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後宮は有料です! 【書籍化】  作者: 美雪
第五章 レーベルオード編

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483 親子の打ち合わせ

 家族の時間は惜しまれつつも終わりを告げた。


 夜には王太子主催の音楽会がある。レーベルオード伯爵家は直接王立歌劇場に行くのではなく王宮に行き、王太子と共に王立歌劇場に向かうことになっていた。


 リーナが侍女達と共に部屋を退出すると、残された父親と兄は大きなため息をついた。


 幸せな時間が一生続くとは限らない。しかし、まだまだ続く余地はあった。王太子の音楽会がなければ。


 そう思ってしまう自分達に、忠義に反することだと戒めつつも、この後の予定について確認をした。


「では、私は側近達と共に移動するのだな?」

「そうなります。ですので、父上の馬車は王宮に留め置くことになります。帰りも王宮に戻り、そこから帰るという形になります」

「パスカル」


 父親はまさに二人きりだからこその質問をした。


「今夜、リーナは帰れるのだろうな?」


 パスカルは黙り込んだ。


 父親の言いたいことはわかる。王太子は男性だ。しかも、大人の。


 パスカルは正直に話した。


「恐らく、としか答えられません。身内にデートの内容を教えるわけにはいかないとヘンデルに言われました」


 父親はきつい表情になった。


「ですが、王太子殿下の管轄するエリアや国賓級の客間において、宿泊に関する予定は一切ありません。警備も通常通りです。音楽会のための変更が多少はありますが、王太子殿下が無事居室に戻られるまでの間だけです」


 パスカルなりに可能な範囲での確認はしていた。


 しかし、あくまでも事前における予定でしかない。急きょ変更、臨時で、緊急でということになる可能性もあり、それでも勿論対応できるようになっているのが王宮だ。


 何の予定も入っていないからといって、本当に確認できたことにはならない。


「王太子殿下は計画の全てを教えては下さらない。音楽会のこともそうだが、仮面舞踏会でのこともそうだ。事前に聞いていなかった。お前も同じだろう?」

「ヘンデルが何かに対して動いているのは知っていましたが、どのようなことについてかは一切知らされていませんでした。王太子府の動きも見ていましたが、音楽会の件は恐らく第二王子の方で手配をしたのではないかと思います」


 レーベルオード伯爵は眉をしかめた。


「ウェストランド……ディヴァレー伯爵が動いているのだろう」

「セブンが?」


 パスカルも眉をしかめた。


「第二王子は王太子の怒りを買ったはずだ。しかし、王太子は弟に甘い。注意だけで済ませるに決まっている。だが、それでは示しがつかない。反省を促すためにも、側近を処罰することにするだろう。そうなれば、ノースランドとウェストランドが対象になる。だが、処罰されたような気配はない」

「第二王子殿下は謹慎になりました。極秘の処罰なので、二日間だけです。月曜の夜には第二王子についていた護衛騎士が引き揚げ、十分な反省をされたようだという報告をしています」


 レーベルオード伯爵はため息をついた。


 勝手な行動をした第二王子への処罰はたった二日間の謹慎。どう考えても甘すぎだ。


 護衛騎士の目は節穴、もしくは儀礼的な報告といかいいようがない。その程度の処罰で第二王子が十分な反省をしているわけがない。


「側近への処罰はなかったのか?」

「ありました。ですが、具体的な内容は知りません」

「音楽会に関連するようなことではないのか?」


 パスカルは浮かない表情で答えた。


「最近、王太子府における僕の立場は不安定なのです。第四王子関連の仕事が多くて……」


 パスカルは第四王子の側近としての仕事が徐々に増えているせいで、王太子の側近としての仕事が減り続けている。このまま第四王子の側近だけになり、王子府への勤務に変更される可能性もある。


 誰も何も言わないが、パスカルも周囲の微妙な変化を感じていた。


 王太子の側近であるにも関わらず、王太子府内における情報を事細かく調べにくく、知りにくくなってきている。


 王太子府にいないことや、リーナに関する担当ではないとはいえ、誰かがパスカルに対し、王太子府に関する情報を教えるなと内密に指示を出しているとしか思えなかった。


 そして、その誰かはヘンデル、あるいはキルヒウス、もしくは王太子に決まっていた。


「父上はなぜ、ロジャーではなくセブンだと? フェリックス達のせいですか?」


 フェリックス達が滞在しているのはウェストランドのホテルだ。そのため、セブンが主に動き、手配しているというのはわかる。


 しかし、そういったことを考えると、音楽会の件は猶更ロジャーの担当になるのではないかと思うのが自然だった。


「ワインだ」


 レーベルオード伯爵は言った。


「モンラッファルとチエータが新聞に詫びを掲載した。多くの者達はレーベルオードの催しのせいだと思ったようだが、私は違うと知っている。確かに多くのワインを手配したが、出荷停止に追い込むほどではない。むしろ、そうならないように他のワインとうまく合わせ、銘柄を増やすことで一種の銘柄に対する負担を少なくしたはずだった。しかし、ワインの在庫は減り、新聞にわざわざ詫びを掲載するほどになった」


 パスカルもワインのことが新聞に掲載されたのは意外に思っていた。しかし、自分が手配をしたわけでもなく、父親や屋敷の者達の方で準備していることでもある。


 父親は何も言わなかったため、パスカルも黙っていた。しかし、父親は違和感を覚えていたのだ。実際は、新聞に詫びが掲載されるはずがないようにしていたつもりだった。ところが、そうではなかった。


 となると、なぜ新聞に詫びが掲載されたのかという疑問が生じる。


 在庫が減っていないのに、わざと在庫が減ったかのように思わせるためか、それとも、何か別の要因で在庫が減ったのではないかということだ。


 本当にワインの在庫が減っていないのであれば、何者かによる情報操作だ。レーベルオードの影響力を知らしめるため、あるいは逆にレーベルオードのせいだと悪評につなげたかった可能性もある。


 本当に詫びを載せるほど在庫が減っているのであれば、レーベルオード伯爵家以外にも大量のワインを購入している者がいるということだ。そして、そのワインは何かの催しのために消費される予定だと考えられる。


 レーベルオード伯爵家と同じ日に王宮でも仮面舞踏会が開かれた。しかし、そこで大量の最高級ワインが饗されたわけではない。むしろ、質より量を優先したため、ワインにうるさい者達からはかなりの不評だったといわれている。


 では、一週間後に開かれる王妃のバレエの鑑賞会かといえば、それもない。


 なぜなら、王妃のバレエ鑑賞会は昼間だ。女性の招待客ばかりのため、酒類の消費は多くない。酒を飲まないわけではないが、ドレスに染みをつくりたくないがゆえに水や白ワインが消費され、赤ワインの消費は抑えられる。モンラッファルは白ワインだが、チエータは赤ワインだ。


 そして、一番の理由は公演後の社交時間がない。社交をするのは開場されてから始まるまでの間と幕間の時間のみ。余計に酒は消費されない。


 では、どこで酒が消費されるのか。


 王太子主催の音楽会。


 夜の開催になるため、酒も多く用意されるに決まっている。しかも、招待客は約五千人。一人一杯であっても、約五千杯がなくなるという計算になる。ワインが大量に必要なのは言うまでもない。


 今回の音楽会に関する情報は制限されている。パスカルでさえ、担当でないことから詳しいことは知らされていない。


 だが、招待客の数だけを見ても、ただの音楽会ではないことは明らかだった。



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