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後宮は有料です! 【書籍化】  作者: 美雪
第五章 レーベルオード編

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510 マーカスの夕食会

 木曜日の午前中は後宮へ送付する荷物の一部を送り、昼はレーベルオード一族によるリーナの入宮を祝う昼食会、午後は今後におけるレーベルオード一族としての対応の通達等があった。


 夜は家族で夕食を取り、共に過ごす予定だったが、レーベルオード伯爵とパスカルは王宮への招集があり、リーナは一人で夕食を取ることになってしまった。


 入宮日の前々日で緊張も不安も高まっていると思われる状況で、リーナが一人で夕食を取るのはよくないとマーカスは判断した。


 しかし、一族の者とはいっても、身分の低い者が当然のように夕食の席に同席することはできない。そこで、マーカスが夕食会に招待するという方法を取ることにより、リーナ一人での夕食にならないように取り計らった。




 リーナは夕食会用のドレスに着替えた後、マーカスの夕食会が開かれる紫の食堂に移動した。


「今夜は夕食会に招いて下さり、ありがとうございます」


 リーナは紫の間でリーナを出迎えたマーカスにお礼の言葉を言った。


「今夜はリーナ様をお招きできて光栄に存じます。急な予定でしたので、特別な趣向を凝らした夕食会ではありません。ですが、閣下もパスカル様もご不在ですので、リーナ様と共にご夕食を一緒しながら、お話をさせていただきたいと思いました。不詳の息子と娘共々、改めてご挨拶申し上げますと共に、よろしくお願い申し上げます」

「私はこの食堂で食事をしたことがないので、それだけでも新鮮で嬉しいですし、どんなお話ができるのかとても楽しみです」


 リーナが家族と共に夕食を取るのは緑の食堂がほとんどで、週末は銀の食堂、やや特別な時は小食堂で取っていた。


 ウォータール・ハウスにどのような部屋があるかどうかは案内したり、視察したりしたおかげでわかっているものの、使用したことがあるかどうかはまた別になる。


 普段とは違う雰囲気の食堂でマーカス達と食事をするだけでなく、兄や父親がいないということもあって、リーナはやや緊張していた。


「ここは来賓用の食堂という扱いではあるのですが、親族や一族の者が普段使用する食堂でもあります。なぜかといえば、ここは第七代伯爵夫人がご自分の実家の色の食堂を整え、実家の方々が来た際に使用していたからです。外戚用の食堂だったわけですが、今では親族用の食堂になりました」


 初めて聞く話だとリーナは思った。


「そのような説明は初めて聞きます。ここを案内された際には、来賓用の食堂という説明だけだった気がします」

「リーナ様がお屋敷に来られたばかりの頃のお話では?」

「そうです」

「恐らくはリーナ様に様々な部屋をご案内する時間の都合上でしょう。ウォータール・ハウスには多くの部屋があります。そして、食堂も多くあります。詳しく説明するとすれば、ここよりも大食堂や小食堂などが優先です。なぜなら、そういった食堂の方が来賓の方々と話す際、部屋や飾ってあるものなどについての話題になりやすく、リーナ様が知っていないと困るかもしれないからです。ここは親族が滞在中によく使う食堂なので、来賓用として使用される確率はあまり高くはありません。部屋について詳しく知らなくても、誰かに説明するような機会はあまりないので、問題が起きにくいはずです」

「なるほど」


 リーナは早速勉強になる話を聞けたと思った。


 紫の食堂は来賓用の食堂と聞いていたが、実際は親族が滞在する時に使用する頻度の方が高く、元々は七代伯爵夫人の実家の親族、つまりは外戚用の食堂だったことがわかった。


 また、ウォータール・ハウスには多くの部屋があるため、来賓などに説明をする機会が多くありそうな部屋について勉強するのを優先した方がよく、誰にも説明をしないような部屋については、詳しく知っていなくても問題が起きにくいということを知った。


 リーナは自分の知らないことがあれば、それをどんどん教えて貰い、とにかく覚えていくべきだと思っていた。しかし、教えられたことをすぐに全て覚えるのは大変になる。覚えたとしても、役に立ちにくい知識の可能性もあった。


 重要なのはとにかく何でも覚えるということではなく、有用なことや優先すべきことは何かを考えながら覚えていくことなのだとリーナは思った。


「どうぞ食器の方もご覧下さい」


 リーナはマーカスに言われた通り食器を見た。


「白い食器だと思われますか?」

「えっ?」


 リーナは驚いた。


「白い食器だと思いますけど、実は違う……のですか?」

「これは特別な白い食器です。ここには非常に数多くの食器があるのですが、白い食器だけでもかなりの種類があります。本来であればマナー違反になってしまうのですが、特別に今夜は食器の裏側を見ることができるように、パン用の小皿を重ねて置くように指示をしました」

「謎が解けました!」


 リーナはパンの皿がなぜ複数枚重ねて置かれているのか不思議に思っていた。


 もしかすると、食器を用意した召使が間違えて置いてしまったのではないかと懸念していたが、そうではないことがわかった。


「では、早速ご説明をさせていただきます」


 マーカスがそう言うと、すぐに召使がリーナの側に寄り、重ねられている小皿を五枚取った。それをリーナの席から見える場所に、一枚ずつ裏返して置く。


「重ねてあるとどれも同じ小皿のように見えます。ですが、裏返すとその違いがわかります」

「本当ですね。模様が違います」


 小皿の裏側にはレーベルオード伯爵家をあらわす模様がある。しかし、その模様は五種類。一枚ずつ違う。


 一番下の皿はレーベルオード伯爵家の紋章が入ったものだった。いかにもレーベルオード伯爵家の食器らしい模様だ。


 もう一つはスズランの模様がある皿。レーベルオード伯爵家の花がスズランだと知っていれば、これもやはりレーベルオードらしい食器だ。


 三つ目はレーベルオードという家名が入っている。文字の色は黒。


 四つ目と五つ目はレーベルオードのイニシャルだ。但し、文字の色が金と銀で違っている。


「なぜ、五種類あるのかと思われるでしょうが、理由があります。理解しやすいようにいいますと、皿にも身分があるのです」

「お皿に身分が?」


 リーナは驚いた。これまで様々なことで身分の違いがあるということを実感してきたものの、まさか皿にも身分があるとは思わず、完全に想定外のことだった。


「ウォータール・ハウスにある白い皿はこの五種類だけではないのですが、全てをお見せするのは大変ですので、一部だけを用意しました。リーナ様はこの五枚の皿を見て、最も身分の高い皿はどれだと思われますか?」


 マーカスはただ説明をするだけではなく、リーナにも考えさせながら理解を深めることができるようにしたいと思った。だからこそ、リーナがどのように思うのかを尋ねた。


 リーナは少し考えた後に答えた。


「レーベルオード伯爵家の紋章が入っている皿が一番身分の高い皿だと思います」

「正解です」


 マーカスの言葉を聞いたリーナは嬉しそうに顔をほころばせた。


「当たって良かったです!」

「一応、正解であっても詳しく説明させていただきます。ここにある皿で、貴族であることや爵位などがはっきりとわかるように明記されているものは紋章の皿しかありません。つまり、他の皿はレーベルオードをあらわすとはいっても、貴族であることや伯爵という爵位をあらわしているとはいえないのです。ですので、貴族の伯爵位をあらわす紋章の皿がもっとも身分の高い皿、格上の皿ということになります」

「なるほど!」


 リーナはあてずっぽうに選んだわけではない。ただ、一番模様が細かく、しっかりとレーベルオード伯爵家の皿であることがわかるため、その皿ではないかと考えただけだ。


 マーカスの言うように、他の皿と見比べた際、爵位の明記があるかどうかに気付いて選んだわけではなかった。


「貴族の持ち物に関しては、貴族や爵位であることがわかるような品ほど重要で、格上だと見なされるのが常識です。では、次に身分の高い皿はどれだと思いますか?」


 マーカスの質問はリーナの予想していたことだったが、あまりして欲しくない質問だった。なぜなら、他の皿はどれもレーベルオード伯爵家に関わるものの、紋章のようにはっきりと貴族であることや爵位の明記がない皿ばかりに思えた。


 リーナは非常に迷ったものの、答えを出した。


「……レーベルオードと書かれた皿ではないかと思います」

「違います」


 リーナはもう一度答えた。


「では、スズランの皿でしょうか?」

「正解です」


 マーカスは頷いた。


「迷われたであろうことはわかります。皿を見た際、一目見てしっかりとレーベルオードのものであることがわかるのは家名の皿です。ですので、この皿の身分が高いと思われるのは普通でしょう。しかし、昔は身分の高い者しか文字が読めなかった時代もありました。皿を用意するのは召使ですので、文字が読めない者かもしれません。そこで、一目見てすぐにわかる模様が施されました。レーベルオード伯爵家の花はスズランです。しかも、このスズランは紋章に描かれたスズランと同じです。紋章の一部、紋章に代わるものという解釈ができるため、紋章の次に身分が高い皿ということになります」

「紋章に描かれたスズランだったのですね……気がつきませんでした」


 リーナは落胆した。


 侍女として働いている際に、バラの花の模様や装飾は多くあるものの、中には特別な意味を持つバラがあることを教えられた。スズランに関しても同じように特別なスズランがあってもおかしくないと考えなかった。



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