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後宮は有料です! 【書籍化】  作者: 美雪
第五章 レーベルオード編

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515 友人との昼食

 リーナとレーベルオード伯爵が二人で昼食を取っている頃、パスカルは会員制の最高級デパートにいた。


 午後、パスカルとリーナはここで買い物を楽しむ予定になっている。


 パスカルは先にデパートに到着し、友人のジャックスと昼食を取ることにしたのだが、予想外のことが起きた。


「ジャックス」


 パスカルの視線をジャックスは笑みで堂々と受け止めた。


「グレゴリーがどうしてもっていうからさ」


 グレゴリー・エッジフィールもまたパスカルの友人の一人だ。


 パスカルが所属する白蔦会の会長でもある。


「どうしても話しておきたいことがあった」

「嫌な予感がする」


 同席者は他にもいる。


 ロスターもまた友人の一人であり、白蔦会の副会長を務めている。


「入宮することになったお前の妹についてだ。そのための養女入りだったのか?」


 グレゴリーの質問に、パスカルはうんざりしたような表情になった。


「その質問は数えたくないほどされたよ。でも、答えは同じだ。王族の側近である以上、自分の身内や王族が関わることを軽々しく話すわけにはいかない。遠慮して欲しい」

「お前の妹病については理解している。昔から」


 ジャックスとロスターも同意を示すように頷いた。


 ここにいる全員は幼少時からの付き合いで、様々な秘密を共有する仲間でもある。


 パスカルには父親違いの妹がいたこと、会う機会もないまま妹が死んでしまったことも知っていた。


「だが、最近のお前は本当に病気だ。妹ができたことを喜ぶのはわかるが、養女だろう? 王族の意向が関わっているのはわかる。だが、それだけでもないように思える。私達は仲間だ。これまでも心に秘める事を打ち明けるほど信頼し合い、支え合ってきた。だからこそ知りたい。何か特別な事情があるのではないか? 入宮によって確実にレーベルオードの敵が増える。私達はお前の力になりたい」


 パスカルは友人達にそれぞれ視線を移した。


 どの者も相応の情報力を持つ者達ばかりだ。何も調べなかったわけではない。むしろ、密かに調べている。それでもリーナのことがよくわからなかったのだ。


「ここで話すような話題じゃない」


 パスカルは静かに答えた。


 特別な個室であることはわかっているものの、あくまでもデパートの一室だ。国家機密にも関係するようなことを話す場所としては相応しくない。


「わかっているが、屋敷に押しかけても困るだろう? こちらも門前払いをされたくない」

「今は状況を見守っていて欲しい。僕の状況も変わりつつあって忙し過ぎる」

「第四王子の専任になるのか? その件についても噂になっている」

「変更になった場合は公式発表されるよ」

「お前がどのような立場になるのかは極めて重要だ。白蔦会にも影響が出る」

「迷惑をかけるぐらいなら辞める」


 パスカルの退会を歓迎する者は一人もいなかった。


「迷惑ではない。仲間で助け合うための会だ。だが、何も知らされていないのでは動きにくい」

「そうそう。こっちとしても、知っているのと知っていないのでは全然違うよ。今日のことだって、結局はこっちで考えて対応するしかなかったし」


 ジャックスの言葉を聞いたパスカルは眉をひそめた。


「何かするつもりなのか?」

「すでにしちゃった」


 ジャックスは笑顔で答えた。


「デパートを貸し切りにした。白蔦会で」


 パスカルの表情が曇った。


「それでは意味がない。妹と普通に買い物を楽しむ予定だった」

「それも大丈夫。客はいるけど、エキストラというか。つまり、白蔦会のメンバーとかその関係者。皆、噂の妹ちゃんに興味シンシンなんだよね。しかも、デレデレのパスカルを見ることができるし!」


 パスカルは大きなため息をついた。


「僕が望むのはそういう状況じゃない。妹を多くの者達に披露しないのもわざとだ」

「出し惜しみ?」

「標的にされたくない」


 パスカルが挙げたのは安全性に関わる理由だった。


「顔を知られると守りにくい。当然の処置だ」

「大丈夫だよ。今日ここで見たことや知ったことについては守秘義務を課しているし、大勢じゃない。むしろ、普通の客の方が大変だよ。パスカルが誰かをエスコートしているだけで騒ぎになるか、声をかけまくってくる。でも、普通の客じゃないから見て見ぬふりをする。声をかけても挨拶程度で、買い物の邪魔をしない。パスカル達は普通に買い物を楽しめるよ」

「見て見ぬふりをするといいつつ、声をかけるというのは矛盾する」

「リーナ嬢の顔を覚えておいた方がいい者達がいる。至近距離で見るには、挨拶をするしかない」


 リーナは以前、リリーナ・エーメルとして後宮に勤めるだけでなく、王立歌劇場に行ったことがある。その際、リーナの顔は大勢の者に目撃されていた。


 はっきりとその顔を覚えてはいなくても、なんとなく覚えている者がいるかもしれない。名前も似ているため、連想しやすい。


 セブンのせいでウェストランドのボックス席にいる女性は誰かという噂もあった。


 ノースランド公爵家の行儀見習いとしか判明していないものの、キフェラ王女を助けたこともあり、リーナのことを至近距離から見ている者達がいる。


 リーナは成長し、装いも化粧も変化している。リリーナ・エーメルではないかと思う者に遭遇する確率は圧倒的に少ないが、用心しなければならない。


 王太子に見初められ、入宮することになった女性だからこそ、余計に慎重を期さなければならなかった。


「誰が挨拶する予定? 僕の知らない者は困る」

「お前が知っている者達ばかりだ」

「人数は?」

「聞かない方がいい。だが、人数と声をかけられる回数は同数ではない。友人同士の女性達が買い物をしている場に遭遇するという設定だ」

「その女性達はどこで買い物をしている?」


 会う者の人数を減らすには、買い物客が配置されている場所を避ければいい。


 パスカルはリーナの意見を聞いて売り場を回る予定だったが、女性が多くいそうな場所は避けるコースにすることで、少しでも遭遇率を抑えたいと思った。


「無駄だ。お前がどこにいようと遭遇することになっている。時間を切り上げることは勧めない。その場合は屋敷に訪問する」


 パスカルはもう一度ため息をついた。


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