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後宮は有料です! 【書籍化】  作者: 美雪
第五章 レーベルオード編

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466 沸騰する話題

 週明けの社交界では二つの仮面舞踏会についての情報が飛び交い、話題が沸騰していた。


 国王主催の仮面舞踏会はこれまでにも催されたことがあったが、過去最大ではないかと噂されるほど大規模なものだった。


 宰相や財務大臣が苦々しい表情をしたという噂は納得ともいえるほどの内容で、参加した大勢の者達は煌びやかな夜を満喫した。


 王宮での催しが盛大なほど、同じ日に催しをすることになってしまったレーベルオード伯爵家はその差を比べられ、力の差を見せつけられると思われた。


 同情する声も多数あったが、王妃に味方をする者達を筆頭にして、出過ぎた杭は打たれるといった例えを持ち出し、いい気味だと感じる者達、足を引っ張ろうとする者達が声高々に王宮での催しがいかに素晴らしいものであったかを褒め称えた。


 ところが、そういった話題や風潮が勢いづいたのは月曜日までで、三日後の火曜日には不穏な空気が漂い始めた。


 王宮の仮面舞踏会は多数の者が出席しただけでなく、自ら話題を提供する者達が多数いた。一方で、レーベルオード伯爵家の仮面舞踏会に出席した者達の数は少なく、積極的に話題を提供しようと思う者達が少なかった。


 その差が情報伝達にあらわれた。最初こそ王宮寄り、王妃寄りの話題や風潮の流れだったが、じわじわとレーベルオード伯爵家の催しに関する情報が流出して伝達されるにつれ、レーベルオード伯爵家のことを悪く言っていた者達の表情は固くなり、青ざめ、口を閉ざした。


 それに代わって台頭し始めたのが、レーベルオード伯爵家擁護論と同日開催を強行したといわれる王妃への反発だった。


「レーベルオード伯爵家の催しには王太子殿下が顔を出されたらしい」

「ありえない!」

「だが、ありえた」

「奇跡だな」

「なんという栄誉だ……羨まし過ぎる!」


 王太子は社交をほぼしない。執務室に籠って仕事ばかりしている。


 王宮の催しでさえ必ず出席するわけではないというのに、貴族の屋敷における催しとなれば、非公式であっても足を向けるどころか興味も示さない。


 学生時代は様々な経験を積むための外出もしていたが、大学を卒業してから本格的に執務を始めると、王宮から外出したという話は噂であっても聞くことがなくなった。


 その王太子が動いた。その重大性を感じる者達が続出したのはいうまでもなかった。


「レーベルオード子爵は第四王子の側近だが、元々は王太子殿下の側近だからな」

「兼任だ。それほど重用している者達が悪く言われかねないことに、王太子殿下が何もしないわけがない」

「第四王子殿下は視察だった。つまり、二人も王族が出席したということになる」

「第三王子殿下も出席されたようだ。今回の警備の責任者だったらしい」

「第二王子殿下も出席されたらしい」

「四人も……ありえない!」


 王子達が揃ってミレニアスに行くことで、王太子の元に弟王子達が集まり、四人兄弟で結束するということを内外に見せつけた。


 その際は対外的にもエルグラードの威光を知らしめると大義名分があったが、レーベルオード伯爵家の催しを通してまたもや王子達の結束を知ることになった意義は大きい。


「宰相までレーベルオードの催しに出席した」

「内務大臣と財務大臣も」

「それだけではない。名前を挙げたらきりがないほど、物凄い客ばかりだ」

「統治予算のせいだ。中央省庁組がこぞって王太子についた」


王宮における政治的な駆け引きが盛んになり、現体制への見直しが検討されている。


このような状況において、王宮で働く者達、貴族の者達が自らの立ち位置をどうするかというのは、将来的に自分や家族、一族の運命がどうなるかも左右するほどの重要な決断になるといえた。


「招待客は少数精鋭か?」

「約八百人が少数か?」

「十分多い。ほぼ当主や跡継ぎだ」

「王太子殿下の意向がまさに目に見える形になった」

「その通りだ。時代は移り変わろうとしている。あの宰相が陛下の元を離れたということが、それをあらわしている」

「陛下も引退を決意されるかもしれない。宰相や中央省庁組がいないとなると、勢力が削がれ過ぎてしまう」

「宰相が黙って側を離れるわけがない。むしろ、陛下のご意志がそこに見える」

「王妃よりも王太子殿下か」

「王太子殿下に全てを受け継ぐことが、陛下のご意向だ」

「全てではない。美しいエルグラードだ」

「古き汚れは自ら一掃するつもりでおられるからな」

「最後まで苦労されそうだ。陛下は」

「本当に変わられた、陛下は」

「強くなった」

「裏切り者には容赦しない」

「すぐ処分する」

「それは昔の話だ」

「とにかく、陛下のご意向を正しく理解しなければならない」

「無論、その通りだ」

「つまり、王太子殿下の勝利だ」

「レーベルオード伯爵家の勝利でもある」

「そうなる」

「異論はない」


 話題になったのはレーベルオード伯爵家の招待客のことだけではなかった。


「聞いたか?」

「何のことだ?」

「ワインだ」

「知っている。モンラッファルが出荷を停止するそうだな。それから、チエータも」


 最高級ワインとして知られるモンラッファルが新聞にお詫びを掲載した。内容は在庫数が極端に減少しているため、当分の間は白ワインの一部に関しての出荷を停止するというものだった。


 そして、お詫びを掲載したのはモンラッファルだけではない。最高級赤ワインで知られるチエータに関しても同じで、それに合わせるように最高級あるいは高級ワインのいくつかの銘柄が一時出荷を調整するということがわかった。


 王宮で大規模な仮面舞踏会が催された週末明けということもあり、王宮用に大量のワインの発注があったせいで、このような事態を引き起こしたと考える者が多数いた。


 しかし、それは正しいとは言えなかった。


「レーベルオード伯爵家のせいらしい。養女を披露する催しで、最高級ワインが大量に饗されたようだ」

「レーベルオード伯爵家のせいだったのか!」

「新聞に詫びを掲載するほどだ。相当の量が消費されたに違いない」

「よく考えれば、モンラッファルはレーベルオードの息がかかっている。チエータも同じだ」

「そうなのか?」

「どちらもグランディール国際銀行を後ろ盾にしている」


 グランディール国際銀行はエルグラードの輸出入業を支える大銀行だ。そのせいで、輸出入に関する強い影響力を持つということは当然のごとく知られている。


 だが、実際はそれだけではない。グランディール国際銀行は他国に関連する投資事業にも力を入れている。


 エルグラードで集められた資金を他国で投資するのは勿論のこと、他国で集められた資金をエルグラード国内に投資しているのだ。


 国内では融資を受けにくかった者達はグランディール国際銀行を通じて、国外からの融資を受けることができるようになった。そのおかげで成長した、一流になったという例は挙げたらきりがない。


 ワインについても同じだ。


 王族貴族が自らの領地で栽培しているワイン関連事業には莫大な資金がつぎ込まれる。領営事業としての庇護を受け、銀行などからの融資も含め、多額の資金を集めやすい利点がある。


 一方で、国有地にあるワイン関連事業に関しては不利になる。経営者が自力で資金を集め、融資先を探さなければならない。


 経営者が貴族やコネがある者であればともかく、そうでない者達はいくら素晴らしいワインを作っても、なかなか資金を集めにくい場合もある。基本的に農作物は天候による影響を受けやすいため、不作の可能性を考慮されてしまい、審査がより厳しくなってしまう傾向がある。


 そこに登場したのがグランディール国際銀行だった。


 グランディール国際銀行は国内銀行との兼ね合いから、国内における投資対象をかなり限定し、新規や中規模以下の事業への融資を積極的にした。


 新規や中規模以下の事業は大規模な事業と違って不安定でリスクも高い。そのせいで国内銀行が融資をためらう場合もある。そこに目をつけることで銀行同士の対立をできるだけ回避するだけでなく、先行投資をすることで事業を育成し、収益をあげていった。


 そのため、中規模以下の経営者達が神のように拝んでいるとも噂されるほど、グランディール国際銀行の影響力は国内事業にも食い込み、経済的な成長力を支えている。


「モンラッファルとチエータは元々年間生産量が少ないからな……」

「アーボルトとレンブールも少ない。グランディール国際銀行が絡むのは、元々国内での融資を受けにくかった者達だ。小規模経営のせいで敬遠されていた」

「だが、最高級の品質のワインとして有名になった。生産量が限られているとなれば余計に高くなる。単価が圧倒的に高ければ、生産量がなくても益が出る」

「王都への出荷しかできない状態らしいな」

「ある意味王都で買い占めている状態だ」

「実際は王都に住む限られた者達だけにというべきだが」

「ウェズロー伯爵家もレーベルオードの催しに招待されていた。流通関係での援護もあるだろう」

「経済への影響力の一端を知らしめたか」

「故意かどうかはわからないが、結局はそうなった」


 レーベルオード伯爵家や王太子に関する話題は盛り上がる一方で、その勢いが衰えることはなかった。


 そして、木曜日。


 突如、王太子府による公式発表が行われた。


 その内容は土曜日の夜に急きょ王立歌劇場で開催されることになった音楽会についての告知だった。


 元々、土曜日の昼は王立歌劇場における王妃主催のバレエ鑑賞会があり、夜には王宮で舞踏会が開かれることになった。


 しかし、昼から夜にかけて連続するような催しに対する様々な懸念があったことから、王宮での舞踏会は一週間前倒しになった。


 土曜の夜の予定はなくなり、昼のバレエ鑑賞会は女性限定ということもあって、男性を始めとする多くの者がスケジュールを空けていた。


 そこへ、王太子が急きょ臨時に音楽会を催すことを発表したのは驚くべきことだった。


 あの王太子が……しかも、音楽会?


 音楽に興味なし、嫌いだと言われている王太子が、なぜ、いきなり音楽会を開くことにしたのか、誰もが知りたがった。


 そして、その理由は呆気なく判明した。


 王太子には気になる相手がいる。女性だ。そして、その女性のために音楽会を催すことにした。


 つまり、女性をデートに誘うためだった。


 そして、その女性が誰であるのかもまたすぐに判明した。


 リーナ=レーベルオード伯爵令嬢。


 社交界全体を揺るがす大激震が走った。



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