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後宮は有料です! 【書籍化】  作者: 美雪
第五章 レーベルオード編

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516 待合室

 会員制のデパートだけに、客はほぼ予約を入れて来店する。自分の担当者が来るまで、あるいは会員に同行して買い物をする家族や友人知人との待合室にパスカルは移動した。


 昼食をしていた友人達もパスカルと同じく待合室に移動した。


「……全員、ここにいる気なのか?」

「仲間で買い物をするために集まったところ、偶然パスカルに会ったという設定になっている」


 パスカルは眉をひそめた。


 平日買い物に来るのは女性が圧倒的に多い。男性達が待ち合わせをして買い物に来るような時間ではないため、違和感が半端ない。


「僕の友人は暇人ばかりだと思われそうだ」

「夜勤明けということにしておいてよ」


 ジャックスが笑顔で提案する。


「今日は本当に朝帰りだった。勿論、遊びじゃない。仕事のせいだよ!」


 ジャックスは家業を手伝っている身だが、跡継ぎだ。そのため、領地に関するものだけでなく、様々な事業を経営している実家の手伝いで忙しい日々を送っていた。


「私も予定を空けるためにかなりの調整をした」

「同じく」

「無理をする必要はない。今からでも帰って寝るといいよ」

「それでは時間を空けた意味がなくなる」

「そうそう。楽しみだなあ」

「来た」


 ロスターが告げる前から、パスカルの視線はドアに注がれていた。


 待合室に入って来たのはレーベルオード伯爵と腕を組んだリーナだった。


 パスカルの友人達は妹がデパートに来る予定であることは知っていたものの、まさかレーベルオード伯爵自らエスコートをして来るとは夢にも思っておらず、誰もが驚きの表情になった。


 そして、パスカルも同じく。父親がリーナをエスコートして連れてくるとは思っていなかった。


「……父上が来るとは思っていませんでした」

「余計な者達に遭遇しないようにするための配慮だ。しかし、すでに待ち構えていたようだ」


 レーベルオード伯爵の言葉は勿論、待合室にいた全員に向けてのものだった。


 パスカルとその友人、他にも数人の者達がいるが、全員客を装ったエキストラならぬ見物客ばかりだ。


「本当にここで買い物をするのか? 別の店にしたらどうだ?」

「……これでも警備関係に関しては万全を期してくれているようです。一応ではありますが、白蔦会関係者の貸し切りになっています」

「お前の時間だ。判断は任せるが、長居はするな。夕食は早めにする」

「わかりました」


 レーベルオード伯爵は強い視線で周囲を牽制した後、すぐにその場を立ち去った。


 周囲を牽制するためには残った方が良かったが、それでは午前と午後にそれぞれリーナとの時間を過ごすという息子との約束を守れない。


 父親は息子との約束を守り、また、息子の判断に任せるという強い信頼関係があることを周囲に見せつける方を選んだ。


「午後は買い物をするということは聞いたかな?」


 パスカルは父親から引き継いだエスコートの権限を早速行使すべく、リーナの手を取った。


「はい。貴族が利用するデパートに行くと聞きました」


 馬車の中でリーナはこれから向かう場所についての説明を受けた。


 今回、リーナが買い物に行くのは通常のデパートではなく、会員制のデパートだ。


 基本的に多くの店は不特定多数の者が利用することを前提としている。そのため、買い物に行った店の状況がわかりにくく、安全上の懸念を感じる場合もある。


 その点、会員制のデパートは審査を受けて会員になった者だけが利用できるため、信頼できるデパートを選べば、混雑や安全上の懸念を感じにくい。


 また、ほとんどの客が自分の担当者に予約を入れるため、担当者が顧客のために様々な配慮を講じ、快適に買い物ができる。


「ここは僕の友人の実家が経営に関わっているデパートだ。予約しておいたから、担当者がつく。ただ、今日は色々と特別待遇らしくてね」

「よく来てくれたね! 僕の一族が経営するデパートにようこそ!」


 すかさずジャックスが会話に割り込むように挨拶をした。


「僕はジャックス=アルジェリスタ。レーベルオードの屋敷で会ったけれど、あの夜は大勢の客に挨拶をしていたから覚えていないかもしれない。パスカルとはとても親しくしているから、今日は特別な配慮をするように指示しておいたよ。気に入ったものが見つかって、沢山買い物をしてくれると嬉しいな」


 リーナはジャックスをじっと見つめた後、挨拶の言葉を発した。


「ジャックス様のことは覚えています。今後はお名前でいいという許可を頂きましたので」

「凄く嬉しいな! でも、今日は偶然他の友人達もデパートに来ていてね。全員、パスカルとは幼少時代から付き合いがある者ばかりで、白蔦会のメンバーでもある」

「白蔦会というのは社交クラブでしょうか?」


 リーナの質問に答えたのはグレゴリーだった。


「一般的な社交クラブとは違う。単に会員同士の親睦を意図するだけでなく、強い結束力を維持するための誓約がある。そのため、会の定めた規則等に反した場合は処罰される」


 処罰という言葉を聞いたリーナは瞬時に表情を強張らせた。


「……なんだか大変そうです」

「大丈夫だよ。友人と同じく会員を大事にして、約束を守るように努めるだけだ。みんなで仲良くすればいいだけだよ」


 パスカルはリーナを安心させるように優しい口調で言ったが、リーナは納得できなかった。


 リーナ自身、誰とも仲良くしたい、仲良くできればいいとは思う。しかし、実際には難しい。


 自分だけではなく相手もまた同じように仲良くしたいと思ってくれること、また、周囲もそれを認めるような状況でなければならないことをよくわかっていた。


「偶然会えたのは嬉しいけれど、今日は妹と二人だけでゆっくりと買い物を楽しみたい。友人だからこそ、遠慮して欲しい」


 パスカルがにこやかにそう言うと、グレゴリーが応えた。


「挨拶はしておきたい。私はグレゴリー=エッジフィール。エッジフィール公爵の跡継ぎとして、伯爵を名乗っている。それからロスター=エンズレイ。伯爵家の三男だ」

「伯爵家の三男という紹介は微妙だなあ」


 ジャックスが冷やかすように笑ったが、ロスターは無表情を崩さなかった。


 リーナはグレゴリーの挨拶を聞いて驚いた。


 伯爵という高い身分を持っているのであれば、レーベルオード伯爵家の催しに招待されていると思われたが、全く覚えがない。


 ジャックスが言っていたように、あの夜は大勢の者達に挨拶をした。そのせいで覚えていないということはありえるが、リーナは自分と同じ食堂で食事をする者や贈り物を贈って来た者達の名前が書かれたリストを見ている。


 その上でまったく記憶にないというのは、かなり不味いのではないかとリーナは動揺した。


 それを見越したパスカルがすかさず説明を付け加えた。


「グレゴリーは披露の催しに来なかった。都合が悪くてね」

「そうでしたか」


 リーナはパスカルの説明を聞いてほっとした。基本的に仮面舞踏会に招待されていたのはほとんどが爵位持ち、あるいは跡継ぎの者ばかりだった。


「挨拶は終わりだ。買い物に行こうか」


 パスカルは微笑みながらリーナエスコートして歩き出したが、後ろに友人達の足音が続いたため、心の中で盛大な舌打ちをした。



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― 新着の感想 ―
[良い点] ロスター=エンズレイ [一言] デパートで発見した! 白蔦会ときいて、捜索したら、いた(笑) 初めましてじゃなかったwww
2022/08/24 00:06 みんな大好き応援し隊
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