513 楽しい乗馬
乗馬専用路は歩行者などが利用しないように通常よりも高くした部分に道がある。また、壁のように木々で囲まれているため、木々の間の道を進むという景観がほとんどだ。
しかし、公園内を見下ろす眺望を楽しめるような休憩所が所々に設けられている。
リーナはレーベルオード伯爵から公園内の見所、施設を説明されながら、乗馬やその眺望を堪能しつつ、楽しい時間を過ごした。
レーベルオード伯爵はリーナが怖がらないように馬をゆっくりと歩かせ、走らせるようなことはいっさいしなかった。
おかげでリーナは乗馬についての新しい見解、馬を走らせるだけではなく、歩かせるだけでも十分に楽しむことができることを知った。そして、速度を調整すれば怖がる必要はないのだとわかり、安心することもできた。
「少し早いがそろそろ昼食にする」
「もうお屋敷に戻る時間なのですね」
リーナは父親と外出する時間が終わってしまうのを残念に感じた。
しかし、父親は娘がそう思うであろうことを予測していた。
「屋敷には戻らない。美術館のカフェで昼食を取る」
「美術館のカフェで?」
リーナは一気に明るい表情になった。
ウォータール・ハウスの食事は美味しい。不満があるわけではないが、せっかくの外出が終わるのは惜しい。
また、いつもとは違う場所で食事をすることができるということに、特別さと嬉しさを感じた。
美術館のカフェは本館ではなく、別館の方にある。
多くの者達は美術館の本館から伸びる通路を通って別館に向かうが、リーナ達は別館の出入口を利用してカフェへと向かった。
「メニューから好きなものを選んで頼む形式になっている。好みのものを選ぶといい」
カフェはセルフサービスのため、まずはカウンターで飲食物を注文する。支払いを済ませ、飲食物を受け取った後、カフェ専用の座席から好きな場所を選び、そこで飲食物を取るスタイルになっている。
美術館の各所には休憩所が設けられているが、カフェに関しては飲食物を購入した者のみの利用になっているため、着席するには必ず先に飲食物を買わなければならなかった。
リーナはカウンターに出されたメニューをじっくりと見た。
基本的にはサンドイッチのセットとケーキのセットしかない。それぞれ、金、銀、赤の三種類がある。
飲み物の種類も少ない。コーヒー、紅茶。温かいものと冷たいものがある。エスプレッソやカプチーノ、ミルクティーも選べる。水とお湯もあるが、勿論有料だ。
「……随分高いのですね」
リーナは食事の内容よりも金額の方が気になった。
王立歌劇場に行った際に水が十ギール、つまりは千ギニーであることに驚いた。しかし、それは王立歌劇場という特別な場所だからこその値段という説明だった。
ここも美術館のカフェであるため、町中にあるカフェとは事情が違うのかもしれないが、水が十ギールというのはリーナにとって高いという感覚だ。
「金額のことはいい。どれを食べるのか選ぶように」
リーナがもう一度メニューを見る間に、父親の方は自分の分を注文した。
「私は金のセットにする。飲み物は紅茶だ」
レーベルオード伯爵が選んだのは一番高額なサンドイッチのセットだった。
「かしこまりました」
カウンター係は注文を素早く書き込むと、リーナに視線を変えた。
「お嬢様はいかがいたしましょうか?」
「赤のセットにして下さい」
リーナが選んだのは最も安価なセットだった。金額は百ギール。サンドイッチが二種類盛り合わせになっており、飲み物としては水かお湯、更にもう一種類を自由に選べるようになっていた。
銀のセットは二百ギールで三種類、金のセットは三百ギールで五種類のサンドイッチが盛り合わせになったもので、飲み物に関しては赤のセットと同じだ。
それに対し、ケーキのセットの値段は三種類全て五十ギール。全て紅茶かコーヒーがつく。
サンドイッチのセットよりも安いものの、ケーキを一つだけでは昼食として物足りないのではないかとリーナは思い、サンドイッチのセットにした。
「お飲み物はいかがいたしましょうか?」
「紅茶でいいです」
「かしこまりました。金のセットと赤のセットが一つずつ、合計四百ギールになります」
係員がそう言うと、レーベルオード伯爵は胸ポケットから財布を取り出し、五百ギールを支払った。
リーナは父親が直接支払うとは思っていなかったため、またもや驚愕の表情になった。
「百はチップだ」
「ありがとうございます。こちらの整理券をお持ちになり、引き渡しカウンターの前でお待ち下さい。ご用意が整いますと、整理番号を読み上げます。ご自身の番号と同じかご確認してからお受け取り下さい。その際、注文した品と違うものがトレイの上にある場合は、すぐ係の者にお伝え下さい」
リーナとレーベルオード伯爵は係員に教えられた通り、引き渡しカウンターの前に移動した。
しばらくすると、厨房がある方から来た者がトレイを持って現れた。トレイはどちらも木製で同じだが、その上にあるものが違う。
「塔のようです!」
片方のトレイには赤い皿があり、サンドイッチが四切れある。リーナの注文した赤のセットのものだ。
もう一方は金のスタンドがあり、全部で三段になった皿の上にそれぞれサンドイッチが盛りつけられている。レーベルオード伯爵が注文した金のセットだ。
「整理番号が一番の方、ご注文された品が用意できました。お受け取り下さいませ」
視察のために美術館もカフェも貸し切りになっている。つまり、客はいない。カフェにいるのもリーナとレーベルオード伯爵、同行する警備の者達とカフェの係員、更には美術館の関係者だけになる。
わざわざ整理番号を呼ぶ気はないとは思ったものの、リーナは自分のトレイを受け取った。
「どの席にするか選ぶように。空いている場所であればどこでもいい」
「窓際がいいです。庭園の景色がよく見えます」
「今日は天気がいい。外の席でも構わないが?」
カフェは屋外の席もある。中庭を囲む柱廊にある席で、壁はないものの屋根付きだ。
「せっかくなので、外の席にします」
二人は柱廊にある席の一つに座り、食事を始めた。





