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後宮は有料です! 【書籍化】  作者: 美雪
第五章 レーベルオード編

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512 金曜日の過ごし方

 いつもありがとうございます。ついに更新が止まってしまいました(涙)

 これからはどの程度の頻度で更新できるか未定です。本当に申し訳ありません!

 できるだけ早く皆様に読んでいただけるように執筆を頑張ります。

 どうぞよろしくお願い致します!


 美雪より

 入宮日の前日である金曜日の朝、リーナはいつもより早い時間に起こされた。


 その理由は父親とデートをするためだった。


 季節は夏。すでに空は明るく晴れている。心地よい朝ではあるものの、やや涼しい気温のため、リーナは薄い長袖のドレスを着用することになった。


「おはようございます!」

「おはよう」


 朝食は父親と一緒だ。


 入宮日の前日である金曜日は家族で過ごすことを父親と兄は決めていたため、リーナもまたこの一日を家族と共に目一杯楽しもうと決めていた。


「お父様は何時頃お帰りになられたのですか?」


 リーナは二十二時まで起きていた。自分が起きている間に父親や兄が帰宅した場合は知らせるようにと伝えたものの、侍女達は何も言わなかった。つまり、父親が帰ったのはそれ以降ということになる。


 父親は正直に答えた。


「馬車の中で寝た」


 官僚の休日は土曜と日曜日になる。平日である金曜日は勤務日になるものの、レーベルオード伯爵は絶対に休みを取ることを周囲に伝えていた。


 周囲も娘が入宮する前日は何かと忙しいはずだと思い、金曜日は絶対に仕事を入れないように配慮するつもりでいたものの、木曜日に関しては別だった。


 そのため、レーベルオード伯爵は日付が変わる二十四時まで残業することになってしまった。


 その時間に帰宅する場合、通常であれば王宮のすぐ側にあるフラットに向かう。しかし娘と過ごす予定を覆すわけにはいかないため、レーベルオード伯爵は馬車での移動時間を睡眠時間にあてつつ、ウォータール・ハウスへと帰宅した。


「睡眠時間が短すぎるのでは?」

「非常に忙しい時は寝る暇もない。短時間でもしっかりと眠れば問題ないように習慣づいている。心配しなくていい」

「その習慣自体が心配です」


 リーナはいかにも困った表情で言ったものの、父親はこの後の予定を変更するつもりは毛頭なかった。


「朝食の後は公園に行く。絶対に変更はしない」

「夜の予定もありますし、後で必ず休んで下さい」


 リーナはこの日、三つのデートを予定していた。午前中は父親とのデート。午後は兄とのデート。夜は家族揃ってのデートだ。


 そのため、リーナがパスカルと過ごしている間、父親は時間があく予定になる。それを執務時間ではなく睡眠時間にあてればいいとリーナは思った。


「考えておく」

「お体を大事にして欲しいのです。お父様のことがとても心配です」


 リーナの言葉は父親の反省を促すどころか、かえって自身のことを心配してくれていることを教え、喜ばせるだけだった。


「今日は少し涼しい。長袖だとしても、騎乗すれば風が出る。上着を着用するように」

「騎乗? 馬に乗って散歩をするのですか?」


 リーナはてっきり馬車で移動し、その後で歩くのだと思っていた。馬に乗るというのは初耳だ。


「聞いてないのか?」

「聞いていません。馬車か歩くのだと思っていました」

「私と共に馬に乗る。別々の馬に乗るわけではない。ただ、座っていればいいだけだ」

「スピードは出さないで欲しいです。怖いのは嫌なので」

「女性を同乗させる以上、緊急の場合以外は速度を抑えるのが基本だ。心配はいらない」


 リーナは基本を守る者や状況ばかりではないこともあると思いつつ、朝食を口に運んだ。




 公園にも様々な種類があるが、ウォータール・ハウスに隣接する公園の敷地はかなり広い。


 総称としてはウォータール・パークと呼ばれているが、第一から第五公園まである。


 金曜日はレーベルオード伯爵が令嬢と共に公園を視察する予定が通達され、公園の管理や警備関係者以外となる者達の立ち入りは一切できないことになっていた。


 リーナは馬に乗って公園を散歩することを知らされていなかったが、それだけでなく、多くの者達が散歩に同行することも知らなかった。


「騎乗!」


 警備隊長であるクレールの号令と共に緑の制服の者達が馬に乗る。その数は五十人以上いた。


「随分警備が多いのですね」


 ゆっくりと馬を歩かせながらの散歩が始まると、リーナは早速父親に話しかけた。


「私達の出歩く範囲に応じて、警備の数が増える。すぐ側で警護につくのはレーベルオードの警備隊だが、公園専属の警備隊、ウォータール地区の警備隊も各所に配置されている。大体ではあるが、千人ほどはいるだろう」

「千人!」


 リーナは驚愕のあまり大きな声で叫んだ。


「ここにいるだけでもかなりの数なのに、それほど警備の者が必要なのでしょうか?」

「不審な者が身を隠しやすい場所が多くある。そういった者がいないかを調べ、厳重な警備をするためにも、警備の者が必要だ。現在レーベルオードは非常に注目されているため、単に姿を見たいというだけの者が入り込む可能性もある」

「ここはお屋敷の敷地に比べると、安全度が下がるということでしょうか?」

「案ずることはない。ここは普通の公園ではない。特別な公園だ」

「入場料がかかると聞きました」


 リーナの知っている普通の公園は無料だ。有料の公園は特別な公園らしい特徴だと感じた。


 しかし、この公園の特別さは他の部分でも多くあった。


「それは第三だけだ。通常は公園沿いに屋敷を持つ者達の共用庭園になっているため、他の者達は利用できない。但し、一般開放日だけは有料で開放されている」

「では、他の場所は無料なのでしょうか?」

「第一はウォータール・ハウスの森林防壁、第二は王宮への直通路。どちらも公園とは名ばかりで、レーベルオードのためにある場所だと思えばいい。ここは常時、関係者以外立入できない。第四は自然保護地区になっている。昔はここで狩猟会が開かれたのだが、現在は住宅地用の開発によってかなり縮小してしまったため、ただの小さな森だ。公園内に植えるための木や草花の栽培地にもなっているため、やはり関係者などしか入れない。第五は誰でも自由に利用できる。無料だ」

「そうだったのですか」


 今回のデートは、父親と共に広大なウォータール・パークを視察するという目的もあった。


 リーナが散歩をするのはウォータール・ハウスの敷地内にある庭園だけで十分なことや、王太子の意向で外出を控えることになっている。


 そのため、すぐ側にある公園へ外出することもなく、王宮へ向かう際に馬車で通過したことしかなかった。


「私と共に視察するのは第五だ。小さいものの人造湖、池、貯水池があり、美しい自然の景観を楽しめる乗馬コース、散策コース、芝生の広場もある。敷地内にある施設は休憩所であるパークハウス、美術館と植物園、野外劇場もある」

「野外劇場も?」


 リーナは公園内に劇場があることを初めて知った。


「大きなものではない。だが、夏の時期はよく活用されている。オペラや演奏会など様々な催しがある」

「それはレーベルオード伯爵家が主催しているのでしょうか?」

「過去においては主催することもあったようだが、近年はない。現在、ウォータール・パークを管理しているのはウォータール地区だ。恒例の催しはウォータール地区やウォータール地区に所在を置くような者達が主催している」

「そうですか」

「会話もいいが、風景を楽しむのもいい。もうすぐ池が見える。右側だ」


 リーナは右側に視線を向けた。


「確かに池ですね」


 但し、特別素晴らしい池というわけではない。池は池だ。


 小さい頃には湖の側に住んでいたせいか、リーナにとってその池はとても小さく、周囲の風景も特別素晴らしいものだとは思えなかった。


「第五には人口湖、貯水池もある。この池に比べると何倍もある。では、なぜこのような池があると思う?」

「何か理由があるのでしょうか?」

「ある」


 リーナは少し考えた後に答えた。


「草木に水を与える水源にするためでしょうか?」

「間違いではないが、それだけでは池である必要はない。むしろ、湖や貯水池の方が適しているのではないか?」

「それもそうですね……」


 リーナはもう一度考えたが、なぜ小さい池なのかという理由が思いつかなかった。


「お父様、池を完全に通り過ぎる前に教えて下さい」

「子供のためだ」

「子供?」


 意外な答えが返って来たことに、リーナは驚いて振り向いた。


「子供が遊ぶ池ということでしょうか?」

「水質の問題から、公園内にある池、湖、貯水池に入ることはできない。だが、子供が誤って水の中に落ちるような事故があっては困る。そこで、子供が溺れにくい水深の浅い池が作られている。基本的には大人が同行しているため、池であればすぐに子供を救助することができる。泳ぐことが必要になるほど深い湖と貯水池には、水難事故が起きないように監視し、いざという時は救助に当たる者が常時いる」

「子供の安全を考慮して、池にしたのですね!」

「公園は多くの者達が自由に利用できる。どのように利用するかは様々だが、時に想定外の利用をする者達が出てくる。古い時代、自由に利用できる公園を作ったところ、多くの者達が池や噴水に殺到した。それは池や噴水を眺めるためではなく、風呂の代わりに利用するためだった」

「池がお風呂で噴水がシャワーということでしょうか?」

「そうだ。そのせいで水質が汚染されるだけでなく、事故なども起きた。そこで、公園の利用に関しても様々な制限が設けられ、適切な利用を促すことになった」

「ただ自由に利用させればいいということではなく、適切に利用することが大事ということですね!」

「本当にお前は頭がいい。大事な部分がよくわかっている」


 父親は本心から娘を褒めたものの、娘の方は頭がいいという言葉に違和感を覚えずにはいられなかった。



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