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後宮は有料です! 【書籍化】  作者: 美雪
第六章 候補編

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552 適切な対応

「三人が入宮したのは王太子の命令で、レーベルオード伯爵令嬢を守りながら勉強を助けるためよ」

「それは……護衛兼教育係ということでしょうか?」


 アリシアは微笑みながら首を横に振った。


「違うわ。三人は身分の高い女性達よ。だから、護衛にはなれないの。むしろ、誰かから守って貰う方ね」


 リーナはそれもそうかと頷いた。


「教育係でもないわ。後宮には側妃や側妃候補達に様々なことを教える者達がいるわ。生活に関することは後宮の者達だけど、ダンスを教えるのはダンスの講師、音楽を教えるのは音楽の講師、歴史を教えるのは歴史の講師というように専門の担当がいるのよ」

「では、沢山の教育係がいるわけですね?」


 アリシアは少し考えた後に質問した。


「ちょっと質問するけれど、教育係はどんな者のことだと思っているのかしら?」

「えっ?!」


 リーナはアリシアの質問に驚いた。


「どんな者って……色々なことを教えてくれる人ではないのですか?」

「それは間違いないけれど、家庭教師のことだと思っていない?」

「……違うのですか?」

「教育係というのは、教育に関する担当者のことよ。どんな教育をするかというカリキュラムを考えたり、専門の講師や家庭教師を手配したり、教育効果が出ているか、成績が上がっているかなどを確認することが主な仕事ね。勿論、教育係自身が何かを教える、家庭教師や講師役を兼任することもあるわ。貴族の家では教育係が家庭教師や講師役を兼任する場合もあるけれど、ここでは違うわ。講師はあくまでも講師。教育係はその講師達を選出して監督する上位の者のことよ」


 アリシアはリーナの認識を修正するための説明が必要だと感じた。


「では、確認よ。シャルゴット姉妹とウェストランドの姫君は教育係と言えるかしら? よく考えてから答えて頂戴」


 リーナは考えた。


 三人は側妃候補。つまり、自分と同じく講師達に学ぶ立場になる。そして、講師達を監督する立場でもない。


「教育係ではありません。私が間違っていました」


 アリシアは微笑んだが、正解を示す表情でもなかった。


「そうね。教育係ではないわ。でも、間違っていたと発言するのは不適切ね。貴族の家では兼任する場合もあるわ。状況に応じて変化するから、勘違いをしていただけというべきでしょう」

 

 言葉は使いようだ。どのような表現をするかで印象も状況も変わる。


 王太子の寵愛者であれば、より慎重かつ適切な言葉を使用しなくてはならない。


「これからは王太子の寵愛者として立場が上になるわ。だから、簡単に自分のミスや間違いを認めてはだめよ。心の中でそう思っても、言葉にはしないの。謝罪も必要ないわ。ただ、黙っていること。いいわね?」


 リーナはまたも驚いた。目を見開くほどに。


「どうしてですか? 間違ったことをしたらそれを認めて謝罪すべきではないのですか?」


 当たり前のことだとリーナは思った。そして、常識であり、正しいことなのだとも。


 しかし、アリシアはゆっくりと首を横に振った。


「間違えたら謝罪するというのは常識的で正しいことだと言えるでしょう。でも、全ての状況においてそれが適切とは言い切れないわ。さっきは謝罪する必要がないのに謝罪してしまったでしょう? 高位の者ほど、頭を下げてはいけないし、謝罪を取り消すのも難しいの。だから、簡単に謝罪はしないで黙るの。そして、時間をかけてよく考えるのよ。謝罪するよりも、自分が犯した過ちを繰り返さないことの方が重要な時もあるの」

「それが後宮のやり方なのでしょうか?」

「いいえ。自分や大切な者達を守るやり方よ。間違えたと認めれば、落ち度を問われ、処罰される可能性が出てくるわ。レーベルオード伯爵家や王太子殿下も責任を取る必要があるかもしれない。自分だけで責任を取ると言っても駄目なの。連帯責任よ」


 リーナははっとした。


 以前、後宮華の会における審査の結果、多くの側妃候補が退宮することになった。そして、その側妃候補付きになっていた更に多くの侍女達もまた連帯責任を問われて解雇された。


 自分に何かあれば、それは王太子やレーベルオード伯爵家の責任問題にもなりえる。もしかすると、自分の側付きになっている侍女達も責任を問われるかもしれない。


 自分の行動について自分が責任を負うのは当然かもしれないが、より多くの者達にも影響する。迷惑をかけるどころか、処罰されるような可能性もありえる。


 そう考えたリーナは急激に不安を感じ、怖くなった。


「でも、よく考えて? 今は勉強中の身よ。知らないこと、わからないことが多ければ間違うことも多いのが普通なの。いちいち謝罪して処罰されていたらきりがないわ。レーベルオードに嫉妬する者達の声も強くなるし、対応するのが大変になってしまうわ。そういったことを予防するための処置でもあるの。わかるわね?」

「……はい」


 リーナは頷いた。アリシアを信頼するからこそ、今教えられたことはとても重要で、今後注意しなければならないことだと感じた。


「大丈夫よ。一人じゃないわ。多くの者達が力を貸してくれるし、助けてくれる。私もその一人よ。だけど、女官という立場ではずっと側にはいられない。だから、侍女達や護衛、シャルゴット姉妹とウェストランドの姫君もいるの」


 アリシアは側妃候補として授業を受ける間、侍女や護衛を側におけないことを話した。


「廊下を移動する際には護衛を同行できるけど、側妃候補達とは少し離れることになるわ。だから、レーベルオード伯爵令嬢の周囲には必ずシャルゴット姉妹とウェストランドの姫君を配置するということになったわ」

「……私を守るために入宮したことはわかりました。でも、迷惑なのではないでしょうか? 後宮に入ったら、自由な生活ができなくなりますし、制限されることも多いと思います。側妃になりたいわけでもないのに、色々と我慢させてしまうことになるのではないでしょうか?」

「そうかもね」


 アリシアはあっさりと認めた。


「でも、それが王太子の命令なら仕方がないわ。それに、三人はやる気満々よ」

「やる気満々?」


 リーナは眉をひそめた。自分を守るという役目に対し、どうして三人がやる気満々なのか、全くわからなかった。特に、ラブについては非常に。


「理由は簡単。無事、役目を果たしたら、王太子殿下から褒賞が出るの」

「物凄い褒賞なのですか?」


 それならやる気が出るとしても不思議ではないとリーナは思った。


「そうね。でも、詳しくは私も知らないの。知りたければ、三人に聞くしかないわね」

「わかりました」

「じゃあ、呼ぶわね」

「えっ!」


 アリシアは控えている侍女に視線を移した。


「控えの間に待機させているから、三人を通して頂戴。これは面会でも顔合わせでもありません。質問に答えさせるための呼び出しよ。間違えないで」


 レーベルオード伯爵令嬢への面会は王太子の許可がない者は一切認められていない。リーナと共に入宮した三人だけ面会が許されれば、面会を許されなかった者達から強い不満の声が上がる。それこそ、国王の側妃達からも。


 そこで、面会ではなく別の形で真珠の間に呼び寄せるという方法が考えられ、アリシアに任されることになった。


 侍女の取次ぎにより、カミーラ、ベル、ラブの三人が入室した。


 三人は正装と思えるほど豪華なドレスに身を包んでいた。


 カミーラとベルの宝飾品はかなり控えめだったものの、ラブは違った。宝石があしらわれたヘアバンドをつけている。


 リーナはラブのヘアバンドを見た瞬間、驚きのあまり口を開かずにはいられなかった。


 びっしりと敷き詰められた青い宝石の中にある赤い宝石が文字に見えるような配列になっている。


 ラブ。


 つまり、宝石で名前を誇示しているヘアバンドだった。



 読んで下さりありがとうございました。

 十月一日も更新するのでよろしくお願い致します。 

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[一言] 自分の名前を頭に乗せてる……………… (゜_゜ )間違えなくていい。
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