449 王太子たちか王妃か
リーナが退出して少しすると、二十四時になった。
次に退出するのは未成年組だった。
「時間だ」
「では、これで。他の者も連れて行きます」
セイフリードが立ち上がると、フェリックスとルーシェも立ち上がった。
エゼルバードとフレデリックも立ち上がり、全員は拍手に見送られて舞踏の間を後にした。
「明らかすぎる」
クオンは呟いた。
事態を収拾するためにセイフリードとレイフィールが仮面を外したことで、明日以降の対応が面倒になるのは明白だった。
王宮では国王主催の催しがあったというのに、王子たちが揃って欠席。
しかも、貴族の屋敷で行われている催しに参加し、外泊したことまでも判明してしまう。
うるさく騒ぐ者の筆頭は自分の母親である王妃。
王子であれば国王主催の催しに出席すべきだろうと主張するのはわかっており、それはおかしくない。
しかし、第四王子の極秘視察は以前から予定されており、王宮の舞踏会の日時変更はそのあと。
王宮で催される舞踏会の予定をずらしたのは国王の都合ではなく王妃の都合であるため、王位継承権を持つ王子の都合の方が優先されるというのもおかしくはなかった。
王妃は完全に怒るだろうが、兄弟全員で対処することにもなっている。
王妃はレーベルオード伯爵家が国王に謁見した日、養女になったばかりの令嬢を呼び、王太子がエスコートして退出したことに文句を言った。
王妃が個人的にどう思うかは自由だが、その場にはレーベルオード伯爵家の当主と跡継ぎがいた。
状況を考えると、レーベルオード伯爵家を堂々と侮辱したことになる。
レーベルオード伯爵家は名門と呼ばれるにふさわしい忠臣で、王太子派の貴族。
当主は内務省の高官、跡継ぎは王族の側近として尽くしている。
王家、国、そして王太子に尽くしている者だというのに、王太子の生母である王妃が文句を言うのは、息子の足を引っ張る行為でしかない。
しかも、王妃は王宮の舞踏会の日時や内容を変更させ、レーベルオード伯爵家を冷遇した。
忠臣を冷遇すれば、他の忠臣の心も冷えてしまうのがわかっていない。
明らかに王妃に非があることを指摘することで、正しい認識と反省を促すことになっていた。
「兄上がそれを言うのか?」
隣のソファに座り直したレイフィールが笑みを浮かべながら尋ねた。
「真っ先に仮面を取ったのは兄上だ」
クオンは言い返せなかった。
「兄上があそこまでするとは思わなかった。レーベルオード伯爵家は幸運だ」
「通常の催しは二十四時を持って終了する。私がこの場を退出したらどうなる?」
クオンはレイフィールに尋ねた。
「王宮の仮面舞踏会はまだ行われている。向かう者がいるかもしれないが、ここから王宮へ向かうには距離がある。正式な時間としては終了なだけでなく、残っているのは酔いの回った者だけだろう」
「王宮の催しは王妃と側妃たちの催し、そしてレーベルオードの催しは王太子と王子の催しだと言える。試金石になるだろう」
「私もそう思う。だが、そのことをどれほどの者が理解しているのかも問われることになる。結果が楽しみだ」
クオンとレイフィールは王宮の催しに参加した者達全ての名前をリストにするように指示を出している。
そのリストとレーベルオード伯爵家の招待客リストと比べれば、レーベルオード伯爵家が招待した者がどのような選択をしたかがわかる。
最初から王宮の催しに出席した者は問題外。途中から王宮の催しに参加した者は信用できない。最後までレーベルオード伯爵家の催しだけにしか出席しなかった者が王太子に評価されることになる。
「レーベルオード伯爵!」
クオンは大きな声で叫んだ。
「退出する」
「御意」
クオンが立ち上がると、レイフィールも立ち上がった。
王族の退出を見送るために人々の視線が集まる。
「今宵は時間が経つのがとても早く感じた。私が最後までいるのはかなり珍しい。それだけこの催しが素晴らしかったいうことだ。ここにいる者達も同じ評価だろう。私とレーベルオード伯爵家のために拍手しろ!」
盛大な拍手がすぐに起きた。
王太子に従うという意味を含めて。
拍手に見送られながら、クオンはレイフィールと共に舞踏の間を後にした。





