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後宮は有料です! 【書籍化】  作者: 美雪
第五章 レーベルオード編

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458 ため息ばかり

「……確認したいことがある。国境付近に兵を待機させるだけでは勿体ないことから、防火地帯を作らせていると聞いた。本当にそれだけか?」

「レイフィールに聞かなかったのか?」

「それ以外は検討中、全て未定だと言われた。極秘作戦に関しては王太子の許可がないと話せないことになっているとも」


 クオンはレイフィールが自分の指示通りに動いていることを確認できた。


「現在は防火地帯を作ると同時に、密入国者を取り締まる作戦を展開している。捕縛者はミレニアスに返還する気はない」

「殺すということか?」


 クオンは頷いた。


「許可は出しているが、状況次第で随時対応することにはなっている」

「状況とはどんなものだ?」

「簡単に捕縛できるようであれば、捕縛でいい。ミレニアスの密入国を繰り返す者は、抵抗するよりも無抵抗で捕縛されたほうがいいと考えている者もいる。なぜなら、捕縛者への対応が厳し過ぎないからだ。一定期間は拘束されるが、ミレニアスに返還されることも知っている。はっきりいえば、待遇が良すぎて犯罪者に舐められている」


 息子の苛立ちを父親も感じた。


 人道的な対応、二国間の関係悪化や国際的な信用を落とさないための処置が、再犯罪を防止できない要因になっているということだった。


「今回の捕縛に関してはいつもと違う対応をする。様々な情報を引き出し、防火地帯を作る作業に従事させている。つまり、エルグラードの法の下に裁き、終身労役処分にする。反抗が酷い場合や逃走を図った場合に関しては死罪だ」

「説明としてはわかる。だが、本当に密入国ルートに関わる場所に防火地帯を作っているのか? 発見されれば即座にルートを変えるだろう。それに合わせて防火地帯もまた変更するというのであれば、未完成な防火地帯でしかできない。ただ、森を伐採しているだけになってしまうのではないか?」

「それはない」


 クオンは断言した。


 他にもいくつかの作戦が検討されている。


 その一つが森林火災を装い、密入国ルートや犯罪に関与していると思われる場所を燃やして消滅させる作戦だった。


 しかし、今はまだいえない。この作戦はあくまでも極秘であり、クオン、レイフィール、現地にいるエネルト将軍等の数人しか知らされていない。


「防火地帯は変更しない。有効でなくても作り上げ、将来的には森林内における密入国取り締まりの拠点にする予定だ。また、戦争でもないのに多数の兵を国境に集結させ、駐屯させるためには費用がかかる。ただミレニアスを睨んでいるだけでは勿体ないため、国境付近の偵察及び一時的な林業開拓をする。伐採した木は全て付近の村や町などに運び、木材として市場に流通させる。益が出るようであれば、全て軍の臨時収入にし、経費の一部にする予定だ」


 ミレニアスとの国境付近には広大な森がいくつもある。しかし、国境付近のせいで開拓されていない。見方を変えれば、森林資源が豊富に残されているともいえる。


 今回は防火地帯の作ることで伐採した木材を流通させることで、国境付近で行われる林業の市場参入における影響や利益率の試算もする予定だった。


 単に木を切って売るだけであれば、いずれは木がなくなる。だが、それ以外にも広大な森の利用方法はある。


 林業の利益率が高ければ、植林地域を設けて永続的な林業を起こすことが可能だ。


 また、ミレニアスの一部の地域のように不法薬物の原料ではない製薬原料やキノコなどの特用林産物の栽培や採集、野生動物の狩猟等、経済的な利益を生み出すような活用方法とその利益率を模索することにもなっていた。


 ミレニアスは森を開拓したがらない。ミレニアスは森こそが国を守る壁だと思っている。エルグラードも同じように思ってきたが、密入国者が乗り越えて来る壁では意味がない。むしろ、森があるせいでエルグラードは不利益を被っている。


 時代は変わった。いつまでもエルグラードがミレニアスに付き合う必要はない。エルグラード側の森だけでも開拓させることで益があるのであれば、それでいいとクオンは考えていた。


 そして、時代が変わっていくのは国境問題だけではない。王宮においても同じだと。


「父上はフレデリック王太子のことを聞いているか?」

「謁見の申し込みがあったが、返事をしていない。お前は昨日会ったはずだ。何か話をしたのか?」

「少しだけ話をしたが、私の撒いた種の一つを潰しに来た。キフェラ王女の入国拒否を早期解決したいらしい。ミレニアス王は愚かだ。娘をエルグラードの王太子妃にしても、数年以内に死ぬだけだ。それがわかっていない。それを教えれば、私がキフェラ王女を殺すつもりだと思われる。だからこそ言わないだけだというのに」

「誰が殺すのだ?」


 父親の質問に息子は平然と答えた。


「父上だ。婚姻後、用済みになったら殺せばいいと思っているのではないのか?」


 父親は顔をしかめた。


「わかっているなら、我慢してくれればいいものを」

「断る。王家の系譜には私の妻として永遠に残る」

「記述を抹消すればいい」

「ミレニアス王家の方には残る。王女をエルグラードに嫁がせたと。だが、エルグラード王家の系譜にはないとなれば、どちらが正しいのかとなる。調べた結果、婚姻はしたが、すぐに死んだために削除されたのだろうと思うかもしれない。だが、後世の者は私の意向など気にしない。正確さを重んじれば、私の妻として明記するだろう。耐えられない!」


 父親は黙り込んだ。


 気にしすぎだと言いたくもあるが、ミレニアス王家の記録に残ることを失念していたことに気付いた。


 息子には一時的に我慢して貰うだけのつもりだったが、記録という意味では永続的に我慢するしかないということになる。


 自分ではどうしようもない部分に忌まわしい記録が残ってしまうため、息子がかたくなに拒否するのだということを、父親は理解することができた。


 本当に慎重で細かい息子だ。


 父親は心の中でつぶやいた。


「レーベルオード伯爵家で起きたことは、大々的にではないだろうが、陰で広まる。私がリーナを入宮させたいと希望してもおかしくない」


 父親は息子が寵愛する女性を早く入宮させたいがためにわざと仕組んだことであり、突発的なことではなかったが、そのように見せたかったのだと思っていた。


 理性の問題でも話でもない。そんなことを持ち出すように言ったのは、やはり誤魔化しでしかなかった。


「入宮を許可して欲しい。だが、国王の許可がなくても側妃候補にすることはできる。後宮に入宮できないのであれば、王宮に部屋を与える。私はもう待てない。どうしても側に置きたい。このような気持ちは初めてだ。父上であっても私を抑えることは不可能だ!」


リーナを正妃や側妃にすること、後宮に入れることに関しては国王の許可が必要になる。しかし、ただの側妃候補とすること、王太子が管理するエリアに部屋を与えることに関しては王太子だけの権限で可能だ。


「現在、王家予算の縮小化を検討している。だというのに寵愛する女性を後宮に入れては、予算が縮小しにくくなる。リーナに王宮の部屋を与えてはどうかという件については宰相とも話し合った。私の予算で賄うのであれば全く問題ない、むしろ後宮とその予算を消し去るにはその方がいいだろうと言われた。但し、いきなり大きな配慮を見せるのは嫉妬や反発の元になるため、状況を注視し、しっかりと根回しをすべきだとも言われた」

「ラーグめ……」


 父親は負けたと感じた。


一番敵にしたくない相手が息子と協力関係にあることを恨めしく思うしかない。


「直接伝えておく。王妃のせいで、レーベルオード伯爵令嬢は王宮での社交デビューの機会を先延ばしにされた。そこで、私が臨時の催しをすることにした。父上と母上は招待しない。参加も邪魔もしなくていい」

「何を催す?」

「教えない」


 父親は不満そうな顔をした。


「教えないと邪魔をする」


 息子はあっさりと折れた。


「王立歌劇場で音楽会を催すだけだ」


 王立歌劇場は王宮敷地内にあるものの、国王が管理する施設ではなく、第二王子が管理する施設になる。


 そのため、王立歌劇場で何かを催すには第二王子の方に打診する形になる。国王の許可は必要ない。


「……お前は音楽会が嫌いだろう?」


 音楽会とはいっても、様々な形がある。しかし、基本的には音楽演奏を聴いて時間を過ごす部分がほとんどだ。


 執務に忙しい王太子は、音楽を聴いているだけの時間が勿体ないと感じ、書類を見ながら音楽会に出席したこともある。


「音楽を聴くこと自体は嫌いではない。だが、書類を見ながらでは駄目だと言われたため、欠席するようになっただけだ」


 書類を見ながら音楽を聴くというのは、いくら忙しい王太子でもよくない。音楽に全く興味がない、音楽や演奏の素晴らしさを感じていないように見えてしまう。


 芸術をないがしろにしている、音楽への軽視、冒涜といった意見もあったため、国王や王妃が注意をした結果、王太子は音楽会に欠席するようになった。そのため、王太子は音楽が嫌い、興味がないと思われるようになった。


「素晴らしい演奏を聴きながら執務をするのもいいと思っていたのだが」

「まさかとは思うが、また書類を読みながら音楽会に出席するのではないだろうな?」


 怪訝な表情の父親に、息子はありえないといった表情を返した。


「私が主催する音楽会でそのようなことはしない。私が見るべきは書類ではなく、愛する女性が喜ぶ姿だ」


 結局、音楽鑑賞は二の次以降であることは変わりがない。


 だが、愛する者が喜ぶ姿を見たいという気持ちは理解できる。


 父親はまたしてもため息をつくことになった。



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