだけで、出席者が誰かということは知らされていない。まんまと嵌められたと感じるしかなかった。


 ちなみに、側妃候補が後宮で特別な催しを個人的にすることはできない。夕食会を開きたいからといって、特別な料理を手配したり、部屋を用意したりするようなことも不可能だ。


 しかし、カミーラは元々入宮の際に特別待遇を受けられることになっていた。


 側妃候補の一人として与えられる部屋以外にもいくつかの部屋を自由に使えることになっており、他の候補者を部屋に呼ぶこともできる。でなければ、妹やラブと直接会って話しにくい。


 自分が特権を持つことを他の側妃候補に披露し、より実感させる機会にする目的もあった。


「カミーラは随分と待遇がいいようね」


 食事が始まってから、最初に言葉を発したのはオルディエラだった。


「私の入宮は王太子殿下が望んだことなので、様々に特別な待遇を受けております」


 やはりという表情が続々と浮かんだ。


「レーベルオード伯爵令嬢の学友と言っていたけれど、補佐するように頼まれたのかしら?」

「そうですわ」


 カミーラは隠すこともなく、堂々と頷いた。


「リーナ様には学ぶべきことがあります。だからこそ、後宮に入宮するわけですが、他の方々はすでに多くのことを学ばれています。また同じようなことを学ぶのかと思われ、リーナ様のやる気をそぐような雰囲気になってしまうかもしれません。それでは勉強に支障が出てしまうため、私も共に勉強することになりました」

「カミーラは十分に勉強したでしょう。もうすることないのではなくて?」


 カミーラの学歴はエルグラードの貴族の中でも非常に優秀な者であることを証明するようなものだった。


 つまり、王立学校の初等部から順調に中等部、高等部、有名な花嫁学校。最終学歴は王立大学だ。


「後宮でしか勉強できないことがあると思いますの」

「学力という意味では、さほどでもないわ」


 会話に加わったのはエメルダだった。


「後宮の教育内容は礼儀作法と社交に関わる知識に重点が置かれているのよ。花嫁学校と同じだわ」


 エメルダもまたカミーラと同じ学歴を持っている。非常に知的な女性だった。


「では、特に学ぶことはないと?」

「王家に特化した情報を復習できるのはいいかもしれないわね。でも、そういった情報は高位の貴族であれば自然と習うものでしょう?」

「そうですわね」


 高位の貴族はいかに自らの出自に釣り合う相手、益がある相手と結びつくかが重要だ。


 自ずと王家の存在を意識し、王族の側に妻として、あるいは友人としての地位を確保できるように猛勉強する。


「私、常々エメルダ様ほどの者が、どうして後宮に入ってしまったのかと思わずにはいられませんでしたわ。大学院に進むだけの実力はおありだったはず。だというのに、まさか入宮されるなんて……」

「カミーラこそ、大学院に行くのだと思っていたわ」


 カミーラは首を振った。


「私は大学で十分だと思っていましたの。それに、大学院に行く女性には縁談話がほとんど来ません。両親が大反対したのですわ」


 エルグラードは教育水準が高い。女性の進学率も年々上がっている。しかし、大学へ進む女性の数は圧倒的に少ない。大学院へ進む女性はほぼいない。


 その理由は、勉強するほど結婚しにくくなるからだ。


 エルグラードにおける女性の結婚適齢期は二十代前半までと言われ、多くの女性がそれまでに婚姻する。


 大学や大学院で勉強していると、社交界に顔を出しにくく、婚活がしにくい。かといって、学業をおろそかにすれば卒業できない。留年は不名誉になるため、自主退学することになる。


 自分よりも高学歴、成績が優秀な女性を嫌がる男性もいる。


 女性の学歴は必ずしも高ければ高いほどいいわけではない。年齢や婚姻との兼ね合いを見て、進学するかどうかを判断しなければならなかった。


「後宮に何年もいるのであれば、大学院で勉強された方が有意義だったのでは?」


 エメルダは答えなかったものの、その表情には陰りが見えた。


 エメルダは後宮で過ごした年月は無駄だったと感じ、後悔していた。


 正直に言えば、王太子妃に選ばれる自信があった。それだけの知力がある。エルグラードの最高位の女性に相応しいと思われるような高学歴でもある。しかし、選ばれない。側妃にさえなれない。大誤算だった。


「ここにいる皆様は全員が同時ではありませんが、かなりの年月を後宮で過ごされたはず。王族の目に留まればよかったのでしょうけれど、そうならなかったことを考えると、随分と多くの時間を費やしてしまいましたわね。素晴らしい女性ばかりなのに、とても残念ですわ」


 丁寧ではあるが、上辺だけを取り繕っただけの態度であることは誰もが感じた。


 シュザンヌは眉間に深いしわを寄せた。


「貴方も大学で学業を切り上げて社交界に出入していた割に、結婚相手が見つかっていないようね? しかも、今更入宮するなんて。それこそ残念ではないの?」

「そうですわ。ご自分のことを棚に上げるのはどうかと思いましてよ?」


 チュエリーが同意する。


「別に棚に上げてなどいませんわ。一応、縁談は今も来ておりますの。でも、ようやく私が待ち望んでいた好機が来たというのに、それどころではありませんわ」

「好機?」

「王太子殿下から入宮するように言われたことかしら?」


 側妃候補達の鋭い視線がカミーラに集中する。


 カミーラもまた王太子妃あるいは王子妃に選ばれるのではないかと騒がれた女性の一人だ。


 本人はことあるごとに王太子妃になることはないと否定しているが、身分、家柄は勿論のこと、大学まで行くほどの優秀さと社交力、しかも美人。加えて兄は王太子の親友で側近となれば、騒がれない方がおかしい。


「私、王太子殿下が心から愛する女性に巡り合い、妻にする気になるのを待っておりましたの」

「身分が低い者で、ということかしら?」

「多忙な王太子殿下が身分の低い方とお会いになる機会があるかどうかはわかりません。ですが、身分の低い方でもいいとは思っていましたわ」


 カミーラは悠然と微笑みながらそう答えた。


 いかに王太子が愛する女性であっても、身分の低い女性を王太子妃にすることはできない。愛する女性は側妃にし、公務をこなすだけの才覚がある身分の高い女性を正妃にするのが望ましいと誰もが思う。


 カミーラが王太子妃になる好機だと捉えるのは当然だろうと側妃候補達は思った。


 しかし、それは大きな勘違いである。


 カミーラは王太子妃になるつもりは微塵もなかった。


「昔話をしますわ」


 カミーラはそう言うと、過去のことを思い出しながら話し始めた。



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