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後宮は有料です! 【書籍化】  作者: 美雪
第五章 レーベルオード編

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505 ミネットの質問

「勿論です。リーナ様のような高貴な方とこのように直接面談できるというのは、非常に光栄なことになります。リーナ様が王族や身分の高い者と謁見するような感覚と説明した方がいいかもしれません。普通は直接お話しすることはできないほど、身分や立場に差があるのです」

「そうなのですか……」


 リーナはミネットが説明するほど、自分と召使の身分の差があるとは感じていなかった。リーナ自身が平民の孤児だったせいかもしれないが、今は違う。昔と比べ、今の自分は身分が高い者になったのだということを実感するしかなかった。


 そんなリーナを見つめながら、マリウスも意見を述べた。


「私も同じ理由です。リーナ様と言葉を交わした思い出の品になると思いました。私はリーナ様付きですので、話をする機会があります。ですが、面接した者達は別の仕事をする者達ですので、リーナ様と直接言葉をかわす機会は滅多にないでしょう。顔を合わせても礼をするなどだけで、会話はしません。リーナ様の身分や立場が非常に高いからです。そういったことから、リーナ様とお話ししたことは光栄であり、記念になると考えた者もいるはずです。記念の品であれば、長く残る物がいいと思います。また、レーベルオードの色は白ですので、そのことにちなんで白いハンカチを選んだ者もいるかもしれません」


 リーナはマリウスの説明に納得しつつも、じっと見つめた。


「……マリウスは最初から皆がハンカチを選ぶとわかっていたのではありませんか?」

「なぜ、そう思われるのですか?」

「私がピンクや黄色のハンカチを提案した時、マリウスはやめるようにいいました。白が一番好まれるため、他の色は誰も選ばないと。それは、皆がレーベルオードの白を意識するため、例え幸せの色であっても、ピンクと黄色を選ばないと思ったのではありませんか?」

「そうです。ですが、他にも理由があります」

「どのような理由ですか?」


 マリウスは微笑みながら答えた。


「レーベルオードに仕える者達にとって、幸せの色はピンクでも黄色でもありません。白です。白はレーベルオードです。自分達を守り、生きていく場所を与えてくれます。そして、白はスズランの花の色。花言葉は幸福が帰る、幸福の再来。つまり、幸せの色なのです。皆、幸せの色をしたハンカチを選んだともいえます」


 リーナは思い出した。レーベルオード伯爵家を象徴するスズランの宝飾品は幸せのパリュールと呼ばれている。スズランのパリュールではない。そのことから、スズランが幸せを象徴するものだとわかる。


 そして、それは単に花言葉だけに留まらない。スズランの花の色であり、レーベルオードの色でもある白もまた、幸せを象徴する色だという解釈だ。


「……そうですね。白は幸せの色です。私はここで幸せな日々を過ごしました。レーベルオード伯爵家で。そのことがきっと、これからの人生を支えてくれます。辛いことや悲しいことがあっても、頑張ろうと思う力を与えてくれます」

「リーナ様であれば、必ず克服できます。夫となる方、パスカル様、閣下、そして私もリーナ様をお支えし、力になりたいと思っております。決して一人ではありません。多くの者達がリーナ様を支えたいと思っていることを忘れないで下さい。リーナ様が心の扉を閉めて鍵をかける必要はないのです。皆がリーナ様と共に人生の喜びを感じ、悲しみを乗り越えていきたいと思っています」

「凄く嬉しいです。私の周囲には強くて頼りになる方々ばかりいます。でも、やっぱり最後は自分がしっかりとないといけません。私の心がくじけなければ、それだけできっと力になります。とても小さな弱い力かもしれませんが、大事な力です」

「その通りです。その力は勇気、希望となるでしょう。リーナ様を導き、奮い立たせてくれるはずです」


 リーナは安心するように微笑んだ。


「マリウスは神官だったせいか、言葉に力があります。容姿と相まって、美しくも感じます。元気や笑顔のもとになる気がします。ありがとう」

「私こそリーナ様のお言葉、その心、行動を大変素晴らしいことだと思っております。ありがとうございます」

「お互いにありがとうと言い合えるのは素敵ですね」

「そう思います」


 微笑み合う二人を見て、ミネットの胸はざわついた。


 二人はとても信頼しあっており、親しいように見えた。まるで恋人同士のように。


 兄が養女になった者に仕えているであろうことは予想していたが、これほど親しい様子で接しているとは思ってもいなかった。


 ミネットは知りたくなった。リーナという女性を。そして、兄との関係を。


「……少し、質問があるのですがよろしいでしょうか?」

「私が答えましょう」


 マリウスがそう言った。


 ミネットは妹だからこそわかった。兄は自分を警戒していると。


「お兄様ではなくリーナ様にお伺いしたいのです」

「どのようなことですか? どうしても私では答えられないようなことだと確かめてから、リーナ様にお伺いを立てます。まずは私に話してください」


 ミネットはマリウスに尋ねた。


「召使を面接した対価として五つの品を用意されていました。あの品々を選んだのはリーナ様なのでしょうか?」

「そうです」

「なぜ、あの五つを選ばれたのでしょうか? 理由をお聞きしたいのです」


 ミネットは兄では答えられないだろうと思ったが、その予想は外れた。


「リーナ様は召使達が貰って喜びそうなものを考えました。その際、あまり高価な品々は避けて欲しいと私の方からお願いしました。賄賂などのように思われると困りますし、面接を受けなかった者達が面接を受けた者達に嫉妬するようなことがあると、召使同士の問題に発展しかねないからです。そこで、リーナ様はご自身が働かれていた経験を活かし、仕事に役立つようなものを選びました。ペン、メモ帳です。ですが、ペンを使うような仕事ではない者達もいますので、ハンドクリーム、ハンカチも加え、更にはここにあるものはどれも欲しくないという者のためにお金も用意しました。それで好きな物を買えばいいという考えです。これでいいでしょうか?」


 マリウスはリーナがなぜその五つの品を選んだのか、理由を把握していた。


 さすが優秀な兄だ。細かい部分まで把握しているとミネットは思った。


 しかし、ミネットの質問はまだあった。


「なぜ、五種類だったのでしょうか? 先ほど、黄色やピンクのハンカチも候補だったという話をされました。元は七種類だったということでしょうか?」

「最初は三種類でした。女性用、男性用、兼用のものです」


 ミネットも自分であればその程度にすると思った。あまり多くの種類を用意するのは大変であり、選ばれなかったものが無駄になる可能性がある。


「ですが、リーナ様がそれでは少ないとおっしゃられたのです。なぜなら、三種類用意されていても、実際には二種類から選ぶことになってしまうからです。そこで、それぞれが三種類程度のものから選べるようにするため、女性用二種類、男性用二種類、兼用一種類、全部で五種類になりました」


 ミネットはそれぞれの性別ごとに三種類の中から選べるようにという配慮から、五種類になったことに納得した。


「女性用がハンカチとハンドクリーム、男性用がペンとメモ帳、兼用がお金ということでしょうか?」

「その通りです。ですが、お金の場合は金額を高めにしました。他の品々は二十ギール以下のものばかりですが、何か別のものを欲しいとなると、手に入れるために外出しなければなりません。交通費なども考慮し、五十ギールになりました。リーナ様の細やかな心遣いです」


 ミネットは悟った。兄は自分の仕える相手がいかに細やかな気遣いのできる優しい女性であるかを伝えようとしていると。


 確かに、交通費なども考慮して金額を高めにするというのはわかる。しかし、それでは不公平な気がした。


 他のものは二十ギール以下。しかし、お金の場合は五十ギール。倍以上になる。


 そのことを指摘すると、マリウスは静かに答えた。



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