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後宮は有料です! 【書籍化】  作者: 美雪
第六章 候補編

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573 よくできました(二)

「パスカルはセイフリードの側近です。リーナやレーベルオード伯爵家の価値を高めることが、セイフリードやエルグラード王家にとっても都合がいいのです。リーナは何も知らないまま、今夜のように振る舞っていればいいのです」


 晩餐会にも様々な種類があるが、わざと男性だけでなく、男女混合で主催する場合がある。


 それは、男性だけであると、どうしても政治的な話題が多くなり、下手をすれば食事をしながらの会議になってしまう。


 他国の者であれば、少しでも自国に益をもたらしたい。会話の何気ない一言を都合よく解釈し、約束したなどと思い込んでしまう可能性もある。


 そこで、女性を同席させる。


 女性は政治に関われない、その権限がないというのが基本であり、常識だ。つまり、女性がいる晩餐会はあくまでもただの晩餐会であって、政治的な交渉の場ではないとアピールすることができる。


 言葉のあら捜しや言質を取るような会話がないわけではない。しかし、女性がいる場において、政治の話はふさわしくない、重要な約束を話し合ったり、正式に約束したりするわけがないと言い訳ができる。


 今回のように、直接男性同士は話しにくいことがある場合も、女性をわざと同席させる。男性は女性が何も知らないために説明する。それを同席する他の男性達が聞くという間接的な方法で、自分の意志や狙いを伝えることができる。


 女性がそれに対して色よい返事をしても、女性には政治的権限がない。あくまでも個人的な会話になる。政治的判断や交渉ではない。男性達も直接話さないことで、相手の口車に乗ってしまうようなこと、失言を防止しやすい。


「私は勉強するために入宮しました。これからいろいろな事を知ると思います。なので、何も知らない方がいいと言われても困ります。もしかして、勉強するのはあまりよくないということでしょうか?」

「いいえ。勉強は必要です。ですが、リーナは政治を学ぶわけではありません。政治については知らないままでいいということです」


 エルグラードは教育に力を入れている。全体的な教育水準が上がるにつれ、女性の進学率も高くなっている。特に、身分の高い者や裕福な者は大学に進学し、政治や経済、商業について学ぶ機会も増えている。


 そのこと自体は問題ない。しかし、勉強したところで、それをうまく活用できていない者が多いのも確かだ。


 特に、クオンやエゼルバード達にとって頭が痛いのは、高位の身分の女性達が自らの知識をひけらかし、身分や力を誇示することだった。


 自分が賢い、強い権限があると思われたいのはわかる。だが、女性は政治に関われないとしている以上、公の場で政治的な意見を求めることはない。


 女性が男性に混じり、尋ねられたわけでもなく自ら率先して政治の話題をすることは、常識がないことをアピールするに等しかった。


 つまり、余計なことをしている。邪魔でしかないのだ。


「リーナはあまり自分から積極的に話しませんが、多くの女性は話すことが大好きです。大抵は余計なことまで発言してしまいます」


 リーナは余計なことは話さない、失言しないように気を付けるようにと教わっている。


 高位の身分の女性であれば、同じように教わっているはずだと思ったため、リーナは困惑した。


「できれば、具体的にどのようなことか教えていただくことはできないでしょうか? 私は経験が乏しいと思うので、お話を聞いて参考にしたいです」

「よくあるのは、その程度のことは知っているという発言や態度です。女性は自分が勉強し、賢い女性だから知っているといいたいのでしょうが、相手もそう思うかはわかりません。女性でも知っているのに何を言っているのか、そう捉えてしまうかもしれません。その場合、馬鹿にされたように感じてしまうことでしょう。相手によく思われるどころか、真逆の効果です」


 リーナは驚くしかない。知っているという一言が失言になり、相手に悪い印象を与えてしまうことになるとは思ってもみなかった。


「それは、知っているとは言ってはいけないということでしょうか? 知らないふりをするといいますか」


 リーナはアイギスとの会話の際、知っていることを会話に取り入れていた。それは自分の知識をひけらかしたこと、相手を馬鹿にしたことになったのではないかと怖くなった。


「尋ねられてから答える、というのが一番いいのですが、おしゃべりな女性は話したくてたまりません。突然、男性達の会話に割って入り、知っているなどと発言してしまうのです。それはいけません。リーナは尋ねられてから答えていました。それが正解です。これは女性だけではありません。身分の低い者、立場が弱い者の心得、作法でもあります」

「でも、私は色々と質問してしまいました。話し過ぎた気がします」

「いいえ。アイギス大公子はリーナと話したがっていました。しきりにリーナはどう思うかと言って話しかけていましたので、答えるのが正解です。また、質問をするということは、話に興味を持ったということです。アイギス大公子はデーウェンに興味を持って貰えたことを非常に喜んでいました。客を喜ばせることに貢献したのですから、悪いわけがありません」


 自分の行動は悪くなかったと言われ、リーナはほっとした。


「お前はただ普通にしていただけで、意図して何かをしたわけではないだろう。だが、それでいい。求められたのは、まさに普通に過ごすことだった。政治的な化かし合いは他の者達に任せておけばいい。お前が参加する必要はない。今夜はよくできていた」


 ずっと黙っていたセイフリードが発言した。


 勿論、その内容はリーナを褒めるものだった。


 リーナはセイフリードが厳しいこと、お世辞を一切言わないことを知っている。本当に自分はよくできた、そう評価されたのだと実感できた。


 後宮の授業が始まったものの、音楽の時間はいかに自分が何も知らないか、勉強不足か思い知っただけに、自信がなくなっていた。


 だからこそ、晩餐会で上手に振る舞えたことを褒められ、気持ちが上向いた。


 少しずつ頑張ればいい。努力は無駄にならない。勉強が役立つ時が来る。そして、褒められると凄く嬉しい。また、頑張ろうと思える。


 リーナの表情に笑みが戻った。


「褒められ過ぎて……恥ずかしいです」

「今夜の晩餐会はリーナのおかげで成功した。アイギスの注意を引いてくれたため、私はゆっくりと食事を取ることができた。デザートも十分に堪能した」


 クオンは優しく温かな口調でそう言うと、リーナの額に口づけた。


 リーナは余計に恥ずかしくなった。


「また、共に食事をしたい。友人達にも機会を見て、順次紹介していくつもりだ。いつまでたっても恋人さえいないと言われ続けて来た。それを返上する時が来た。恋人として手伝って欲しい」


 クオンは珍しく軽口をたたきながら、リーナをまっすぐに見つめた。


「今夜の晩餐会の出来を点数で評価するのであれば、満点だ。だが、もう一つすべきことがある。後宮に戻り、ゆっくりと休んで疲れを取ることだ。いいな?」

「はい」


 クオンは呼び鈴を鳴らして侍従を呼ぶと、リーナを後宮に送り届けるように命令した。


 晩餐会の後、リーナをそのまま王宮に宿泊するという通達がなかったため、後宮に戻るための馬車が用意されていることを侍従は告げた。


「おやすみ、リーナ」

「おやすみなさいませ」

「リーナ、良い夢を」

「さっさと寝ろ」


 リーナはようやく帰れると思いながら、同行した者達や護衛と共に後宮へ帰って行った。


 部屋に残ったクオン達は、ようやく内密の話し合いができると思った。



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