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後宮は有料です! 【書籍化】  作者: 美雪
第五章 レーベルオード編
495/1357

495 見せつけられた者達

 

 リーナ・レーベルオード伯爵令嬢は王太子の寵愛を得た。


 あまりにも明らかで、間違えようもないことだったが、信じられないと思う人々がいた。


「ありえないわ」

「本当に」

「どういうこと?」


 舞台側の特別ボックス席には側妃候補達が招待されていた。


 招待された理由は側妃候補としての特別な配慮からではない。


 王太子は寵愛する女性がいること、その女性のためにこれほどの催しをすることを教えるためだった。


 つまり、側妃候補は必要ないということを宣言しているのと同じだった。


「王太子殿下が音楽会を開くと聞いて驚きましたけれど、まさかこのようなことだったとは」


 そう言ったのは第三王子の側妃候補として入宮しているアルディーシアだった。


「王太子殿下は何かにつけて妻は一人だけだと公言されていました。自ら選んだ女性を後宮に入れるということは、その女性を妻にするということ。王太子殿下の側妃候補の方は盛大にフラれてしまいましたわね?」


 王太子は王立学校にいる頃から妻は一人だけにすると公言していた。


 そして、それを示すように女性とは距離を置き、親しくしているのは友人であって恋人ではないとしていた。


「何を言っているの?」

「側妃候補が一人増えるだけの話でしょう?」

「想定内よ」

「そうね」

「いよいよって感じかしら?」


 王太子の側妃候補達は動じていなかった。


「この程度のことなら、寵愛していなくても可能だわ」

「音楽会を開くのも指輪を贈るのも大したことではありません」

「王太子殿下は非情な方ですもの」

「これは策略ね」

「わざとらしいのがその証拠だわ」


 アルディーシアは理解した。


 王太子の側妃候補達は王太子に特別な女性がいるということを信じていない。


 寵愛している女性として後宮に入れるのは、他の側妃候補達を追い出すための策略だと思っている。


 さすが王太子殿下の友人の座を捨ててまで後宮に入っただけあるわ。ここまでされても理解できないなんて!


 アルディーシアは呆れるしかない。


 だが、王太子の側妃候補達からみれば、王太子の策略に簡単に騙されているアルディーシアに呆れるしかないという状態だった。


「これだけ大掛かりな音楽会であれば相当な費用がかかっていそうですわ。それほどまでに気合が入ったデートということでは?」

「デートではないわ」

「音楽会よ」

「バレエと舞踏会の要素もある特別な音楽会ね」

「王太子殿下の財力からみれば大したことないわよ」

「この程度の催しをするぐらい、造作もないはずだわ」


 王太子の側妃候補達はライバル同士のはずだが、連帯するかのような様子と発言だった。


 強力なライバルが出現したことについては認識しているようね。


 アルディーシアがそう思っていると、


「第三王子殿下の側妃候補だからといって、他人事だと思わない方がいいわ」

「その通りよ。また側妃候補が追加されるかもしれないわ」

「冷遇されているくせに」

「興味を持たれていないのよ」

「邪魔だということね」


 アルディーシアは笑わずにはいられない。


「その言葉、すべてお返ししますわ」

「遠慮しなくていいのよ?」

「ここでは自由に踊れません」

「母親と同じように踊り子になれないわよ?」

「せっかくの才能が無駄になってしまうのではなくて?」

「無理ですわ。家の意向なので」


 情報提供役である以上、長居せざるを得ないのよ。


 アルディーシアの両親は正式な婚姻をしていない。母親は平民の踊り子で、政略の駒になるということでアルディーシアは父親に引き取られた。


 そういった事情もあり、後宮内や側妃候補の情報を探れという密命に逆らうわけにはいかない立場だった。


「私も同じですわ。家の意向ですの」


 もう一人いる第三王子の側妃候補メレディーナが会話に加わった。


「側妃に選ばれずに家に戻るのは不名誉になってしまうわ。同じように思う方がいるのはわかっているのもわかっています。同情いたしますわ」

「同情ですって?」

「無礼よ」

「見下すつもりね!」


 側妃候補達による言い争いが始まった。


「醜いわね」

「呆れるしかないわ」

「選ばれないのは一緒でしょう?」

「長くいるほど、選ばれる見込みがないのにすがっている証拠だわ」

「何ですって?」

「失礼だわ!」


 静観するつもりの側妃候補達も巻き込まれ、不和は余計に広がった。


 この間も白鳥姫と金の王子の曲が流れていたが、その演奏が終わると同時に言い争いも止まった。


 周囲に争っていることを知られないためであるのは言うまでもない。


 何事もなかったかのように、側妃候補達はすました表情で拍手をした。


 王太子が出席する音楽会は白鳥姫と金の王子の曲に始まり、終わる。


 王太子がレーベルオード伯爵令嬢と共に立ち上がった。


 それに合わせ、着席した者達は起立し、立席の者達は姿勢を正した。


 王太子達が退出するのを見送る拍手が起き、王子達、レーベルオード伯爵令嬢、その家族、側近達も続いて退席していく。


 ロイヤルボックスが空いたということは、これで終わり。


 誰もがそう思ったが、舞台の上に係の者があらわれた。


「皆様に申し上げます。この後、土間はダンスホールになり、各広間は夜会の会場になります。ワインの間とパンの間では着席式にて白鳥姫と金の王子にちなんだ軽食と飲み物をお楽しみいただけます。王太子殿下の寛大なる愛に溢れた輝かしい夜の宴をご堪能ください!」


 招待客は王太子から与えられた特別な夜の宴を讃えるために盛大な拍手をした。


 側妃候補も同じ。ライバル達を睨みながら、夜会会場へ移動する準備をした。


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