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後宮は有料です! 【書籍化】  作者: 美雪
第六章 候補編

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529 紹介と挨拶と再会と

 移動の用意を整ったことを知らせる侍従が来たため、リーナはクオンにエスコートされて移動した。


 後宮は広いが、何年も住んでいたリーナにとっては知っている場所も相応にある。


 緑の応接間だわ。


 先導役の侍従が止まった扉を見たリーナは思った。


 両扉が開かれると、そこにはリーナの知る部屋があった。


 緑色を基調にしつつ、白や金を交えた部屋は、王太子が利用する応接間にふさわしい威厳と豪華さを兼ね揃えている。勿論、塵一つないほど綺麗に整えられてもいた。


 もし、化粧室を使用するとしたら、緑の応接間付きの化粧室になるはず……今は誰が掃除をしているのかしら?


 隣に位置する元職のことを考えていたリーナは、部屋の中にいる者達の中に特別な女性達がいることを完全に見逃していた。


「この度は誠におめでとうございます。後宮一同、心より歓迎申し上げます」


 王族と同行する者達が着席をすると、改めて後宮を束ねる後宮長が挨拶をした。


「私は後宮における最上位の役職である後宮長を務めるジョゼフ=ラーフォルズと申します。ラーフォルズ公爵家の出自で、兄が当主を努めております。次に後宮次長のエレリク=サーウェラント……」


 後宮長が次々と後宮の上位役職に就く者を紹介していく。


 後宮からの説明を受けると聞いていたリーナは、規則や生活に関することが説明されるとばかり思っていた。


 立場は違うものの後宮に四年ほど住んでいた経験があることから、説明内容は理解しやすいだろうと予測し、大丈夫だろうという安心もあった。


 そのため、延々と後宮の役職付きを説明されること、そしてその者達の出自に関する説明までもされることに驚いていた。


 みんな貴族なのね。公爵家とか侯爵家とか、凄い家柄ばかり……。


 後宮の上位は貴族の者しかなれない、出自が非常に重要視される。平民から見れば貴族というだけで大きな差があるが、貴族から見れば、どのような爵位や家柄の出自かで大きな差がつく。


 リーナは貴族について勉強したからこそ、出自のいい者達ばかりがおり、その中にいる自分がいかに低い身分かつ異色な出自であるのかを強く感じた。


 その後も紹介は延々と続く。


 部屋に待機している者達の紹介が終わったため、リーナはこれで顔合わせの紹介は終わりだろうと一息ついたが、またしても予想が外れた。


「次に、担当者をご紹介させていただきます」


 十人の女性達が部屋に通され、五人ずつ二列に並んだ。


「側妃候補者には必ず専任の侍女達がつきます。基本は八名ですが、状況に応じて増減するため、十名前後とお考え下さい。最も高い役職は筆頭侍女です」

 

 リーナは説明を聞きながら、ここに並んでいる女性達が自分付きの侍女になるのだろうと思った。


 但し、気になることがある。全員、同じ服装をしていないばかりか、色まで揃っていない。


 側妃候補付きの者は、一目でそのことがわかるような特別な制服になっているはずだった。


「ですが、リーナ=レーベルオード様には三十名の侍女がつきます。そのため、最も高い役職は室長になります。」


 リーナは思わず目を見開き、口を大きく開けた。


 三十名?!


 リーナが心の中で叫んでいる間にも、説明は淡々と続く。


「また、リーナ様に関することは全て王宮の担当者と連携することになっております。王宮の担当責任者は王太子付き侍女長になります」


 王太子付き侍女長?!


 リーナの驚きは収まらない。


 侍女長というのは大勢の侍女達を束ねる責任者の役職だ。王太子付きということであれば、それは王太子付きになっている全ての侍女達を束ねる者ということになる。


 そのような重職者が自分の担当になるというのは、リーナにとって全く思いも寄らないことだった。


「では、ご紹介致します。王太子付き侍女長レイチェル=ガーシュイン殿」


 王太子付き侍女長の地位はかなり高い。そのことを表するように、紹介の際には敬称がつけられた。


「レイチェル=ガーシュインでございます。私の担当は後宮外におけるお世話です。後宮内では後宮の担当者がお世話をすることになります。ですが、王宮と後宮は連携することになっておりますので、何かありますればすぐにお知らせくださいませ。なにとぞよろしくお願い申し上げます」


 レイチェルの挨拶は基本中の基本のものだった。しかし、その口調、醸し出す雰囲気、完璧だと思える仕草全てはリーナをひるませるだけでなく、一気に緊張させた。


「王太子付き侍女次長ルチェーナ=ディッシェンド殿」

「ルチェーナ=ディッシェンドと申します。王太子付き侍女長は原則王宮にて指揮を執ることになります。そのため、後宮に来る王宮担当者は私以下の役職付きになると思われますので、なにとぞよろしくお願い申し上げます」

「侍女長補佐は二名おります。ディナ=クリーヴランド、ピアナ=スーフォルズ」


 役職の高い順に侍女次長補佐の二名、新緑の私室付き室長、同室長補佐が紹介されたが、王宮の担当者ばかりだった。


 九人目になってようやく後宮の担当者が紹介される。 


「真珠の間付き室長マリー=バレッタ」

「マリー=バレッタと申します。マリリーとお呼び下さいませ。なにとぞよろしくお願い申し上げます」

「真珠の間付き室長補佐ヘンリエッタ=モールトン」

「ヘンリエッタ=モールトンと申します。なにとぞよろしくお願い申し上げます」


 ヘンリエッタが挨拶のために伏せていた顔を上げると、リーナは思わず呟いた。


「ヘンリエッタ様?」


 リーナの身分や立場を考えれば、後宮の侍女であるヘンリエッタに様付けをするのはおかしい。


 しかし、そのことを指摘する者は一人おらず、仕方がないかもしれないと思う者もいた。


「担当者の中には顔見知りがいるかもしれない。気を遣うようであれば他の者に変更するが?」


 リーナはヘンリエッタを凝視した。


 髪形や衣装が違うことや久しぶりに会うこともあってすぐにはわからなかったが、侍女見習いをしていた時の上司、ロザンナ付きの筆頭侍女だったヘンリエッタだった。


 リーナはゆっくりと息を吸って吐いてから言葉を発した。


「ヘンリエッタ様は解雇されなかったのですね。良かった……」


 リーナの表情が安堵するかのようになったのを見た者達は、どのような言葉をかけるか迷った。


「……この者は一度後宮を辞めている」


 結局、真実を話す役割を務めたのはクオンだった。


「えっ? 真珠の間の室長補佐では?」

「パスカル」


その後の説明はパスカルから行われた。


「この者は後宮を解雇された後、離宮で臨時採用されました。そして、今回の入宮による後宮の人員不足を補うため、離宮から出向しています。ですので、この者は役職付きになっておりますが、正確には後宮ではなく離宮の者なのです」


 リーナの表情はみるみる暗くなった。


 リリーナ=エーメルからリーナ=セオドアルイーズに戻る際、側妃候補付きの侍女見習いだったリリーナ=エーメルは解雇されてしまったことを教えられた。


 勿論、その理由も知っている。自分が配属されている側妃候補が審査に落ちたことへの連帯責任だ。


 リーナは第四王子付きの侍女として働きながら保護されていたためによくわからないが、何百人もの侍女や侍女見習いが解雇されたと聞いていた。そのため、自分の上司や同僚も恐らくは解雇されたのだろうと思っていた。


 側妃候補がいなくなれば、その世話をする者は必要無くなる。審査に落ちた連帯責任を問われるのであれば、解雇も仕方がない。


 その説明にリーナは頷いたが、本当に納得をしたというよりは、受け入れるしかないと思ったからだった。


 ロザンナ付きの者達はリーナよりも優秀な者達ばかりだ。通常業務だけでなく、後宮華の会における審査についても、自分が足を引っ張ってしまったのではないかと感じた。


 しかも、後宮華の会における問題が発覚したのはリーナのせいだった。カードに問題があったとしても、適切に対処していれば問題にはならず、うまく処理できたかもしれない。大勢の者達が迷惑をしたり、解雇されたりするような結果にはならなかったのではないかという思いが心の中にくすぶっていた。


「お前が気に入らない者を側に置く必要はない。遠慮はするな。はっきりと言え」


 リーナはクオンをまっすぐに見つめた。


「気に入らないなんてとんでもありません! ヘンリエッタ様にはとてもお世話になりました。とても優秀な侍女です! 光栄です!」

「それは違う」


 クオンは断言した。


「よく聞け。過去のことを忘れろとは言わない。だが、今のお前はリーナ=レーベルオードだ。そして私が寵愛する伯爵令嬢としてふさわしく行動しなければならない。言葉を間違えるな」


 言葉が間違っていることをはっきり指摘されたリーナは、すぐに表情を引き締めた。


「申し訳ございません」


 クオンはリーナの頭を優しく撫でた。


「お前はとても優しい。わかってはいるが、この者のことは他の者達と同じく扱うのだ。それはこの者を見下すことでも、世話になったと思う心を捨てることでもない。互いの身分や立場を考慮した上での礼儀作法を守り、秩序を保つということなのだ。上位であるからこその責任を自覚し、誠実さと公平さをもって下位の者達を守り、尊敬されるように努めるのだ。わかったな?」

「はい。わかりました」


 クオンはヘンリエッタに視線を移した。


「ヘンリエッタ=モールトン」

「はい!」


 ヘンリエッタは王太子に名前が呼ばれることになるとは思っても見なかったために驚き、この後どうなってしまうのかという不安と緊張がありありとわかるように答えた。


「リーナはお前に感謝している。そして、優秀な侍女だと思っているようだ。それに恥じぬように努めると共に、お前を解雇した後宮の者達を見返せるように励め」


 クオンは後宮華の会の後、一部の者達がリーナ(リリーナ=エーメル)のせいで大変なことになった、そのせいで解雇されてしまうと騒いでいたことを知っていた。


 それは正しくない。


 問題なのは不敬に取られる可能性がある内容のカードが作られ、王族の出席する場に運ばれてしまったことだった。そもそも、このような余興を企画することこそが悪いと王太子や王子達は主張していた。


 また、後宮華の会のせいで解雇された者がいたのは確かだが、カードに関する問題での解雇者は一人もいない。大幅な減給、役職のはく奪、厳重注意にとどまった。


 側妃候補の侍女や見習いが解雇されたのは、国王が退宮する側妃候補の名誉に配慮するための連帯責任を追及するためだった。しかも、国王が直接解雇の処分を下したわけでもない。


 国王の判断を受けた後宮が処罰を検討し、予算削減になることから解雇処分を決定したのだ。


 多くの者達を公然と解雇できる理由があることから、これまでの勤務状況、能力、後宮が重視する身分や出自も一切関係なく、退宮する側妃候補付きというだけで容赦なく解雇処分にした。


 クオンは一度に大量の解雇者が出てしまうことを懸念し、一部の者達に関しては離宮の臨時採用という形で救済した。また、噂という形で人事に関する情報を流し、リーナ(リリーナ=エーメル)個人に対する悪意が広まらないように手を打っていた。


「はい! 誠心誠意、心を込め、懸命にお仕え致します!」

「もう一つある。お前が離宮に採用された一番の理由は、後宮華の会で窮地に陥った侍女見習いを助けるため、同僚に協力を呼びかけ、嘆願書を提出したからだ」


 嘆願書? 窮地に陥った侍女見習いって私のことじゃ……


 リーナはクオンとヘンリエッタを代わる代わる見つめた。


「侍女見習いは自分の番号カードを引くしかなかった。そして、状況的にも従うしかなかったという釈明理由は妥当だ。私が問題視したのは。カードを引いた侍女見習いでも、カードを作成した者でもない。王族を巻き込むような余興内容を企画したことだ。そして、国王が退宮する側妃候補付きの者達への連帯責任を問うことにした際も、後宮はすぐに解雇処分を決定した。後宮華の会において上位の者達は解雇されず、降格、減給、厳重注意だけで済んだというのに、下位の者達を容赦なく解雇した。おかげで国王を非難する声も挙がり、離宮で臨時募集をすることになった」


 部屋には後宮の上位の者達がまさに集まっている。


 王太子の発言はただの説明ではなく、自分達への批判であることを察した。


「解雇は免れない。だが、救済処置をするのであれば、正当な対応を望み、勇気ある行動をした者達こそ優先されるべきだと私は思った。だからこそ、嘆願書に署名した者達を優先して採用するように指示した。自らの言動が運命を決める。正しき行いは自らを救い、悪しき行いは自らを窮地に追い込む。そのことをしっかりと頭に入れておけ。この部屋にいる全員への言葉だ」


 王太子の言葉を受け止めるべく、全員が深々と一礼した。



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