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後宮は有料です! 【書籍化】  作者: 美雪
第六章 候補編

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554 友人候補

「なんですって!」


 真っ先に叫んだのはラブだった。


「嘘! どうして?!」


 勿論、ベルもありえないという表情をしている。


「……」


 友人になるための流れを考えたカミーラは黙り込んだ。


 大抵の女性はカミーラ達が助力を惜しまないという好意をみせつければ非常に喜ぶ。願ってもないことだとありがたがるのは確実だ。


 とはいえ、身分や態度に強い威圧を感じ、恐れてしまう者もいないわけではない。


 そこでカミーラは礼儀正しい態度、ベルが親しみやすさを強調し、姉妹セットで売り込むことにした。


 元々は一人でいいとヘンデルから言われたものの、頭脳系と運動系で役割分担できることや、長く後宮に留まらないためにも二人で一緒に共闘する方がいいと主張した結果、姉妹揃って入宮することになった経緯もある。


 更に四大公爵家という出自や強烈過ぎる性格で扱い辛いラブに関しては、有無を言わさずに承諾させるようなものにするという作戦を事前に立てていた。


 簡単だと思ったのに……誰かが事前に入れ知恵をしたのかしら?


 カミーラはアリシアに視線を向けた。


「この者達と親しくなっておくのはとてもいいことだと思うわ。だからこそ、部屋に呼び寄せたの。年齢差が少しあるけれど、そういったことは気にしないでいい者達ばかりだわ。女官である私よりもむしろ友人としてうまくやっていけると思うし、一緒に社交界にも行くこともできて頼りになると思うけれど?」


 カミーラの視線を受けたことにより、アリシアは自身の意見を示すべきだと感じた。だからこその発言だ。


 アリシアからの援護を受けたカミーラ達は期待した。


 しかし、リーナの意見は変わらなかった。


「私……とても嬉しい申し出をいただいたと思っています。でも、お友達を勝手に作ってはいけないと言われているのです」

「誰に?」

「お父様です」


 かなりの強敵が出現したとアリシア、カミーラ、ベル、ラブは思った。


 リーナは自分の信頼する上の者に言われれば、素直に従ってしまう。それは悪いことではない。長所でもある。


 勝手に友人を作るなという助言も間違いではない。リーナと友人になりたい者達は大勢いる。しかし、全員が信頼できる相手ではないのもまたわかっている。


 リーナに命令をしたのが王太子であれば、アリシアが対処できる。元々アリシアは王太子の意向でリーナの元に来たのだ。


 しかし、レーベルオード伯爵となれば話が違う。


 勝手に友人を作るなという指示はレーベルオード伯爵家の意向だ。娘であるリーナは従うべきであり、それを理由に断るのは正当な行為だった。


 すぐにパスカルを呼んで尋ねたとしても、レーベルオード伯爵家の当主決定を簡単に覆すことはない。父親の指示に従う。あるいは、保留にして父親に伺いを立てるということになるのは目に見えている。


 リーナが他の候補者達といよいよ対面するのは月曜日、つまりは明日。


 レーベルオード伯爵の判断が月曜日までにされるかどうか、また、カミーラが友人達として認められるかどうかはわからない。


「では、学友として認めていただくというのはいかがですか?」


 カミーラはあえて友人という言葉を学友という言葉に置き換え、リーナから肯定する返事を貰おうとした。


 だが、リーナは騙されなかった。


「学友というのは、一緒に学ぶ友人のことですよね? 友人なので駄目です」


 カミーラは全く表情を変えなかったが、内心では誤魔化せなかったことに舌打ちした。


「そんな……絶対に友人になった方が得なのに!」


 ベルが困り切った表情でそう言った後、明らかに怒りの表情をしたラブが叫んだ。


「高位の者からわざわざ言ってくれたのに、受けないなんて失礼だわ! 言っとくけど、側妃候補の立場は貴族なのよ? つまり、伯爵令嬢ってこと。私達は侯爵令嬢と伯爵令嬢だから同じ程度と思っていたら大間違いよ! レーベルオードは最高位が伯爵。でも、ウェストランドは大公に匹敵する公爵家だし、シャルゴットも侯爵家。つまり、レーベルオードよりも上だってこと。そっちの方が重要だってことをわかっていないでしょ!」

「あー、確かにわかっていなさそう……」


 ラブはリーナが養女になったばかりであるためによく知らないことが多いであろう点を利用しようとした。その作戦を見抜いたベルも同調しようと思った。


「ラブの主張は正しいわ。取りあえず友人になっておいて、報告という形でレーベルオード伯爵の承認を得るというのはどう? じゃないとラブが何をするかわからないわ。ウェストランドを敵に回すのはよくないってわかるでしょう?」


 ベルはラブやウェストランド公爵家を理由に友人になる案を推奨した。


 貴族において、誰を味方や敵にするかは非常に重要かつ大きな影響を与える。


 ウェストランドを敵に回すようなことをしたくないと考えるのが常識だからこその言葉だった。


 しかし、その常識はリーナに通じなかった。


 リーナは貴族の世界についてよく知らない。だからこそ、ウェストランド公爵家が凄い相手ということはわかっているが、どの程度凄いのかということを心から実感しているわけでもない。


 むしろ、ウェストランド公爵家が凄い相手だとしても、父親の言葉を守ることが優先だとリーナは思った。


「本当に申し訳ないと思います。私は後宮に入るのは学校に入るようなもの、友人もできるかもしれないと言われたので、凄く楽しみにしていたのです。でも、お父様の許可がないとお友達にはなれません。お父様に伺いを立て、返事が来るまで待っていただくことはできないでしょうか?」

「それってどのぐらいかかるの?」

「明日から勉強が始まるのよ? すぐに返事をくれないと困るわ!」


 ベルとラブがそう言った後、カミーラが発言した。


「わかりました。では、レーベルオード伯爵の意向を伺い、友人になる許可を得られるかどうか至急ご確認ください」

「えっ、いいの?!」


 ベルは驚いてカミーラに尋ねた。


「返事がいつになるかわからないわよ?」

「そうよ! 遅いと困るじゃないの!」


 カミーラは悠然と微笑んだ。


「レーベルオード伯爵の意向に従うのは、レーベルオードの者として当然のこと。令嬢であっても例外ではありません。むしろ、私達のような者に言われれば、すぐに返事をした方がいいと思ってしまうはずです。これほどの申し出をうけないわけにはいかないとも。ですが、レーベルオード伯爵令嬢は自身で勝手に判断することもなく、状況に流されることもなく、当主に伺いを立てるという説明をしました。とても素晴らしい対応です。今はまだレーベルオード伯爵令嬢かもしれませんが、より上の立場になった時でも、自分だけで勝手な判断をするべきではない、王太子殿下の許可をしっかりと得てから、と返事をすることができるでしょう。さすがです」


 カミーラはいかにも感心したと思うような口調で言った。


 これは自分がリーナを理解している、味方であるということを強調するためのものだった。


「これほど見事な対応を見せつけられては、私達もレーベルオード伯爵令嬢からの申し出を受けないわけにはいきません。どうぞレーベルオード伯爵にご確認下さい。また、王太子殿下の許可も合わせてご確認いただいても構いません。ただ、私達が入宮したのは王太子殿下の命令によるもの。問題ないという許可がでるのは間違いございません。そのことも合わせて、レーベルオード伯爵にお伝え下さい」


 王太子が問題ないと思う相手であれば、レーベルオード伯爵も問題ないと判断する。むしろ許可しなければならなくなる。カミーラはそう考えたからこそ、わざと王太子への確認を提案した。


 但し、そこで終わりではない。続きがあった。


「ただ、こちらも色々と事情がございます。友人になれないのであれば、現状においては確認中ということも踏まえ、友人候補として認めていただきたく思います。ただの候補ですので、友人ではありません。許可が出ないことが確定すれば、候補でもなくなります。それなら問題ないと思うのですが、いかがでしょうか?」

「……候補、ですか」


 リーナは困惑するような表情になった。


 友人にするには父親の許可がいる。それは間違いない。しかし、候補にするのに許可がいるのかといえばわからない。


 やはりそれも確認してからとリーナが言おうとした時、状況を見守っていたアリシアが言った。


「候補であれば問題ないわ。この件は至急私の方から王太子殿下とレーベルオード伯爵にお伝えして確認を取ります。月曜までに返事が欲しいのよね?」

「さすがわかっているわね!」

「こっちの対応もあるし、早くしてよね!」

「夜中でも早朝でも構いません。私に返事の内容を連絡して下さい」


 ベル、ラブ、カミーラの視線にアリシアは強く頷いた。


「まずはレーベルオード子爵に報告がてら聞いてみるわ。レーベルオード伯爵令嬢もそのつもりで。この者達は友人候補として扱うように。あくまでも一時的な処置のため、それに関するレーベルオード伯爵の承認は必要ないわ。正式なお返事は確認後でいいわね?」

「はい」


 リーナはアリシアを信用しているだけに、それで問題ないと判断した。


「やったわ! 友人候補よ! でも、カミーラがそんなことを言うなんて思わなかったわ!」

「現時点において、あの者達よりも優位になっておくのが先決よ」

「あーもう面倒ねっ! アリシアはさっさと王宮に戻って伝えて来なさいよ!」


 三人はリーナの前で堂々と本音を漏らした。

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