53 応接間
新しく担当する応接間は王族用の特別な応接間だった。
後宮を利用できる王族の数は七人。
国王。王妃が産んだ第一王子である王太子。
第一側妃が産んだ第二王子、第二側妃が産んだ第三王子、第三側妃が産んだ第四王子。
王弟と王弟の息子だ。
そのせいで常時王族のために整えられている応接間は七つある。
各応接間に付属するトイレも七つ。
リーナの担当場所は全部で十三カ所になった。
通常勤務時間は十時間。早朝勤務で三時間追加。
十三時間勤務で十三個のトイレ掃除をする。一時間に一カ所の計算でぴったり合う。
但し、応接間は未使用の確率が高く、毎日十三カ所を掃除することにはならない。
それでも、別の仕事はしなくていい。
リーナの勤務については高貴な者に報告されることになっている。
また過労で倒れるような内容にしていないかを確認されるため、一人で担当しても辛くならないよう配慮された。
「掃除だけでは時間が余ります」
セーラは書類とバインダーを取り出した。
「そこで掃除をする十三カ所については、備品の数や評価なども書いて提出しなさい。やり方は巡回の時と同じです」
それでも時間が余ってしまった場合は召使い用の休憩室で待機。
掃除部の部室、化粧室、食堂でもいい。
自室は短時間のみ可能。
入浴はよほどの事情がない限り、勤務終了の十七時以降まで待つ。
「貴方を見つけやすい場所があれば言いなさい。待機は休憩とは違います。いつでも呼び出しに応じられるようにしておきなさい」
「はい」
リーナは差し出された書類とバインダーを受け取った。
「今日の予定ですが、控えの間の方の掃除は終わりましたか?」
「終わりました」
「では、ついてきなさい」
リーナは新しい仕事場を教えられることになった。
リーナはこれまで二階のトイレを巡回していた。
応接間はその途中にあった。
付属するトイレは廊下から入れるようになっており、すでに巡回対象になっている場所だった。
「これまでの巡回では男性用ということで固定値でした」
応接間を使うのは王族だけではない。その側近や護衛も同じく。トイレも同じだ。
その結果、男性用トイレと同じ扱いになっていた。
「ですが、実際は男女兼用です。掃除する際に中に入ることになるので、固定値にはしません」
「はい」
「ここは廊下から直接入ることができます。必ず使用者がいないか、確認する必要があります」
誰かが使用中に掃除の者が中に入るわけにはいかない。
基本的に掃除は未使用の時に行うことになっている。
「……侍従を呼ぶということでしょうか?」
「いいえ。ここは王族が来なければ、使用されることはほぼありません。ですが、絶対ではありません。巡回中の警備が緊急で使う可能性があるからです」
まずはドアをノックする。
少しだけドアを開け、誰かいるか、使用中ではないかと声をかける。
返事がなければ、誰もいないということになる。
「念のためにドアは開けたままにしなさい。そして、掃除中という札を出します。それから掃除をします」
「ドアを開けたままですか?」
これまでそういった指示を受けたことがなかった。
「掃除していることや誰かがいるということが警備にもわかりやすいように、わざとドアを開けて掃除をします」
「わかりました」
「ここは二階で最も重要なトイレです。信用しているからこそ、掃除を任せます」
「はい!」
信用されていると言われ、リーナは非常に嬉しくなった。
「貴方は掃除をきちんとします。以前は巡回もあって多少は手間を省くようにいいましたが、ここは同じようにできません。予防行為もしっかり行うように」
「はい!」
「重ねて注意です。トイレだけでなく応接間も周囲にある部屋も最重要施設になっています。間違えてドアを開けないように。誰かがいれば、姿を見せただけで無礼になってしまいます。処罰されるでしょう」
リーナは緊張した。
ドアを間違えたら大変だと思った。
「応接間などのドアは両扉です。トイレのドアは片扉。そういったことでもわかりやすいはずです。よくよく注意しなさい」
「はい。注意します!」
「応接間が使用中の場合、護衛などの者が応接間の扉の前に立っているはずです。そのような場合は掃除できません。別のトイレを掃除します。どうしても掃除できない場合は、それ以外の場所を全て終わらせた後、清掃部に報告に来なさい」
「わかりました」
リーナは早速応接間に付属するトイレの掃除をすることになった。
初日ということもあり、掃除には時間がかかった。
しかし、使用されていないと思えるほど綺麗な状態だった。
リーナは十六時前に清掃部に行き、書類を提出した。
その後は掃除部に行き、三日間の休養で迷惑をかけたことをマーサに謝罪した。
マーサはリーナがずっと休みなく働いていたことを知っている。健康維持に努めるようにというだけで、叱責することはなかった。
十七時までマーサの仕事に関する雑用を補佐し、勤務を終える。
リーナは入浴と夕食を済ませると、自室でようやく朝回収した手紙を開けた。
質問票が入っており、一階の医務室や休養室がどのようだったかを記入するようになっていた。
リーナは質問票に記入すると、同封されている封筒に入れた。
翌日。
リーナは白の控えの間のトイレに行った際、戸棚に質問票を入れた封筒を置いた。