491 幕間の二人
控えていた護衛騎士達がバルコニーに沿って並び、休憩時間のための特別警護につく。
封鎖されていた扉が開かれ、バルコニーや土間部分にいた観客達がざわめきと共に通路の方へと移動を始めた。
「バレエはどうだ?」
クオンに尋ねられたリーナは正直に答えた。
「とても素晴らしいです。黒鳥姫の踊りが凄かったです」
「飲み物はいるか? それとも、化粧を直しにいくか?」
「なんだかあまり動きたくありません。一気に疲れました」
出し物の素晴らしさを全身で感じている興奮状態が落ち着いた反動だった。
「休憩時間は二十分だ。部屋に下がってもいい。ソファに横になったり、靴を脱いでくつろいだりすることもできる。遠慮するな。暑いのであれば扇で仰がせる。寒いのであればひざ掛けを用意させる」
「大丈夫です。でも、今夜はバレエ鑑賞会ではなく音楽会ですよね? 物語の続きを見ることができるのか心配です」
「続きはある。休憩時間の間に舞台のセットを変えている」
「良かったです!」
嬉しそうにリーナは答えた。
「ここで終わりだったら、とても残念です。踊りはとても素晴らしかったのですけど、終わり方がよくなかったといいますか」
「確かにここで終わるのはよくない。白鳥姫にとっても金の王子にとっても試練だが、幸せになるために乗り越えなくてはならない」
「そうですよね。自分の本当の気持ちをちゃんと相手に伝えないと。必ず通じます!」
力説するリーナにクオンは強く頷いた。
「その通りだ。愛はとても強い。不可能なことも可能にする力がある。苦難を乗り越え、かけがいのない大切なものを手にすることができる」
「早く続きが見たいです!」
リーナは音楽会を楽しんでいる。
そのことにクオンは喜び、安堵した。
だが、重要なシーンはまだ終わっていない。
「他に気になることはないか?」
「気になること……」
リーナは周囲を見渡した。
「では、護衛騎士についてもお聞きします。以前、観劇した際にはエゼルバード様が出席していましたが、このように護衛騎士達が並んでいなかった気がします。でも、今夜は並んでいます。なぜでしょうか?」
クオンは答えた。
「王族の入退場に対しては、全員が送り迎えをしなければならないからだ」
王族が入出場する際、他の観客達は起立して拍手をしなければならない。
そして、王族がいる間は緊急をのぞいて席を立つことはできない。
幕間のような休憩時間ごとにそのルールを適用していると、王族がロイヤルボックスに移動する時間を気になければならず、観客達は休憩を取れない。
そこで王族がロイヤルボックス内で休憩する場合は、護衛騎士が衝立のようにならんで姿を隠す。
すると、ロイヤルボックスは区切られた別の部屋のような扱いになり、観客達は王族がいても席を離れたり休憩したりすることができるようになるということをクオンは説明した。
「他の人々が休憩できるようにするためだったのですね」
「王族が少したってから席を外したとしても、その際の見送りと出迎えをしなくていい。無礼にならない」
「なるほど!」
リーナはクオンの説明を理解した。
「休憩が終わった後はどうなるのでしょうか? 護衛騎士がいなくなったら拍手をして王族を出迎えるのでしょうか?」
「いや。護衛騎士のカーテンができる前となくなった後の状態が一緒であればいい。変わりないということで、規律も拍手も必要もない」
「凄くよくわかりました!」
リーナは勉強になったと思った。
「王太子殿下の警護は特別仕様なのかと思いました」
「否定はしないが、この場合は別の意味だ。但し、護衛騎士が並ぶ前に王族が席を立ち、部屋に下がった場合は違う。見送ることになるため、出迎えもしなくてはいけない。その場合、王族が戻るのは幕間の時間が完全に終わってからになる」
「わかりました」
「お前は本当に勉強家だ。感心する」
クオンに褒められたリーナは嬉しくなった。
「きっと多くの方々は当たり前のように知っていることです。私はまだまだ知らないことが多すぎます。でも、少しずつ勉強して、多くの方々と同じようになりたいです。大切なことを知っておかなければ、大変なことになってしまいます」
「そうだな。私も勉強しなければならない」
「クオン様も?」
リーナは驚いた。
「すでに何でもご存知のような気がしますけれど」
「私にもまだわからないことがある」
クオンはそう言うとリーナの頬に軽く口づけた。
「どうだ? 私がリーナのことをどう思っているのか、少しはわかってくれただろうか?」
「え、あ、はい」
リーナは恥ずかしそうに答えた。
「大丈夫です。なんとなくわかりました」
「なんとなくか」
しっかりと伝えなくてはならないとクオンは思った。





