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後宮は有料です! 【書籍化】  作者: 美雪
第六章 候補編

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559 月曜日の朝

 月曜日はリーナが初めて他の側妃候補達全員と顔を合わせる。


 そのため、侍女達は「重要な予定のある日」だと捉え、王太子の寵愛者としての立場を示すような衣装を揃えていた。


 日曜日の身支度の際、リーナは衣装の用意についての変更をいくつか行ったが、重要な予定がある日は自分でドレスを選ばず、侍女達の方で相応しいドレスを選ぶことにしていた。


 そのため、用意されたドレスは一着。そのドレスに合わせた宝飾品や靴も全て決められており、リーナはただ身に着けるだけだった。


 朝食後、授業に行くための衣装に着替えることになったリーナは驚き、ヘンリエッタに尋ねた。


「今日から授業が始まると聞いていましたが、このようなドレスで行くのですか?」


 リーナの感覚では、授業に行くのは勉強しに他の部屋に行くということで、外出をするわけでもなく、舞踏会などに出席するわけでもない。つまり、普段着でいいと思っていた。


 ところが用意されているドレスは正装用のもので、それこそ舞踏会に出席してもおかしくないほど豪華なドレスだった。


「はい。授業に出席する方々はかなりのお洒落をされています。王太子殿下に寵愛されているリーナ様にはそのことが一目でわかる衣裳を身に着けるべきかと存じます」

「では、平日はいつもこのような衣装を身に着けることになるのですか?」

「授業に出席されるのであればそうなります。授業を欠席されるということであれば、もっと控えめなドレスでも構いません」


 リーナは着替えた後、朝の打ち合わせから戻ってきたスズリに尋ねた。


「スズリ、夜会用のドレスですが、何着持ってきましたか?」

「お屋敷からということですと、三十着です」

「ドレス全部の数ではなくて、夜会用のものだけです」

「夜会用のドレスだけで三十着です」


 リーナは一瞬、無言になった。


「私が検分したのは数着でしたよね?」

「あれはリーナ様が好まれそうなドレスはどのようなものか確認するためです。あの時に選ばれたドレスを参考に、閣下とパスカル様がご用意されていたドレスの中から十着が選ばれました」

「十着と三十着では数が合いませんけど」

「事前に送る荷物、第一便が十着です。入宮日に持ち込む第二便が十着、日曜日に十着。合わせて三十着です」


 リーナが後宮に持ち込む荷物は多い。特に夜会用のドレスはかさばる。


 一度に大量の荷物を運んでしまうと後宮への持ち込み品の検分に時間がかかってしまうため、何回にも小分けして搬入するということになっていた。


 リーナが屋敷にいる間に確認したのは入宮日よりも前に送る荷物で、入宮日や日曜日に届く荷物に関してはパスカルやレーベルオード伯爵の方で確認していた。


「そんなにあったとは知りませんでした。だったら授業に出席する際のドレスに困らなさそうです」

「質問があるのですが、本日はその衣装で授業に行かれるのでしょうか?」

「そうです」

「夜会用のドレスを着用されるとは思いませんでした」

「実は私も……でも、侍女達が用意したのがこれだったので、相応しい装いなのだと思います」

「えっ、リーナ様の希望されたドレスではないのですか? 確か、朝は二着用意することになったはずですけど」


 スズリは自分の知る内容と違うことに驚いて尋ねた。


「それは普段の場合です。重要な予定の日は侍女達が相応しいドレスを選んで用意します」

「授業の予定は重要ということでしょうか?」

「そうみたいです。私は勉強するために後宮に入ったわけですし、確かに重要な予定だと思います」


 スズリは困惑するように眉をひそめた。


「私は授業の際のドレスについては派手にならないように言われていたのですが……本当にこのドレスでいいのでしょうか?」

「えっ!」


 リーナは驚いた。


「誰に言われたのですか?」

「閣下です。元々リーナ様の身の回りの世話は私がすることになると思っていましたので、どのような状況にどのようなドレスを選ぶのかということについても細かく指示がありました。授業は普段着か外出着から選ぶということでした。でも、夜会用のドレスをお召しになっているので、リーナ様が他の候補者に会われるために気合をいれることにしたのかと思いました」


 リーナはすぐにヘンリエッタの方を見た。


「ドレスは本当にこれでいいのでしょうか?」

「はい」


 ヘンリエッタはためらうことなく頷いた。


「授業にも様々な種類があります。ダンスの授業がある日であれば、ダンスに適した裾のドレス、ピアノの授業であればピアノを弾くのに適した袖のドレスとご説明すればわかりやすいかと思います」


 ピアノなんて弾けない!


 リーナは動揺した。


「本日は他の方々と顔合わせをすることになります。最初の印象は非常に重要ですので、リーナ様のことを他の者達が軽んじることがないようにするためにも、堂々としたドレスを着用されるべきです。夜会用のドレスを着用されるのが正しいかと存じます」


 説明を聞いたリーナとスズリはそうなのかと思うしかない。


「でも、授業に出る時は毎日このような衣装だと言いましたよね?」

「部屋でくつろぐ衣装と、外に出られる衣装が異なるのは当然です」


 ヘンリエッタは詳細な説明を始めた。


「リーナ様は後宮内から出ないため、外出しないという感覚だと思います。ですが、後宮では自らの部屋の外に出る事が外出なのです。授業へ行くというのは、単に同じ建物の中にある別の部屋に移動するのではなく、学校に行くのと同じ。購買部に行くのは、商人の店に行くのと同じ。庭に散歩に行くのは公園に散歩に行くのと同じ。そのような感覚に慣れていただく必要がございます。リーナ様は多くの部屋を与えられていますが、そうではないお部屋や場所に移動するのは、外出することなのだとお考え下さい」


 ここは後宮。貴族の屋敷ではない。だからこその考え方、感覚がある。


 リーナ達の感覚では、一つの建物内にある部屋から別の部屋に移動するのはただの移動であって外出ではない。レーベルオード伯爵家でも、自分の部屋から出て廊下を歩いても、それはただの移動だ。外出にはならない。


 ところが、後宮では与えられている部屋(範囲)以外に移動することは、同じ建物の屋内、廊下続きのために間違いやすいものの、外出扱いになる。全く別の建物、外に行くのと同じ感覚だということだ。


「私は後宮にいたことがありますけど、感覚がおかしかったようです。部屋から出ることが外出になるとは思いませんでした」


 リーナは過去の自分の過ちを反省したが、ヘンリエッタは即座に注意した。


「恐れながら、過去のリーナ様がこのような感覚をお持ちでなかったのは当然かつ正常です」

「正常? おかしくないということですか?」

「過去のリーナ様にとって、後宮は全てが仕事場。部屋を出るのは仕事のための移動になりますので、外出ではありません。部屋を出たら外出という感覚は、側妃候補という立場だからこそです。側妃候補は後宮の仕事をしているわけではありません。また、自由に歩き回ることもできません。そういったことを踏まえての感覚です」

「なるほど! さすがヘンリエッタさ」


 リーナは慌てて口をつぐんだ。


「……よくわかりました」

「恐れながら申し上げます。呼称に関して何度も間違えるのはよくありません。名前で呼びにくい場合は役職でお呼び下さい」

「室長補佐、と呼べばいいのでしょうか?」

「はい。ですが、補佐とつく役職は多くございます。そこで、臨時の役職、室長代理でも構いません。あるいはモールトンでも」

「モールトン夫人?」


 リーナはアリシアやメイベルのことをウェズロー夫人、エンゲルカーム夫人と呼ぶこともできると教わっている。そのことからヘンリエッタに対しても同じように夫人とつけたが、これは完璧に間違いだった。


「夫人というのは婚姻した女性、妻のことをあらわします。私は未婚ですので、夫人はつけません。モールトンだけです」

「……はい」


 リーナは自分の失態に気付いて反省した。


「念のために申し上げておきます。後宮には多くの女性が働いていますが、ほとんどの者達は未婚です。王宮の侍女の中には既婚者も多くいますが、後宮の侍女は違うということをお忘れなきように。婚姻できないことに悩んでいる者達もいますので」

「はい。本当にすみません。間違えないようにします」


 リーナはもう一度深い反省をあらわすように、体を縮めて謝罪した。



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